【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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14.雨のお部屋で

「界くん、お疲れ様……お部屋に戻ろうか」

 

「あい」

 

 栗田の響術訓練を終え、夕食を食べた二人は自分の部屋へ戻る廊下を歩いていた。

 飴を食べた時、一時的に年相応の女の子モードになっていた雨は元の大人びた雰囲気に戻っていた。

 

 廊下の突き当りは左右に分かれている。

 

 界は左の通路側、雨は右の通路側が自室となっていた。

 

 雨は自分が進む右側の通路をじっと見ていた。

 

「そ、それじゃあ雨さ……」

 

 界は自室へ戻ろうとする……と、

 

「ねぇ……界くん」

 

「あい?」

 

「……私の部屋……来ない?」

 

「へ……?」

 

(…………な、なんで?)

 

「……訓練の続き……しない? ほら、イメージトレーニングならいいって言われてるでしょ?」

 

「訓練の……」

 

(やぶさかではないのだが、それは自室でもできるんだよなぁ……。もちろん別の子の部屋に行くのはNGだろうしなぁ……。うーん……)

 

 界がちょっと悩んでいると……、

 

(ん……?)

 

 雨が人差し指と親指で、界の服の裾を()まみ……、

 

「……ねぇ……お願い」

 

 懇願してくる。

 

(…………震えてる?)

 

 雨は何かに(おび)えるように震えていた。

 

(…………そういえば、雨さんは何かに怯えるような時があるんだよな……)

 

「……」

 

(まぁ、依代の子ってのは本来、悪童確定と言われてるみたいだし、ちょっとくらいやんちゃしても大丈夫だろ……)

 

「……わかったよ」

 

「……~~!」

 

 界が承諾すると、雨は明らかにほっとした顔をしていた。

 

 そうして、界は雨の部屋にお邪魔することにする。

 

 ◇

 

「「……………………」」

 

 雨の部屋につくと、雨は宣言通りにイメージトレーニングを始めた。

 なので、二人、無言。

 

 そうして、しばらく無言タイムが続いた。

 

 

 

「…………界くん、お疲れ様。少し休憩しようか……」

 

「あい、お疲れ様です」

 

 界と雨はかれこれ2時間くらいはイメージトレーニングをしていた。

 

 そんな状況で、界は思うところあり、なんとなくドウマに語り掛ける。

 

(「……雨さん(この人)……子供なのに、めっちゃトレーニングするな……。栗田先生の訓練も子供には十分すぎるほどの量だった。それなのに、自室に戻って2時間もイメージトレーニングって……」)

 

【お前もじゃん】

 

(……ほ?)

 

 と、

 

「…………ん?」

 

 界の視線に気づいたのか、雨が「なんだろう?」というような顔をする。

 

 なので、界は聞いてみることにする。

 

「あの……雨さんってどうしてそんなに一生懸命、訓練してるんですか?」

 

「……!」

 

 界の質問に雨は一瞬、はっとする。

 

「あ、雨さん、ごめんなさい……無理に話してというものじゃ……」

 

「ううん……いいよ……。界くん、今日、無理言って、お部屋に来てくれたし……」

 

(……)

 

「私、立派になりたいの……。だって、お父さんからお母さんを奪ってしまったから」

 

「……!」

 

 それは依代の子の宿命。

 この世に生を受けた時に、母親を呪い殺す。

 

 界は偶然にもそれを回避したが、それは歴史上、初めての出来事であったという。

 それはつまり、その前に生まれていた雨は例外ではないということ。

 

「雪女アサネはさ、八柱の慰霊の中では、穏やかな方なんだって……。アサネが抜けてから大人が言ってたんだ。不幸中の幸いだって……。それを聞いて思った。あぁ、私ってやっぱり()()なんだなって……」

 

(……)

 

 界は言葉に詰まる。

 

「お父さんは本当に私に良くしてくれたよ。私はお母さんを奪ったのに……。私の名前、お母さんがつけてくれたんだって。雪なんかに負けるなって。それで、雨。結局、自属性は氷になっちゃったんだけどさ……」

 

 雨は更に続ける。

 

「アサネは確かに穏やかな方ではあったんだろうね。理不尽に人を呪い殺すことなんてなかったし。だけど、その美貌から、別の霊魔をおびき寄せた。そのたびに、お父さんは私を命がけで守ってくれた」

 

(…………雨さんが時々、なにかに怯えてるのは、そのトラウマが影響してるのか?)

 

「お父さんはね……クラス5〝力級〟の破魔師なんだ……。すごいでしょ? 私のお父さん……」

 

「あ、うん……。すごいと思う」

 

「だからね、私も立派な破魔師になりたい。お父さんやお母さんに恥じない……立派な破魔師に。多くの依代の子は大成しないっていう過去の前例を覆してやりたい……」

 

 

「なろうよ」

 

 

「……!」

 

 それまで黙って聞いていた界が初めて発した言葉に雨ははっとする。

 

「一緒になろう。大成した依代の子って奴にさ! 雨さんが史上初の大成した依代の子。それで、僕が二番目……!」

 

「…………」

 

 雨は目を丸くしている。

 

 そして、続ける。

 

「界くん、過去の依代の子にも大成した人は少しはいるよ?」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

「うん」

 

(……めっちゃ恥ずかしいぃ)

 

 界は下を向く。

 

「…………ふふ」

 

(……?)

