【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜 作:広路なゆる
ジャー…………キー……パタン……。
「…………」
(…………)
トイレから出たリーゼは無言で俯きながら、小刻みにプルプルと震えている。
(……これは一人にしてあげた方がいいのかな? でも、一人にするとやっぱり怖かったりするのかな……。うーん……)
「あ、それじゃあ、リーゼちゃん、おやす……」
「あ、あぁ……ちょっと待って……!」
(……?)
「そ、その…………ありがと……」
リーゼは恥ずかしそうに目線を逸らしながら言う。
「あ、うん……」
「あの……これ……本当にいらないの?」
リーゼはふたたび10ユーロ札をさっと出す。
(はは……、お金で解決しようとするあたり、やっぱりお嬢様なのかな……。ん……? でも2016年辺りってユーロ安だったりするのか? そうなると将来的には……。いやいや、いかん! そういうのはいかんぞ! 破魔師として……!)
界は邪念を振り払う。
「リーゼさん、それはいらないよ」
「そ、そう……」
界の対応にリーゼは不思議そうな顔をしている。
「…………ごめんなさいね…………ちょっと怖い夢を見ちゃって……」
「え……?」
「でも……その……ヨハンには頼りたくなくって……」
「……」
「あ、その、別にヨハンが嫌いってわけじゃないの! でも……」
「なんとなく……わかるよ」
「え……?」
「……僕も最初、ドウマに頼りたくなかったし……」
「……! ……ドウマ様に?」
(あ、やべ……!)
【なぜそこで儂様が出てくる……。なんだ、田介、お前、ひょっとして儂様のこと好きすぎか?】
ドウマが冷やかすように言ってくる。
(「うるせぇ! そうだよ! 悪いか!」)
【へぇあ……?】
「あー、えーと、そのぉ……、リーゼちゃん、お部屋まで連れて行こうか?」
「あ、ありがとう……。でも大丈夫。怖いのはトイレだけだから……」
「そっか……。じゃあ、お部屋までは送るね」
「っ……! ……界さん、話聞いてました?」
「あー、うーん、……これがジャパニーズお節介ってやつかな?」
「…………日本人って不思議な民族」
「そうなのかな」
界は苦笑いしつつ、リーゼをお部屋まで送るのであった。
【…………~~~~っ】
(……ん?)
◇
翌日――。
リーゼは訓練所に現れた。
じいじはめちゃくちゃ謝っていた。
謝り方で逆にリーゼを傷つけないか界は少しヒヤヒヤしたが、なんとか大丈夫だった。
恐怖緩和のためのトイレへの同行以来、リーゼの界に対する態度は少しだけ軟化し、すれ違う時に「おはよー」とか挨拶くらいはしてくれるようになった。
ただ、少し冷たい感じは、相変わらずであり、界も無理にその距離を詰めようとはしなかった。
それから、しばらく技術の交流の訓練が続き……、
一週間後――。
「沈めし印よ、今、ほどけよ。
縛りし手を引き、静かに門を開かん。
我が意思は干渉にあらず!」
(お、おぉ……!)
「で、出た……!」
日本式封魔術における解呪によって、札から霊魔が現れる。
成功させたのは、リーゼであった。
「おぉ、すごいぞ、リーゼちゃん、やったじゃないか!」
じいじがリーゼを称賛する。
「はい、白神のおじい様、私、やりました!」
一週間前、やらかしたじいじであったが、今では、リーゼはすっかりじいじになついていた。
「リーゼはひょっとすると、日本式の方があっているのかもなぁ……」
ヨハンがそんなことを呟く。
(……きっちりと体系化されたものを正確に行うドイツ式よりも、若干、ノリと勢いでなんとかする日本式の方が合ってるってことかな。そんなこともあるんだねぇ……)
一方、界は……、
「Ziehe den、カイル……des ヴィッレ……ン? ゲヴェー……レ、dir……ゼルプス……トベ……ボス……シュ……」
「う、うん……、か、確実に上達はしているぞ……、界くん」
(…………ヨハンさんが、めっちゃ気遣ってくれているのを感じる……。頑張らなきゃ……)
なかなかドイツ語に苦戦しながらも、ひたむきに取り組んでいた。
「…………」
そんな界の姿をリーゼは時折、不思議そうに眺めていた。
◇
訓練を開始し一週間が過ぎたある日のこと。
朝食を食べているときに、母の電話が鳴る。
「あ、お義父さん、どうなさいました?」
(じいじからだな……)
じいじは無暗に
一定の距離を保つことで、母に気を使っているのだと界にはわかっていた。
「え……? 霊魔が?」
母が電話越しのじいじに聞き返すように言う。
(……霊魔?)
