俺の1日は午前5時から始まる。
毎朝鳴り響くアラームに今日も起こされ布団から這い出る。
起きてすぐに手袋とマスクを付け、部屋全体に消毒用エタノールをかける。
部屋を消毒しながら着替えを済ませ、朝のランニングに出かける。これが俺の日課だ。
入学試験以来、人に触れられるようにはなったがこれをしなければ落ち着かない。
「もうすぐ入学式か。」
朝特有の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込みながら考える。
緑谷は結局入学出来てるんだよな……?あの時連絡先を交換しておくべきだったか。
靴紐を確認し、走り始める。
俺の住んでいる地域には老人が多いようで、いつものランニングコースの周りで朝の散歩やラジオ体操をしている老人をよく見かける。顔馴染みの人に会釈しながら俺はランニングを続ける。
初めは身体を鍛えるために始めたが今はすっかり俺のモーニングルーティーンに組み込まれている。
後ろに流れていく木々を見て季節を体感する。
もう春か。花粉が辛くなるな。だがマスクを付けているのがあまり目立たなくなるから悪い事ばかりでもない。まぁ手袋はどうやっても誤魔化せないが。毛糸の手袋とかならまだしも医者が付けているような真っ白な手袋だ。誤魔化すのは難しい。
「ふぅ。」
マスクを外し、公園のベンチに座って休憩する。
「やぁ。おはよう。」
「おはようございます。」
朝のランニングで特に顔馴染みになったお爺さんが俺の隣に座ってきた。
特に顔馴染み、とは言ってもお互いの名前も知らない。共通して知っているのは顔と大体の性格くらいだろうか。あと雄英志望な事は話したはずだ。
「今日もいい走りっぷりだね。」
そう言いながら俺の横にコーヒー缶を置いてきた。俺の体に触れないように横に置いてくれる、こういう心遣いは純粋に嬉しいな。
「ありがとうございます。いくらでしたか?」
「お金なんていらないよ。これは雄英入学のお祝いってやつだ。」
「それならこの前にもうコーヒーを奢ってもらいましたよ。」
「じゃあ誕生日!いつが君の誕生日か知らないから今プレゼントしておくよ。」
ん?待てよ。
「誕生日……あ。」
「どうしたんだい?」
「今日は3月20日ですか?」
「あぁ。もしかして……」
「今日が誕生日ですね。」
プシュッ、と缶特有の爽快な音が2つ響く。
「……ふぅ。」
「君がうっかりさん、という事を今日知れてよかった!」
「ははっ、やめてくださいよ……」
この感じ、これから数日はうっかりさんというのをネタにされるな。
「……前々から思ったけど、入学試験以来少し顔つきが変わったね。何かあったかい?」
「何かあったわけではありませんよ。元々あったもの、自分のオリジンを理解しただけです。」
急にお爺さんは立ち上がってコーヒーを飲みきり、空のコーヒー缶を握りしめた。
「若いねぇ!青春!青春ってやつだ!わしはそういうのが大ッ好きなんだ!」
「やめてくださいよ。なんか自分でも恥ずかしくなってきたんで……」
「シャキッとしろ!シャキッと!」
俺も立ち上がり、空になって冷たくなっていたコーヒー缶を握りしめる。
「ヒーローになってわしらみたいな老人を守ってくれよ!あ、若いもんも守ってくれよ。そういえばわしの孫がそろそろ」
「その話は何度も聞きましたよ……じゃあ、また走ってきますね。」
「コーヒー分は走れよ!誕生日を忘れてたうっかりさん!」
それはもうやめてくれとジェスチャーで示しながら俺はランニングを再開した。
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「ただいま。」
あれからまた数十分走り、家に帰ってきたのは5時50分。
まだ親父や玄野、音本は寝てるか。
寝室から玄関まで離れてはいるが一応ゆっくり扉を開けて帰宅する。
………
「ハッピーバースデー!!若!」
扉を開けて広がってきた光景は理解し難いものだった。
「おい……なんだその後ろのでっかい箱は。」
「開口一番それでやんすか!親父とあっし達からのプレゼントでやんすよ!」
音本はそう答えた。いやー……
「でかすぎやしないか?」
「親父がプレゼントを選んで親父がそれをこの箱に入れやした。あっしと玄野は知らないでやんす。」
「知らないです。」
「さっき親父とあっし達からのプレゼントって言ったよな?お前ら何もしてないじゃないか。」
「廻!誕生日おめでとう!」
そう言って親父は出てきた。箱の中から。
「……」
「もう少しリアクションをすると思ったんだがな?!」
「一周回って反応に困った。」
親父はもう一度箱の中に入り、箱の中から小さな箱を持って出てきた。
「これが本命だ。」
そう言って親父は小さな箱を俺に投げた。
「あ」
急に投げられたせいでキャッチできず落としてしまった。
「バキッ」
何か
鳴ってはいけない音が鳴った気がする。
「今の鳴っていい音なのか?」
「絶対駄目ですね。」
俺は急いで箱を拾い上げ箱を開けた。
「俺からのプレゼントだ!若いもんはこれがいるだろ!」
親父は腕を組みながら頷き、鼻息を荒くしている。
「あぁ、スマホか。この流れで本当に嬉しいものが貰えるとは思わなかった。嬉しくない事を挙げるとするなら画面が割れている事だな。」
「……なに?」
「さっきの音は画面が割れた音でやんすね親父。」
「スマホ、というのは落とすと割れるのか?」
「正しくは画面が、でやんすね。」
一応電源をつけようと試してみたがつく気配はない。
「……廻。治してくれ。」
「それが一番早いな。」
結局こうなるのか………まぁ。
「ありがとう、親父。玄野と音本も。」
今日は色んな人に祝ってもらえたな。自分でも忘れていた誕生日だったが、祝ってもらえると思い出したかいもあるというものだ。
治崎君がお爺さんに敬語で話している時はエリが脱走してルミリオンとデクに遭遇した時の敬語の雰囲気を少し無愛想にした感じです。
お爺さんは今後本編に登場させるかは未定です。あと一応言っておきますがお爺さんは実はAFO、みたいな感じでもないです!完全オリジナル回でしたが読んでくださりありがとうございました!