総天然色で送る、痛快娯楽戦争映画の集大成!!
―― 鉄の若獅子が、広大な満州の地を駆け巡る。
画面狭しとばかりに走り回る89式中戦車の群れ。
発砲。
上がる噴煙。
吹き飛ぶ敵戦車の絵。
―― 正義はここにあり!
小さな村の前に出て、盾として動く89式中戦車。
その周囲を必死な表情の歩兵が固めている。
対峙しているのは勿論、中華民国軍。
村にある家の陰から固唾を飲んで見守っている避難民の人々の絵。
―― 劇的な愛!
出撃準備を進めている薄汚れた89式中戦車を背景に、抱き合っている日本帝國陸軍将校と金髪の美女。
ゆっくりと顔が近づいていく絵。
―― 日本帝國陸軍及びユーラシア民主共和国軍全面協力の下、満州の地で撮影された大映画。
刮目して見よ!!!
+
―― 紫禁城
かつての清帝国の歴代皇帝が住まいとし、今代の
それが紫禁城。
その一室。
緋色の装飾に染められた大広間の中心には、大きく描かれた満州の地図があった。
床に広げられた地図には、様々な木の
赤と青に塗り分けられたそれらは、満州と中華民国の兵力を示すのだ。
「勝てるのだな?」
豪奢な軍服を身に纏った蒋介石が、地図を睥睨しながらつぶやく。
地図に置かれた中華民国軍を示す赤い駒は圧倒的であった。
津波の如き奔流で、満州の地を埋め尽くす ―― そう表現しても過言では無かった。
中華民国軍による東伐、満州攻略作戦を示しているのだ。
「負ケル筈ガアリマセン」
居並ぶ中華民国軍の参謀たちを抑えて、少し癖のあるイントネーションで応えたのはワイマール共和国/ドイツ軍の制服を着たドイツ軍人だ。
マクスェル・バウアー大佐。
独中防衛協定に基づいてドイツ対中軍事顧問団の団長であり、中華民国軍の参謀団の事実上の指揮官であった。
左右にピンっと突き出すように伸びた口ひげ、その右端を撫でつけながら笑う。
「奉天派ノ軍勢ハ20万ニ足リズ、シカモ大半ハ
蔣介石が用意した東伐向けの戦力 ―― 東伐総軍は総兵力で30万を超えており、それを3つに分けて運用する予定となっていた。
2個師団主体の5万人規模であり、戦車や野砲を集中配備された最精鋭にして先鋒を担う
5個師団に分けられた8万人規模の、突撃軍の側面を守る
そして、ある意味で主力であるのが3番目の軍である
21個師団の17万人で構成され、4個の軍からなる本
それは、中華民国の形を決めた9ヵ国条約、そしてヴェルサイユ条約やワシントン条約などで構成されているワシントン体制への反逆であった。
ワシントン体制は、
だが、蒋介石や中華民国からすれば違う話であった。
偉大なる中原の雄たる中華民国に対し、不遜にも日本やアメリカなどと言う
人類開闢以来の
それが蒋介石と中華民国にとってのワシントン体制であった。
だがそれも、
南京/上海 ―― 江南の地で涵養された国力にドイツからの
中華民国の周辺にある列強の戦力は、その全てを併せても10万人規模には達していない。
対して中華民国は、現役部隊だけでも50万を超える規模となっているのだ。
である以上は
蔣介石と中華民国は
そういう話であった。
又、満州の地が持つ経済力も魅力であった。
1910年代から、日本と共にアメリカが莫大な投資を行ってきた為、長江流域に準じた規模の経済力を満州は持っているのだ。
にも関らず、日本もアメリカも防衛戦力は大規模には配置していない。
日本国内での情報収集によれば、日本が満州鉄道防衛の為と称して
対してアメリカは1個師団を自称するが、実質7000人規模の増強旅団 ―― それも大半は
最早、満州と言う極上の土地を中華民国に献上する為に準備している様であった。
