【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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42.封魔術使ってみた

 龍の放った呪詛(じゅそ)は界が展開した壁により進行を阻害されていた。

 

 呪詛の被害を免れた熊燐はどこか呆然としていたが、それを(はた)から見ていた者達が声をあげる。

 

「な、なんということじゃ……」

 

「界様の魄術(はくじゅつ)壁は呪詛にも効果があるということでしょうか」

 

 じいじ、くまじいじがそれぞれ驚いている。

 

 呪詛は霊魔の攻撃の中でも極めて厄介なものである。

 

 呪詛を発動する個体自体がそれ程、多くはない。

 だが、ひとたび発動してしまった場合、完全に無効化することは難しい。

 そのため、基本的な対処法としては、

 ①発動前に消滅させる

 ②発動相手を間違わせる(傀儡(くぐつ)等を使用し、錯覚させる)

 ③あまんじて受ける(霊魔のレベルにより症状や期間はさまざま)

 の三つである。

 

 ①については、最も良い対処法であるのだが、言うは(やす)く行うは(かた)しである。

 ②も成功率は決して高くない。

 つまるところ現実的には③がもっとも一般的な対処法というわけだ。(対処と呼べるかはわからないが)

 

 これら三つは基本的な対処法である。

 これらと異なる()()()対処法として、存在するのが〝魄術〟である。

 

 一部の魄術使いには、呪詛の誘導が得意な傀儡使いや呪詛を癒す(解呪する)ことができる術者がいる。

 

 しかし、いずれも呪詛の対処に特化した術者であることが一般的である。

 

 言ってしまえば、界のように、防衛のついでかつ壁を張るだけというお手軽さで呪詛を防げてしまうことは、

 

「ほぼチートやないか……」

 

 じいじは半ば呆れ気味にそんなことを口にする。

 

(……ん? チート?)

 

 そんなことはつゆ知らずの界は、呑気にじいじがカタカナ文字を使ったことの方を不思議に思う。

 

【田介の壁は物理的または直接的な攻撃以外も遮断できるというわけか……。ははっ、面白い! だが、この儂様が少しは認めているのだ。それくらい規格外でないとなぁ……】

 

 ドウマがそんなことを言う。と、

 

(「え……?」)

 

 何気なく放ったドウマの言葉に、ドウマにとっては存外に界は豆鉄砲をくらったように驚く。

 

【ん……? どうかしたか……?】

 

(「いや……、今、ドウマが……少しは()()()()って……」)

 

【……ん? はぁああ!?】

 

 界の疑問にドウマは少々、焦ったような反応をする。

 

【そ、それが何か変であったか?】

 

(「いや……、そんな風に言ってもらえたの初めてだったから……その……嬉しくて……」)

 

【っっ……そ、そうであったか……?】

 

 界の素直すぎる反応にドウマは憎まれ口を吐くこともしにくくなり、言葉を詰まらせる。

 ドウマ的にはすでに認めている発言をしているつもりであった。

 だから、「明確に言ったのは初めてだったかなぁ……」頭かきかき状態である。

 

 そんな二人をよそに、

 

「じゃ、ジャァァァぁぁ」

 

 最後の呪詛攻撃に失敗した龍は力を失い、魂の(ともしび)が消え去りそうになっていた。

 

 だから、

 

「影の名を断ち、力の流れを塞ぐ。

 ここに印を刻み、我が結界に縫い止めん。

 汝が咆哮、いま鎮まりて封ぜられよ――封鎖!」

 

「ジャァァァぁぁ……!?」

 

「え……?」「なんと……?」「うにょ……?」

 

 じいじとくまじいじと熊燐は驚く。

 

「え……? 界、そいつ封魔しちゃったの?」

 

 じいじが界に尋ねる。

 そう、界は龍を札に封印していた。

 熊燐と同じように、霊魔を抑えつける伏印(ふくいん)を控えめにした。

 その分、大量の魔力を消費するらしいやり方で。

 

