【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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04.魔力量測定

 無事、母の第二子ご懐妊である。

 

 なお、依代の子の母親の()()()()()()など前代未聞であった。

 なにしろ依代の子の母親は子を産み落としたと同時に亡くなってしまうから。

 

 幸いにして、第二子ご懐妊の際には、母に〝霊紋〟は現れなかった。

 霊紋とは、子が依代の子である時に腹部に発生する紋様である。

 かつて破魔師達が編み出した災厄の軽減のための方法〝悪霊降霊の儀〟。

 それにより破魔師の家系に時折、発生するのが依代の子である。

 懐妊時に、この霊紋が発生してしまった場合、依代の子を産む運命からは逃れることができないのだ。

 

 それとは無関係であるが、母は第二子妊娠後、体調が芳しくなかった。

 というわけで、母は現在、安静のため、病院に入院していた。

 

 そんなこともあった4歳の界であったが、今日は珍しく家に訪問者が来ていた。

 

 目的は、界の健康診断であった。

 

 普通の子は地域のコミュニティセンターなどへ自ら赴くのだが、界には特別な事情がある。

 そのため医師が家まで来てくれるというわけだ。

 

「あー、えーと、界さま……もしもしの方、させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

「そ、それでは誠に恐れ入りますが、失礼いたしますね」

 

 医師の男はびくびくした様子で界の胸に聴診器を当てる。

 医師は、4歳である界に対して、なぜか滅茶苦茶へりくだった対応をしていた。

 

 諸々の検査を終え、異常なし。

 

 最後に前世では聞きなれなかった検査を行うことになった。

 

「それでは、魔力量測定を行います」

 

(「……魔力量測定?」)

 

【小僧、明らかに子供離れした魂の割に、この世界のこと本当に知らないんだな】

 

 頭の中で、ドウマが呆れるように言う。

 

(「……悪かったな」)

 

【だいたいこれくらいの年齢になったら魔力を測るのは儂様の時代から変わっていない……】

 

(「へぇ~、でも魔力発現って普通は幼少期にはできないんだろ? ずっと前に動画で見た天才4歳児がすごいと持て囃されてたはずだし。そう考えると今、測っても意味ないのでは?」)

 

【阿保……魔力を使えることと、魔力の器の大きさは別物だ】

 

(「ふーん……」)

 

【三つ子の魂百まで……という言葉を聞いたことがないか?】

 

(「ありますな……」)

 

【だったらわかるだろう? 阿呆が……!】

 

(「すみません……」)

 

【要するに、魔力の器の大きさってのは、おおむね三歳までに決まっちまうんだよ】

 

(え……? まじか……!? なんてこった……! だったら、ちゃんと鍛錬したかった……! ドウマの乗っ取りチャレンジのせいで大切な時期を無駄にしちまったじゃないか……終わった……)

 

「それではこちらを……」

 

 界が意気消沈していたが、その間に医師が水の入ったコップのようなものを差し出す。

 

(あ……これは……知ってるぞ。前世の漫画で見た奴だ。これに魔力を込めればいいんだろ?)

 

 界はコップを包み込むように手を差し出す。

 

「「「…………」」」

 

 沈黙が流れる。

 

「界、何やってるの?」

 

 父が尋ねる。

 

「え……?」

 

「飲むんだよ?」

 

(あ、はい……)

 

 それからしばらくして、採尿をし、再度、医師にそれを渡す。

 

【お前、何をそんなに気落ちしているのだ?】

 

(「いや、だってこれ、尿検査じゃん……」)

 

【はぁ……】

 

(「魔力量測定が尿検査って……普通さ……こう、もうちょいかっこいいのあるでしょ……」)

 

 その間に、医師は黙々と試験薬のようなものに界の尿を一滴投入した。

 

 すると、試験薬は無色透明のままである。

 

「こ、これは……!?」

 

 父が医師に尋ねる。

 

「……白神さま、ご存じかと思いますが、魔力が一定以上ある場合、試験薬には色がつきます。魔力量が少ない順に紫、青、水色、緑、黄、橙、赤へと変化していきます。まぁ、しかし、赤などは1000万人に一人と言われており、まぁ、ほぼあり得ませんがね……」

