マスカレイド・サーガRe   作:バイン

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ビギニング 後編

「いっ、てぇ……」

 

 

破壊された小屋の床で敬助は目覚める。

投げ飛ばされた際に打ち付けた頭を片手でおさえながら、もう片方の手でそばにあった机にすがりつくようにして立ち上がる。

 

敬助が最初にしたことは周りを見渡すこと。

見覚えのある場所、健三の研究室でもあるプレハブ小屋の中だ。

幸運なことに、投げ飛ばされた場所には研究資料や段ボールがありクッションとして衝撃を押さえてくれたようである。胸の傷の痛みもある程度和らぎ、動けるようになっていることを確かめる。

 

 

「あいつは…いない…遥香とじいさんを追いかけてったのか?クソッ!」

 

 

壊された入り口の向こうに誰もいないことを確認すると、傷ついた体を引きずりつつ外に出ようとする敬助。

それを呼び止める存在がいた。

 

 

『おい』

 

 

突如として聞こえてきた声に、足を止める。

周囲を見渡して声の主を探すも、室内には装置やガラクタが雑然と置かれ、テーブルの上に一台のスマートフォンが置かれているのみ。

 

 

『おい、お前だよお前。そこのぼーっとして周りを見てるチンピラ面』

 

「誰がチンピラ面だ……ってえ?」

 

 

実は結構気にしていることを言われてつい反論してしまい……敬助は声のした方向に顔を向けた。

そこにあるのはテーブルの上にある一台のスマートフォン

健三の所有物か、と一瞬考えるも、敬助の記憶では健三は今でも二つ折りの携帯電話…フィーチャーフォンを愛用していたはずである。

ならばこれは一体…と思い、スマートフォンを手に取ろうとすると。

 

 

『ったく、聞こえてるなら「聞こえてまーす」くらい言いやがれって!』

 

 

という悪態と共にスマートフォンから電子音声による怒号が聞こえてくる。

その声に驚いた敬助はぎょっとした表情で思わず後ずさる。

 

 

「アプリは……スマホが勝手にしゃべった……AIとかそういうやつか!?」

 

『おー、中々鋭いじゃねぇか。あてずっぽうかもだが』

 

 

慌ててスマートフォンを拾い上げて液晶画面をまじまじと眺める。

手に取って、改めてスマートフォンを観察する。形状としては平べったい長方形と通常の携帯端末と変わりない。サイズと重さは少し大きく重い気もするがそういうモデルだと言われると納得出来る程度と、外見上はさほど変わった部分はない。

次の瞬間、液晶に二つの縦線と横線が現れる。シンプルで記号的な目と口が現れ笑みを浮かべるのを見た敬助はさらに驚きを強くした。

 

 

 

「……誰なんだ?お前」

 

『俺様か?俺様は……そう!ライジングワンダーオールマイティアルティメットレインボーマスターオーバーAIver9!「トラスト」様よ!』

 

「……なんて?」

 

『ライジングワンダーオールマイティアルティメットレインボーマスターオーバーAIver9ことトラスト様だが?』

 

 

ドヤ。と効果音が聞こえてきそうな程に自信に満ち溢れた顔をディスプレイに浮かべるAIこと『トラスト』の言葉。

一瞬、敬助の脳裏を『?』が占拠したが、すぐに思考に奪還される。

 

 

「えーと……トラスト、さんか」

 

『こいつ……雑に切りやがった……!』

 

 

AI、というと機械的で無表情無感動なものだというような先入観を抱いていた敬助。

しかし、目の前で人の声となんら変わりのない感情豊かな口調で話すAI(?)、トラストを見ているとその先入観は間違いであったのではないか、という気持ちになった。 

 

 

「っと、こんな事してる場合じゃねえ!早く遥香達のとこに行かねえと……悪い、トラストさんとやら!アンタと遊ぶのはまた今度に……」

 

『行ってどうすんだ?また野郎にボコボコにでもされるか?』

 

 