「え……? 違うの? これって封魔術の訓練でしょ?」

 

「あ、うん……そうなんだけど、その霊魔、君の熊燐に呪詛放った霊魔よ?」

 

(……言われてみると確かに……。でも……)

 

「封魔術、実戦で使ってみたかったし……」

 

(こういうのは実戦でしか身につかない何かがあると思う。実際、俺は大地震の脳内シミュレートをたくさんしていたのに、本番で想定外のことが起きて対処できなかったわけだしな)

 

「う、うむ……、確かにそうだな」

 

「界様……、幼いのになんという長期的な視点をお持ちで……」

 

(くまじいじ、ちょっと大袈裟だな……)

 

 界は苦笑いする。

 

 こうして、界の初めて封印術の実戦訓練は終了したのであった。

 

 

 界が封魔術の実戦訓練をしてから数日後――。

 

「界様ぁあ、あぁあ゛ぁああ゛ああ」

 

 新幹線を見送りながら(むせ)び泣く(おきな)が一人。

 

 くまじいじである。

 

(ばいばい、くまじいじ、ありがとうね。また会おうね)

 

 界は心の中でそう思いながら、にこりと微笑みながら、手を振る。

 

「界様ぁああぁあ゛ぁああ゛ああ」

 

(あらあら、くまじいじったら……、昔の恋愛ドラマみたいに、走って新幹線を追ってきて……無理しないでね……)

 

「…………」

 

(……って、ちょ! 本当に無理しないでねぇええ!)

 

 ホーム先端まで結構な速度で追ってきたくまじいじに界はちょっと怯えつつ、ここ二週間ほど、お世話になったくまじいじと別れた。

 

「ったく、あのじじいは自分の年齢考えろや……」

 

 ついに車窓から見えなくなったくまじいじに対してじいじが苦言を呈す。

 

(ははっ……、じいじもね……。二人とも(いたわ)わって欲しいな……)

 

 界はそんなことを思いつつ、苦笑いする。

 

 こうして、初夏のダブル(じい)による封印術訓練の日々はひと段落し、界はじいじと共に東京に帰るのであった。

 

 

 

 東京に戻ってから――。

 

 界は東京でも、じいじと共に封魔術の修行を続けた。

 鏡美による基礎訓練が7割、じいじによる封魔術訓練が3割といった具合であった。

 

 界の父はいまだ修行から帰ってきていなかった。

 母は、妙に大人びた界よりも、まだ2歳である妹の(めぐり)の世話をしている時間が多かった。

 それもあり、界は敷地内にあるじいじの家で過ごす時間が増えていた。

 

 実のところ、前世においてもこの頃からじいじとばあばと生活していた界にとっては、むしろその方が普通感があった。

 

 そして、じいじは東京でも、時々、霊魔の実戦現場に連れて行ってくれた。

 

 実戦訓練を経て、界は、自身の封魔術における現在地をある程度、掴むことができた。

 

 といってもそれは一般的な封魔術の特徴と一致していた。

 すなわち

 ①相手を弱らせないと成功しない

 ②相手が強くなる程難しい

 の二点である。

 

 加えて、じいじから一つ、重要な指導があった。

 それは、よほどのことがない限りは封魔術ではなく、消滅させるべきという内容であった。

 この理由も封魔術の一般論と同じである。

 封魔術は最大魔力量を消費して、行う術である。

 いかに界の魔力量が多いとはいえ、消費される魔力量が不明であるから、むやみやたらに使用するべきではないという理屈である。

 

 界は少し残念ではあった。

 しかし、東京に来てからの実戦訓練では、狒々(ひひ)のような生理的に気持ち悪いタイプの霊魔ばかりであり、幸いにも消滅させることに躊躇(ちゅうちょ)する必要はなかった。

 

 そんな日々を送っていたある日のこと、界はじいじとの訓練中に、封魔術について質問をしていた。

 

「じいじ、ちょっと封魔術について質問したいことがあるんだけど……」

 

