ありふれない本当の勇者は世界最強 作:マサヒロ (旧名デイブレイク)
ハジメ達が異世界に召喚されてから、早くも二週間が経った。
ハジメは聞こえてくる王都の喧騒を背景に、ウォルペンの工房から王城への道のりを歩いていた。
ウォルペンはハイリヒ王国直属の筆頭錬成師で、メルドからの紹介で訓練が始まった次の日から通っている。
ウォルペン達王国直属の錬成師からは「筋が良い。直ぐにこの国、いや世界最高の錬成師になれる」と、太鼓判を押された。
それほどまでに錬成の才能を持っていてウォルペン達に褒められるのは、ハジメにとって嬉しかった。
だが、それ以上に戦いの才能の方が大きかった。
これが訓練を初めて二週間のハジメのステータスである。
===============================
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:10
天職:錬成師 ■■
筋力:200
体力:250
耐性:170
敏捷:290
魔力:50
魔耐:170
技能:錬成(+鉱物系鑑定)(+精密錬成)(+鉱物系探査)(+複製錬成)・剣術(+ソードスキル)・弓術(+ソードスキル)・投擲術(+ソードスキル)・狙撃・体術(+ソードスキル)・全属性耐性・物理耐性(+痛覚遮断)・自動回復・体力可視・気配感知(+暗視)・気配遮断・言語理解
===============================
ハジメとしては自らに課した課題であり、とある“武器”を作るために修行を重ねた結果、錬成で四つの派生技能に目覚められたのは予想外だった。
比較として、天之河のステータスは以下の通りで
==================================
天之河光輝 17歳 男 レベル:10
天職:勇者
筋力:250
体力:250
耐性:250
敏捷:250
魔力:250
魔耐:250
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
==================================
ハジメよりも成長率は上だった。
そこは、“勇者”という戦闘職と、“錬成師”という非戦闘職の違いの差だろう。
それでも、ハジメのステータスは異常だった。
ただ、ハジメには魔法の才能は無いらしい。
どれだけ簡単な魔法を使おうとしても約2メートルの魔方陣を描かなければならず、実践ではまったく使い物にならないレベルだがハジメは気にしてなかった。
ただ、だったら戦いの才能といえるものがあるのなら、どうしてあの時コハルを救えなかったんだ、ということばかり考えていた。
そんな事を考えながら王城までの道のりを歩いていると、何かが割れる甲高い音に続いて子供の泣き声が聞こえてきた。
(……ん?)
音がした方を辿ると路地の先、小さな露店の前で陶器の破片が散らばっていた。
その前に幼い男の子がしゃがみ込み、泣きじゃくっている。
「このガキ、なんてことをしてくれたんだ!!せっかくの商品が全部割れちまったよ!!どうしてくれるんだ!!」
店主と思わしき男性の怒鳴り声が響く。
男の子は怯えて肩をすくめ、さらに泣き出してしまった。
ハジメの足は無意識に露店の方へ向き、気づけば店主と子供の間に立っていた。
「すみません。弁償は僕がします」
ハジメはそう言って腰のポーチから小袋を取り出すと店主に手渡した。
店主はいぶかしげに受け取った小袋の口を開けると、金貨と銀貨の輝きに目を細める。
「へぇ……ずいぶんと太っ腹じゃねえか」
店主は金貨一枚をつまみ上げて光にかざすと、にやりと笑って小袋をハジメに返した。
「これだけあれば十分だ、助かったよ兄ちゃん」
先ほどの怒鳴り声と打って変わって、愛想のいい声に変わる。
ハジメは無言でうなずき、小袋を店主から受け取るとポーチにしまう。
