きよらかな王子さま   作:西風 そら

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謝恩会の夜・Ⅱ

 

 

 

 ローザリンド王太子殿下。

 謝恩会参加は四度目だが、四回ともパートナーを替えている。間の貴族の催しに王族として出席する時も入れたら、両手の指で足りないくらい色んな令嬢のお相手をしている。

 だいたいが諸外国からの留学生。

 気が多い訳ではない。向こうから告白して向こうからフって来る。

 

『わたしは恋愛に向いていないのかもしれない』

『次から次へとアタックされる所を見ると、モテない訳じゃないんですよね』

『断る理由もないから、お友達からって始めるのだけれど、思っていたのと違うとか言われて別れを切り出される。最速は一日半だった』

 

 どうも、ラツェット国境門での蛍円舞が尾ひれを付けて諸外国に広められ、留学して来る令嬢は、どんなファンタスティック王子様かと期待値を何層構造にも積み重ねて来るらしい。

 喋ってみたら、模型作りが趣味の、ぼやけた反応しかしない引きこもり王子様。

 まぁ、令嬢たちが勝手に高いハードルを掲げて来るだけで、殿下に罪は無い。

 

『だからイサドラ様に決めておけって……』

 殿下が唯一国産令嬢でパートナーにしたのは、一年生時の謝恩会に三年生のイサドラと出席した時だけだった。

 あの時は、国内の婚約未定者たちが揃ってホッとした。殿下が決めてくれた事で、周囲は婚約ラッシュとなった。

 

 しかし殿下とイサドラは正式婚約はしておらず、まぁそのうち発表するだろう、ぐらいに思われていた。

 実は、周囲を落ち着かせる為の、双方納得済みの暫定パートナーだった。殿下が決めないと周囲も決められない状況だったせいだ。

 

『このままお互い何もなければ結婚しちゃおうか、でもどちらかが恋愛したら、後腐れなく離れましょ』と、ドライな約束を交わしていたという(それで応じるとはさすがイサドラ様)。

 サロンでもサバサバした物で、恋人同士には見えなかった。

 

 驚いた事に、約束を行使したのはイサドラ様の方だった。

 謝恩会も終わった最終登校日、雪の中庭で、顔をパンパンに腫らしたジーク・ガヴェインに、(ひざまず)いて指輪を差し出された(騎士団長の父親に殴られて来たそう)。

 

『やっぱり一生後悔すると思ったから』

 内定していた近衛をあきらめる覚悟もして来たジークに、イサドラ様は見た事もない顔をした(らしい)。

 殿下は慌ててジークんちに取りなしに行ったし、ルカはその時一瞬だけジーク先輩をめちゃくちゃ尊敬した。

 一昨年の卒業謝恩会のトップダンスで(イサドラ様が首席だった)超絶ラテンを披露して伝説を作り、次の週には式をあげ、無事白服に袖を通して、今日もスンと澄まして殿下の警護に付いている。お幸せに。

 

 

   ***

 

 

「何でこのタイミングでフられるんですかっ!」

 吠えるロッチ。

 

「わたしに言われても……」

 現在の殿下のパートナーは、秋に遊学して来た西イ国の王族縁者の令嬢だった筈。今度は大丈夫だと思っていたのに。

 

 もう学長の挨拶が始まっている。

 

「ちゃんと王宮に招いてバラ園の案内とかしたんですよねっ、間違っても馬車の車軸の素材の話なんかしていませんよねっ」

 

「皆に教わったマニュアル通りエスコートしたつもりだ。ケイト・べぺーに、新種の薔薇に彼女の名前を付けてさしあげろとアドバイスされていたので」

 

「ああ、それは正解です」

 

「薔薇の新種作出はわたしには無理だったのでノコギリ草の未分類花を咲かせて」

「何 生真面目に品種改良から取り組んでんですかっ、そして何でノコギリ草なんですかっ」

「ロッチ、ノコギリ草は交配が容易でサイクルが早く亜種雑種を発生させやすいから殿下のセレクトは間違っていないよ」

「ルカは一旦黙って」

 

