夕暮れ、というには暗くなった空の下、ヒーロー殺しとヒーロー志望の二回戦が幕を開けた。
緑谷のスマッシュを見てから躱わすか!ヒーロー殺し!
緑谷は全身に緑色の光を纏って俊敏に駆け回っているがどの攻撃も当たらない。
というか緑谷……自傷せずに個性を使えるようになったのか。
轟も氷でプロヒーローと飯田を守りつつ炎でヒーロー殺しの逃げ道を減らしている。
なら、俺がすべき事は!
石柱で轟の氷を乗り越えて倒れている2人に近づく。
こいつらを治せば逃げる選択肢も取れる!
「なにをしているんだ?」
「ッ!」
2人の一歩手前ほどまで近づいたが、後ろからナイフが飛んできてそれを避けるために足を止めてしまった。
「ッ!緑谷!」
緑谷がまた倒れこんでいる!
せめて発動条件を……!
「…っ治崎君!僕は血を舐められた!」
そうか!血の経口摂取で相手の動きを止めるのか…!
だがおそらく飯田やこのプロヒーローの方が先に血を舐められているはずだ。
なのに後に舐められた緑谷の方が先に動けるようになっていた……
つまり。
「多分舐めた血の量か、血液型で時間が変わるんだと思う!」
同感だ緑谷。
「正解だ。血液型、順に言えばB、AB、A、Oの順に効きがいい。」
「随分ペラペラと話してくれるんだな!」
轟は景色が歪んで見えるほどの炎を放つ。
「フン」
轟が出した炎を刀で払った?!
「あと1人。」
ッ!いつの間に!
ヒーロー殺しは氷のない空を通って氷壁の裏側に来て、さっき俺がナイフを刺された事で垂れていた血を舐めた。
体がこわばっていくのを感じる。
ッ!こんな感覚なのか…!
だが…!
倒れる時に手が自分の胸に触れていてよかった。
血の経口摂取、という条件を聞いてなければどう治せばいいか分からなかったな。
おそらく、体が動かなくなってるんじゃなくて血流に干渉して間接的に動きを止めているのだろう。
なら血流を修復すれば……
待て、今思えば……飯田兄はまだあの時ヒーロー殺しの個性の影響を受けていたのか……?!
だから修復しきれなかった???
いや、これ以上考えるのはよそう。
まずは血管を……そして……
修復出来た!そして……!
背後から音を出さないようヒーロー殺しに詰め寄る。
…………マジかッ!
「ッ!どうやって起き上がった!」
「不意打ちでもバレるのか……!」
第六感、としか思えないな。
ヒーロー殺しが俺が伸ばした手にまたナイフを刺して後ろに飛び退いた。
俺は手だけをまた修復する。
まだ個性限界は大丈夫そうだ。個性訓練がいきている。
「お前の個性は修復……いやそれだとさっきの棘に説明がつかんな、分解と修復……とかか。」
「ご明察!」
血走った目でヒーロー殺しを睨んでいた飯田に手を触れて個性を使う。
「飛び出すなよ飯田……!」
「あぁ。……あぁ。」
自分に言い聞かせるように飯田は2度頷いてくれた。
「僕が…あいつを倒さなきゃ……!」
…‥今にも飛び出しそうだ…ッ!
「もう治させんぞ。」
氷の壁はもう轟の炎とヒーロー殺しの斬撃でもう形を残していなかった。
ヒーロー殺しが投げたナイフは氷の壁だったものを素通りして俺の足に突き刺さる。
「ちっ!」
足に触れようとしたがそれもナイフで妨害される。
「はやく治せ治崎!」
氷壁の張り直し!助かった轟!
生まれた時間で足を治して体を全快させた。
轟はこの時間で倒れていた緑谷を氷で滑らせてこちらに運んでくれた。
助かる。
「まだ倒れるな緑谷。」
「ッ!ありがとう治崎君。」
このまままだ倒れているヒーローも治せば勝ちきれるかもしれない。
だがこの状況……逃げる選択肢を取るべきなのではないか?
「飯田!倒れているヒーローを運んで走れ!2人も!全力で逃げてエンデヴァー達を呼ぶぞ!」
「エ、エンデヴァーがこの街に?!」
「はぁぁぁ!氷壁を張り直した!行くぞ!」
「ッだ、だが!」
「ごちゃごちゃ言うな飯田!」
「逃さんぞ。」
もう氷壁を!