 

 そう言いながら、医師は魔力量測定の判定とその確率をまとめた表を見せてくれる。

 

 =================================================

【魔力量測定の判定とその確率】

 赤……レベル7 約0.00001%

 橙……レベル6 約0.001%

 黄……レベル5 約0.1%

 緑……レベル4 約2%

 水……レベル3 約10%

 青……レベル2 約30%

 紫……レベル1 約40%

 その他……約10%

 =================================================

 

 だが、界の試験薬は無色透明であった。

 

「つまり……界は……」

 

「測定不可……です」

 

 それはつまり、魔力量〝ごく僅か〟をマイルドにした言い方であった。

 

 健康診断を終えた医師が帰っていった。

 

 見送りをした父は玄関前で立ち尽くす。

 

(……父ちゃん、ショックだったのだろうか……。いやまぁ、俺も結構、ショックだけども……)

 

 界は魔力量測定の結果、〝測定不能〟とされてしまったのだ。

 

 父は震えていた。

 

「……だ、大丈夫? 父ちゃん……」

 

「…………なんということだ」

 

 父は頭を抱える。

 

(……父ちゃん……頭抱えるほどショックだったのか……)

 

 界はいたたまれない気持ちになる。

 

 だが、

 

「いやしかし、子供に対して過度な期待をするのは……いや、だが……可能性としてはむしろそっちの方が高いとすら感じる。その可能性をないと決めつけてしまっては、それこそ子供の可能性を潰してしまうことに……」

 

 父は何かぶつぶつと言っている。

 

【ほーん、小僧の父の目は節穴ではないようだな……】

 

 ドウマも何か言っている。

 

(「え……? どういう……?」)

 

 その時、父は意を決したような表情で、界に尋ねる。

 

「界…………〝破魔師〟になりたいか?」

 

「へぇ……?」

 

「界……お前……絵本にほとんど興味がないのに、破魔師モノだけは読んでたよな? テレビでも破魔師の内容が流れた時だけ、食い入るように観ていた」

 

(そ、それはまぁ、そこが前世との大きな差分だったから……)

 

「だから聞いている。破魔師になりたいか?」

 

「で、でも……僕……魔力量が測定不能で……」

 

【小僧、お前なぁ……「はい」か「いいえ」で答えられることにぐだぐだと答えるんじゃねえよ】

 

(「っ……!」)

 

「あい……なりたいです。なって父ちゃんや母さんを守りたい」

 

 界は父の目を真っすぐと見つめて答える。

 その言葉に嘘偽りはなかった。

 

「…………あのなぁ……父ちゃんや母さんは界に守られるほど弱くはないぞ? だけどな、界は破魔師になる上で一番大切なものをすでに持っているようだな」

 

 父は優しく微笑みながら言う。

 

「よし! そうと決まれば善は急げだ……!」

 

 父は家の中に向かってダッシュする。

 

 ◇

 

 数日後――。

 

「よし、界、今日から破魔師の訓練を始めるぞ!」

 

「あい……!」

 

「よし、それじゃあ、道場へ行くぞ!」

 

「あい……!」

 

 界は初めて、家の中にある道場へ向かうこととなる。

 実のところ、界の家は大きい。

 前世とは比べ物にならないくらい大きい。

 造りは木造で古めかしい日本家屋の雰囲気があるのだが、いかんせん広い。

 日本の破魔師の七代名家の一つに数えられていることは伊達ではないというわけだ。

 

 そうして、界は初めて、家の道場の敷居をまたぐ。

 

 と……、

 

「あ……白神様…………そちらが界様……でございますね。本日はよろしくお願いいたします」

 

(ん……?)

 

 道場に着くと、何やら巫女の恰好をした20代くらいの女性がいた。

 こげ茶色のボブスタイルで、たれ目気味で可愛らしかった。

 着やせしやすい和装をもってしても隠し切れない程の胸部をしている。

 さらに大きなアタッシュケースを持参している。

 

「界よ……彼女は破魔師指導員の……えーと……」

 

鏡美(かがみ)でございます」

 

「そう……鏡美さんだ」

 

(破魔師指導員……?)

