治崎エリとは
「ねぇ治崎君。次の期末試験、自信ある?」
「…………」
「……治崎君?」
事情聴取から一週間後が経った。
あれから飯田は放課後にカウンセリングを受けている。
兄が死に、ヒーロー殺しを取り逃し、そして取り逃した事が自分の責任だと考えている事で、かなりのショックを受けているそうだ。
あの日、ヒーロー殺しに勝利した後、飯田はヒーロー殺しに暴行を加えた。それを修復するため俺が個性を使い、そのせいで全身が治ってしまった、だから逃げられた、と考えているようだ。それで言うと俺が飯田につけられた傷を部分的に治す、なんて事が出来ればヒーロー殺しに逃げられるなんて事なかったんだがな。飯田は全身に怪我を負わせていたから全身を治したほうが速い、なんて考えて横着してしまった。
俺は飯田の席を見た。
飯田の席に触れると……どこか冷たい気がした。
「治崎君?」
緑谷、轟は飯田の事を気にしつつも授業にはしっかりと取り組めている。緑谷は職場体験で怪我をしない個性の使い方を、轟は炎の使い方を学んだからな。俺もかなり個性の許容限界が伸びていて戦いやすくなっている。
緑谷は俺の方をチラチラと見ている。なんだ?
轟は次の時間の用意をしている。緑谷も用意してこい。
授業、というとそろそろ期末試験がある。今日の朝のHRで相澤先生が教えてくれた。筆記と実技があるそうだ。
筆記の方はあまり心配していない。
一応俺はクラスでも半分より上ぐらいには勉強が出来る。サボらなければ赤点にはならんだろう。
問題は実技だ。何をするのかさっぱり分からん。まぁ分からない事は考えても仕方ないので考えないでおくとしよう。
「治崎君ってば?!」
「あぁすまない。なんだ?」
「……何話そうとしてたか忘れちゃったや。ごめん。」
「なんだ……別に構わん。」
……今、目下の問題は。
「個性……か。」
「なんて?」
「ケッ、こいつまで厨二病になったか。」
「呼んだか?」
「呼んでねぇわクソ鳥がッ!!」
……口に出ていたか。後ろを通りかかった爆豪に聞かれたようだ。
その爆豪の声に常闇も反応してうるさくなった。頼むから静かにしてくれ……
エリの個性"巻き戻し"
その名の通り、対象の時を戻す個性。
俺は事情聴取を受けた次の日から地下室にモルモットを用意してテストを繰り返していた。
エリにはショックを与えないよう目隠しをして個性を使ってもらった。殺傷力のある個性っぽいからな。万一の事で新しいトラウマを作りたくない。
大体溜め込む系の異形個性は変化している部位に集中する事で[廻さん!] 個性を使用する事が出来る、と言うのを本で読んだ事がある。
それに則ってエリには角に集中してもらうとすぐに個性が発動された。
どうやら生物限定だったようで周りの床や壁なんかに影響を与える事はなかった。
それが不安だったから土の壁を張っておいたんだが不要だったようだ。
まぁエリの父親は死体すら残らなかったのに家に影響がなかった事から対生物というのは分かっていたが。念の為だ念の為。
エリの1番近くにいたモルモットは……若返るように小さくなっていき、最後は消えた。
どうやら対象を選んでいない場合[絶対!助けます!] 1番近くにいる生物が対象になるようだ。
まぁ今はあまり角が長くないから近くにいるものだけ、なのかもしれないが。
モルモットが消えた後、次の対象は俺に移った。まぁ2番目に近かったからな。
俺に対象が移った途端に全身がドクドクと脈打つ感覚と内側から引っ張られるような感覚に包まれた。
頭を割るような頭痛もついでのようについてくる。あまりの不快感に立っていられなくなり俺は倒れ込んでしまった。
俺は焦りながらも一度深呼吸をしてエリに個性[ごめん、なさい…廻さん。]を止めるよう促す。だが止め方が分からないそうだった。
俺は急いで匍匐前進のまま土の壁に這い寄る。
そのまますぐに張っていた土の壁を分解し、エリの角を分解、修復する。
これは職場体験で轟と訓練している時に学んだ事だが、俺の個性を轟の半冷半燃のような放出系個性に使うと、放出系の個性発動中に限り個性の発動を一時的に止める事が出来るようだ。まぁこれを知ったのは炎を出している時の轟をたまたま修復した時なのだが。
エリの角を分解、修復した事で個性の発動が止まり、不快感も消えた。
エリの泣き声が響き渡る。
どうやら角の分解の時に激痛が走ったようだ。
今度また女児アニメのおもちゃを買うと言う契約で許してもらった。
………このテストをしている間、ずっとエリの声が聞こえていた。エリは何も話していなかったそうだ。
……なぜだろうか。なぜか……どこか
俺はエリの個性の影響で一日分体が巻き戻ってしまった。昨日の夜剃り忘れた事に気づいて剃った髭がまた生えていたからだ。
一日分で済んだのは角が短かった事、モルモットを先に消していてさらに角が短くなっていた事のおかげだろう。
それから今日までの間、テストを繰り返し完全にエリの個性を把握する事が出来た。
テストを繰り返したせいでエリの部屋はおもちゃだらけになっている。
何度俺はおもちゃ売り場に行けばいいんだ。
このテスト中に自分の意思で個性を出来るようにならないか期待していたが結局ならなかった。
まぁまだ小学校に通ってすらいないんだ。そこまで気にするべきではないだろう。
個性を使って角が短くなっていれば父親のように人を消すような事にもならないはずだ。
エリの個性は……世界を変えられる。
エリの個性を使えばおそらくだが個性因子のみに作用させて個性を無くす事が出来る。
相澤先生の"抹消"のように一時的ではなく永遠に。
………例えばだがエリの血液から個性因子を抽出しそれを弾丸なんかに構築すれば……いやだめだそんな事。そんな非人道的な事。
だが、個性がなくなればヒーローも
駄目だ。
「治崎君。」
「なんだ緑谷。今少し考え事をしているんだ。」
「何か……思い悩んでいる事があったら言ってね。」
「……あぁ。いつでも相談する。」