ありふれない本当の勇者は世界最強   作:マサヒロ (旧名デイブレイク)

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評価バーが赤い……?
嘘だ、僕を騙そうとしてる……!

あと、この世界のハジメに似合う曲やBGMってあるかな?


十話 残された者達

 

翌朝。

香織はぼんやりとした意識の中で目を覚ました。

窓の外から差し込む朝の光が、まぶたを優しく照らす。

けれど、寝ぼけた意識の中ではその光は遠く感じられた。

 

(……あれ?)

 

身体を起こした瞬間、胸の奥に小さなざらつきが残っていることに気づいた。

長い夢を見ていたような気がするが、内容は思い出せない。

 

(昨日……私、ハジメ君の部屋に……)

 

そこまでは、はっきり覚えている。

ハジメが食べやすいよう具材を細かくした温かいシチューを持って、廊下を歩いてハジメの部屋の前まで行った。

でも

 

(……その後、どうしたんだっけ?)

 

扉をノックした?

中に入った?

ハジメの顔を見た?

何かを語りかけた?

 

なにも思い出せない。

 

まるで、そこから先の記憶だけがぽっかりと抜け落ちている。

香織は眉をひそめ、こめかみに手を当てた。

 

(私……疲れてたのかな?)

 

実際に、香織の肉体には確実に疲労は蓄積していた。

ただ、それだけではないナニかが香織の胸の中で引っかかっていた。

香織はベッドから立ち上がり、窓辺に歩み寄る。

外は今日も晴れていた。

けれどその青空はどこか薄く、頼りなく見えた。

 

 

 

 

香織は廊下を静かに歩いていた。

手には温かい湯気を立てる木製のトレーを持ち、その上にはハジメのために用意した野菜スープ。

具材はすべて細かく刻まれ、スプーン一つで食べられるようにしてある。

けれど、その手は微かに震えていた。

 

(……どうして、こんなに緊張してるの?)

 

城にいる間の日課、毎食の事のはず。

なのに、今日に至っては足取りが重い。

胸の奥に冷たいものが張りついているようだった。

 

(昨日の、朝や昼の記憶はあるのに……)

 

昨日の夜の記憶だけない。

ハジメの部屋の前まで行った記憶はある。

でも、その先が思い出せない。

まるで、記憶の一部が霧に包まれているようだった。

 

(……確かに、私は行った。ハジメ君の部屋の前まで)

 

香織は唇を噛みしめながら、廊下を早足で進んだ。

手にしたトレーのスープが揺れ、湯気がふわりと舞い上がる。

けれど、そんなことに構っていられなかった。

香織が昨日の夜の事を思い出そうとするたびに、頭の奥がじんわりと痛む。

まるで、何者かにプロテクトを掛けられたかのように。

 

 

香織は角を曲がり、ハジメの部屋のある廊下に差しかかった。

その瞬間、胸の奥がきゅっと縮こまる。

ハジメの部屋の前に、誰かが立っていた。

 

「……ッ!」

 

一瞬、心臓が跳ねた。

けれど、それは見慣れた姿――雫だった。

 

「……雫ちゃん?」

 

香織の声に、雫は静かに歩み寄った。

 

「おはよう、香織」

 

雫はそう言って花束をそっと胸元に抱え直した。

ガーベラの鮮やかなピンクと、バラの柔らかなオレンジが朝の光に照らされてどこか儚く揺れている。

 

「……おはよう。お見舞い?」

 

香織の問いに、雫は小さく頷いた。

 

「ええ。一日でも早く、南雲君が返ってくればいいなと思って」

 

香織はその言葉に、ふっと目を伏せた。

胸の奥にじんわりと温かいものが広がる。

けれど、それと同時に言いようのない不安がまた顔を覗かせた。

 

「……ありがとう、雫ちゃん。きっと、ハジメ君も喜ぶと思う」

 

香織がそう言ったその時、また一人やってきた。

 

「白崎さんに、八重樫さんじゃないですか」

 

二人は声をした方を向く。

そこには召喚組唯一の大人である、畑山愛子が花束を持って立っていた。

 

「先生……」

 

香織が驚いたように声を漏らすと、愛子はにこやかに微笑んだ。

その手には、ラベンダーとクロッカスの花束。

淡い紫の花が朝の光を受けてやさしく揺れていた。

 

「二人ともおはようございます。白崎さん、毎日ありがとう。今の先生にはこれくらいしかできることがないので……」

 

香織はその言葉に、かすかに微笑んだ。

けれど、その胸の奥ではまたひとつ“霧”が濃くなる音がした。

 

「ありがとうございます……」

 

香織は微かに頭を下げてそう言い、扉に目を向けた。

 

「ハジメ君、おはよう。入るよ」

 

香織がそういってハジメが後付けしたドアハンドルに手をかける。

ドアハンドルに触れた瞬間、香織の背筋にぞわりと冷たいものが走った。

まるでそこに触れてはいけないと告げるような、拒絶の気配。

けれど、香織は手を引かなかった。

 

「……開けるね」

 

ドアハンドルを押して、ゆっくりと扉を押し開ける。

軋む音が、静かな廊下に響いた。

中は、昨日と同じ――いや、それ以上に静まり返っていた。

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中を淡く照らしている。

 

「……えっ?」

 

香織が一歩部屋に踏み入れた瞬間、信じられない物を見た。

それは、床に散らばった白い陶器の破片と、乾ききったシチューの痕跡。

スープの色が染み込んだ絨毯は、まるで何かが暴れた後のように乱れていた。

 

「……どうして?」

 

香織の声はかすれていた。

しゃがみ込んで拾い上げた白い陶器の破片は香織には見覚えがあり過ぎた。

昨日の夜、自分が用意してハジメの部屋の前まで持ってきたシチューの皿なのだから。

香織が立ち上がって顔を上げる。

 

香織の手からトレーが滑り落ちた。

スープの入った皿が床にぶつかり、鈍い音とともに砕け散る。

温かな液体が絨毯に染み込み、香織のドレスの裾にも飛び散った。

だが、今の香織にはそれら全てが遠く感じられた。

 

「白崎さん……?」

 

「香織……?」

 

愛子や雫の心配する声をも遠く感じる香織。

 

ハジメが、居ないのだ。

車いすや、オルクスでの最初の実践訓練の際に着ていたコートや装備していた剣はある。

それなのにハジメだけが居ないのだ。

香織はありもしない希望にすがってベッドに駆け寄る。

そして、掛布団を引きはがした。

当然、ハジメの姿は無い。

 

「……居ない…」

 

香織の声は、掠れた風のように消えていった。

ベッドの上にはきちんと整えられた枕と、温もりのない掛布団だけが残されている。

まるで最初から、誰もそこにいなかったかのように。

 

「…そんな、はず……」

 

香織は掛布団を握りしめたまま、肩を震わせた。

その手は、冷たく、力が入らない。

視界が滲み、何もかもがぼやけていく。

 

「香織!」

 

雫が駆け寄り、香織の背を支える。

雫が香織の背を優しく撫でながら、そっと声をかけた。

 

「香織……落ち着いて。ね、大丈夫?」

 

香織は震える息を吐きながら、かすかに首を振った。

 

「雫ちゃん……なんでハジメ君が居ないの?昨日の夕方までは居たよね?なんで?」

 

香織はただ、泣くことしかできない。

雫は大切な人を失った香織の心を想像することしかできない。

今の雫には香織を優しく抱きしめることしかできなかった。




花言葉を調べてみれば二人のメッセージが分かる……かも?
あと、愛ちゃん影薄いな……

ハジメは……

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