 

 界は少々、寝耳に水であった。

 

「あ、あの……てっきり父ちゃんに教わるのかと思ってた。父ちゃんってすごい破魔師なんじゃないの?」

 

「あぁ、そうだ。父ちゃんはすごい破魔師だ」

 

「なら……」

 

「だがな、界……、名選手が名指導者とは限らない」

 

「……!」

 

 界は父の言葉にはっとする。

 確かにその通りであった。

 

「それにな、強すぎる感情は客観性を失わせるリスクもある。だから、餅は餅屋。破魔師コーチの専門家に家庭教師をしてもらうのが最善と考えた」

 

「な、なるほど……」

 

「それでな、父ちゃんは考えたんだ! どうしたら最高の指導者を探せるかと……考えに考えた結果、ついに極めて賢明な方法に辿り着いた」

 

「おぉ、流石、父ちゃん……! それでその方法ってなぁに?」

 

「インターネットだ」

 

(っ……!)

 

「界には少し難しいかな? インターネットっていう調べたら何でも教えてくれる超便利な文明の利器があってな……!」

 

(い、いや……そりゃあ知ってるけども……)

 

「それでな、鏡美さんは、レビューサイトで最高評価を得ていた家庭教師エージェントに紹介してもらって……それでなそれでな……!」

 

 父は嬉々として語っている。

 

(大丈夫か……それ……。この頃って確かステルスマーケティング最盛期じゃなかったか……? ってか、前世では物心つく前に死んじまったから美化されていたというか……気づかなかったが…………この父ちゃん……ちょっと抜けてないか……?)

 

 界は唖然とする。

 と……、

 

「でね……」

 

 饒舌に語っていた父のトーンが少し下がる。

 

「……界は頭がいいからもうわかっていると思うが、界は〝依代の子〟だ」

 

「……うん」

 

「鏡美さんは過去に依代の子の指導もしているようだ。そういう指導者はとても少ない。だから上手く界の力を引き出してくれるんじゃないかと思った」

 

「……わかったよ」

 

 それを聞き、父が自分のことを一生懸命考えてくれたことを悟り、界は少し反省する。

 

「うむ……それじゃあ、頑張れよ! 界!」

 

「えっ!? 父ちゃん行っちゃうの?」

 

「あぁ、界一人で頑張れよ!」

 

「あ、うん……」

 

「だけど、これを……」

 

 父は界に人形(ひとがた)の紙を渡す。

 

「父ちゃん、これはなに?」

 

「お守りみたいなもんだ。肌身離さず持っていろ」

 

「……わかったよ」

 

「よし……!」

 

 父はにかっと笑い、道場から去っていく。

 

 それは今世において、初めて父も母もいない状況であった。

 界はふと父の真意を考える。

 界は保育園や幼稚園といった家族以外のコミュニティに参加していなかった。

 それはつまり通常であればあるはずの親がいない状態が4歳になるまで一度もなかったのだ。

 

(まぁ、普通に考えりゃ、少しは親離れしないといけない時期よな……)

 

【なんだ? 小僧……ひょっとして……お父ちゃんがいなくて悲ちいでちゅか? でも大丈夫でちゅよ? 儂様が付いておるではないか!】

 

 このように煽ってくる奴もいる。

 

(「やかましいわ……」)

 

 父が去り、巫女服お姉さんの破魔師指導員の鏡美と二人きりになる。

 

「さて、それでは界様……本日は何卒よろしくお願い申し上げます」

 

 鏡美に後ろから声を掛けられ、界は少し緊張しつつ振り返る。

 

(って、えぇ……?)

 

 振り返ると、鏡美は膝と頭を床につけていた。

 要するに、ほぼ土下座である。

 

「えーと、先生? 何してるんですか? あの……頭を上げてください」

 

 界がすぐにそう言うと、

 

「……!? せ、先生……?」

 

 鏡美は自身が先生と呼ばれたことに驚く。

 そして、そのままの体勢で界に再確認する。

 

「ほ、本当に頭を上げてよろしいのでしょうか?」

 

「よろしいです。よろしい以外ないです」

 

「…………承知いたしました」

 

 ゆっくりと頭を上げた鏡美は「信じられない」とでも言いたげな顔をしていた。

 

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