【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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46.ホムンクルス

 界はヨハン指導の元、ドイツ式封魔術をやってみることにした。

 

「ズィーエ……でん、カール……でス、ウィッレンズ!……ゲ、ゲウェアレ、でぃあ、ゼルブストボスシュタニウン!」

 

「界くん、Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.だよ? “Keil”(楔)はカールじゃなくてカイルな。それに“Selbstbestimmung”は“ゼルプストベスティムング」

 

(……)

 

「ズィーエ……でん、カイル……デス、ヴィッレ……ン? ゲヴェー……レ、ディア……ゼルプス……トベ……ボス……シュ……シュタンディウム……っ!」

 

「シュタニウムじゃなくて、ベスティムング! Selbstbestimmung(ゼルプストベスティムング)。“ベ・ス・ティ・ム・ング”」

 

「あ、はい……」

 

【わ、わけがわからぬ……】

 

(……流石のドウマ様も異国の言語に目を回しているのか?)

 

 結論…………、

 

(ドイツ語、無理)

 

 こうして、技術交流会の一日目は終わるのであった。

 

 

 

 翌日――。

 

 界、ヨハン、リーゼは再びじいじにより道場に集められていた。

 

「ヨハンくん、リーゼちゃん、昨晩はよく眠れたかな?」

 

「はい、おかげさまで」

 

 ヨハンは爽やかに返事をする。

 

「それはよかった。それじゃあ、朝一発目、ヨハンくん、昨日の成果を見せてくれないか?」

 

「……! はい、よろこんで」

 

 そうしてヨハンは一歩前に出る。

 じいじが札を渡す。

 

「それではいきますね」

 

 ヨハンはふうとひとつ息を吹くと、印を結び、詠唱を始める。

 

「沈めし印よ、今、ほどけよ。

 縛りし手を引き、静かに門を開かん。

 我が意思は干渉にあらず!」

 

「おぉーーー!」

 

 札から霊魔が現れる。

 成功だ。

 

「ヨハンさん、すご……!」

 

(たった一日で、日本式の解呪に成功しちゃったよ)

 

「ありがとう、界くん」

 

 日本人のように謙遜しすぎる文化はないので、ヨハンは素直に称賛を受け入れる。

 

「うむ、ヴィンターシュタインの爺が随一の才能というのも頷けるな」

 

 じいじはうんうんと頷いている。

 そして、その流れで界に視線を向ける。

 

「で、界はどうだった?」

 

「え……、ちょっとうまくいってないです」

 

(ドイツ語長すぎ、発音わからなすぎ)

 

「うむ、そうか。まぁ、そんなものよな」

 

 じいじはやはりうんうんと頷いている。

 

 界自身も今まで習った術もそんなにすぐにできてきたわけではなかったため、こんなものかと思う。

 

(……そういえばリーゼはどうだったのかな?)

 

 と界が思っていると、

 

「うむ、それじゃあ、昨日は封魔術についての技術交流を行った。あくまでも技術交流であって、必ずしも両方を覚える必要はないんだ。両者の差異などから、なにか気づきでもあれば、それが収穫だと思っている」

 

(確かに、結果として同じなら日本式とドイツ式の両方ができる必要はないよな)

 

「というわけで、今日は別の技術について交流していこうと思う。今日はじいじの他にもう一人、指導員を呼んでいるぞ」

 

(お……?)

 

「入ってきてください」

 

 じいじがそう言うと、もう一人の指導員が道場に入ってくる。

 

(あ……、鏡美さんだ)

 

 それは鏡美であった。

 

「よろしくお願いします。界さまの妖術・体術等の指導を担当させていただいております、鏡美でございます」

 

 そう言って、ヨハンやリーゼに頭を下げる。

 

「知ってますよー」

 

 ヨハンはそんな風に返す。確かに一緒にご飯を食べているから知っていないはずがない。

 

「うむ、鏡美さんは教えるのがとても上手い」

 

「滅相もございません」

 

「と本人は謙遜しているが、リーゼちゃんの指導に当たってもらおうと思っている」

 

「承知しました」

 

「それじゃあ、今日は両国の技について、技術交流をしていこうと思う。いきなりだが、リーゼちゃん」

 

「……! はい……」

 

 自分に来ると思っていなかったのかリーゼは少し慌てた様子だ。

 じいじは続ける。

 

「リーゼちゃんの守護霊体〝ホムンクルス〟を披露してくれないか?」

 

「あ…………はい……」

 

 リーゼは少し気乗りしない様子ながらも返事をする。

 

(「ホムンクルス……? なんだそれ? ドウマ、何か知ってる?」)

 

【牛のことだろ?】

 

(「……? ……ひょっとしてホルスタインのこと?」)

 

【なっ……!? そ、そうだったか……?】

 

(ホと六文字なところしかあってないよ……。うーん、ホムンクルスって確か、人造人間的な意味だったと思うけど……、そういうことなのかな?)