トラストが入ったスマホをテーブルへと戻し、慌てて外へと駆けだそうとした敬助をトラストが呼び止める。

言葉こそ砕けてはいるものの、先程のどこか抜けた雰囲気のない、無感動でまさしく『機械的な』言葉に、ぞくりと寒気が走る。

その言葉に反論しようとした敬助の先を制するかのように、その冷徹な言葉は続けられる。

 

 

「だけど……!」

 

『すぐGユニット辺りがやって来んだろ、お前が行った所で何にもなんねぇよ。…あ、別にお前が憎い!って思って言ってるんじゃねえぜ?むしろこいつは善意の忠告って奴だ』

 

「待てよ……お前の理論だと、遥香や爺さんはどうなる!?アイツら、爺さんを狙ってたし邪魔する奴らには容赦なんかしなかったぞ!?」

 

『遥香……ああ、逃げてったJCか。運よく警察とかが先に見つけて保護して貰えるのを期待するしかねえだろうな。マ、警察も有能だしなんとかなるだろ』

 

「……もしあの未確認モドキみたいなのが先に見つけたらどうなる?」

 

『そんときゃあ、あのJCが抵抗しないで俺の生みの親の爺さんが誘いにイエスって答えれば無事に終わるんじゃねえか?……まあ連中結構キレてる寄りだから「見せしめ」みてーなことはすんじゃねえの?』

 

「んなっ……」

 

 

無機質な音声。言葉の内容そのものはなにも間違った事は言っていない。

それは先程レオパードドーパントに挑みかかり、簡単にねじ伏せられた敬助本人が痛いほどに理解していた。

銃器で撃たれようが傷一つつけられないような硬質な体に普通の自動車程度なら軽くスクラップに出来るであろうその膂力の前に、ちょっと武道を修めた程度の生身の人間が徒手空拳で挑んだところでたかが知れている。

 

お前に出来る事なんてない。大人しく自分の家族がが辿る末路を大人しく祈っていろ。

 

その事実を突きつけられ、そして自らの頭で理解した敬助は…それでも扉へと向き直り歩き出そうとする。

 

 

『マジで行く気か?お前が行ったってまたボコボコにされるか……今度は殺されるかもな?』

 

「行く。……遥香も爺さんも、あいつらに弄ばれてたまるかよ」

 

『……こんだけ忠告してやったってのに危険に飛び込むってか?今度は投げ飛ばされるだけなんて甘いやり方じゃねぇだろうぜ、確実に殺しに来るだろうな』

 

 

完全に呆れた様子のトラストの言葉に、額に嫌な汗が流れるのが分かる。

『死』。三年前に、自らの目の前に迫ったその『死』の元へと飛び込もうとしている。

生身の人間ではどうしようもない存在により、大切な物を失ったその記憶が、警鐘を鳴らし敬助の足を止めようとする。

先程軽くゴミのように遊ばれたことへの絶望が、敬助の心を萎えさせようとする。

 

しかし同時に、その記憶が、絶望が、敬助に死地へと足を向けさせる。

 

 

「……誰も泣かせたくねえ。俺が何もしないで救えなかったりしたら、マジに死にたくなっちまう」

 

 

瞼を閉じれば浮かんでくるのは、血の海に沈んだ父と母の姿。迫り来る異形と、その異形を打ち払った赤い戦士。

そう。

三年前のあの日、敬助は目の前で父と母を失った。

───その原因は、自分だ。

 

 

そんな思いを二度と味わいたくない。

自分の大切な人達を失いたくない。

 

あの戦士が言ってたように。

 

『これ以上誰かの涙を見たくない』

 

その思いが、敬助に行動させる。

恐怖を振り切って、外へと足を踏み出そうとする敬助に、トラストはやれやれ、といった様子で話し出す。

 

 

『……大馬鹿野郎が……ああもう!ホントは美人なレディーが良かったが……緊急時だししょうがねぇな!』

 

「?なんだよ、何をする気だ?言っとくがもう何言われようとも俺は止まる気はないからな」

 

『馬鹿!こっちが助けてやろうってのになんでぇその態度は!』

 