 

 雨が少し微笑んだような気がして、界は顔を上げる。

 

「……な、なんでもない」

 

 と、雨は照れくさそうに視線を逸らすのであった。

 

 

 

 それから界、雨の栗田による自由時間の響術訓練は二か月ほど続いた。

 

 

 

 そして、ある日のこと。

 

「界くん、雨さん、今日まで毎日、本当によく頑張った」

 

 栗田が二人にそんなことを言う。

 

「正直、私なんて不要だったかもしれないが、二人の訓練に関わることができて光栄でした」

 

(……不要なんかじゃ全然ない)

 

「そんなことないです。栗田先生のアドバイスはとてもわかりやすかったです」

 

寂護院(ここ)へ来たのも悪くなかったと思えるほどに)

 

「ありがとう、界くん。それじゃあ、界くん、雨さん…………私に二人の今日までの成果を見せてくれないか? いわゆる成果発表会という奴だ」

 

「あい」「はい」

 

 そうして二人は訓練の成果を披露することになる。

 

 

「それじゃあ、まずは雨さんから……」

 

「はい」

 

 栗田に指名され、雨が前に出る。

 

「では、水術〝五月雨(さみだれ)〟に氷属性を混ぜます」

 

「はい、雨さんがこの二か月、主に取り組んできた水と氷の〝融和〟。その成果を是非、見せてください」

 

「わかりました」

 

 雨はそう言うと、目を閉じて、ふぅーと息を吐く。

 

 手の平を前に突き出し、そして、

 

()術〝霞雪(かすみゆき)〟」

 

 術名を宣言する。

 

 雨の前方に向かって、雪の(つぶて)が正に五月雨に放たれる。

 

「…………素晴らしい」

 

 栗田は拍手をしながら更に続ける。

 

「雨さんはこの二か月で、それまで無意識にやっていた響術を完全に自分のものにしましたね。私は今までこんなにも力強い意志のようなものを感じる氷術を見たことがありません。大人の破魔師を含めてです。雨さんはきっと本当に素晴らしい氷術使いになりますよ」

 

 横で見ていた界も思う。

 

(すごい……。雨さんの高度な魔力の融和は、もはや水属性の妖術を元にしていることすら忘れさせる。〝氷術〟と呼ぶにふさわしいレベルにまで昇華させている。本当にすごい……)

 

「あ、ありがとうございます」

 

 雨は少し照れくさそうにぺこりと頭を下げる。

 

「それじゃあ、次は界くん……」

 

「あい」

 

 今度は界が前に出る。

 

「それじゃあ、界くん、見せる技は自分で選択してくれて構わないよ」

 

「あい」

 

(…………この二か月、いろいろな響術を試した。だけど、やっぱり原点はあの術だった。ドウマが皆の前で見せたあの妖術……)

 

 界は手の平を前に出し、上に向ける。

 

(ドウマが貸してくれる闇の魔力。まだどこか自分の未熟さを見透かされているような、そんな感覚がする。だけど、誠意をもって向き合えば、応えてくれる。その闇の魔力を、小さくとも確かな炎の揺らめきに注ぎ込むイメージ……)

 

 

「炎術〝蛍火(ほたるび)〟」

 

 

 界の手の平に炎が灯る。

 

 寂然(じゃくぜん)と燃ゆる闇の炎。

 

 淡く脈動するその(ほのお)が、静寂の中で確かな存在を誇示している。

 

「おぉ……」

 

 栗田が小さく感嘆の声をあげる。

 

「すごいですよ……! 界くん! たった二か月で響術の〝変質〟をマスターするなんて……本当にすごいことです」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 栗田は手放しに称賛してくれたが、

 

(「…………だけど、ドウマにはまだまだ及ばないとわかる。雨さんにも……」)

 

 界は悔しさから、ついドウマにそんなことを零していた。

 

【はー……腹立つなぁ】

 

(「ん……? どうした……?」)

 

【田介、お前なぁ……。お前は自属性とも違う……他人の魔力を扱うことがいかに……、……いや何でもない……】

 

(「……?」)

 

 ドウマはなぜか不貞腐れるように黙ってしまった。

 

「界くん、雨さん……本当に成長しましたね。たった二か月で……。そして、私にとっては宝物のような二か月でした」

 

(……ん?)

 

 栗田の発言に、界は少し嫌な予感がする。

 そして、その予感は的中する。

 

「今日が私の訓練の最終日です」

 

「「……!」」

 

 界は……そして、雨も驚く。

 

「え……? な、なんでですか?」

 

 界が栗田に尋ねる。

 

「実は……異動が決まってしまってね。寂護院(じゃくごいん)から離れなくてはいけなくなった」

 

(……!)