「炎と氷…分解と修復…超パワー…お前らは命までは奪わん。だが。そこの2人は俺が殺す。」
間違っていた!この空間で逃げという選択が取れる、なんて勘違いをしてしまった!
相手は何人プロヒーローを殺したと思ってる!
「3人を生かすというなら!なんで兄さんは殺したんだァァァァ!」
「はぁぁあぁぁ!」
横に建っている廃ビルから棘を無数に伸ばしてヒーロー殺しを牽制する。が。
これじゃ止まらんか!
倒れているヒーローを起こしたいが時間がない!
「お前…見た事があると思えばインゲニウムの弟か。
あいつは弱かった。だが本物のヒーローの考えだった。
だから生かしたはずだったんだが…そうか。死んだのか。」
手違いで飯田兄は殺されてしまったのか。
だが戦闘中にペラペラと!
「っな?!」
「壁を生やせるのが轟だけだと思うな。」
ヒーロー殺しの背中に俺が生やした土壁がぶつかり動きが止まった!
「貴様ァァ!」
「ここで!お前は倒す!スマァァッシュ!」
「はぁぁぁあぁぁ!」
「王手だ。」
俺の棘で全身を固定されたヒーロー殺しに飯田の蹴り、緑谷のスマッシュ、轟の氷塊と炎が同時にぶつかった!!
「まだだ構えろ!」
「………轟君、ステイン、気絶してるよ。」
「ようやく、だな。タフすぎだこいつ。」
「ステインを倒せた……倒せた……ッ!」
飯田が倒れ込んでいるヒーロー殺しの顔を蹴り始めた。それも個性も使って。
「やめろ!飯田!」
3人がかりで飯田を抑える。ヒーロー殺しの顔は血だらけで顔が認識出来ないほどだ。体も傷だらけだ。
骨も折れているだろう。なにしろ4人の攻撃を喰らったあと高所から落下したのだから。
「こいつは兄さんを殺したんだぞ?!なんで!……なんでこいつが生きて兄さんが死ななきゃいけないんだ…!
兄さんは迷子の手を引いてあげられる優しいヒーローだったんだぞ!!」
「落ち着け。公私混同するな。飯田。」
ヒーロー殺しを治しておくか。ついでに風圧で気絶していたプロヒーローも治しておく。すぐ起きるだろう。
個性を通しながら俺は飯田に話す。
「憎む感情もあるんだろうがお前が今した事は立派な犯罪だ。
お前は今
気持ちがどうなんて話したところで犯罪なのに何も変わりはない。」
「僕も同じ意見だよ。飯田君。怒りや憎しみのままに力を振るったって……そんなのヒーローじゃない。」
「……悪かった。だが。治崎君。君とは……分かり合える気がしない。家族の大切さを理解できない君とは。」
「………」
家族に捨てられた俺に分かるわけないだろう、なんて言えなかった。
親父は家族みたいなものだが世間一般的な感覚とは違うのだろう。
血縁もないし、俺は世間の子供が親に持つことがないであろう恩義を持っている。
親父が死ぬと俺はどんな気持ちになるんだろうか、なんて考えていたが轟の声で正気に戻った。
「こいつ、縛っといたほうがいいんじゃないのか?」
「確かにそうだな。俺の個性で動けなくしておく。」
さっき顔のついでに折れた骨まで治しておいたからほとんどヒーロー殺しは全快している。
このままにしていたらまた戦いが始まってしまう。
両手を分解し、手首がくっついた状態で修復しておく。足は轟が拾ってきた縄で縛っておく。
起きないようウェイターと同じように植物状態にしておくか。
なんて考えてヒーロー殺しの頭に手をおいた瞬間、プロヒーロー達が駆けつけた。
「まさか、こいつはヒーロー殺し?!」
「学生だけでステインを……!」
これで一件落着か。
一気に気が楽になった。
だが……飯田とはもう仲良く話せないのだろうか。今思えば正直に話し過ぎてしまった気がする。
嘘でも共感しておけばまだ仲良く過ごせたのだろうか。いや、飯田の憎しみを肯定しては絶対に駄目だったから仕方ないか。
とりあえず……あとはプロにお任せだな。
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だが……まだ