「……へ?」

 

『ったく!目の前で死なれると後味悪いだろうが!それに探すっつったって居場所もわかんねぇ、足もねぇのに探せるわきゃねぇだろ』

 

「……あ!た、確かに……」 

 

 

トラストの言葉に冷や水をかけられたように、敬助は急速に冷静になって間抜けな声を漏らす。

レオパードドーパントがいなくなってから今までは数分ほどであるが、それでも遥香達は全力で逃げ、レオパードはそれを全力で追いかけている、と考えると走って追いかける、というのはあまりよろしくないだろう。

それに逃げ道も分かっていない。追いかける、と息巻いていた敬助であったが、顔面蒼白となって慌て出す。

 

 

「バイクの免許はバイトのために取ってたけど…肝心のバイクは持ってねえんだよ、金貯めて買いてえとは思ってたんだけど……」

 

『えっマジに考えてなかったの?「だれもなかせたくねえ〜」とか言う前にそういうことに頭回んないんか?』

 

「ぐっ……い、言い返せねぇ……腹立つなこのAI!」

 

『マ、いいだろ。丁度装備のテストになるって考えりゃあ、損にはなんねぇか』

 

「装備のテスト?爺さんの発明品使うってのか?」

 

『バイクの免許はあるんだろ?なら丁度良いもんがあるぜ』

 

 

トラストが自信ありげに言った直後、トラストが入っているスマートフォン、『フォントラスト』の液晶画面が勝手に操作される。

画面から不可視の電波が発せられ、入力を受け取った小屋の床が開く。

 

 

「ロボットアニメかなんかかよ……!?」

 

『おおっと!驚くのはまだ早いぜ!』

 

 

開いた床に目を見開いていると、開いた床の下から、何かがせり上がって来る。

それは一台の、飛行機を思わせる暗い青いカラーリングをした流線型の大型自動二輪であった。

 

 

「な、なんだこりゃあ…!?バイク!?」

 

『専用マシーン「トランスポーター」さ。さぁて、現役JCを追いかけるストーカー野郎をぶちのめしに行くとしようぜ!』

 

 

────────────

 

同じ頃、結城家から少し離れた、寂れた廃工場で、ドーパント達が遥香と健三と対峙していた。

怪我をした健三へと肩を貸しながらも必死で逃げ回っていた遥香。

しかし、相手は異形の怪物で、数の上でも劣っている。逃げ惑っているうちに、警察等に助けを呼ぶことすら出来ないままに工業地帯にまで追い込まれた。

 

 

『鬼ごっこはもう終わりにしましょう、不毛だ』

 

 

敬助や健三と会った時と同じように口調は丁寧であるが、有無を言わせぬ圧が遥香を襲う。

工場の隅に追い詰められ、逃げ道は完全に無くなっている。よしんば逃げ道があったとしても、背中に庇っている健三の傷の具合もある。

そのことを認識した遥香は、落ちていた鉄パイプを拾い、ドーパント達へと向ける。

 

 

「ち、近寄らないでください……!ぶちますよ!」

 

『……』

 

 

震えながらも威嚇する遥香。

レオパードドーパントは、撫でようとした猫や犬が吠えてきた、といった様子でため息をつく。

ゆっくりと近寄ってくるレオパードドーパントに鉄パイプを構えた遥香は、震える声で脅す。

 

 

「ほ、本当にぶちますから!痛いですよ!」

 

『無意味な行為はやめておきなさい』

 

 

意を決した遥香の振った鉄パイプがガン!と音を立てその身体に直撃し……その体表には、全く傷はない。

呆れ果てたレオパードドーパントが、遥香の首元を掴み上げ、健三に見せつけるようにして軽々と持ち上げた。

 

 

「ひっ……」

 

『……少しお仕置きが必要ですね。貴方にも。貴方の祖父にも』

 

「や、やめんか!お前の目的はわしじゃろう!」

 

 