少なくとも、蔣介石と中華民国にとっては事実であった。
「宜しい。大いに宜しい。では大中華復活の復活を天下に示そうではないか! 現時刻をもって東伐作戦“白馬長史”を発動である!!」
マクスェル・バウアー大佐が敬礼をする。
中国人参謀たちは抱拳礼を捧げていた。
―― 遼東半島/関東軍 第1装甲連隊
最新鋭の国産戦車たる89式中戦車の運用テストの為、第1装甲連隊は平野の多い支那大陸は遼東半島の関東軍へと派遣されてきていたのだった。
昼を過ぎた時間。
臨時に、第1装甲連隊が駐屯する事となった施設。
その中でも第1戦車大隊に属する89式中戦車は広いグラウンドを埋め尽くすばかりに並んでいた。
全ての車輛はピカピカに磨かれ、泥1つ付着していない。
精鋭の姿。
だが、そこに緊張感は無かった。
整備兵が一部の車両では整備や調整を行っていたが、それだけであった。
戦車兵たちは戦車に近づく事無く、めいめい、気楽に過ごしている。
芝生に寝転んでいる者すら居た。
そんなグラウンドから少し離れた場所に張られた天幕の下、平和な風景を見ている将校たちが居た。
めいめい、部隊備品の折り畳み式のカンバス椅子に座って本を読んだりタバコを吸ったりしている。
天幕には戦車第2中隊と書かれた木の看板が吊るされていた。
「しっかし、何事なのかネェ」
少しばかり軽い感じで言ったのは、その言葉遣い通りに軽い雰囲気を持ったたれ目で細身の戦車将校、第1装甲連隊第1戦車大隊第2中隊3号車の砲手を担っている甲斐遊馬中尉だ。
行儀悪く、机代わりにしていた空のペール缶に足を乗せてタバコを燻らせている。
「急いで待てとは言われますけど、流石に今回のは不思議ですよ」
不平不満と言う訳では無いが解せぬと応じたのは、第2中隊の5号車で甲斐中尉と同じく砲手を担っている小兵な戦車兵、小林隼人中尉だ。
「今日はアメリカ海兵隊からの視察が来る予定って聞いてましたけど、そういう雰囲気じゃないですから」
「聞いてる。門番組に今日の予定は消えたって通達があったってハナシだ」
「耳が早いですね」
呆れる様に言う小林中尉に、おうよっと自慢げに応じる甲斐中尉。
だが、飄々とした雰囲気であったのはそこまでだった。
根元まで吸ったタバコを中指で弾いて適当なブリキ缶を使った吸い殻入れに入れると、表情を変えた。
真剣な顔で言う。
「ウチの戦車長も小隊長代理ってんで連隊本部に引っ張られてったからな。こいつはただ事じゃねぇ」
「噂の?」
「ああ。多分__ 」
噂にはなっていたのだ。
中華民国が大軍を国境線、満州との境目に集結させているという話は出ていた。
第1装甲連隊からも、機動力に富む自動車化偵察隊が国境線方面に派遣されたのも最近の事であったのだ。
何もない等と思える筈も無かった。
「面倒事に成らなきゃ良いんだがネェ」
「残念だが出動だ」
そう告げたのは甲斐中尉の乗る3号車の車長、安室礼一中尉だ。
赤味のあるくせ毛が特徴となっている。
「やっぱり?」
「ああ。中華民国軍は本日未明に国境線を突破、一路奉天を狙って動いている模様だ。航空隊が確認したし、
「あっちゃー」
「政府は奉天政府との満州防衛条約の履行を宣言。アメリカ軍と共同で奉天軍を支援する事となる」
「我が政府も血の気の多い事で」
溜息をもらす甲斐中尉。
中華民国と接触して外交的決着を図るのではなく、先ずは武をもって応じると言うのは中々に果断な態度であると思えての事だった。
少なくとも、
「掛かる火の粉を先ずは払いたい。そういう事らしい」
「満州には我が国も結構な投資をしてますからね。これを焼かれるなり奪われるなりしたら堪らないって事でしょう」
