鳴海兄弟の決着がついて半年後。原作では触れられなかった白長谷小夜子について考えてみた二次創作です。
2025年7月6日に行われたスパイラル〜推理の絆〜オンリー『that's a trade secret』にて頒布したものを、白長谷小夜子誕生日記念(?)として公開します。

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第1話

──白長谷小夜子

 飛び降り自殺を図り、未遂で終わった結果記憶を失ったブレード・チルドレンのひとり。十二歳までの記憶がないとは言えブレード・チルドレン、例に漏れず知能も身体能力も高くハイスペックお嬢様と言える。

 ブレチルとしての記憶があるのなら、同級生でもある高町亮子に接触させるべきなのだろう。歩君本人が直接関わる気が薄そうなら、それが最適解か。だが白長谷小夜子は記憶がなく、高町亮子は薄い方とは言え血なまぐさいブレチルに会わせるのはお互いによくないだろう。白長谷小夜子への悪影響があるならば避けておきたい。

 それならば──まずは私が話をつけるのが筋か。

 そう決めた土屋キリエ(わたし)は、小日向グループを通して話を持ちかける事にした。やろうと思えば半年ほど前に火澄にしたように月臣学園に直接乗り込んで呼び出すことも可能だが、私達ウォッチャーの目を掻い潜り好き放題していた火澄と違い荒くれてもない生徒を呼び出すのは本人に悪い。

 

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 お屋敷でのゴタゴタが終わってすぐに、通っている月臣学園で先生が殺されたり、爆弾テロのような事件から半年近くが過ぎました。春が来て学年が上がって。世間はゴールデンウィーク間近で浮足立っている頃、お祖父様の会社、バレイを経由して小日向グループからある人と会ってほしいと話がきました。

 土屋キリエさん、月臣学園とは直接関係あるわけではないけれどカウンセラーみたいなものと思って欲しい、と。記憶のない私にはあまり関係ない事かもしれないけど無縁ではない話。現在月臣学園では私達三年生に二十人ほどいる、肋骨の一部がない生徒達の存在──ブレード・チルドレン。今同じクラスの高町亮子さんや、学園生ではないけれど圭さんが傾倒しているピアニストのアイズ・ラザフォードさんがブレード・チルドレンだと教えられました。白長谷小夜子個人の、これからに向けた話。──大学進学を考えているものの、英文学仏文学国文学現代古典どう選択しようかと迷う始末。そんな話を、私と土屋さんの注文したニルギリティーとコーヒーの上でいったりきたりして。

「あなたのお屋敷での事件、探偵の真似事をしてた鳴海歩君を覚えてるかしら」

「はい。失った記憶についての話も少し、しました」

「歩君はあなたの過去を直接知らないはずだし知ろうとはしてないはずよね」

「そうですね。私が過去を失った事を守ろうとした事件……でした」

 レイコさん。私の記憶を呼び覚ますという条件でお祖父様を強請っていた足立貴子さんを排除──殺害した、使用人でした。

「事件で使われたトリックとかはともかく、足立の排除は私も肯定するわ。少なくともあなたが記憶を取り戻しても碌なことにならない事だけは確実だから」

「土屋さんも、そう仰るんですね」

「私はあなたの事は簡単なレポートでしか知らないし、今日初めて会ったけれど──そうね、何かに怯える子どもの記憶なんて無くてもいい。記憶がないことがどれだけ不安でもね」

 鳴海さんも土屋さんも、記憶のない今の私をこそ肯定している。

「それに、雷蔵さんと圭さん、二人との血縁は間違いないのよ。その家族が贋物だなんて流石に言いすぎよ」

「それは、そうですね」

 鳴海さんに言われたことが重なって。俯いて、足立さんの前に話しかけられた事がある野原瑞枝さんを思い出しました。気の強い人でした。

「土屋さん、違うクラスだった野原瑞枝さんは、何だったのでしょうか?」

「あー野原瑞枝……。彼女もそうね、ブレード・チルドレンだしあなたの過去を知っていたかもしれないわ。今となっては聞くことはできないけれども」

「かもしれない、なんですね」

「私は野原瑞枝に会っていない以上、確かなことは言えないもの」

 