息苦しげに顔を歪め、必死で首を掴んでいる手を引き剥がそうとする遥香であったが、渾身の力を持ってしても、その指一本動かすことは出来ない。

健三が、怪我を押してレオパードドーパントへとすがりつこうとするが、まわりのマスカレイドドーパント達に取り押さえられる。

 

 

『博士、今一度確認します。我々「ゴルゴム」の元に来なさい』

 

「ッ……貴様等のような連中に……」

 

『返事がノーなら、お孫さんの命は保証できません』

 

「なっ……!」

 

 

目を見開く健三に、遥香の首を締めている手に力が込められる。

遥香の表情が徐々に青ざめ、手足をバタつかせるが、拘束が緩む様子はない。

 

 

「か……っふっ……」

 

「や、やめろ……やめてくれ……!」

 

『さあ。……答えを!』

 

 

レオパードが徐々に手へと力を込め、それと同時に必死で抵抗していた遥香から力が抜けていく。

抑え込まれ絶望の表情を浮かべる健三の目の前でその首がへし折られ───

 

 

「人の妹に……」

 

『!なっ……!?』

 

「手ェ出してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

『しま……ぬうううう!?』

 

 

突如、敬助の乗ったトランスポーターが工場内に突進してくる。

それを見たレオパードドーパントは、慌てて遥香を放り捨てて逃れようとするも、一瞬遅くバイクの突撃を真っ向から受けて吹き飛ばされる。

 

 

「へっ、ざまあみろッ!妹に手ェ出そうなんてお兄ちゃんがゆるさねぇからな……!」

 

『馬ッ鹿野郎!こいつがいくら頑丈だからってもっと丁寧に扱いやがれっ!試運転でブッ壊す気かぁ!?』

 

 

吹き飛ばされ叩きつけられたレオパードドーパントを見て不敵な笑みを浮かべる敬助と、それを怒鳴り声で戒めるトラスト。

頑健なドーパントの身体とはいえ、高速で突っ込んできた金属の塊に追突されれば流石に応える。吹き飛ばされたレオパードは軽く呻いて、まだショックから立ち直れていない。

バイクから降りた敬助は健三を捕らえていた一体のマスカレイドドーパントに飛び蹴りを叩き込み、健三を救出。肩を貸して、投げ飛ばされた遥香の元に二人で駆け寄る。

 

 

「遥香!爺さん!大丈夫か!?」

 

「いたた……に、兄さん……」

 

「遥香!?痛むところないか!?奴らに何かひどいことされてたりしないか!?」

 

「大丈夫ですから揺すらないで……!」

 

 

遥香の両肩をつかんで

投げ飛ばされた遥香だったが、幸運なことに投げられた場所に放置され埃の積もっていたダンボールが存在。クッション代わりとなったために、側から見て大きな怪我などは見られない。

そのことに安心して息を吐く敬助であったが、視界の隅に意識を取り戻したと思わしきレオパードドーパントが立ち上がるのが見える。

 

 

「……爺さん。離れててくれ。遥香のことを頼む」

 

「敬助!?何をするつもりじゃ!?」

 

『よーやく出番かよ?心配すんなよ、博士さんよ!この天才AIトラスト様も着いてってやるからよ!』

 

「トランスモバイル……!?なぜそれをお前が!?

 

 

レオパードから二人を守るように立ちはだかる敬助は、懐から一つの携帯端末…『トランスモバイル』を取り出す。

自らの発明品を敬助が持っていることに驚く健三に、敬助は小さく笑みを向けた。心配するな、と言うように。

 

 

『ナイスガッツ……と二度言うつもりはありません……少々ムカついたと言わせてもらいましょうか』

 

 

完全にショックから立ち直ったレオパードが、憤怒と共に立ち上がって、敬助へと殺気を向ける。

しかし、敬助は怯まず、仁王立ちになってレオパードを睨みつける。

 

 

「ああ。こっちだってムカついてるぜ。普通に暮らしてた人間を急に襲いやがってよ」

 

『あ、最終確認だけど、マジにやる?行く途中何度も警告はしたからなー!……

 

