夜が来た。これが普通の高校生なら林間合宿の夜、なんて羽目を外せる展開を無駄にはしないだろう。だが俺たちは普通の高校生ではない。
「もう寝ようぜ。うん。寝よう。もう寝よう。」
こういう時に「女子の部屋行こうぜ!」とか言いそうな上鳴ですらこの調子だ。まぁこいつは補習もあるからな……もとから少ない睡眠時間をさらに削られているんだ。いつ気絶してもおかしくない顔をしている。
「ちょっとだけなんか話そうぜ。」
「せっかくの林間合宿だしな。」
切島と尾白はこう言っているが……というか切島も補習組はずじゃ。なんで上鳴とこうも違うんだ。
「こういう時はやっぱ恋バナだよな!!!」
急に上鳴が息を吹き返した。プルスウルトラだな。
「うーむ……俺にはあまり分からんぞ?」
「同じく。そういうのに疎いんだ。」
「ばっちこい。」
飯田と障子の言葉で恋バナではなくなぜヒーローになりたいと思ったのか、ヒーローになったら何がしたいのかを話すことになった。
ちなみに最後のは峰田だ。お前に恋バナはできんだろ。……まぁ俺もだが。
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それから布団や枕をセッティングして、座って話しやすい形にし、1人ずつ話し始めた。
「おーい爆豪ー!お前はやらねーのかー?!」
「………」
切島が目をこすりながら呼びかけたが反応はない。寝ているのだろう。
「悪いけど俺も寝させてもらうぜ。」
そう言って轟も自分の布団を端に寄せ横になった。
「まだ補習まで時間もあるし、じゃんじゃん話そうぜ!」
相変わらず元気だな上鳴……
「まずは俺から話させてくれ。」そう言い出した飯田から話を始めることになった。
「……みんな、俺に兄がいた事は知っているだろう?俺の兄はどんな人にも分け隔てなく、ただ助けを求める人の場所へ全力で駆けつけた。俺はそんな兄の背中を見て育った。」
「俺は迷子が伸ばした手を取ってあげられるヒーローになりたい。そう、兄のような。」
「……やっぱり飯田君はすごいや。」
「そういう緑谷はどうしてヒーローに?」
俺は気になって緑谷にそう聞いた。オールマイトが関わってる事は普段の行動から分かるが、なぜか詳しく聞きたくなったからだ。
「憧れたから。」
ただ静かに、緑谷はそう呟いた。
「僕はさ、ずっと憧れるだけだったんだ。オールマイトに。ヒーローに。僕はヒーローをただひたすら見てるだけで、傍観者で。部外者で。でもさ。体が勝手に動いたんだよ。目の前で、僕の尊敬する人が助けを求めてて、それで、体が勝手に動いたんだ。」
緑谷は手を握りしめた。
「夢は現実に。
「長ったらしい!もっと簡潔に言えや!!」
「かっちゃん起きてたの?!……えっと、僕はヒーローに憧れたからヒーローになりに
「ちっ」
爆豪は寝返りを打ってそっぽを向いた。
「治崎君はどうしてヒーローに?」
俺がヒーローになった理由、か。それはもう決まっている。俺のオリジンだから。
「飯田と似てるかもな。」
「俺は親に捨てられた。」
「ヒーローも孤児院の子供なんて救わない。」
「ヒーローには金や名誉を至上とする者もいる。」
「そんなクズ以外のヒーローだって孤児院の子供は救わない。」
「世の中孤児院にすら入れていない子供もいるんだからな。」
「そんな子供と比べれば俺は随分マシだ。」
「分かってはいた。」
「それでも孤児院にいるのは心細い。」
「俺は人生のどん底にいる。」
「そう考えてた。」
「でも俺はそんなどん底からすくい上げられたんだ。」
「親父に。」
「親父は俺をすくったあとも色んな人を
隣に置いていたペットボトルの水を飲み、また話を続ける。
「時にはヒーローに救われない社会的弱者を。」
「時には住む場所やその日食う物にすら困っている元ヴィランも。」
「親父はヒーローが助けないような人間すらも助けた。」
「俺はヒーローになりたかった。親父のように全ての人を助けるヒーローに。」
俺は握っていた手を緩めて膝に置いた。
「飯田と似てるだろ?全ての人を助けるヒーローに俺はなりたかったんだ。」
「最高に熱い漢じゃねぇか……!眠気がぶっとんだぜ!」
「お前孤児院育ちだったのか……オイラ今までお前の生まれの事いじってないよな?!失言してなかったよな?!知らねえ間に傷つけてたなんてオイラ嫌だぜ?!」
「俺と目指す場所は同じ、という事だな!」
「……あぁ。そうだな。飯田。」
「うぇーい」
上鳴が俺の背中に覆い被さってきた。重い。
「なれると思うぞ。お前なら。」
障子が俺の前に手を伸ばしてきて複製腕でそう話した。
そう言ってくれるのはありがたいな。
「……………」
それからすぐに。
「おい補習組……いつまで待てば来るんだ?もうとっくに時間は過ぎてる。これ以上睡眠時間を削るのは合理的じゃないんだが?」
「ヒェ」
捕縛布で縛られて補習組が連れ去られていった。
………
「そ、それじゃあ僕達はもう寝ようか。」
「あぁそうだな緑谷君!」
飯田は手をカクカクさせながらそう叫んだ……叫ぶと爆豪と轟起きるだろ……
「……飯田ちょっと静かにしてくれ。」
「っすまん轟君……」
……今日はもう寝るか。
俺は窓から外を見て、今は雲に隠れて見えないが、そこにあるはずの月を想像しながら眠りについた。