「おい、トラスト……おい!」
公園のドーム状の遊具。中は少し手狭にはなるが、大人一人程度であれば十分に入れるスペースがある。
その中に敬助は避難していた。
ポケットにしまい込んでいたトランスモバイルを取り出し、トラストを呼び出そうとする。
電源ボタンか何かないか、と探していると画面に顔が浮かび上がり、めんどくさそうな声が返ってくる。
『あーん?なんだ一体……』
「未確認が出た、力を貸してくれ!」
『!?マジかよ……!?とりあえず警察に連絡を』
「そいつもあるけど!……『変身』させてくれ!」
敬助からの頼みを、トラストは渋る。
未だ和解も出来てない状態で、トラストは敬助を認めたというわけではなく、変身の許可は降りない。
『いや待てよお前、今回もお前の家族になんかあったとかか?』
「……そうじゃねえ、けど……助けねえといけねえんだよ」
ぎり、とトランスモバイルを持つ手に力が入る。
あの未確認の言うことが真実であれば、理亜は敬助を庇ってあの姿にされた。
……奴が何を考えているかは分からない。だが一つだけ分かることは、このままにしておけば彼女の身に何が起きるかは分からない。
「今助けられるかもしれねえのに、また俺が何もしないで犠牲が増えたら嫌なんだよ……頼む!」
トランスモバイルを地面に置き、手狭な遊具内で体勢を組み替え、地面に頭を擦りつける。
数秒してから、トラストの答えが返ってきた。
『……60点』
「は?」
イエスでもノーでもない点数の答えに、敬助は困惑したような声をあげた。
『試験の点数は60点にしておいてやる。ギリギリ不可じゃなくて!5段階評価でいうと可だから調子に乗るんじゃねえぞ!』
「いやだからどういう意味なんだよ」
『べ、別にあんたのこと認めたんじゃないんだからねっ!仕方なくなんだからねっ!』
「今時そんな反応するやついねえだろ」
『夢がねえこと言うんじゃねえ!』
『んなことより……とりあえず行くかよ?』
「……ああ!」
ぎゃいぎゃい、とじゃれ合うような会話を終えて、敬助はトランスモバイルを持ち上げる。
画面に映る相棒と視線を交わし、立ち上がる。
「……いてっ」
……狭い遊具内で勢いよく立ち上がった敬助は、天井に頭をぶつけることになった。
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ベンチ付近に敬助が駆け戻ってみれば、バフは大きく移動した様子もなくそこに佇んでいる。
どうやら探していたらしい敬助の姿を認めるや否や、気怠そうに向き直る。
『全く、メンドクセえことしやがって……大人しくヒトプレスになりに戻ってきたってか?』
「……氷月を返せ」
『返すわけねえだろ!質は落ちるがこいつだっていくつか集めりゃアレに変えてもらえんだからよ』
鼻で笑うバフの姿。
それを見て、敬助は改めてトランスモバイルを持つ力を強める。
「……なら、仕方ねえ」
『なーるほど?あいつが相手ってわけね』
「ああ。トラスト、行けるな?」
『はいよOK!』
トランスモバイルを腰に当てれば、ベルトが伸びて腰に巻き付く。
【トランスドライバー!】
取り出したマイティバンドルをベルトに挿入すれば、液晶画面には赤い戦士と、『GO!』の文字が。
そして敬助の周囲には、赤い装甲が形成されていく。
【マイティバンドル、セットアップ!】
時計回りに円を描くように腕を回転させ、左手をベルトのバックルの上に、右手を斜め上へと高くかかげ……敬助は叫んだ。
「変身ッ!」
【OK!トランスシステム・アクティブ!・マイティパッケージ!】
叫びながらバンドルをセットすれば、敬助の姿は黒いスーツに覆われ、形成された赤の装甲が装着。
『……っし!』
『なんだあお前……!?まさか……「本社」の連中が言ってた、バイトを狩っていく連中か!?』
目の前で姿を変えた存在に対し、バフは驚愕する。
その眼前、赤い戦士は名乗りを上げた。
『俺は、仮面ライダー。……仮面ライダートランスだ!』
力強く、雄々しく雄叫びをあげた戦士。『仮面ライダートランス』は、腰を落とし、眼前の悪意に構える。
眼前の悪意、バフはトランスの叫びに、思い出したようにくつくつと笑い出す。
『仮面ライダー……思い、出したぜ……お前らのこと、本社から言われてたんだったなぁ……』
『テメエらを倒して死体を届けりゃあよ……「ボーナス」が出るってよお!』
拳を振り上げ、突進してくるバフ。
かなりの勢いのある拳を、トランスは容易く受け止め、がら空きの胴体へと足の裏を押し付けるように叩き込む。
『グォッ!?』
『昨日の奴よりは遅いが……結構硬そうだなこりゃあ!』
【心配すんな!マイティの拳なら……気合い入れりゃぶち抜けるぜ!畳み掛けてやれ!】
『合点承知ッ!』
蹴られた腹を抑え体勢を崩したバフの頭を叩き割らんとばかりにトランスのラッシュは止まらない。
手甲に守られた拳は甲殻類のそれに似た頑健な体皮をも叩き割り、砕き、鋭い蹴りへのコンビネーションへとつなげていく。
痛烈な拳打と蹴撃の雨に曝されたバフの動きが鈍る。
(追い打ちに……叩き込むっ!)
