マスカレイド・サーガRe   作:バイン

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後編

 天田高校の全校生徒に、一時待機の指示が下された。

 下手に生徒達を避難させて未確認生命体と遭遇する可能性を出すよりは、比較的安全な室内で待機して安全が確認されるまで待つほうがいい、という教員達は判断したのだろう。

 待機している生徒達も不安や不満を口にしながら、教室内で自習をして待機している。

 

 しかし、ただ一人。

 結城敬助だけは、教室をこっそりと抜け出していた。

 廊下を走る敬助は、トランスモバイルとはまた別の自分用のスマートフォンの液晶を見て顔を顰める。

 

 

「駄目だ、遥香からの返信がこねえ……!」

 

 

 あの煙を見てから、敬助はすぐに遥香へと連絡を取ろうとするも、未だに応答が返ってこない。 

 最悪の想像が脳裏に過ぎり、

 校門まで到達し、トランスポーターを呼び出そうとしたところで。

 

 

「どこに行くつもりですか?」

 

 

 背後から聞こえてきた声に敬助の足が止まる。

 敬助が声の方向に向き直れば、そこには件の風紀委員長、岩金レツ子がそこにいる。

 

 

「い、いやー、家族から連絡があってよ〜早めに迎えしてくれって言われてさ〜」

 

 

 呼び止められた敬助は、あはは、と頭をかきながら苦しい言い訳で誤魔化そうとする。

 

 

「危険です。せめて警察の安全確保が終わってからにしてください」

 

 

 言い訳を一蹴し、淡々と教室に戻るように告げる。

 今の状況で勝手に外に出るのは違反どころの話ではない。命に関わるような行為だ。

 

 しかし。レツ子の呼び止めに、敬助は応じない。

 それどころか踵を返し、校門の外へと真っすぐ向かい出す。

 

 

「ッ、待ちなさい! ちゃんと話を……」

 

「あー悪いっ! も、もう行かねえとなんだ! 反省文とかはまた今度書くから!」

 

 

 そのまま敬助は逃げるように校門の外へと走り去っていく。

 追いかけようか、とレツ子が逡巡している間に、敬助は自動運転でやってきたトランスポーターに乗り込んで行ってしまった。

 

 もはや追いかけることは不可能。

 しかし。違反者を取り逃がしてしまった今の状況となっても、レツ子はため息を吐くだけであった。

 

 

「……ま、いいでしょう。あれくらいの反抗心ある方が気骨があってよろしい」

 

 

 そのまま無理に追いかけることもなく、踵を返して校舎へと戻っていく。

 

 

「ケミーの反応でもないのなら、一応は待機でよさそうかしら」

 

 ────────────

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 体育館の隅に追いやられた遥香が、絶望の声を上げる。

 ギフジュニアが跋扈する中、アーチャーフィッシュデッドマンの追跡から逃れようと走り回った結果、体育館という一方通行の閉所へと逃げ込んでしまった。

 自らのミスに気づいたのも束の間。

 アーチャーフィッシュデッドマンは遥香を壁際へと追いやって逃さない。

 

 

『ギィィィィィィッ!』

 

 

 異形が腕を振り上げる。

 痛みに備えて目を瞑り、身を守ろうと蹲る。

 そんな幼気な防衛反応を無慈悲に踏み躙ろうと、アーチャーフィッシュデッドマンの腕が振り下ろされ……

 

 

『人の妹に……』

 

『手を出してんじゃあねえってのぉ!!!』

 

 

 瞬間。

 横から現れた青い流星が、否。スラッシャーパッケージのトランスが、ブースターから炎を噴き上げてアーチャーフィッシュデッドマンに突進する。

 完全な奇襲の形になり横から文字通り『飛んで』来る蹴撃を受けて吹き飛ばされる。

 

 数メートルは吹き飛んだアーチャーフィッシュデッドマンの様子を見届けることすらなく、トランスは慌てて遥香の元へと駆け寄る。

 

 

『悪い遥香、遅くなっちまった……! 大丈夫か!?』

 

「にい、さん……兄さんっ!」

 

『うおっ、と……』

 

 

 蹲っていた遥香は、兄の声を聞き、戦士の様子を見て目に涙を溜めて、トランスへと抱きつく。

 抱きついてきた妹にトランスは少し驚くものの、その身体が小さく震えていることに気付いてあやすように優しく背中を擦ってやる。

 

 

『よし、よし……もう大丈夫だからな』

 

 

 しばらくそうやっていると、遥香も落ち着いたのか気恥ずかしそうに赤くなった顔をあげてトランスの顔をみる。

 

 

「……ありがとうございます、兄さん」

 

『へへへ、大事な妹のためなら文字通り飛んでだって来てやる、ってな』

 

 

 トランスが優しい声色と共に、頭を撫でてくるのを遥香は照れながらも安心した様子で身を預ける。

 そして優しく抱き起こしたところで、トラストから気まずそうに声がかかる。

 

 

