野良猫に育てられた獣児と花たちよ   作:御無 すび

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書き終えていた話です。



鷲尾須美 001.

 

 鷲尾須美は、小学生でありながら大人びた性格をしている。

 毎朝5時に起床しては、裏庭の井戸で身を清める。いつも通り自分が朝食を作り、食事を終えれば登校準備を済まして、通学路を歩く。それが、生真面目な彼女の習慣であり、この習慣を一つでも欠かすことはできないほどに自分にも厳しかった。

 曲がったことを嫌い、誠実さを求める人物が、この彼女である。

 

 ――その性格ゆえに

 

 

「……猫守鎧、以上」

 

 小学6年生と言う卒業学年で編入してきた編入生の少年に良い印象は持てなかった。大抵は第一印象を良くしようと好きな食べ物を言ったり、何処から来たのかを言ったりとするのが自己紹介だと彼女は思っていたからだ。

 名前を言って終わり、それに驚きが隠せないのは彼女だけではなかったようで無反応なのは隣の席で、ぼーっとしている乃木園子と空いている席のみ。担任である安芸先生も、他の同級生も彼の自己紹介に対して何も反応できず、本来ならば編入生で騒がしくなるはずの教室が静寂に包まれている。

 猫守鎧と名乗った彼は元からいい印象を与えようとは思っていなかったのか、唖然とする教室中を無視して自分の席にドカッと座った。

 

(……彼とは、距離を置いとくべきかしら)

 

 空気が静まり返ったが、その後すぐに三ノ輪銀という少女が駆け込んだことで再び教室はいつもの賑やかさを取り戻し、今日の一日が始まった。

 

 

「起立、礼、拝」

「神樹様のおかげで今日の私達が在ります」

「……」

 

 日直の号令で、いつもの挨拶をする。

 神樹様というこの世界の絶対的な神に感謝の言葉を捧げる。それは、この世界に生まれてから言われ育った常識で、チラリと須美が鎧の方に目線を送ると言葉を捧げていないどころか手さえ合わせていなかった。

 

(神樹様に感謝を捧げないなんて、非常識な人……どんな教育を受けてきたのかしら。ここは神樹様の名が付いた厳格で格式高い学び舎だから、普通はそういった常識は身についているはずなのだけど……)

 

 そう思いながらも、生真面目さは揺るがない彼女は午前の授業を真剣に受ける。隣の園子に気を遣うことはあるが、授業態度はトップクラスであった。その時も鎧は板書をノートに書き写すこともせず、不真面目にペンをくるくると回しているのを見かけていた。それだけなら未だしも、巨大な欠伸をしていた。

 

「ねぇねぇ、すみすけ~」

「……乃木さん、今は授業中よ。関係ない私語は慎むべきよ」

「それはそうなんだけど~」

 

 鎧の不真面目さに思わずため息を吐きかけた須美だったが、園子に話しかけられたことで吐くことは無かった。授業中の私語、ということもあり静かにするように小声で促した彼女だったが、園子から聞いた言葉で何も言えなくなった。

 

「にゃんにゃんって、確か私たちと一緒だったはずだよ~?」

「にゃん……って猫守くんが?」

「うん~正確にではないけど、同じお役目の仲間〜」

「どおりで、どこかで聞いたことある名前~って思ったよ~」

 

 相も変わらずなほんわかとした声のトーンで、衝撃的な事実を言う園子に須美は本日二度目の驚きが隠せない。“お役目”と言うにはかなりの説明が必要だが、簡潔に言って「神樹様に選ばれた者」がお役目を担うことになっている。つまり、あの不真面目な鎧も自分と同じく神樹様に選ばれているのだ。

 

(同じお役目なら、尚更あの態度は見過ごせないわ。少しでも更生させないと)

 

 意外な形で知ったものの、彼もお役目の仲間だと知った以上、こんな不誠実な態度を見過ごせないのが須美の性格。今日の放課後にでも話しかけて、どうにか少しでも更生させることを決めた彼女は改めて授業に集中する。

 

 午前の授業を終えて昼休み。須美はクラスメイトと他愛のない会話をしつつ、横目で鎧の様子を見ていた。自己紹介が原因なのか、質問しに男子に囲まれている――などと言った本来ならあり得るプチイベントは起こることなく、ポツリと独りで過ごしている。窓を全開に、爽やかな風に吹かれながら目を瞑って日向ぼっこをしている。

 

(なんだか……)

「……本当に猫みたいな人

 

 古来より名は体を表すと言うが、鎧以上にその言葉が似合う人を須美は見たことは無かった。不誠実な行動を見過ごす気は無いが、少しは彼のことを知るべきだとは思えた瞬間だった。

 時計を確認すると午後の授業まで10分前、丁度いいとクラスメイトの会話から抜けた彼女は次の授業の準備をするために、自分の席に戻ったその時。

 

 ドォォォン!!

 

 大きな衝撃が、そんな音を立てて周囲を包んだ。それと同時に、クラスメイトたちの動きが止まった。

 突然のことで状況が呑み込めなかった須美だったが、声掛けや身体を揺すっても反応を示さないクラスメイトに外の音や時計の秒針さえも止まっている空間に、覚えがあった。

 

「来たんだ、お役目をする時が――」

 

 最初のお役目を果たすと言う決意と共に、

 やっていけるのかと不安が彼女の背中にはあった。

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