「とりあえず、連絡先は交換しておきましょう。月臣学園で歩君に接触するのも別に止めはしないわ。ただしあなたは上級生で一応受験生ではあるわね」

 受験生とは言っても月臣学園では指定校推薦の枠も多く、私は指定校でなくても自己推薦でいけそうじゃないかと言われたこともあります。

「それに、新聞部はもぬけの殻だし」

「新聞部……結崎ひよのさん、でしたっけ」

「そう、結崎ひよの。彼女はもういないから歩君が新聞部に行く理由がないわ」

「彼女も……ブレード・チルドレン、なのですか?」

「違うわよ。それだけは言える。彼女は確かに関係者だったけれど今は違うの。何なら日本にいない筈だし」

 土屋さんが苦そうな顔をして、はっきりと言いました。

 ぬるくなってしまったニルギリティーに、砂糖を混ぜた渦がまだ、残っていました。

 

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 土屋さんと別れお屋敷へもどり、部屋で今日の話と鳴海さんの話を思い返してみる。

 ──記憶がない事がどれだけ不安でも、子供が怯えるような記憶はなくていい。

 ──あんたの言う贋物を守る為、壊す可能性のある記憶を思い出させないために自分を犠牲にした人間がいる。

 どちらも、不安定な私を慮っての話なのでしょう。ですが、気にしないというわけには簡単にはいきません。お屋敷に無い私の幼い記録──写真もほとんど無いのです──探せばあるのかもしれませんが、お祖父様はよしとしてくれません。

 知らず、ぬいぐるみを抱きしめる力が強くなっていました。

 

 私は、どうすればいいのでしょうか。

 

 

「小夜ちゃんいるー?」

 圭さんが帰ってきました、と思う間もなく抱いていたぬいぐるみごと抱きしめられました。

「圭さん、どうしたんですか?」

「これ小夜ちゃんに合うかなーって買ってきちゃった。小夜ちゃん可愛い系とかおとなしいのばっかり着てるけどちょっとくらい攻めたのあってもいいかなーって思って」

 圭さんが掲げたのは朱鞠駅ビルにあるセレクトショップの袋でした。

「へそ出しいっててみない?」

「へそ出し? ですか?」

 圭さんにおされて、これからのことを考えてる余裕はなくなってしましました。

 

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 タバコを一息。

 実際に会って話して、白長谷小夜子はまぁ心配ないだろう。それこそ本職の、そしてウォッチャーやセイバーがいる月臣学園の進路指導生活指導で当面は問題ない。自分から歩君に接触するのなら、それはそれでいい。それは歩君の示したブレード・チルドレンの生き方の模索の範疇だ。現に高町亮子と浅月香介は単独だったり二人連れだったりで何度も相談している。

 これからという意味では、日本のブレード・チルドレンでは竹内理緒がある意味最前線にいるようだ。月臣学園を中退し、主に地雷撤去活動で中東方面にアフリカ諸国にとあちこち飛び回っていると聞く。

 それを受けてか、ラザ君は生き残っているブレード・チルドレンとの対話がある程度済めば音楽活動、リサイタルを今以上に増やしたいらしい。とはいえ今すぐにはできそうにないが。

 火澄は現状病室からほぼ出られないことは不満そうではあるが、ヒトクローンである自分の体での治験が歩君の役に立つのならよしとして、大きく文句を漏らすことはない。可能な限り手配したゲームやら映画のDVDやら、時間潰しには事欠かないようである。ラザ君と治験の内容を見てこれは苦痛もあるだろうと話したのは記憶に新しく、ラザ君は生きてる内に顔を見に行ってやると言っていた。

 次に関わるブレチルも面倒事が少なければいいけれど、大体がややこしいことになっているのがブレチルの問題。三年前に降ってわいたミカナギファイルのブレチル達だって放ってはおけない。

 とは言え、今は詰めて考えても詮がない。タバコを消して、今日はもう寝ることにしよう。

 




読了ありがとうございます
こちらは今年7月、中之島公会堂で行われたスパイラル~推理の絆~オンリー『That's a trade secret』で出しました本です。実際の本はイラストを描いていただきましたが、契約上ここには載せません。
もしご関心のある方がいらっしゃればメッセージなどいただければ対応を考えます。

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