今なら止めたいって言っても良い、Gユニットもすぐに来るだろうしな』

 

 

トラストが、最後の警告を告げてくる。

いまからやることは、危険で、理不尽に会うこともあるだろうし、その上何の見返りも得られないであろう。

そんな内容の説教をされた。

運転中邪魔になりそうなくらいにうんざりするほどに長くしつこい、『やめておけ』という警告。

それでも敬助の意志は揺るがない。

 

 

「言っただろ。……これ以上、誰も泣かせたくねえって」

 

『……OK。ならもう止めねえ、全力でカッコつけてきな!』

 

「ああ。……行くぜ!」

 

 

決意と共に、手にしたトランスモバイルの側面の小さなスイッチを押し込む。

すると長方形のトランスモバイルの左右から帯が現れ、敬助の腰部に巻き付く。

 

 

【トランスドライバー!】

 

『さあ、イメージしな。お前が変わって、戦う姿を!』

 

 

イメージしろ。

トラストの言葉に、敬助は目を閉じ、考える。

戦う姿として、脳裏に浮かんだのは、あの時の赤い戦士。『4号』の傷だらけの勇姿。

誰かの笑顔を守る、赤いクワガタのような勇士の姿をイメージすると、敬助の手元に一つのチップが現れる。

 

 

【マイティバンドル、セットアップ!】

 

 

チップに描かれたクワガタを模した象形文字のようなマーク。敬助は知らないが、それは赤い戦士……『クウガ』を模したライダーズクレスト(戦士の紋章)である。

 

 

「それで?最後は何すりゃいい?」

 

『何って……そりゃあ、「アレ」しかねえだろ』

 

「アレぇ?」

 

『決まってんだろ。……「変身」だ!』

 

 

トラストの威勢のいい言葉と同時に、トラストドライバーのカバーが一部開き、チップをセットしろ、とばかりのスペースが出来上がる。

そこに敬助がチップ、『マイティバンドル』を挿入すれば、勇壮な音声が流れてくる。

カバーを再度閉じ、液晶画面に映った『GO!』のマークを押す。

 

そして。

敬助は叫んだ。

 

 

「……変身ッ!」

 

【OK!トランスシステム・アクティブ!・マイティパッケージ!】

 

 

全身を黒いボディースーツが覆い、灰色の複眼のある丸いフルフェイスノヘルメットが頭へと被せられる。

そして直後、周囲に形成された装甲が、ボディースーツへと装着されていく。

クワガタのような角に赤色複眼のあるヘルメット、赤いプロテクターと手甲、そして右足に脚甲が装着。

 

姿の変わった敬助の姿を見て、マスカレイドドーパントは足を止めて、レオパードドーパントが驚き声を上げた。

 

 

『貴様……仮面ライダーだったのか!』

 

『仮面ライダー?』

 

【ああ。そうさ】

 

 

この世界には、ある都市伝説がある。

この世に悪が蔓延り、人間の自由と平和が脅かされた時、嵐と共にやって来る、悪を切り裂く嵐の男。

正義の仮面の騎士、『仮面ライダー』がいる。

それをトラストは知っている。

 

 

【そして。今のお前も「仮面ライダー」、だぜ?】

 

『さしずめ、仮面ライダートランスってか?』

 

【イグザクトリィ!……カッコよくキメな、仮面ライダー!】   

 

 

『仮面ライダートランス』。

敬助が変わり、そう名付けられた戦士は、目の前に立ちはだかるドーパント達に空手の型を取った。

眼前の悪に構えを取り、闘志を漲らせる。

 

 

『……あのベルトは確保しろ。中の人間は始末していい』 

 

 

冷酷な指示を受け、マスカレイドドーパント達がトランスへと襲い来る。

身構えるトランスに、一体のマスカレイドドーパントが殴りかかってくる。

 

 

『な、なんだぁ!?』

 

 

