雄英生の夏休み
長身の男と別れた後、エリをおんぶしたまま走って帰宅した。
家に入ると同時にエリを玄関口に座らせる。
「エリ、痛かったのに泣くの我慢して偉かったな。少し痛いがもう一回我慢してくれ。」
エリが体をこわばらせて痛みに耐えようとしている。すまんな、俺の個性で治すには痛みが伴ってしまうからな。
出来るだけ痛くならないように優しく傷口に触れ、個性を通す。
「もう大丈夫だ。」
「ありっ、がとうございっ、ます治崎さん!」
まだ涙目のエリの頭を撫でながら靴を脱ぐよう促す。
ふう。これでもう大丈夫だろう。
エリはもう落ち着いてきたようで走って手を洗いに行った。
さっきの長身の男は一体誰だろう。あんな男この辺にいなかったはずだが……
……男がエリの頭に触れようとした時のあの嫌悪感。あれはなんだ。
顔も声も、こう言ってはなんだがありがちな顔と声だった。とても嫌悪感を感じないような。
うーん……まぁ考えたところで分かるような物でもないな。忘れよう。
この日はどこか気が落ち着かないまま終わった。
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「もう一学期が終わるね。治崎君。」
男に会った次の日。俺はいつものように学校に来ていた。
午前の授業は終わり、雄英高校は昼休みを迎えた。
授業の疲れもあってか、眠たそうな目をした緑谷がしみじみとした目で話しかけてきた。
「そうだな。……この一学期は大忙しだった。USJ事件、体育祭にステイン戦や期末試験。色んな事があった。」
「二学期はもっと忙しくなりそうだ。林間合宿に文化祭。ヒーローインターンだってある。」
「雄英高校1年、というのは一生に一度しか過ごせない時間だ!これからも大切に過ごしていこう!」
いつのまにか轟と飯田も話に混ざっていて良い意味で騒がしくなってきた。
この2人とも随分と仲が良くなったな。
轟とはUSJ以前はあまり仲が良くなかった。
飯田ともステイン戦以降仲が悪かった。
それでもこうやって仲良く過ごせているのはひどく幸せな事だと思う。
そしてこの一学期ではエリにも会えた。
エリにもこんな仲の良い友達が現れる事を祈っておこう。
「二学期も煌めいて行こうね!みんな!」
青山が教室のベランダからチーズを食べつつそうまとめてくれた。
何してんだお前。
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夏休みが始まった。
と言っても世間の高校生のようにあまり遊びに行ったりは出来ないが。
ヒーローの卵として訓練や勉強に努めなくては。
「ん?」
机に座ってさあやるぞ、と思いながらシャーペンを持った。
それと同時にピロンッと俺のほとんど使わないスマホが鳴き声を上げた。
うるさいな勉強の邪魔だろう。腹が立ってスマホを分解しようと手を伸ばすとそこには一件のメッセージが浮かんでいた。
「明日、雄英のプールを使って水中訓練か。」
いやしかし。俺には訓練とエリが……
「プール?!」
訓練とエリを理由に誘いを断ろうとした俺の背中を誰かが叩いた。
いや誰かじゃないな。
「エリ。どうした?」
「プールに行くんですか?!」
俺がさっき呟いたのを聞いていたのか。
エリはプールに興味津々だ。最近アニメで出てきたからだろうか。
目をキラキラさせながらエリがプールに行くのか聞いてくる。
「いや、行かん。クラスメイトにプールを誘われたんだが、訓練があるしな。」
「行きましょう。」
「えっ?」
「プール!私も行きたいです!連れてってください治崎さん!」
「分かった行こう。なんなら今から行こう。」
エリ優先だ。 『訓練<エリ』
「約束は明日じゃないんですか?!」
「……そうだったな。よし、分かった。明日は妹を連れて向かう、と連絡しておこう。」
「やったー!!」
ニコニコしながら走ってエリは俺の部屋を出て行った。
親父に自分がプールへ行く事を自慢するのかもしれない。
頼むから俺も行く、なんて言わないでくれよ親父……