【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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02.色々とおかしい

「おぎゃあああああ!」

 

「……赤ちゃんが泣いております。お乳を欲しがっているのかと。ここからは家族の時間です。儀式関係者はお下がりください」

 

 助産師がそう告げると、その場にいた7割の人が去っていく。

 赤池はまだ少し不満そうであったが、他の人間に続く。

 

「では、こちらを……」

 

 看護師らしき女性が哺乳瓶を片手に現れる。

 

 と……、

 

「お待ちください……私が……私の母乳をあげてもよいでしょうか?」

 

 母がそう申し出る。

 

 看護師ははっとする。

 

 それもそのはずだ。

 本来であれば母はここにいない想定であった。

 だからこそ、最初から粉ミルクを準備していたのだ。

 

「構いません……本来であれば、絶対にその方がいいのです」

 

 自分もいないはずであった助産師はそう告げる。

 

「ありがとうございます…………さぁ、(かい)、たーんとお飲み……」

 

(界……!?)

 

 母に呼びかけられ、初めて自分の名前を認識した界は驚く。

 

(え……? 名前まで前世と同じ……)

 

 そして、界は母の胸にあてがわれる。

 

(え……!? まじか……)

 

 生まれたばかりの赤子の視力はとても低い。

 しかし、かなり近くまで寄れば、なんとなく視認することができる。

 

(…………母さん?)

 

 それは若かりし日の界の母であった。

 

「おぉー、界、いっぱい飲めよぉ」

 

「ちょっと旦那様、新生児にそんなに顔を近づけるのは……」

 

「あ、すみません……つい……」

 

 助産師に注意された父……それも若かりし日の父であった。

 

(……???????)

 

 界は混乱する。

 それもそのはずだ。

 

(え……? うちの両親って普通のリーマンとOLだったんだが……いや……それ以上に……父ちゃんと母さんが……生きている)

 

「あれ…………飲みませんね……」

 

 助産師が少し焦りの表情を浮かべる。

 界は、あまりの衝撃に母乳を飲むことを忘れていた。

 

「なんということだ! 生まれてすぐにあんな怪しげな大人たちに囲まれたストレスからだろうか……。界、大丈夫だぞ……!」

 

「界……! 大丈夫よ……。貴方は絶対に父ちゃんと母ちゃんが守るから……」

 

 父と母が必死な様子で界に声を掛ける。

 

 さらに……、

 

【おい、(はよ)う……飲め。儂様(わしさま)はお腹が減って力が出ない……】

 

 頭の中の人が界を急かす。

 

(こっちは今、頭の中、ぐちゃぐちゃだってのに……。あー、わかりましたって……)

 

 界はいまだ混乱していたが、勢いに任せて母の乳に吸い付く。

 

(っ……! な、なんだこれは!?)

 

 界は衝撃を受ける。

 

(美味しい……! 美味し過ぎる……!)

 

 その味は、まるで身体の中に電流が走るようであった。

 

【な、なんだこれは……!? 非常に美味だ……!】

 

 頭の中の人も同じであるらしい。

 

「おぉ……急に、すごい飲みっぷりですね……」

 

 助産師が安心したように言う。

 助産師は更に続ける。

 

「本来、生まれたばかりの子は可能な限り、初乳を飲むべきなのです」

 

 産後から数日間の間、通常とは異なる黄色がかった母乳が出る。

 この母乳は赤ちゃんの免疫力を高めると呼ばれ〝黄金の液体〟などと呼ばれている。

 

【本当に信じ難い……! 未だかつてない味だ……!】

 

(「いやいや、ドウマさん……あんたは今まで母親も呪い殺してたから飲めなかったんでしょうが……」)

 

 界は気がつくと頭の中の人に語り掛けていた。

 

【……っ!】

 

 すると、頭の中の人は絶句する。

 

【貴様……依代の分際で、このドウマ様に意見するとは、いい度胸だな……】

 

 その発言で、界は頭の中の人が〝鬼神ドウマ〟であることを確信する。

 

【少し支配から耐えたからといって、あまり儂様(わしさま)を舐めない方がいい……腹も満たされたことだ……そろそろ本気を出させてもらおう】

 

(え……?)

 

「「……界!?」」

 

 界の身体を禍々しいオーラが包み込む。

 

【うぉおおお! なんという力だ……! 力が溢れ出てくるぞ】

 

(「おい……! ドウマさん、やめろよ……!」)

 

 しかし、これまでと異なり、制止の意を示しただけではオーラが収まってくれない。

 

(…………やばい)

 

【それじゃあ、まずはお前の父親を呪い殺そうかなぁ……。父親からはあの美味い母乳も出まい……】

 

 ドウマはねっとりとした邪悪な声で言う。

 

(……っ!)

 

 界は焦る。

 そして鬼神と呼ばれるドウマを少し舐めていたことを反省する。

 

(調子に乗るな、俺……! 元は前世で何も果たせず死んだリーマンだぞ? 謙虚になれ……)

 

 だが、例え前世で何も果たせていなかったとしても、父を殺すなど到底、黙認できるものではなかった。

 

(何か……何かできることはないか? 赤子状態のこの俺にも……!)