 

 などと、界は考えていると、

 

「……いきます」

 

 リーゼが真剣な顔つきとなり、一つ、息を吐き、そして止める。

 

 すると、リーゼの周囲に魔力が発生する。

 

(これは……魔力発現だ)

 

 と、

 

「……応えて、ローレライ」

 

 リーゼはぼそりと呟く。

 すると、魔力の形がぐにゃぐにゃと変化していく。

 

(え……? これって…………魄術(はくじゅつ)?)

 

 魄術とは、術者の心を形にした術であり、術者固有の術だ。

 その本質は、魔力の形質を変化させること。

 一方で、魄術は一度、魔力のイメージが固定化されると二度とその形を変えることができないという特徴を持つ。

 界はその形質を壁へと変化させた。

 そもそもの話として、魄術は、誰しもが習得することができるものではないのだ。

 その魄術と同じようなことを目の前のリーゼが行おうとしていると、界は感じた。

 

「お願い……ローレライ」

 

 リーゼロッテはもう一度、祈るように呟いた。

 

 彼女の足元に淡い蒼い光が広がりはじめる。

 まるで水面に月の光が差し込むような柔らかさで、空気そのものが湿っていくようだ。

 

 その中心から立ち上る魔力の線――

 それはまるで、水底から浮かび上がる銀糸のように細く、しなやかだった。

 そして、その先端は徐々に輪郭を持ち始める。

 長い髪が水中に揺れるように波打ち、透けるような輪郭が少女のかたちをなぞる。

 

(……え? 女の子?)

 

 リーゼの魔力が少女の形になろうかとしていた。

 その時だった。

 

 魔力が象った少女の口元がわずかに歪む。

 

「……ッ」

 

 それと同時に、リーゼの魔力の波が揺らいだ。

 

 空気に滲んだ青い軌跡が、まるで指先から滑り落ちた水のように、形を保てずほどけていく。

 細い糸のような霊気が、ゆっくりと空中に漂いながら、霧のように薄れていく。

 

「――あ……」

 

 リーゼの瞳から力が抜ける。

 魔力はもう、そこにはなかった。

 

「……ふむ、なるほどな」

 

 それを見ていたじいじが呟く。

 

「……ごめんなさい、失敗です」

 

 リーゼは肩を落とす。

 

「じ、じいじ、今のって魄術?」

 

 界はじいじに尋ねる。

 

「えーとな……」

 

「僕から説明しましょう」

 

 ヨハンだ。

 

 じいじは「おぉ、すまんな」などと言い、発言をヨハンに譲る。

 

「それじゃあ、百聞は一見にしかずということで……」

 

 そう言うと、ヨハンもまた魔力発現を開始する。

 

(おぉ……!?)

 

 ヨハンの魔力は瞬く間に騎士のような姿に変質していく。

 

「これがね、魔力を守護霊体へと変化させる技……通称、ホムンクルスだよ」

 

「おぉーー!」

 

 と界は小さく歓声をあげるが、

 

(…………どういうこと?)

 

 よくわかっていなかった。

 

「えーと、じいじ、魄術とはまた別のものなのかな?」

 

「全く同じではないが、ほぼ同じ概念と考えていいだろう。要するに日本の(しん)〝魄術〟にあたる技が、ドイツ式における守護霊体へと変化させるホムンクルスに当たるわけだ」

 

「おぉ、そういうことか!」

 

「ちなみにじゃが、ドイツの霊の審判者(ガイストリヒター)のホムンクルス習得率は日本の破魔師の魄術習得率より遥かに高い」

 

「え、本当に……!?」

 

(ドイツの霊の審判者(ガイストリヒター)の方が優秀ってことなのかな……)

 

「うぅ……」

 

 ドイツの霊の審判者(ガイストリヒター)のホムンクルス習得率が高いということが耳に入ったのか、リーゼはまた少しへこんでいる。

 

 そんなリーゼにじいじが声を掛ける。

 

「リーゼちゃん、そんなに落ち込むことはないさ。六歳にしてはよくできていると思う。それに君はヴィンターシュタイン家に代々受け継がれる精霊〝ローレライ〟の正式継承者なのだろう?」

 

 と、

 

「…………」

 

 リーゼは下を向き、ぷるぷると震え出し……、

 

「うぇええええええええええん! ローレライなんかヨハンに継承されればよかったのにぃいいいいいいい!」

 

(え……?)

 

 道場を駆け抜けていった。

 鏡美がそれをすぐに追っていった。

 

「え……? え……?」

 

 じいじはその様子に戸惑っている。

 

「じいじ、なんかやっちゃった?」

 

「白神のおじい様、実はそれは禁句でして」

 

「……!」

 

「あーあ、じいじ、女の子、泣かせて……」

 

「はぅ……」

 

 じいじは慌てて、道場から出ていった。

 

 

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