それを隙と見たトランスが、渾身の正拳を叩き込もうとした刹那。
【……ッ!?屈め!】
トラストからの鋭い警告。それを受けてトランスが強引に体勢を下に向け、ストレートの勢いのまま地面へと強引に身体を押し付ける。
その直後、トランスの頭上を鋭い何かが通り過ぎる。
『チッ……勘のいいヤツだな』
見れば、バフの身体中に生えていた円錐状のトゲが、鋭く針のような物へと変わっている。
『ウニかよこいつ……!』
【気をつけろ!マイティの装甲はヤワじゃねえが……この鋭さ、恐らくぶち抜かれる!】
仮面の下で目を見開く。
トゲは全身に隙間なく生えている。先程のような一方的なラッシュは出来ない。やれば拳に穴が空くだろう。
転がるように距離を取ったトランスの姿を、バフは鼻で笑う。
『フン!俺は確かにノロマだが……ノロマにはノロマなりの戦い方ってもんがあるんだよぉ!』
先程と同じ突進。
だが、先程のように受け止めるわけにはいかない。
一瞬の逡巡の結果、判断が少し遅れる。
『うおっ!?』
咄嗟に身を翻し、ギリギリのところで拳を躱す。
しかし、迂闊に反撃出来ないことを知っているバフは再度トランスに穴を空けようと敵意のままに襲いかかる。
それを見たトランスは、マイティパッケージの脚力を生かし、大地を蹴って大きく距離を取る。
『参ったな……』
幸い速さは変わってないから避けることは余裕があるが、こちらからの攻撃もできない。
攻めあぐねて逃がしてしまえば、理亜を救い出すことは不可能になる。
いっそ手に穴が空く覚悟で思い切り殴りつけるべきか、と考えながら、トランスはベルトに手を当てる。
『トラスト、なんか武器とかねえか?』
【……「今」はねえな。これから作るしかねえ】
『ねえか……えっ今から作る?』
驚いた声のトランスに、トラストは昨日と同じ言葉を投げかける。
【そうよ、イメージしな!あいつをどうにかできる姿をよ!】
その言葉に、トランスは考える。
あの頑健な体皮と鋭いトゲを断ち切り、この状況を切り抜ける力。
……剣のイメージが浮かび上がった瞬間、トランスの手元には一枚のチップが収まっていた。
『……出来た!』
【OKOK、分かってきたじゃねえの!そいじゃあ……反撃開始と行くか!】
ドライバーのカバーを開き、マイティバンドルを引き抜く。そして、新たに手にした、トランプのスペードが描かれたチップ、『スラッシャーバンドル』を挿入する。
そしてドライバーの画面をタップすれば、変化は始まった。
【OK!パックチェンジ、マイティ・トゥ・スラッシャー!】
電子音声が響き、トランスを覆っていた赤の装甲が浮かび上がる。
色が明るい赤から、青と銀へと代わり、プロテクターのようだった装甲は軽装の剣士のように胸元を覆う装甲のみとなる。
代わりに、背中に白い一対の円筒状の物体が現れ、装着される。
最後に、30センチほどの金属の細長い筒状の物体が生成され、トランスの手元に収まる。
ブン、とトランスが振るえば、筒の先端から、100センチほどの片刃の刀身が現れ、剣へと変わる。
『……なるほど。いい感じだぜ』
赤き戦士から青の剣士へと姿を変えたトランス、否。『スラッシャーパッケージ』へと変わったトランスは、軽く手にした剣、『スラッシュスペード』を軽く振るう。
剣の方は経験のない敬助であるが、トラストが動きを最適化しているためその動きにぎこちなさはない。
『フン!姿を変えて光り物だしたから勝てるかも、ってか?舐めるんじゃ……』
『……行くぜ』
【あいよ……ブースター、点火ってなぁ!】
スラッシュスペードを両手で握り込み、腰を低く構える。
