王立貴族学園の謝恩会の最優秀者のトップダンスは、四年連続で伝説となった。
ホールに人数が増えてから、ルカは隅っこでひっそりメムと踊った。
「ごめんね、メム。初めてのダンスはメムとって思っていたのに」
「いやいや、素敵だったです」
「やめて許して」
「二羽の燕が戯れているみたいで」
「メムってば詩人」
「待ってる間、きれいな金髪のお嬢様に声を掛けられたです。自分が殿下と踊る筈だったのにって」
「西イ国のご令嬢か」
「だから、あたしもルカと踊る筈だったのにお仲間だね、って答えてあげたよ」
「あはは、メム最強」
「何でフっちゃったんだろうね、あんな素敵な王子様。あたしノコギリ草好きだよ、薬にもなるし」
「うん、僕も好き」
「殿下さんはあれはあれで、上手にフラれているのかしらね」
「へぇ?」
メムは離れてクルクル回った。ここで回れと教えたのはルカだが、そんな高速で何回転もしろとは言っていない。でも芯がぶれない、凄いな体幹。
感心して眺めていると物凄い勢いで戻って来た。かなり頑張って受け止めるルカ。
「殿下さんのお嫁さんって王妃さまになるんでしょ。王妃さまって、国民みんなのお母さんにならなきゃならないって、リリィさんが言ってた」
「うん、そうだよ、メム」
「大変だよね、お母さんって子供をエコ贔屓しちゃいけないし」
「そうだね」
「薔薇もノコギリ草も同じに愛でて、中古衣装の平民カップルの後の二番手でも平気で踊り出せるような人でないと、って、リリィさん言ってた」
メムは楽しそうな瞳でルカを見て、またクルクル回った。
「殿下さんも大変だ」
「そうだね」
「ルカに頼っちゃうのもしようがない」
「…………」
回るメムの手を取って、ルカは引き寄せた。
「ごめんね、メム。結婚したら貴族と離れてスローライフを決め込む予定をしていたのに」
「ルカにそんな人生は無理って気はしていたわ」
「ええ?」
「だってルカ、人との繋がりをとっても大切にしてるじゃない。大好きな人たちの役に立てる能力があるのにスローライフやってる方が、ストレス溜めそう」
「へ? そうなのかな?」
「そうそう」
ルカはちょっと動揺してステップを踏み間違えた。
メムは気にせずまた離れてクルクル回る。銀と薄青のレースが風をはらんで広がる。
「ルカはそのまんま、なりたい大人になればいいよ」
「メム」
「周りの人をうんと大切にして」
「メム」
「ルカの事はあたしが大切にしてあげる」
メムがドスンとルカの腕に戻って来ると、いつの間にか驚愕の目に囲まれていた。
『あの娘どれだけ回るんだよ』って声が聞こえる。メムと踊っていてもやっぱり伝説を作っていたかもしれない。
曲が終わって、ルカはよれよれになっていたが、メムはまだまだ元気そうだった。
就職自体は、役場の外国語編纂室の、定時で帰れるような事務職に就くルカだが、卒業前からしょっちゅう宮廷に呼び出されては、アーサーにこき使われ殿下に振り回されている。
先行き不安だと愚痴ったら、ソフィーおばあちゃんに『人は必要とされている時が華よ』と言われ、ぐっと詰まらされた。
メムに申し訳なく思っていたが、彼女の方が遥かに大きかった。
(僕は、自分の力で幸せに出来る女性を求めていたのだと思っていたけれど、そんな考え、とても浅はかで
自力では絶対に、この
暗い夜空に、東ア国提供の花火が上がる。
オレンジや緑の光が、明日から巣立つ卒業生たちを明るく照らす。
バルコニーから友達に呼ばれメムと共に返事をするルカは、もう
~みんなで踊ろ・了~