 

 界は必死に考える。

 

(っ……!)

 

 そして、辛うじて一つの案を思いつく。

 

(「だったら……自殺するぞ?」)

 

 一か八かであった。

 

【は……!?】

 

 界の言葉にドウマも動揺する。

 その反応で、ドウマも界に死なれては困ることが分かる。

 しかし、ドウマもすぐには引かない。

 

【はーん、泣くことしかできない赤子のお前がどうやって自殺するというのだ?】

 

 (あざけ)るような口調で、界に尋ねる。

 

(「どうって……こうだよ……!」)

 

【……!】

 

 界は息を止める。

 要するに、窒息自殺である。

 

【は……!? そんなことできるわけ……】

 

 ドウマが言いかけたその時であった。

 

 界の身体から漏れ出ていたドウマの禍々しいオーラが霧散する。

 

(「ん……? あ、止めてくれたんですか、どうもです」)

 

【……え? あ、あぁ……そ、そうだ……今日はこのくらいにしておいてやる……】

 

(ん……?)

 

 ドウマの言葉はどうも歯切れが悪かった。

 

「ねぇ……あなた……」

 

「あぁ……」

 

 一方で、父と母は顔を見合わせる。

 

「いや、そんなまさか……だが……真弓……私も微かに感じた……。今、界から一瞬、()()()()が放たれたような……闇を打ち消す光属性……」

 

「旦那さま……流石にそれは……」

 

 少し離れて見ていた助産師が父と母の反応に懐疑的な意見を投げかける。

 

「鬼神ドウマの依代の子はドウマ様の持つ強力な闇属性の魔力であると言い伝えられております。先ほどから界くんが何度か(まと)った強い魔力の気配は確かに闇属性。闇属性の魔力を持っていることは間違いないかと……」

 

「それはそうなのだが……その……一瞬だけな……光属性を感じたんだ……」

 

「ならばなおさらです。二つの属性を同時に持つことなど……前例がございません。それが稀少中の稀少とされる光属性となると……」

 

「……それもそうだな」

 

 父は助産師の意見を聞き入れる。

 

 

「おぎゃあああ! おぎゃあああああ!」

 

 界は深夜にも関わらず、突如、覚醒し、泣き声をあげる。

 

「あぁ……界、おはよぉ……おっぱいが欲しいのね」

 

 そうして母は、眠たそうに目をこすりながら、乳を差し出す。

 

(美味いーーーー! 母さん、ごめん。でも…………美味いーーーー!)

 

 生まれてすぐの界は、昼夜関係なく、3時間くらいごとに目が覚めて、どうしようもなく母乳が飲みたくなった。

 

 それは何も界が特別だからではない。

 生後間もない赤ちゃんとはそういうものなのである。

 

 ただ、特別なことがあるとすれば……、

 

【おっしゃあ、腹が満たされた……! 今度こそ……!】

 

 授乳を受けるたびに乗っ取ろうとしてくる悪霊がいること。

 

(……させるか)

 

 そのたびに界は息を止める。

 

【あぁ……! またか……! 畜生が……!】

 

(はぁ……はぁ……なんとかなったか……)

 

 息を止めて、身体に力を入れると不思議とドウマの支配を(まぬが)れることができた。

 しかし、ドウマも授乳を受けるたびに力を強めていた。

 だから界も、油断していたらやられてしまうのではないかと、その都度、必死であった。

 

「…………ねぇ、あなた……やっぱり……この子……」

 

「あぁ……それに……回を重ねるごとに、少しずつ魔力の量が……」

 

 父と母はその様子を見るたびに顔を見合わせるのであった。

 

「真弓…………界はとんでもない子になるかもしれない……」

 

 そんな日々が三か月ほど続いた。

 

 三か月を過ぎると、次第に睡眠のリズムが整っていき、昼に起き、夜に寝る時間が増えていった。

 

 すると、界に、別の問題が生じる。

 

 

(…………暇である)

 

 

 この頃になると、覚醒している時間が日に10時間程はあった。

 

 しかし、身体は赤ちゃんのそれである。

 歩くことはおろか、ハイハイすらできない。できることは寝返りくらい。

 

 母もこの頃は、TVや動画といったものをほとんど利用しておらず、娯楽は絶望的であった。

 

 界にとって、この時期が一番、辛かったかもしれない。

 

 だが、それは、ドウマにとっても同じであった。

 

【おい、小僧……】

 

(……)

 

【聞こえてんだろ? 小僧……!】

 

(……)

 

【小僧…………このドウマ様を無視すんじゃねぇええ!】

 

(うわ、乗っ取りチャレンジ来やがった……)

 

 

 

 そしてある時は……、

 

【おい、小僧…………お前よ……実際のところ何がどうなってるんだ……?】

 

(「え……?」)

 

【お前…………赤子じゃないだろ?】

 

(……!)