「貴女の名前を付けさせて下さいと言ったら微妙な顔をされた」

「そりゃあそうでしょおっ」

「前日まではいい感じだったのになぁ」

 他人事のような殿下。

 

 別に自由恋愛でなくとも、王家と相手国の大人同士で話し合って、とっとと婚約を成立させてしまう道もある。

 しかし両親も周囲も、この王太子の神憑り的な勘を認めている。彼がピンと来ない相手に決めてしまうのが怖いのだ。

 加えて、サロンメンバーや友人が軒並み自力で相手を決めたのを目の当たりにした殿下は、ちょっぴり『真実の愛』に憧れてしまっている。

 

 学長が開会宣言をしてしまった。

 楽団が楽器を構え、指揮者がタクトを上げる。

 

「ルカ、こうなったらルカとメムで踊り出すしかないよ、俺、三位の奴探して来る」

「あ、あたしが、は、はい(ガクガクガク)あぅ、誰か、あたしの太腿を叩いてぇ」

「メム、いいから無理しないで」

「どうするんだよ!」

 音楽が鳴り出す。

 

 

「来い、ルカ」

 

 

 ***

 

 

「ルカ、相談があるのだけれど」

 

「何ですか殿下、その前にこの状況を何とかして下さい」

 

 ルカは、殿下に手を引かれるままホールの中央へ出て、ステップを踏んでいる。

 視線がグサグサ刺さって痛い。

 

「燕尾服二人のダンスなんて、誰が喜ぶんですか」

「音楽が流れているのにホールを無人にする訳には行かぬだろう」

「えぇ・・」

 

 男同士で身体を密着なんてみっともないから、お互いに離れ業の連続だ。疲れる、っていうか、皆さんどんな気持ちで眺めているの? たまに「おおおお」とか「きゃ――」とか聞こえるけど。どうでもいいから早く二曲終わって。

 あっ、ケイト・べぺーが見えた。周囲の人数増えてパワーアップしてる・・何ですかその団扇(うちわ)

 

「それでね、ルカ」

 

「あ、はい」

 

「一生懸命働いて来た国民が安心して年を重ねられる世界のお話なのだが」

 

「いきなりなんて難しい話題を振って来るんですか」

 

「やはり難しいか」

 

「この間伺った、若い内にお金をプールさせて国が運用して還元するって奴、あれやっぱり駄目ですよ」

 

「そうか」

 

「それやるなら戸籍の管理体制の見直しと、あと福祉とアンバランスにならぬようにの調整が必要です。近年で沿海州に、似た事やって大失敗した国ありました。群細のレポート、テオさんに渡してあります」

 

「ご苦労だった。あと、温めていたB案からF案は、アーサーに粉々に粉砕された」

 

「アーサー様、毎日 殿下の傍にぴったり侍って、まるで小姑……そ、側近ですね。大公の嫡男として家を継ぐんじゃなかったんですか?」

「優秀な細君との二人三脚なら、まったく無問題らしい」

「うへぇ」

 誰だよあの二人くっ付けたの……(自分らじゃん!)

 

「殿下が言い出される事って、どれもお伽噺レベルです」

「向き合って行けばいつかはお伽噺で無くなるかもしれない」

「めげませんね」

 

「わたしはお伽噺の王子様だからな」

 

 ターンして手を繋いで、また離れてくるりと回る。本当にめげないな、この人は。

 

「草案を作り直すから、手伝ってくれるか」

 

「明晩伺います」

 

 

 

 

 

 




挿し絵:
 ~ノコギリソウ~
 抗炎症作用を持つ薬草としてで有名。
 中世から一次大戦頃まで、傷薬として重宝されたそうです。
 ハーブティーも美味しいよ!

【挿絵表示】



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