【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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23.熊燐乱入

「ウボォオオオン!」

 

 熊燐(くまりん)は現れるや否や猛然と界や暁の元へ突進してくる。

 

(いきなり敵意むき出しか……)

 

「界くん、ここは私に任せるのです」

 

(えっ……?)

 

 (あきら)が果敢に前に出る。

 

(大丈夫なのか……!?)

 

 界はそう思い、父親二人の方をチラ見する……と、

 

(え、まじ……?)

 

 なんと二人とも仁王立ち。

 手助けしようとする素振りすらなし。

 

 まるで手ごろな実戦訓練相手だと言うように。

 

(そうか……、そうだよな……。これがこの世界の……破魔師の日常か……)

 

「水術:水弾(すいだん)、三連発なのです!」

 

 暁は水の弾丸を三発放つ。

 

「ウボォん! ウボォん!!」

 

 そのうち二発が熊燐(くまりん)に被弾する。

 熊燐(くまりん)は水弾の勢いに圧され、大きく仰け反る。

 

「続いて……水術合術(ごうじゅつ)水刃連弾(すいじんれんだん)なのです」

 

(さっきの訓練で見せてくれた技だ……)

 

 暁は水の刃を熊燐(くまりん)に向かって飛ばす。

 

「これで終わりなのです!」

 

 暁は勝利を確信する。

 

 しかし、

 

「ウボぉ!」

 

「えっ……!?」

 

 熊燐(くまりん)はすんでのところで水の刃を回避する。

 

(発動が少しもたついた。その一瞬で体勢を持ち直したんだ……)

 

「ウボォオオ!」

 

(っ……!)

 

 熊燐(くまりん)は今度は向きを変え、界の方に突進してくる。

 

(こっちに来たか……。望むところだ……)

 

 界は身構える。

 

 と、

 

「ダメなのです! その子は私が守るのですよぉお!」

 

(え……?)

 

「くらうのです! 水術合術:波砕刃弾(はさいじんだん)!!」

 

 暁は熊燐(くまりん)に両の手の平を向ける。

 

 手の平に水が集まり螺旋を描きながら圧縮されていく。

 波打つ水弾の表面には、鋭利な刃がきらめき、周囲の空気がわずかに震える。

 次の瞬間、水がうねる音とともに刃弾が発射された。

 

(すごい……!)

 

 巨大な水の刃が熊燐(くまりん)を側面から襲う。

 

「ウボぉ? ウボォおおおん!」

 

 刃は熊燐(くまりん)を直撃する。

 

「よし……なのです!」

 

 暁は小さく歓喜する。

 

 が、しかし、

 

(って、おいおい……)

 

「あっ……!」

 

 暁の出した水術合術:波砕刃弾(はさいじんだん)熊燐(くまりん)を通り越し、界の方に向かっていた。

 

「あぁああああ! やばいのです! 界くん、逃げてなのです!」

 

 暁は激しく動揺する。

 

 界は対処しなきゃなぁと思っていた時であった。

 

「え……?」

 

 大気が震えた。

 

 雷電(らいでん)

 

 そんな表現が好ましいだろうか。

 

 界は確かに強い電流の気配を感じ、そして、暁の放つ水刃の直線上から外れていた。

 

「界……、大丈夫か?」

 

 そうして、今、界を抱えている人物が界に声を掛ける。

 

「あ、うん……、ありがとう。父ちゃん」

 

 一瞬にして、界を抱え、安全な地帯に逃れたのは、父、彰彦であった。

 

(初めて間近で見たけど……父ちゃんの雷術…………すげぇ……)

 

 なお、結果として、父が界を運ぶ必要はなかった。

 

「彰彦、界くんは大丈夫……ですか?」

 

「あぁ、問題ないぞ、慶三」

 

 青海が父に尋ね、父はそれに答える。

 

 その青海は、巨大な水の壁を発生させ、暁の水刃の進行を(さまた)げていた。

 

「界くん、彰彦、申し訳ない。暁が……。暁……!」

 

「はぅ……、ごめんなさいです」

 

 青海は技を暴発させてしまった暁にすごむ。

 暁は申し訳なさそうに小さくなる。

 

「いやいや、慶三、大丈夫だ。そのために我々がいるのだ」

 

 青海の謝罪に対し、父はほがらかに応える。

 