店主が陶器を片付け始めたのを確認すると、ハジメはしゃがみ込みまだ泣きじゃくる男の子に目線を合わせた。
「……大丈夫?怪我、してない?」
男の子は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、ハジメを見つめた。
そして、首を横に振ったその瞬間顔を歪めた。
その表情を見て、すぐに気がついた。
男の子の足元に目をやるとズボンの膝が破れ、うっすらと血がにじんでいた。
転んだときに擦りむいたのだろう。
ハジメはそう言うと、小さな布と小瓶、そして紙製の箱を取り出す。
「…ごめん、ちょっとだけ我慢してね」
ハジメは小瓶の栓を抜くと小さな布に中の消毒用アルコールを滲み込ませる。
そしてその布ををそっと膝に当てると、男の子がぴくりと肩を震わせる。
「ひゃっ、つめた……」
男の子が小さく声を漏らすが、それは泣き声ではなかった。
むしろ、痛みに耐えながらもどこか安心したような表情を浮かべていた。
「もうちょっとだけ。すぐ終わるから」
ハジメはそう言いながら、紙箱の中からこの世界には存在しないモノ――絆創膏を取り出し裏面のカバーを手早く剥がして男の子の膝に丁寧に張り付けた。
「……これって?」
男の子が目を丸くして、膝を見つめる。
「傷を守ってくれる道具だよ。水も汚れも通さないし、すぐに治るから」
「すごい…!」
男の子は感心したように、そっと絆創膏に触れた。
その目はさっきまで泣いていたとは思えないほど、キラキラと輝いていた。
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
「そうか、だったら次からは気を付けるんだぞ」
男の子は元気よく頷くと、駆け足で王城とは反対側に駆けていった。
その小さな背中を見送ったあと、ハジメは立ち上がり手に残ったゴミを丁寧にポーチへしまった。
その時、時刻を告げる鐘の音が鳴り響く。
ハジメは駆け足で王城へと戻った。
訓練の時間だ。
ハジメは王城の門をくぐり、石畳の廊下を駆け抜けていく。
衛兵たちがちらりと視線を向けるが、誰も咎めることはなかった。
それどころか、彼の足音が遠ざかるのを見送るように、静かに敬礼を送る者もいた。
訓練施設に到着するとハジメが一か所だけぽっかりと空いた列に入ると同時に、メルドが訓練施設に入ってきた。
滑り込みセーフといったところか。
「ふむ、全員そろっているようだな」
メルドが一同を見渡しながら、満足げにうなずいた。
その視線が一瞬ハジメに留まるが、特に何も言わず直ぐに全体に向き直った。
「今日の訓練は俺が決めた相手との模擬戦を行う!」
メルドの声が訓練場に響くと、ざわめいていた生徒たちが一斉に静まり返った。
模擬戦と聞いて、誰もが緊張を隠せない。
「対戦相手はすでに決めてある。呼ばれた者は前に出ろ。お互い全力で戦え。俺や、騎士達が止め、といった時点で終了だ。いいな?」
「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」
そうして始まったクラス内+αの模擬戦。
最初の組み合わせはメルドと天之河で、天之河が勇者としての力を見せつけるかと思われたが――
「ふっ、まだまだ甘いな光輝!」
「くっ……!」
経験の差は大きく、メルドが冷静に天之河の動きを封じて勝利を収めた。
その結果に、クラスメイト達は驚きと尊敬の入り混じった視線をメルドに向けていた。
(……さすが、百戦錬磨の騎士団長ってとこか)
ハジメは一人離れて静かに見ていた。
天之河の動きも悪くはない。
だが、スペックと技能頼りの力押しでは、技術に勝るメルドには敵わなかった。
それだけだ。
模擬戦はその後も続き、剣や槍の火花散らす攻防や、魔法の派手な応酬が繰り広げられていく。
勝敗がつくたびに、歓声やため息が訓練場に響き、空気は徐々に熱を帯びていった。