【あー……兄妹仲睦まじい仲に水差すのはアレだが……奴さん、まだピンピンしてやがるみてぇだぜ】

 

 

 トランスが吹き飛ばしたアーチャーフィッシュデッドマンの方に視線を向ける。

 先ほどの飛び蹴りのダメージから立ち直り、狩りの邪魔にやってきた存在であるトランスへと唸り声をあげている。

 

 

『しぶてえ野郎だな……遥香、隠れてろ』

 

 

 その戦意に応じるように、トランスは遥香の前に出て立ちはだかる。

 遥香は心配そうにしながらも、自分が邪魔にしかなれないことを理解する。

 

 

「……気をつけてくださいね、兄さん」

 

『おう。大丈夫だ、お兄ちゃんがやっつけてやっから!』

 

 

 妹からの心配の声にトランスはグッ、とサムズアップで応える。

 それを見て、遥香は体育館の出入り口へと走っていく。

 アーチャーフィッシュデッドマンがそれを追いかけようとするその眼前に、トランスは立ち塞がった。

 

 

『おっと、行かせるかよ!』

 

【気をつけろよ、敬助! 見た目は魚だが……未確認は何を仕掛けてくるか分かんねえからな!】

 

『分かってる、一気に決めるぜ……!』

 

 

 トラストからの注意を聞いたトランスは、背部のブースターを点火させ、再度吶喊する準備を始める。 

 標的であるアーチャーフィッシュデッドマンを視認しようと顔をあげれば、その巨大な口を開け、トランスの方へと向けている。

 

 

『……なんだ?』

 

 

 何をする気か? とトランスが身構えた直後。

 アーチャーフィッシュデッドマンの口から放たれた何かが、トランスの右側のブースターを貫く。

 

 

『なっ……』

 

 

 一瞬の出来事に、トランスが驚愕していると、もう一度放たれた攻撃が無事な方のブースターを破壊する。

 

 

『くっ……変えるぞ!』

 

【OK! パックチェンジ、スラッシャー・トゥ・マイティ!】

 

 

 破損しパチパチとスパークを放つブースターは最早重石にしかならない。

 歯噛みしつつもスラッシャーパッケージからマイティパッケージへと装備を換装するトランスに、さらなる攻撃が振り注ぐ。

 

 

『なんだよ、ありゃあ!? 何を撃たれてんだ!?』

 

【……こいつは、水か!? ……分かったぞ、アイツは「テッポウウオ」の未確認ってことか!】

 

 

 トランスが無尽蔵に放たれる攻撃を地面を転がって躱していると、トラストからの分析結果が返ってくる。

 

 

『テッポウウオ?』

 

【東南アジアの方にいる魚だ、日本にもいるらしいが……こいつの最大の特徴は、水鉄砲を使って狩りをするってことだ】

 

『水鉄砲!?』

 

【ああ。水中から葉っぱの上の虫とかを叩き落として食うことで有名でな。……あいつも同じように、口から水鉄砲を放って攻撃してるってわけだ】

 

『世界にゃいろんな生き物がいるってか……!』

 

 

 アーチャーフィッシュデッドマン。テッポウウオの力を力を宿したその悪魔は、眼前の獲物であるトランスに対して水弾を放ち続ける。

 現状トラストからの予測支援もあって、トランスは攻撃を躱し続けることには成功しているが前進は出来ていない。徐々に正確さの増す水弾を避けるだけで精一杯だ。

 

 

『このままいたちごっこ続けててもどうにもならねえ、なんか手は……』

 

【なら……イメージしろ! こいつをなんとか出来る力を!】

 

『分かった……!』

 

 

 前回の、スラッシャーパッケージを生み出した時のようにイメージする。

 弾丸を防ぎ得る装甲と、撃ち負けない火力を。

 そして。一枚のチップがトランスの手に収まる。

 

 

『よし、行け……ッ!?』

 

 

 瞬間。

 避けることとは別にリソースを割いて足を止めた獲物を、アーチャーフィッシュデッドマンという狩人は逃さない。

 多数の水弾がトランスへと殺到する。仕留めた。

 

 

【OK! パックチェンジ、マイティ・トゥ……】

 

 

 その寸前。電子音声と共に、トランスの装甲が浮かび上がる。

 赤の軽量なプロテクターから、両腕、両足、胸元を覆う戦車のような重厚な緑の装甲に変わる。

 両腕を覆う装甲にはガトリングガン『Gバルカン』が、肩部には一対の大型の大砲、『ショルダーバスター』が装備される。

 最後に頭部をヘルメットのような装甲が覆って、正面を守るように半透明バイザーが降ろされると同時に、電子音声が鳴り終わる。

 

 

【……ガンナー!】

 

 

 緑色の兵士、『ガンナーパッケージ』へと姿を変えたトランスは、水弾を全て受け止め……そして、無傷でそこに立つ。

 驚くアーチャーフィッシュデッドマンへとトランスが右腕を向ければ、装着されたGバルカンから無数の弾丸が放たれる。

 

 

『ギッ……!?』

 

 