「なんじゃ……」

 

「鎮霊の儀ってどうやるの?」

 

「ブフォっ!」

 

 界の何気ない質問にじいじは吹き出す。

 鎮霊の儀とは、霊魔を赤子の依代に閉じ込める儀である。

 界自身も鎮霊の儀によりドウマを(おろ)された依代の子である。

 

「ど、どうしたの? じいじ」

 

「界……あのなぁ……鎮霊の儀ってのはな、歴史上最大の封魔術と言われていてな……。そんな素朴な質問みたいに聞かれてもなぁ……」

 

「……そうなの?」

 

「そうじゃよ」

 

(「そうなの?」)

 

 界はドウマにも尋ねてみる。

 

【…………儂様はそうは思わない】

 

(「……」)

 

 鎮霊の儀を編み出したドウマ自身と、世間の評価は少し違うようであった。

 ただ、じいじは鎮霊の儀に対して好意的な評価をしていたが、歴史上最()の封魔術と考える派閥があるのも事実であった。

 

「界よ……、鎮霊の儀はな、封魔術の中でも()()()封魔術と呼ばれている」

 

「犠牲の封魔術?」

 

「そうじゃ。要するに大きな犠牲と引き換えに大きな効果を得ることができるというわけじゃ」

 

「……うん」

 

「そう聞くと、犠牲さえ払えば、できるのかと思うじゃろ?」

 

「……うん」

 

「だが、実際には極めて複雑な印をつなぎ合わせて、完成させるものだと言われている」

 

「……言われているってどういうこと?」

 

「昨今の破魔師からすれば、それは失われてしまった技術というやつじゃ」

 

「……!」

 

(ロストテクノロジー的な……?)

 

「それともう一つ、大事な話がある」

 

「……?」

 

「界、封魔術にはな、大きな弱点というか問題点があるのじゃが、わかるか? 今まで教えたこと以外で……だぞ」

 

(……! なんだろう……)

 

 界はしばらく考える。

 しかし、思いつくことができなかった。

 

「わからないよ、じいじ」

 

 界がそう答えると、じいじはなぜか少し嬉しそうにして、そして真剣に語り始める。

 

「封魔術の大きな問題点。それは〝術者が消滅すると効果が消える〟ことじゃ」

 

「……!」

 

「……え、じゃあ、どうして鎮霊の儀はずっと……」

 

(……! そ、そうか…………。ドウマ自身が……慰霊になることで……)

 

 と、

 

【犠牲の封魔術はもう誰にも伝承されなくていいものだ……。永続的な封魔術なんてものは、平和な今の時代には不要だろ……?】

 

(っ……)

 

 ドウマの言葉はどこか(はかな)げに聞こえた。

 

「……でも、じいじ、僕、もっと封魔術を極めたいよ!」

 

「……なんと! そんなにじいじの得意な封魔術を……?」

 

「うん……!」

 

「…………意思はわかった」

 

 じいじはこくりと頷く。

 しかし、その日はそれ以上のことはなかった。

 

 

 

 時は流れ、3か月後。

 2016年秋――。

 

 ある日、界は訓練を終え、家に戻った。

 その日は大雨で、じいじの家から自宅に戻るまでの間にびしょびしょに濡れてしまった。

 

(うへぇ、濡れた濡れた……。家の中汚さないように風呂にでも入るか……)

 

 そうして、界は直行で風呂に入ることにした。

 

 意気揚々と浴室に入った界は、

 

「え…………?」

 

 思考停止する。

 

 そこには、同い年くらいの色素の薄い髪質をした……要は西洋風の美少女がいたからだ。

 

 もちろんすっぽんぽんだ。

 

 少女も界を見て、完全に動きが停止している。

 

 意味不明な状況に、界は思う。

 

(「…………こんな霊魔もいるんだなぁ」)

 

【人間やぞ】

 





本日、書籍の正式な発売日になります。

https://www.kodansha.co.jp/comic/products/0000423408
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