「……本当は……界には助けは必要なかったかな……?」

 

 さらに、界にだけ聞こえるように、ぼそっと言う。

 

「あ、いや、そんなことないよ。父ちゃん」

 

 必要なかったとしても他人の善意を完全否定するのは(はばか)られた。

 実際のところ父の雷術が見れて、界はちょっとお得な気分であった。

 

「まぁ、たまには父ちゃんにもカッコいいところを見せさせてくれ」

 

 そう言って、父はウインクする。

 

(…………父ちゃんはいつだってかっこいいよ)

 

 と、

 

【…………田介が雷術が割と得意なのは、親からの授かり物もあるのかの……】

 

(「……ん?」)

 

【あ、いや、なんでもない……】

 

(……)

 

 間接的ではあるが、ドウマが珍しく他人を褒めていた。

 界はなんだか少し嬉しかった。それが自分の父なら尚更だ。

 

 なお、熊燐(くまりん)は山に帰った。

 

 ◇

 

 暁との稽古の後、界達は一度、母方の実家に帰ることにする。

 

「それじゃあ、慶三、また後程な」

 

「あぁ、彰彦、真弓さん、界くん、今日は来てくれてありがとうな」

 

「いえいえ……、瑠美(るみ)さん……くれぐれもご自愛ください」

 

「ありがとうございます」

 

 慰霊〝聖乱テンシ〟の依代の子の母である瑠美は深々と頭を下げる。

 

(……)

 

 界は言葉にすることができない複雑な感情になった。

 

 そうして、界達は、青海家を後にして母方の実家へ向かうのであった。

 

 と言っても、実は結構、近くて、なんなら最寄りのバス停より全然近かった。

 

「さぁ、着いたわよ。あぁ、久しぶりだぁ」

 

 屋敷の近くまで来ると、珍しく父よりも前を歩く母がそんなことを言う。

 

「あ、界……いつもみたいにその……アレなんだけど……その……気にしないで……」

 

 角を曲がりながら、母が若干、きまずそうに何かを言いかけた時、

 

「界様ぁあああ!」

 

「「「っ……!」」」

 

 突然、大きな声が聞こえて三人はちょっとびくっとする。

 

「界様だ……! 界様がおいでなさったぞぉお! (こうべ)を垂れよ!!」

 

 敷地の外で十人くらいが並んで、深々と頭を下げていた。

 

「ははっ……なんかごめんね……界……」

 

 母は困ったように苦笑いする。

 

 界に深々と頭を下げている大人達。

 それは母の実家〝一之瀬家〟の方々であった。

 

「あぁあああ、界様ぁ、界様ぁ」

 

 十人の真ん中で、うやうやしく界の手を握る(おきな)が一人。

 

「お久しぶり、くまじいじ」

 

「っ……!!」

 

(ひっ……)

 

 界が挨拶をすると、爺はぶわっと大粒の涙を垂れ流す。

 

「界様……、こんなにも……こんなにも……立派になられて……」

 

「ちょ、お父さん、大袈裟すぎなの!」

 

「何を言うか! 真弓ぃ! 大恩のある界様への正当な態度であろう!」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「ははは……」

 

 界も苦笑いである。

 

 この翁こそが界の母である真弓の父であり、界にとっての母方の祖父である。

 通称、くまじいじ。

 

(した)ってくれるのは有り難いのだけど、なにごとにも限度ってものがあるぞ……)

 

 界はそんな風に思う。

 

 くまじいじの界への愛はもはや溺愛を通り越して、信仰に近かった。

 

 しかし、限度を突破する程の出来事があった。

 

 依代の子の……それも鬼神ドウマを宿した子の母が、歴史上初めて、依代の子の母として死を免れた。

 

 それはその実父からすれば、それ程までのことなのだ。

 

(正直…………前世では、くまじいじ、ちょっと苦手だったんだ)

 

 母方の祖父は寡黙(かもく)であった。

 祖母はすでに他界していて、田舎に帰っても祖父一人だった。

 

 父方の祖父のように、明るいタイプでもなく、あまり喋ることがなかったから、界はなんだかちょっぴり怖かったのだ。

 

 それが今世では、こんなにも変わるのだなと、界は少し不思議な気分になっていた。

 

(今も別の意味でちょっと怖くはあるんだけどさ……)