トランスの背中に出現した円筒状の物体、『スートブースター』が可動。
青い炎が吹き上がり、爆発的な推進力をトランスに与える。
勢いを付け、突進したトランスとバフが交錯したのはほぼ一瞬。
一瞬で振るわれた一太刀は、バフの身体を一閃し、大きく切り裂いてみせた。
『なっ……ああああああっ!?』
ダメージを受けて地面を転がるバフ。
苦痛に悶える彼に、鋭い切っ先が突きつけられる。
『もう一度言うぜ。……氷月を返してもらう』
冷徹な声色。
突きつけられた刃はブレず、下手な動きを見せればバフの身体をすぐに切り捨てられる
一瞬俯いたのち、バフは絞り出すような声を発する。
『わ……分かった……!さっきのやつを返せばいいんだろ、待ってろ……』
バフは自ら懐をゴソゴソと漁り、ヒトプレスを取り出し、トランスへと差し出す。
トランスが手にしたものを見てみれば、確かにそこに写っているのは理亜の姿だ。
【こいつは……マジに人間を閉じ込めてやがる!フリーズドライに近い感じで閉じ込めてるから、中の人間は生きてるみてえだが……】
『生きてる……!?本当か!?トラスト、元に戻す方法とかわからねえか!?』
【おう、ちょっと待ってろよ、こいつの構造さえ分かれば……】
理亜が生きている。それを理解したトランスは、ヒトプレスの方に視線を向け油断しているように見える。
その様子を見たバフは、内心ほくそ笑んだ。
(馬鹿が!そんなゴミ品質のやつなんてくれてやる、代わりにお前の首さえ持っていければボーナスは出るんだからよぉ!)
ヒトプレスに夢中になり、こちらを見向きすらしない。
絶好の機会を逃すわけがない。
だからこそ、奥の手を切ることにした。
『……あばよ、間抜け野郎!』
持ち上げた右腕の表面が破裂する。
その衝撃と同時に、その表面に存在していた無数のトゲが勢いよく射出。
トゲは真っ直ぐとトランスに向かい、トランスの頭を貫く……
『ま、そうだろうな』
ことはない。
既にその場にトランスの姿はない。
どこに消えた、と慌てたバフが周りを見渡せば、少し離れた位置に五体満足のトランスの姿がある。
『あっぶねー……ただ渡すわけねえとは思ってたけどこういうことまでしてきやがるか』
【まあ俺様の予測の前には無力そのもの!ってな!】
『チ……!』
秘策が失敗したことを理解したバフは、立ち上がってその場から逃げ出そうと足を全力で動かしだす。
しかし、もう遅い。
【OK!パワー・トランスポーティング!】
ドライバーを操作すると、スラッシュスペードの刀身へとエネルギーが送り込まれ、青い光を纏った剣となる。
『ハアアアアア……!』
侍の居合斬りの如く構え、腰を落とす。
ブースターから、先程以上の出力で青い炎が噴出され、爆発的な加速力が生み出される。
トランスが正面を向いた直後、青い弾丸となって飛んでいく。
背を向け逃げるバフにトランスは一瞬で到達。
『断ち……斬るッ!』
そして、横薙ぎに一閃。
バフの背を追い越したところで、ブースターを逆噴射させる。勢いのまま数メートル進んで、トランスは止まる。
『ちく、しょう……ぼーなす……が』
その背中。
両断されたバフの上半分と下半分がズレる。
直後、バフは爆散した。
『……ふう、っと』
一安心、といった調子で息を吐いたトランスは、バフの爆散した場の近くに歩いていき、あるものを拾い上げる。
そこにあったのは、理亜のものとは別のヒトプレス達。
『……やっぱり持ってやがった』
【随分と溜め込んでやんの……悪趣味なこって】
女性警官に学生、老人。性別も年齢も職業も共通点はないが、一つだけ共通しているのは、誰もが笑顔を浮かべていること。