 弾丸がアーチャーフィッシュデッドマンに着弾し火花を散らす。

 

 

『散々バカスカ撃ってくれやがったな……? お返し、たっぷり食っていけよ!』

 

 

 トランスの雄叫びと共に左腕もアーチャーフィッシュデッドマンへと向けられ、先程以上の弾幕が降り注ぐ。

 アーチャーフィッシュデッドマンとて黙ってやられるわけでもなく、必死に水弾をチャージし反撃しようとする……

 

 が、放てない。口内に水が堪らぬことに気付いて、アーチャーフィッシュデッドマンは狼狽える。

 

 

『……どうなってんだ?』

 

【水切れ、ってところか。……水中なら無尽蔵に撃てるだろうけどよ、あんだけバカスカ撃ってたらどんだけ溜めててもすぐに無くなるよなそりゃあ】

 

 

 水弾が出せない、と分かると、アーチャーフィッシュデッドマンは慌ててこの場から逃れようと走り出す。

 水を補給しようとしたのか、はたまたこれまで狩人であった自分が狩られる側の存在となったことに気付いて逃げようとしているのか。

 

 どちらであろうとも、目の前の兵士は、仮面ライダートランスは逃さない。

 

 

『おっと。……逃がすわけには行かねえな』

 

【OK! パワー・トランスポーティング!】

 

 

 トランスが液晶のアイコンに指を叩きつければ、エネルギーがショルダーバスターへと送り込まれる。

 アーチャーフィッシュデッドマンをロックオンしたショルダーバスターがゆっくりと向けられる。

 

 

【ロック完了! ぶちかませ!】

 

『おう! ……ぶち抜け!』

 

 

 トランスが吠えると同時に、ショルダーバスターから大型のエネルギー弾が放たれる。

 そしてそれは真っ直ぐ、アーチャーフィッシュデッドマンへと直撃する。

 

 

『ギ……イイイイイイイイイイイ!?!?!?!?』

 

 

 断末魔の叫びと共に、アーチャーフィッシュデッドマンは爆散する。

 爆炎が収まった後、トランスはゆっくりと姿勢を楽にして息を吐く。

 

 

『……っし、っと……! 遥香、無事でいてくれよ……!』

 

 

 ────────────

 

「あ、あいつ……遅すぎやしないか……?」

 

 

 屋上。

 魚住は自らの悪魔であるアーチャーフィッシュデッドマンの敗北を知らないまま、遥香を捕らえてくることを待ち続けていた。

 今までは悠々と待っていたが、先程まで聞こえてきていた階下での騒音が静まったことに異変を感じ落ち着かない様子を見せている。

 

 するとそこへ、バン! という音を立てて、ひしゃげたはずの屋上の出入り口が開かれる。

 突然の出来事に驚く魚住の前へ、扉を開けた張本人が歩いてくる。

 

 

「は、遥香さん……?」

 

 

 そこには結城遥香の姿があった。魚住からの声にも全く応じず、無言で歩み寄ってくる。

 

 魚住のすぐ側までやってきた遥香は、魚住を上目遣いで見上げる。

 そして。

 勢いよく魚住の股間を蹴り上げる。

 

 

「ぁっ……!」

 

 

 声にならない悲鳴。急所を渾身の力で蹴り上げられた痛みで悶絶し、蹲る。

 その頭を、遥香の足が容赦なく踏み躙る。

 

 

「い、いだい……!」

 

「もう最ッッッ悪。こんなのに狙われたせいで『私』まで死ぬところだったじゃん。人が多いからドライバーも使えなかったしさぁ」

 

 

 今までの遥香の口調とは全く違う、苛立った乱暴な口調で話、いたぶるように魚住頭を地面へと押しつける。

 しばらくぐりぐりと踏みつけていたが、飽きたように足を離す。

 

 

「ま。助けに来てくれたお兄ちゃんがカッコよかったからいいけど。これに懲りたら二度と『私達』に付き纏わないでよね」

 

 

 最後に、地面に転がっていたアーチャーフィッシュバイスタンプを拾い、魚住の方を一瞥すらせずに遥香は去っていく。

 

 屋上に残されたのは、魚住ただ一人だけであった。

 

 

 ────────────

 

 校内に跋扈していたギフジュニア達。

 結城敬助はその存在に気付くことはなかった。

 なぜならば。

 

 

『未確認生命体の全滅を確認。お疲れ様、暁くん』

 

 

 神の力と科学の融合の体験者である装甲の戦士が。

 

 

「ミリー。未確認の残存反応は?」

 

『ゼロです』

 

 

 復讐に身を焦がし、化外を滅ぼす誓いを持つ純白の牙が。

 

 

「ふう……さて。店に戻らないとね」

 

 

 人の未来を切り開き、闇を照らす指輪の魔女が。

 

 

「いいね。やはり君は最高だよ、結城くん」

 

 

 マッドで純情な、英雄に憧れを持つ科学者が。

 

 この街に存在する別の『仮面ライダー』達やってきていたことを、仮面ライダートランスは知らない。

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