 

「ちょっと(じい)、いつまでも界様を独占してないで、私達にも譲れ!」

 

「ん、なんじゃ!? あぁああ!」

 

 くまじいじは端っこに追いやられる。

 

「界様、本当に大きくなられて……。真弓を救っていただき、なんとお礼を言えばいいのか」

「界様、なんて凛々しいお姿。できることなら握手していただけないでしょうか」

「界様……!」「界様……!」「界様ぁ……!」

 

 伯父(おじ)を始めとする母の親族や従者に、界はもみくちゃにされる。

 

【六歳のガキをこんなに持て(はや)して……教育上、よくないと思うぞ】

 

(……ごもっともすぎて、何も言えない)

 

 

 

 その後も散々、持て囃された界であったが、

 

「ちょっといくらなんでもやり過ぎ……! 長旅で疲れてるんだから、界と彰彦さんを休ませてあげて!」

 

 という母の発言により、なんとか父と界は静かな別室に案内されるに至った。

 母はなんだかんだもう少し親族の方々と一緒に話をしていた。

 ぷんぷんと怒る母の姿は、界にとってもあまり見ない光景であり、なんだかんだ心許せる場所なのだろう。

 

 ちなみに父と母はほとんど喧嘩をしない。

 喧嘩するほど仲がいいという言葉がある。

 でも、別に喧嘩をしなくても、仲がいい人は仲がいいと思う、などと界はふんわりと考えていた。

 

 その後、界と父は一緒にお風呂に入ることにする。

 

 まるで温泉宿のような大きな浴槽に父と二人。

 父には前世ではなかった古傷がいくつもあった。

 

 そんな父が界に尋ねる。

 

「界……、私が言うのもなんだが、大丈夫か?」

 

「え……?」

 

「あ、その……母さんのご家族の界に対する……えーと……」

 

 父は流石に言いづらいのか、ごにょごにょする。

 

「うん、まぁ、大丈夫だよ」

 

「そうか……」

 

 父は安心したように微笑む。

 

「そう言えば……界に、あまりちゃんと伝えたことがなかったな」

 

(ん……?)

 

「界…………母さんを救ってくれてありがとう」

 

「……!」

 

「私には、この家の方々の気持ちが痛い程わかる」

 

(…………だから、本来だったら教育上よくなさそうな俺への持て囃しっぷりにも、父ちゃんは嫌な顔一つ見せずに……)

 

「……だけど、父ちゃん」

 

「ん……?」

 

「俺はまだ……父ちゃんと母さんをちゃんと救ってない……」

 

「え……? い、いやいや、界、父ちゃんも母さんも界には救われてるぞ……?」

 

「違う……!」

 

「っ……!?」

 

「違うんだ、父ちゃん…………、救うのは……()()()()なんだ……」

 

「…………」

 

「……いや、なんでもない。ごめん……」

 

「…………」

 

 父は驚いたような顔をしていたが、それ以上は何も聞かなかった。

 

 風呂から上がると、父は事切れたように眠ってしまった。

 

 界もそろそろ寝ようかとしていた時、

 

「界くーん」

 

 部屋の(ふすま)の向こうから界を呼ぶ声がした。

 

(ん……? って、え……?)

 

 そこにいたのは、小学生低学年くらい。

 少し青味がかったショートヘアの可愛らしい女の子。

 要するに(あきら)であった。

 

「てへっ、来ちゃったのです!」

 

「え……!? な、なんで暁先生がここに!?」

 

「その先生っていうのやめてくださいです。普通にさん呼びでお願いしますです」

 

「あ、はい」

 

「よしなのです。なんでここに? については、青海家と一之瀬家はとっても仲良しなのです。だから出入りなんて自由なのです」

 

「そ、そうなんだね……」

 

(そ、それはそれとして……)

 

「暁さん、本当におうち戻らなくていいの? 暁さんのお母さんって瑠美(るみ)さんだよね?」

 

「え、はいです」

 

(暁のお母さんが瑠美(るみ)さんなら……その……もうずっとは居られないんだ……。少しでも長く一緒に……。いくら天才とはいえ、八歳児は八歳児。その意味を理解してはいないのか?)

 

「え? でも、お父さんがお母さんは死なないって言ってたのですよ?」

 

(え……?)

 

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