そして――
「次、南雲ハジメ!」
メルドの声が響いた瞬間、場の空気がぴたりと止まった。
「誰とやるんだ? まさかまた光輝が?」
「誰であろうと、アイツが負けるならだれでもいいじゃねぇか」
「そうだな!」
「「「ギャハハハ!!」」」
檜山とその取り巻きがハジメが無様に負ける未来を想像して爆笑する。
香織がそれに眉を顰めるも、気づく気配は全くなかった。
「ハジメの相手は…八重樫雫だ!」
その声に訓練場が一瞬ざわついた。
「えっ、八重樫さんと!?」
「これは南雲の負けは確定だ!!ざまあみろ!!」
「八重樫さ~ん!そんな奴コテンパンにやっつけちゃって!!」
クラスメイト達の下品な声がハジメに浴びせられる中、香織は眉をひそめたままちらりとハジメの横顔を見た。
だが、ハジメは何も気にしていないようにただ静かに前へと歩き出していた。
「……よろしく、南雲君」
雫が静かに前へ出て、手を出す。
その声は申し訳なさでいっぱいだった。
「こちらこそ、よろしく」
ハジメは落ち着いた声で答えてその手を握り、しっかりと握手を交わした。
その目には、敵意も焦りもない。
二人は自然と手を離し、それぞれの位置へと歩いていく。
「位置につけ!」
メルドの号令が響き、訓練場の空気がぴんと張り詰めた。
その声をハジメが聞いたとき、右手を出して空中に向かってスッと下にスワイプするような動きを行った。
その奇妙な行動に雫を含め訓練場にいたほとんど全員が首を傾げ、ざわめきが起こる。
だが、ハジメはその声に一切反応せずしばらくそのままの姿勢で静止していたが、小さく頭を振るとハジメは肩越しに剣の柄を握り、長年の習慣のように滑らかに引き抜いた。
雫もまた、腰の鞘からサーベルを引き抜く。
雫がサーベルをやや担ぎ気味の中段で構えて、腰を落とす。
その姿は、剣道の試合で無敗を誇る風格のようなものが漂っている。
対するハジメは、無駄な力を抜いた自然体のまま、片手直剣を低く構える。
その剣先は地をなぞるように下がり、まるで獣が飛びかかる直前の静けさを思わせた。
そのハジメの構えを見て雫の中に、わずかな警戒が芽生える。
だが、それを表に出すことなくただ静かに呼吸を整えた。
「……始め!!」
メルドの号令と同時に、二人の身体が動いた。
雫が踏み込み、鋭く間合いを詰める。
ハジメもまた、低い姿勢のまま地を蹴り迎え撃つように前へ出た――その瞬間。
「あっ……!」
ハジメの目が見開かれる。
手にした剣の刀身が、緑色の光を帯びて輝き始めた。
次の瞬間、ハジメの身体が風を裂くように前方に跳び出す。
まるで、弾かれ何かに引き寄せられるような加速――間違いなかった、ソードスキル《ソニック・リープ》
「なっ……!」
雫が反応する間もなく、ハジメの剣が彼女の間合いに一瞬で飛び込んでくる。
だが、雫もまた並の剣士ではない。
サーベルを振り下ろすことで、振り上げられるハジメの剣を受け止めようとする。
そして、二人の武器が交錯するような形で衝突した。
耳をつんざくような鋭い金属音が訓練場に響いた――その直後。
バキィィンッ!!
甲高い破砕音が空気を裂く。
雫の手にあった訓練用サーベルが、刀身を半分ほど残してを真っ二つに折れた。
ハジメはその勢いのまま地面を滑るように雫とすれ違い、元居た位置を入れ替えるような形で静かに止まる。
吹っ飛んでいった雫のサーベルの剣先が上空でキラリと陽光を反射したかと思うと、二人のちょうど中間の位置の地面に突き刺さった。
ハジメとしては、あそこでサーベルが折れるなんて考えていなかった。
せいぜい、吹き飛ばすのが関の山だと考えていた。
そこから先の記憶をハジメはほとんど覚えていない。
ただ、メルド達に質問攻めにあった事と明日から実践訓練のために【オルクス大迷宮】へ遠征に行くということだけは回らない頭でおぼろげに記憶していた。