……かつて、敬助の家族を奪った未確認生命体も、同じようにある共通点に則って殺人ゲームを行っていた。
それを思い出して、ジッとそのヒトプレス達を眺めていると、トラストが声を上げた。
【敬助!元に戻す方法が分かったぞ!】
『!?マジか!?どうすりゃいい?』
【この帯だ!こいつさえぶった斬ってやりゃあ、元に戻るぞ!】
巻き付いてる赤い帯のような物。
トラスト曰く、これが人間を封じ込めているものだと言う。
ならば、とトランスはそれを切ろうとスラッシュスペードを取り出し……
【あ、気をつけろよ。割ったりしたら何が起こるか分かんないからな】
『おい!?急にプレッシャーかけてくんなって……』
【あと全員のやつ切ったら一旦この場離れるからな、警察もいるから面倒事は避けてえからよ】
『あいよ、分かった分かった……じゃあ、行くぜ……!』
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夢を見る時は、大抵悪い夢だ。
「パパ……!ママ……!」
「──!逃げるんだ!」
目の前には■■に変えられた両親。
側には血塗れで倒れている■■■■■。
そして、絶望する私たちを見て、楽しそうに笑うあいつ。
■■■■■を甚振りながら、ゆっくりと私を……否。私の腕の中にいる『この子』を捕まえようと歩いてくる。
『逃げろ!俺のことはいい!生きるんだ──』
■■■■■が、目の前で■■へと変えられていく。
私は走った。あいつから逃げようと、この子だけは守ろうと、……■■■■■の言う通り、生きるために。
気がつけば、降りしきる雨の中。
ひとしきり泣いた後、雨の中に私は一人で佇んでいた。
もう誰も助けてくれない。
いつも私を助けてくれた■■■■■は、もういない。
「───さむい」
ずっと、寒い。一人ぼっちで、寒くて、さみしくて……
「……い、大丈夫かよ!?」
でも、今日は違った。
暖かい誰かが、私を救ってくれた。
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「──き、氷月!大丈夫かよ!?」
目を覚ましてた理亜の目の前に、敬助の顔が飛び込んでくる。
「結城くん……?」
「おお、良かった……!未確認に拐われたから心配したぜ……」
敬助に助け起こされながらあたりを見渡せば、同じように困惑した様子の人間がチラホラ見える。
警察官らしき制服の女性が、無線でどこかへと連絡を取っている姿も見える。
「行方不明者を発見、場所は……え?私二日くらい音信不通だった!?えっ今何日です!?」
意識を失う前の記憶を思い出す。
確か、敬助に対して赤い舌のようなものが伸びていたのが見えて、咄嗟に突き飛ばしたところ、自分が捕らえられてしまったはず。
それが今、無事ここにいる。
だから。
「……ありがとう、また助けてくれて」
「ん?なんか言ったか?」
「……なんでもないわ」
誰にも聞こえないように、ぽつりとつぶやいた。
……誰も知らないけれど、また助けてくれたヒーローに感謝を。
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「やっぱりカッコいいね、お兄ちゃん♡」
少し前、公園が見えるビルの屋上。
トランスが戦っている姿を眺めている、一人の少女がいる。
恋する乙女のように、恍惚とした表情でトランスの戦いを見て、艶やかに吐息を漏らす。
その目に写るのは、トランス一人。否。その中にいる一人の少年のみ。
「私を守るために戦うって決意してくれたんでしょ?……私も、お兄ちゃんのこと、守ってあげるからね」
少女。
結城遥香は、判子状のデバイスを手にしていた。