クラスメイト、時計の秒針、外の小鳥たち――全てにおいて、時間の停止と言うのは須美にとって重要な物であった。この状態になると例の「お役目」を開始する合図。担うにあたって、事前に教わった通りだった。
「ねぇねぇこれ敵が来たんじゃないの!?」
校庭から慌てて戻ってきたのだろう三ノ輪銀が、血相を変えて教室に入ってくる。お役目を背負っている者同士、互いが互いに動けている状況を目の前に「やはりそうだ」と警戒から確信に変わる。事前に話を聞いていたとはいえ、実際には今回が初めてのお役目開始である。頭では理解しても、未知に対する恐怖に身体が強張っていた。
「ふぁ~あ」
何ともこの状況には不相応な能天気な声が聞こえる。無意識に強張っていた身体はその声で、偶然にも若干だが、強張りを収めた。
「ねむぅい……また寝ちゃったぁ……?」
呆れか何か。
能天気な声が聞こえた方に視線を移せば、あの乃木園子が昼寝から目覚めていた。
「あれ? あれあれあれ?」
寝ぼけた状態でも、今自分たちがいる教室の異様な空気に気付いたかのように再び机に突っ伏す。
「夢かぁ~……むにゃ」
「「寝るなぁー!!」」
「はぅあっ!!?」
常人であれば、この状態を目の当たりにして現実逃避をすることは何の不思議なことではない。事前に話を聞いていようが、古来より“百聞は一見に如かず”という言葉がある通り、本来であればあり得ない現象にいるのだから。
しかし、園子も須美や銀と同様に同じお役目というものを背負っている者だ。初陣だというのに現実逃避をされてしまっては色々と困る。もう一度寝ようとする彼女に銀は兎も角、須美でさえ声を上げて彼女を起こした。
「いや、そんなことより時間が止まったってことはだよ、この後くるのは確か……」
「神樹様の力による、大地の“樹海化”」
聞いていた予定よりも随分と早い初陣だが、そう簡単に予定通りには事が進まないことを知っている。この後に何をするべきか、なども事前に教わっているのだから、自分たちはその教え通りに行動すればいいのだ。
「……人が気分良く寝てるっつーのに」
「っ、猫守くん……」
恐怖と緊張で震える自分を鼓舞するように、強く拳を握り直した時、自己紹介以降、声を聞いていなかった例の編入生が面倒くさそうに声を出す。自分たち三人の他に動けるということで、午前の授業中に園子から聞いた話は本当のことだったのだと理解すると同時に、自分はその話を聞いた覚えがなかったことに驚く。
「面倒くせ……オレはもう行くから」
まだ寝足りないというかのように大きな欠伸をして、教室を出ようとする鎧に須美は慌てて腕を掴んで制止する。彼女の人柄では滅多にしないような行動だった。制止された彼は、猫のように鋭い目つきで須美を睨むが、彼の行動を見逃すことはできなかった彼女は負けじと掴む力を強めた。
「……んだよ」
「申し訳ないけど、勝手な単独行動は控えてくれるかしら」
――貴方だけじゃなくて、私達にも危険が及ぶわ
須美と鎧の間に冷たい空気が流れる。
「……るせぇ、オレは指示されるのが嫌いなんだよ」
お生憎様。
嘲笑するように鼻で笑った鎧は掴まれた腕を強めに払い、須美の制止を無視して何処かへ消えていった。二人のやり取りに着いていけなかった銀と、ぼーっとし始めた園子、彼が消えていった場所を見つめている須美の三人が教室に残ったが、今は内輪揉めをする余裕はないと、後を追うように彼女たちも教室を出た。