英雄症候群に治す治崎君っ!   作:シュガーマン

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暗雲

「ここは……いつかのバーか。」

 

敵連合、黒霧が出したワープゲートは保須市から敵連合アジトのバーに繋がっていた。

ステインは手を後ろで接合されたまま、黒霧と死柄木の目の前で2人を睨みつけている。

 

 

 

カラン

 

 

 

天井に付いたライトが点滅する。

 

 

虫が光に引き寄せられている。

 

 

 

静寂が、この場を支配していた。

 

…………

 

…………

 

…………

 

「やぁ。ヒーロー殺し、赤黒血染君。」

 

 

ノイズと共にテレビから音声が流れた。

 

それは男の声で、どこか人を惹きつけるハスキーな声だった。

 

 

「何者だ。」

「そこにいる死柄木弔の先生さ。赤黒君。」

 

人を惹き寄せるハスキーな声はステインの耳にはひどく不快に聞こえた。

 

「その呼び名はやめろ。名前なんて今の俺にはステインで十分だ。」

「ふむ…なら僕の事は先生と呼んでくれ、ステイン君。」

 

ステインは血走った目をテレビから死柄木と黒霧に向けた。

 

「なぜ。俺を助けた。」

 

 

ステインはあのまま手が接合されたままでもあの場から逃げ出す事も可能だった。

それをこの死柄木も理解しているはず。なのに死柄木はステインを助けた。

 

それが、ヒーローを40人殺した(ヴィラン)には疑問だった。

 

 

「恩を売るため。というのが建前だ。」

 

「死柄木弔?!それは!」

 

「いいさ。こいつもこれからは味方なんだ。味方には全部話すべきさ。」

「本当はなぜ助けたんだ。答えろ。」

 

恩を売るのが建前?それ以外に理由などあるのだろうか。

 

「先生との取引さ。その条件として新しい脳無をもらったんだ。」

 

死柄木は、手をドリルやカッターに変える脳無をAFOから貰い受けていた。

 

「……おい、フィクサー。お前はなぜ俺を助けた。何度も同じことを聞かさないでくれ。」

 

「フィクサーじゃなく先生、と呼んで欲しいなぁ。君を助けたのは、僕のためさ。」

 

「煙に巻いたような話し方をするな。」

 

「先生、話してやってくれ。」

 

意外にも死柄木はステインに味方してくれた。

 

「……分かったよステイン君。弔にも話した範囲の事を話そう。あまり話すと-----が怖くてね。」

 

-----とはなんだ?ノイズが入ったせいで聞こえなかった。雰囲気から人名でないのは分かるが。

 

「……全てはあるヒーローを堕とすためさ。

もちろん、君をこちら側に引き込むだけでそのヒーローが堕ちる訳じゃない。

僕は目的を達成するためにいくつかの道筋を作るのさ。一つがダメになってももう一つの策でカバーすればいいからね。」

 

テレビの中の人物は続ける。

 

「はじめはそのヒーローを殺すつもりだったのさ。入学試験に細工をしたり、敵を送り込んだりしたよ。

でも、そいつはそれを乗り越えてきた。だから堕とす事にしたのさ。

雄英体育祭にサクラを送り込んだり、ヒーローを殺したり。」

 

ステインは顔も見た事ないテレビの向こう側の人物に指を差された気がした。

 

「君を引き込んだりしてね。」

 

ステインは今話された事を理解しようと頭の中で反芻する。が。

 

「さっぱり分からんな。」

「分からなくてもいいさ。弔もあまり分かっていない。分からないように話しているからね。

-----が怖くて話せないんだ。分かって欲しいのは。」

 

「今度は僕が勝つ、という事さ。オーバーホール。」

 

ステインに睨まれたプロヒーロー達のように、ステインもまた、体が動かなくなるような感覚を感じた。

 

「すまない。怖がらせてしまったかな?……そろそろ。最後のピース、彼女が揃うね。」

 

「………フィクサーめ。」

 

________________________________

 

「廻。帰ったか。」

 

珍しいな。親父が迎えに出てきてくれるなんて。

親父は家の門の前で立っていた。

 

ステイン戦が終わり、簡単な事情聴取を受け、無傷だった俺は一時帰還を許された。

またもう一度あの場にいた雄英生は警察署に集まらないといけないがな……

……俺は、いや俺達はプロヒーローの許可を得ずに個性を使用した敵との戦闘を行ってしまった。

これは、どんな理由があっても犯罪に当たる行為だ。だが、俺の頭の中には助けないという選択肢はなかった。

どんな処罰も受けよう。それが、雄英退学であっても。

 

「おい、なにポーっとしてやがる廻。」

「悪い親父。」

 

ダメだ。今は考えるのをよそう。

親父と一緒に門をくぐり家に入っていく。

玄関で先に靴を脱ぎ、靴を脱ごうとしている親父の体を支えながら話しかける。

 

「それで、どうしたんだ親父?……………あ……すまん。親父。こんな夜まで帰ってこなくて。」

 

「それじゃねえよ。お前ももうヒーローの卵なんだ。その辺は心配してねぇ。…ほとんど。」

 

これじゃないなら……なんだ?

 

「エリ。おいで。」

 

誰の事だ?

 

親父がエリ、と呼ぶ少女は、玄関から出てすぐの場所にある障子を少しあけ、そこからこちらを覗いていた。

見たところまだ5歳くらいだ。

 

「治崎エリ。今日からお前の妹になる。」

 

 

 

……………俺は兄になるのか。

 

 

 

 




死柄木が貰い受けた脳無は林間合宿で八百万にGPSを付けられたおまぬけ脳無さんです。
個性は完全に判明していないですが、えこなち時空では手をカッターやドリルなどの工具に変える個性を持った脳無とします。
AFOはこの脳無をもう使い終わったので死柄木にあげました。

…………手をカッターにできるという事は、人に向けるとステインと同じような切り傷が出来ますね。個性も体も洗練されているステインにはたして手違いなんてあったんでしょうか。
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