 

「栗田先生、もしかして……僕達のせいで……」

 

「違う。()()選んだ道だ」

 

 栗田は界を真っすぐと見つめてそう言う。

 

(……! …………やっぱりそうだ……。()()だ……)

 

 栗田は否定したが、実際に、界と雨の訓練を独断で行っていたことが問題視されてしまったのだ。

 そして、左遷されることとなった。

 なんとなくそれを察した界は申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

「今後は私の代わりに来る教官と兵藤の二人が君達を担当することになると思う」

 

「……はい」

 

(……ん? あの名前不明のいつも栗田先生と兵藤の後ろにいる人はどうなるんだろ?)

 

「界くん、雨さん、もしも寂護院(ここ)でなにかあれば……院長の篝火堂(かがりびどう)先生を頼ってください」

 

(……院長?)

 

篝火堂(かがりびどう)先生はクラス5〝力級〟の破魔師です。きっと貴方たちを助けてくれます」

 

「力級……お父さんと同じ……」

 

「そうだね、雨さん。銀山さんと同じ力級だ。だから頼りになるってのはよーくわかるだろ?」

 

「……はい」

 

 雨は素直に頷く。

 

「二人は院長室の場所はわかりますかね?」

 

「……わかりません。というかその院長が栗田先生を……!」

 

 界は少し不満そうに言う。

 

「界くん……君…………本当に5歳?」

 

「へ……?」

 

「……そうだね……篝火堂(かがりびどう)先生だから、この程度で済ませてくれた……とだけ……」

 

(つまり、篝火堂(かがりびどう)院長だったから、左遷だけで済ませてくれたって意味だよな……。……納得いかない部分もあるけど、大人には大人の事情があることも少しは分かる……)

 

「……?」

 

 雨は二人が話している意味が分かっていない様子であった。

 

「はい! というわけで、院長室の場所を教えるね」

 

 そうして、栗田は院長室の場所を教えてくれた。

 

「それじゃあ、最後に界くんと雨さんの二人にこれをあげよう」

 

「……?」

 

 栗田が差し出したのは(まり)であった。

 

「これは……普通の(まり)だ……。寂護院(こんな場所)だ。こんなものしかあげることができなくてな。特別なものじゃなくてごめんね」

 

 栗田はそう言って、目尻に(しわ)を作って微笑む。

 

「いえ……、ありがとうございます……」

 

 界はなんだかちょっと涙しそうになる。

 

 ◇

 

 そうして、栗田は寂護院を去った。

 

 栗田がいなくなったことで響術の訓練ができなくなってしまった。

 仕方がないので、界は部屋で別の訓練をすることにした。

 

 栗田の代わりに来た教官は、悪い人ではないのだろう。

 しかし、事なかれ主義であった。

 栗田のように兵藤の雨に対する差別的な行動を制止するようなこともなかった。

 栗田は教官が二人になると言っていたが、結局、名前不明の人はやはりいた。

 界は実はこの人が篝火堂(かがりびどう)院長だったりして……などとちょっと思ったが、真偽は不明であった。

 

 それからしばらくして、雨の退所が決まった。

 

 雨の寂護院最後の夜――。

 

 界は自室にいた。

 

(…………明日で雨さんが退所か……。おめでたいことなんだけど、やっぱりちょっと寂しいな……)

 

「……」

 

(…………別れの挨拶くらいはしなきゃな)

 

 そうして、界は雨の部屋へ行くことにした。

 

 

「「あっ……」」

 

 

 界が雨の部屋へ向かおうとする廊下で、二人はばったり遭遇する。

 

「あ、えーと、界くん? どこか行くの?」

 

「あ……雨さんの部屋に行こうかと思ってた」

 

「そう……、実は私も……界くんの部屋に……」

 

「「……」」

 

「あのさ、界くん……、もしよかったら一緒にやらない……?」

 

 そう言って、雨は手に持っていた(まり)を界に見せる。

 栗田からもらった毬だ。

 

「……うん」

 

「よかった。それじゃあ、静寂の間……行こうか」

 

「うん」

 

(…………そういえば、初めて雨さんと話した時も毬渡しの時だったな)

 

 そんなことを思い、界は少しセンチメンタルな気分になりながら、静寂の間へ向かった。

 

 

 

 

 そこで、事変が起きた。

 

 

 

 

 兵藤が死んでいた。

 

 




濡れ衣系の胸糞展開にはなりません。

ちなみにですが、今作が作者にとってハーメルン初投稿なのですが、ハーメルンの低評価ってものすごくランキングに影響する仕組みなんですね。
なろうやカクヨムは低評価であっても一応は加点になるのですが、ハーメルンの場合は8点ですらどちらかというと減点に働き、それより下はかなりの大ダメージになるということが分かってきました。
私にとって、厳しい結果となっており曇り気味ではあるのですが、WEB小説サイトの特色としては他2サイトにはない面白い仕組みだなと思いました。
だから最近、ハーメルン発の作品が注目され始めているのだなぁと浅はかながら考察してみたり……。
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