 

【最初から分かっていた。このドウマ様が赤子の魂に抵抗されるはずがないことは……】

 

(「あぁ……まぁ……そうだな……」)

 

【本当か……!? ……ならば、お前は何者なのだ……?】

 

(「俺は……俺だよ……」)

 

(嘘はついてない……多分)

 

【あのなぁ……聞いてるのはそういうことじゃねえんだよぉおおお!!】

 

(うわ、乗っ取りチャレンジ来やがった……)

 

 

 

 そしてまたある時は……、

 

(「なぁ……ドウマってさ……」)

 

【な、なんだ……? 小僧の方から話し掛けてくるとは珍しいな……】

 

(「あーそうかもな……それでさ……ドウマってさ、何をそんなに恨んでるんだ……? 何か恨みがあるから呪いを生むんだろ?」)

 

【小僧……! このドウマ様のことを何一つ知らんのか!?】

 

(「え……? そうだけど……」)

 

【少しは歴史の勉強をしやがれぇええええ!!】

 

(うわ、乗っ取りチャレンジ来やがった……)

 

 会話をするたびに、なんだかんだ最後にはドウマの乗っ取りチャレンジがあり、大変ではあった。

 しかし、正直に言って、この時期、暇で暇で仕方なかった界にとって、ドウマがちょうどいい話し相手であった。

 

 ……それは、ドウマにとっても同じであった。

 

 ◇

 

「界、お誕生日、おめでとうーーーー!」

 

 界を抱きしめた母が嬉しそうに祝福の声をあげる。

 

「だぁ~(あ、どうも。……ちょっと気恥しいな)」

 

 界は無事に一歳の誕生日を迎えたのであった。

 一歳ともなると、しっかりと立つことができ、単語を発することができるようになる子も現れる。

 界はというと、すでにがっつり歩くことできるようになっていた。

 だが、言葉の方はまだ呂律(ろれつ)がまわらなく、上手く発音できていなかった。

 

 しかし、仕草などで、TVや動画を要求するくらいのことはできるようになっていた。

 

(あれから、もう一年も経ったのか……)

 

 界はふと、この不可思議な一年間のことを思い起こす。

 

 まずはこの世界のことだ。

 

 はっきりとしたことは未だわかっていないが、間違いないことがある。

 世界は大改変されていた。

 

 TVや動画からある程度の情報を入手できるようになったことで、世界についての理解が急激に進んだ。

 

 年代は界が生まれた2010年に戻っていた。

 一年が経過したので今は2011年だ。

 界の誕生日が4月3日であるため、正確には、2011年4月3日である。

 

 その上で、まずは前世と変わっていないことだ。

 

 一つ目は、生まれた場所が東京であること。

 二つ目は、家族構成だ。

 

(これ……そもそも前世って呼んじゃっていいのかな……。タイムリープ的な奴なのだろうか? まぁ、一度、死んだのは間違いないと思うし、わかりやすいから前世でいいか……)

 

「界くん、かわいいでちゅねー」

 

(うわ、父ちゃん、近すぎ……!)

 

 父や母は見た目や名前は変わっていなかった。

 しかし、境遇については著しく変わっていた。

 前世における普通のサラリーマンとOLではなく、〝破魔師〟の一族になっていたのだ。

 それもどうやら日本における破魔師の七大名家の一つに数えられているらしい。

 

(正直、前世でも白神っていう苗字は、苗字だけかっこよくて名前負けしている感じがしてたんだけど……こっちでは本当に名家という……)

 

 界は心の中で苦笑いする。

 

 それはそれとして、父と母が破魔師になっていた……ということ。

 つまるところ、それは、この世界に悪霊や魔物が普通に存在することを示していた。

 また、それらを総称して〝霊魔(れいま)〟と呼ぶこともわかってきた。

 

 実際にテレビのニュースなどにも霊魔による襲撃事件などが普通に取り上げられていた。

 一方で前世であったはずの自然災害が緩和されていたのだ。

 

 これが前世の日本との最も大きな相違点であった。

 

 だが、

 

「界……生まれて来てくれてありがとう……界はお母さんの宝物だよ……」

 

「真弓……俺は界が生まれてくるまで知らなかった。この世には、こんなにも失いたくないものがあるのだな……」

 

「…………本当にね……」

 

 例え、前世と何もかも変わってしまったとしても、きっと変わらないこともあった。

 前世の父ちゃんと母さんは俺が六歳の時に死んでしまった。

 だから大人になるまでに、すっかり忘れてしまっていた。

 

(…………親馬鹿だな)

 

 




ご感想の中に、界視点のはずなのに、界の知り得ない情報が地の文にあるという内容がありました。
分かりにくいかもしれませんが、本作は基本的に、三人称で進行です。
特別なシーンのみ各キャラの一人称になります。
冒頭(転生前)は特別なシーンに当たり主人公の界の一人称となっています。
転生前のみ地の文で「俺」、以降は「界」になっており、界の気持ちのみ特別に()を使用しています。
正直、説明するのも野暮な気もしますが、何卒、よろしくお願いします。
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