「はい……はい……わかりました」
そうして、母は電話を切る。
「どうしました? おばさま」
すると、ヨハンが尋ねる。
ヨハンとリーゼは母のことをおばさまと呼んでいた。
ヨハンは最初、真弓さんと呼ぼうとしたが、母が「おばさんの方がいい」と希望し、結局、おばさまに落ち着いたのである。
「あ、えーとね、下級の霊魔が出たみたいだから、今日はそっちで実戦訓練をするみたいよ。みんな、少し急げるかしら?」
「もちろんです!」
ヨハンだけでなく、皆が立ち上がる。
界も……リーゼもだ。
身支度をして、家を出ると、じいじが待ち構えていた。
「それじゃあ急ぐぞよ」
時間が早かったこともあり、鏡美先生はまだ来ていなかった。
そうして、じいじ、ヨハン、リーゼ、界の四人は車に乗り込み、現場へと向かう。
「ふむ、ここじゃ」
駐車場に車を止め、急いで、現場へ向かう。
そこは日本庭園のような場所であった。
しばらく行くと、破魔師達が集まっているのが目に入ってきた。
界は、奈良の時のような状況……すなわち破魔師達が霊魔の退治に苦労しているのを救援に駆け付けたのかと思っていた。しかし、今回は少し状況は違うようであった。
(あ、これって封
糸のようなもので、半拘束された霊魔が5~6体、少々、苦しそうに破魔師達を威嚇していた。
くまじいじが得意とする封絶術。
それは
要するに、破魔師達は、苦労しているというよりは、霊魔を弱らせた状態で、界達が来るのを待っていてくれていたような状況に見えた。
と、
「おぉ、白神様……いらっしゃいましたか」
破魔師の一人がじいじに気が付く。
白髪の物腰の柔らかそうな男性だ。年齢は父と同じくらいであろうか。
(あれ……? この人、どこかで……)
界は、その男性のことをなんとなく知っているような気がした。
しかし、自力では、どうにも思い出せなかった。が、
「すまぬのぉ、
「いえいえ」
(え……? 銀山? あ……! この人、銀山さんか……!)
それは、界が生まれた直後に、父と赤池が一触即発になりそうになった時に、仲裁してくれた人物、七大名家の一つ、銀山家の当主、その人であった。
(え……? ってことは…………)
「界くん……!」
(……!)
透き通った可愛らしい声が界の耳に入ってくる。
綺麗な肩くらいまでの黒髪の小学生くらいの女の子であった。
極めて容姿の整ったその少女は、破魔師の巫女服がよく似合っていた。
そんな少女が、わたわたと慌てた様子で、界の方に走ってくる。
「あ、雨さん……!」
それは、寂護院で、界と一緒に過ごした少女。
雪女の元依代の子である銀山雨であった。
(雨さん……なんか久しぶりな気がするなぁ。最後に会ってからちょうど一年くらいかな……。あの時、七歳で小二って言ってたから、今は八歳で小学三年生かな?)
界は四月生まれ、雨は三月生まれであり、年齢は二つ違いだが、学年でいうと三つ違う。
「……」
(……なんかたった一年でまた随分と大人びたというか……子供の成長って早え……)
などと、思っている界に、
「界くん、お久しぶりです。ずっと……ずっと会いたかったです」
雨は界の手を取り、そんなことを言う。
(大袈裟だな……、雨さんは……。ってか、終盤の敬語モード、まだ抜けてないし……)
界は苦笑いする。
と、
「Was ist das?(それはなんですか?)」
なぜかリーゼがいつもより低い声でドイツ語で、問い合わせする。
あけましておめでとうございます。