トランスが叫びを上げる。

マスクの中、敬助の眼前にはマスカレイドドーパントが殴りかかってくる光景と、その攻撃の軌跡が残像のように写る。

慌ててその軌跡を避けるようにトランスが身体を動かせば、現実でもマスカレイドドーパントの攻撃を避けることに成功する。

 

 

『なんだこれ!?相手の攻撃が……見える!?』

 

【当然だ!俺が相手の動きを予測して見せてやってるんだからよ!】

 

 

再度、マスカレイドドーパントが殴りかかってくる光景が見える。同じように拳を避ける。

逆にトランスが拳を振るえば、マスカレイドドーパントは数m吹き飛び壁へと叩きつけられる。

 

 

『すげえ……これなら、行けるッ!』

 

 

振るわれるマスカレイドドーパントの拳を逆に左手で掴み取り、右の拳を叩き込む。

吹き飛ぶ一体に巻き込まれ、態勢を崩した別の相手に回し蹴りを叩き込み、工場の壁へと叩きつける。

 

 

『よっし!』

 

【やるじゃねえか!なんかやってたか?】

 

『空手を少し、な!』

 

 

倒される仲間達を見ても怯む様子のないマスカレイドドーパントの一体に腰を落としての正拳突きを叩き込む。

豪語するようにトランスの動きは武道家らしく洗練され、大ぶりなマスカレイドドーパントの拳をいなし、逆に打倒する。

最後に残った一体へ蹴りを叩き込もうとした瞬間、トランスの眼前に恐ろしい速さの残像が写る。

 

 

『ッ!?』

 

 

慌てて身を捩って躱したトランスの眼前。

一瞬の閃きと共に、マスカレイドドーパントを両断される。それをやったのは、手の爪から血を滴らせるレオパードドーパントである。

事故とはいえ仲間を惨殺して、レオパードドーパントには動揺は見られない。

 

 

『やはり仮面ライダー相手には不十分か』

 

 

レオパードドーパントの瞳がトランスを捉える。

油断なく構えるトランスの目の前で、レオパードドーパントの姿がブレる。

一瞬表示された残像に併せて身を捩り躱す。

 

 

『こいつ……速え』

 

【気を付けろ、さっきの量産型どもと違って、ドーパントはガイアメモリの力を十分に発揮できる!目の前のあいつは滅茶苦茶強い人型のヒョウだと思えよ!】

 

『惜しいが……ベルトを残して中身には死んでもらおう!』

 

 

再度眼前のレオパードドーパントの姿がブレ、更なる一撃が振るわれた。

人知を超えた、達人ですら捉え、受け止めることが困難な鋭く重い一撃。

敬助の胸元を抉っていった、撫でるような一撃とは違う、殺す為に振り下ろす本気の一撃。

 

しかし。

 

 

『……ここかっ!』

 

『何!?』

 

 

トランスはその一撃を受け止める。

レオパードドーパントの動きが一瞬止まったのを逃さず胴体へと正拳を叩き込む。

 

 

 

『ガバッ!?』

 

『オオラァッ!』

 

 

追い討ちの前方回し蹴りを叩き込めば、レオパードドーパントは地面へと叩きつけられる。

 

 

『ぐ……まずい……!』

 

 

立ち上がろうとするレオパードドーパントであったが、ダメージが予想より大きいのか立ち上がる事が出来ない。

そこで、トランスドライバーからトラストの声が聞こえてくる。

 

 

【さあて……トドメと行くか!】

 

『分かった!……で、どうすりゃいいんだ』

 

【画面にある必殺のアイコンをタッチしろ!】

 

『わかった!』

 

 

トラストの指示に合わせて、『必殺』と書かれたアイコンをタッチする。

すると、

 

 

【OK!パワー・トランスポーティング!】

 

 

電子音声と共に、右足へとエネルギーがチャージされていく。

 

 

『く……!まずい!』

 

 

立ち上がったレオパードドーパントは、トランスの尋常ではない様子を止めようと突進。

迎え撃つトランスは手を前に、左手を腰元に構え、レオパードを正眼に構えて、疾走。。

助走の勢いのまま跳躍。回転を加え、エネルギーのチャージされた右足を真っすぐと伸ばし飛び蹴りと共に相手へ突き刺した。

 