「ったく。まだあぶく銭、
やる気の無い、いっそ政府批判めいた事を言う甲斐中尉であったが、その目には戦意が浮かんでいた。
否、それどころか挙動は言葉とは裏腹であった。
素早く椅子から立ち上がると、緩めていた
若いながらも戦車に精通し、精鋭と言って良い第1装甲連隊に配属されているのは伊達では無かった。
「出動は?」
此方も立ち上がって動ける様な体勢となった小林中尉が尋ねた。
だが、返したのは安室中尉では無かった。
「駐屯地を出るのは明日の朝一、
第2戦車中隊の中隊長だ。
瀬戸代一大尉。
痩身で、眉目秀麗と言う言葉の似つかわしい優男風である。
雰囲気も柔らかい所があった。
只、その所作はキレがあり、良く鍛えられている事を見る者に感じさせていた。
そんな瀬戸大尉は、安室中尉らからすれば半回りほど年上の年齢であったが、同時に、まだまだ若さの漂う戦車将校であった。
戦車、機甲化はまだまだ若い兵科であるのだ。
「まだ時間がある。なので悪いが総員を集めてくれ。出撃にあたっての訓示を行う」
「はっ!!」
瀬戸大尉の指示で、天幕に集まっていた将兵はそれぞれ駆け出していくのだった。
植民地の全てを奪われ、軍事力に大きな制限をされ、世界の
だが、そうであるが故に中華民国との協力体制構築を図った。
特に積極的であったのは、軍需と言う鉄などの消費先を失った産業界であった。
10年間の、ドイツ製鉄類の優先的購入を対価として長江流域に大規模な製鉄設備の売却を行い、又、自動車その他の産業も、現地に合弁会社の設立を行った。
これにより長江流域の経済は大きく発展する事となった。
又、中国人は認めたがらないが、列強が行っている上海への
そして、その向上した経済力と工業力を基にして、中華民国は軍を大きく涵養していたのだ。
建前としては中国共産党への対策。
だが実際には、列強との戦争を見据えた軍の強化、近代化であった。
その象徴として、中華民国は国産戦車の開発、配備を行ったのだ。
ドイツから派遣されて来たドイツ人技術者がドイツ製戦車を基に開発したとは言え、南京の軍事廠で産まれ、製造されるソレは正しく中華の戦車であった。
極秘にドイツ国内で開発されていた9t級軽戦車を基に、主敵となる
それがCTK-1戦車だ。
貧弱な中華民国のインフラでも自由に動く事が出来るようにと、10tを目標に開発されたソレは、最終的には11.5tの堂々たる軽戦車として完成する事となる。
技術的特徴は、エンジンを前方に置いている事であった。
大本となったドイツ製の車輛のレイアウトを踏襲したという部分もあるが、乗員保護を重視したと言う面もあった。
戦車の乗員は高度な専門教育を受けている為、如何に人口の多い中華民国とは言え簡単に消耗する訳には行かないのだ。
とは言え通常の国家であれば、前方正面の装甲材を厚くする事で対応とするモノであったが、それをCTK-1が採用
開発時、ドイツの製鉄技術が導入されているとは言え中華民国の製鉄企業群は十分な装甲用鉄材を用意する事が難しかったのだ。
だから、
主砲はドイツ製の標準的サイズの戦車砲、45口径3.7cm砲を採用している。
これは仮想敵たるM1917が持つ、元々は歩兵砲でしかない21口径37mm砲に対して遥かに優越した性能を持っていた。
負ける筈の無い戦車と言えるだろう。
勿論ながらもドイツ人としては、ドイツ本国で開発も製造も大っぴらに出来ない技術開発を、中華民国の金で出来る絶好のチャンスと言う意識であった。
この為、完成したCTK-1の開発は技術的実験が大きく行われていた。
ドイツは