 

『おおっりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 

『グ、オオオオアアアアアア!?』

 

 

蹴りの勢いをそのままぶつけられたレオパードは、そのまま数メートル吹き飛ばされる。

 

 

『任務……失敗か……!』

 

 

その後、立ち上がることすら出来ず、流し込まれたエネルギーに耐えきれずレオパードドーパントは、爆散した。

 

 

────────────

 

『終わった、か』

 

【おお!初変身にしちゃあ上出来じゃねぇのよ!】

 

 

レオパードドーパントの爆散した炎を、どこか現実離れした様子で眺めるトランスを、トラストが褒める。

短時間の中で多くの出来事が起こったために、若干処理しきれずに混乱してしまっているトランスであったが、横合いからかけられた声に現実に引き戻された。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

『おお、遥香!無事だっ……っと』

 

 

駆け寄ってきた遥香へと手を挙げたトランスだったが、遥香に抱き付かれると、流石に慌て始めた。

 

 

『おおお!?遥香!?どうしたんだよ!?』

 

「大丈夫!?どこかおかしなとことかない!?」

 

『だーいじょうぶだって、ほら、元気そのものだろ?』

 

「だって思いっきり切られてて…」

 

『ま、まあほら、軽く引っ掻かれたくれーだから全然大丈夫大丈夫!』

 

 

トランスのボディをペタペタと触ったり、胸元に耳を当てたりする遥香を見て、心配させまいと力こぶを作ったり両手を振って大丈夫だ、とアピールするトランスであったが、涙目で詰め寄ってくる遥香に思わず後ずさる。

 

 

「敬助……すまんなぁ……迷惑をかけた……」

 

『ン……爺さんも無事か、何よりだぜ』

 

「……話さねばならんな、お前たちには」

 

 

涙ながらに謝罪してくる健三にも肩を竦め、笑みを返す。そのまま話し出そうとする健三をトランスが手で留める。

 

 

『あー、とりあえず家に帰ろうぜ?……話すにしても、とりあえず家のほうが話しやすいだろうしよ』

 

「……うむ。そうじゃな」

 

 

トランスの言葉に頷いた健三は、家路へと歩を進める。

 

 

「おにーちゃんっ」

 

『ン?』

 

 

変身を解除しようとしたトランスに、遥香が抱きついてきた。

にっこりと笑い腕を抱く妹の姿に、トランスはどこか違和感を覚えつつも、非日常との接触が原因だと自分を納得させ、気を取り直す。

 

 

『……怖かったんだな、遥香。もう大丈夫だぞ』

 

「うんっ」

 

 

軽く遥香の頭を撫でて安心させようとするトランスは気が付かなかった。

妹が今までにしたことがないような笑みを浮かべ、愛する人に向けるような言葉を発したことを。

 

 

「お兄ちゃん……だーいすき……」

 

────────────

 

帰路の途中。

 

 

【……?】

 

「トラスト?どうかしたか?」

 

【いや……なんでもねえ。センサーの調子がまだ万全じゃねえとかだろうよ】

 

 

敬助が一瞬向けた視線の先。

 

一人の少女がいた。

薄い青のショルダーケープが特徴的な衣装を纏った少女。

彼女は遠くにいた敬助達の姿を認めると、小さく安堵した笑みを浮かべた。

 

 

「……良かった。何も起こらないで」

 

 

フードを外せば、少女の姿が見える。

その姿は、敬助が昼間に出会った少女、氷月 理亜の姿がある。

 

理亜は手にしていた指輪に力を込めて、その口で呪言を紡ぐ。

 

 

「『万物はこれなる一者(ひとつもの)の改造として生まれうく』」

 

 

その言葉が放たれたと同時に、少女の姿がその場から掻き消えた。

 

 

 

 

仮面ライダートランスの最初の戦いは終わった。

だが。これは始まりでしかない。

 

仮面の戦士達の戦記の序章である。

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