【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜 作:広路なゆる
「ヨハンくん、どうしたのじゃ?」
電話を切ったヨハンにじいじが尋ねる。
普段、冷静なヨハンが明らかに狼狽えた様子で答える。
「た、大変です! 爺さんが……うちの爺さんが……倒れたみたいで……」
(……! ヴィンターシュタイン家のおじいさんが……!? それは一大事だ……!)
「な、なんじゃと!? そ、それじゃあ、急いで……きこ…………帰国せねば……」
「…………」
じいじの言葉に、ヨハンは何かを考えるように、今度は急に静かになる。
そして、
「白神のじいじさん……ちょっとお話が……」
「ぬ……?」
「ちょっとあちらで……」
「……わかった」
「……リーゼもおいで」
「あ、うん、わかった」
そうして、ヨハンとじいじ、そしてリーゼは少し離れたところで、三人で何やら会話していた。
界は、不安な気持ちで三人の様子を見ていた。
隣りで鏡美も静かに、しかし、じーっと様子を見ていた。
ヨハンが何かを言い、じいじは少し驚いたような顔をしている。
しかし、ヨハンは首を振る。
じいじが今度はリーゼの方に手の平を向け、ヨハンに何かを訴えている。
だが、リーゼがそのじいじの手の平を包み込むように取る。
じいじは驚いたように、リーゼの方に視線を向ける。
リーゼはじいじを見つめている。
じいじは観念したように頭を垂らす。
だが、最後に自分自身を指差し、険しい表情でヨハンに言う。
ヨハンは頭を下げる。
そこで会話は終わったようだ。
三人が戻ってくる。
そして、じいじが界に告げる。
「界、ちょっと想定外だったが、ヨハンくんとリーゼちゃんとは、ここで一旦、お別れだ」
「……うん」
(そりゃそうだよな……)
「じいじは二人を連れて行かなくてはならない。ヨハンくん、リーゼちゃん、それじゃあ、行こうか……」
「「はい」」
「鏡美先生、お世話になりました。直接お伝え出来ないのが忍びないですが、
「確かに承りました」
「そして、界くん、ありがとうな。君と出会えたことは僕にとって誇りだ」
ヨハンは笑顔で、そう言った。
「こちらこそです、ヨハンさん」
「…………」
リーゼは言葉が出ないようであった。
だから、界の方から、
「リーゼさん、お世話になりました。またね」
そんな言葉をかける。
「っっ……」
しかし、リーゼは返事ができないようであった。
「それじゃあ、白神のじいじさん、すみませんが、よろしくお願いします」
「あぁ」
そうして、三人は、車に乗って発つのであった。
(日本からドイツの飛行機ってどれくらい時間掛かるんだろうな……。ヴィンターシュタイン家のおじいさん……ご無事だといいのだけど……)
界はなんとなくそんなことを思いつつ……。
しばらく共同生活をしていたヨハンとリーゼとのあっさりとした別れ。
界にとっては、やっぱり少し寂しい別れであった。
◇
車が停止する。
「ありがとうございます、白神のじいじさん」
ヨハンは運転して、ここまで連れてきてくれたじいじに礼を告げる。
「……あぁ」
そうして、じいじ、ヨハン、リーゼの三人は車から降りる。
辺りを見渡せば、山だ。
だが、その一帯は平地となっている。
山の一部を切り崩したものの、開発が中断し、放置されたようであった。
要するに、そこは人里離れた場所であった。
「白神のじいじさん、ご迷惑をおかけします。ここなら、無駄な被害を出さずに済みます」
ヨハンはそう言うと、革のアタッシュケースを取り出し、地面に置く。
「僕は愚か者だ……。嬉々として、こんなものをあろうことか、日本に持ってきてしまうなんて……」
だが、
「ヨハンくん、今は嘆いても仕方がない。君は若い。そして、俺から言わせれば、君は十分に立派だ」
じいじは優しい口調でヨハンに告げる。
ヨハンとリーゼは自身らの祖父の危篤の報に接し、空港ではなく、こんな人里離れた場所へ来た。
それは封魔術の大きな問題点。
〝術者が消滅すると効果が消える〟ことにあった。
そして、ヨハンらは技術交流会のために、ヴィンターシュタイン家のじいじが封印していたガイストの依代を日本に持ち込んでいる。
つまり、ヴィンターシュタイン家のじいじがドイツの地で亡くなった場合、その封印が遠い地で解かれてしまうということである。
例えば、移動中の機内、日本からドイツのフライトの間に、ヴィンターシュタイン家のじいじにもしものことがあれば、機内が大惨事になることは想像に難くない。
「白神のじいじさん、本当に申し訳ありません」
「いんや、この事態を想定し、指摘できなかった俺にも問題がある。まさかあいつがこんなことになるなんて想像もできなかった……。いや、年齢を考えれば、いつこうなってもおかしくはないのだな……。自身の危機感の低さに辟易とする」
じいじは遠くを見るようにそんなことを言う。
ヴィンターシュタイン家のじいじに当てはまることはじいじ自身にも当てはまることであった。
「そんなこと……ないよ……」
そう言ったのはリーゼであった。
「っ……」
じいじははっとする。
「長生きして……」
それは六歳の女の子らしい言葉であった。
「ありがとう……リーゼちゃん」
しかし、このリーゼは六歳にして自身の責任を主張し、一人の
根本的な考え方として破魔師や
つまるところ例え若くとも、実力が伴うならば、その意思が尊重されるということだ。
そんな幼き
だが、今はゆっくりと感傷にひたる余裕はない。
「ヨハンくん、互いに後悔はあるだろうが、起きちまったものは変えようがない。今は目の前の問題に向き合う他ない。すでに日本の可能な限り優秀な破魔師に応援要請を出してはいる。しかし、すぐにここに来れるわけではない」
「応援要請……痛み入ります。では、僭越ながら現状の整理をさせていただきます」
「よろしく頼む」
「はい」
ヨハンは腰を落とし、革のアタッシュケースを開く。
石や瓶が詰まっている。
「ここには、11体……あ、いや、ヴォルフィは界くんが引き継いでくれたので、えーと、10体のガイストが封印された依代があります」
「うむ」
「もっとも楽観的なケースは、爺さんが危篤状態を脱すること……。その場合、何事も起きないわけですが、それはきっと……難しいです……」
「あぁ……」
「そして、もっとも悪いケースとして、今、この瞬間に、爺さんが……息を引き取り、この10体が同時に放たれてしまうことです。つまり、今、自分達がやるべきことは、封印が同時に解かれることを避けるべく、最小限のガイストの封印を解きながら、処置していくことです」
「うむ、同意だ。それで、ヨハンくん、その10体……。それぞれの強さはどれほどなんだ?」
「はい……。10体とも簡単な相手ではありません。ですが、その中でも特に強力なのがグリム・アスシュナーベルです」
「あぁ、あいつの最大の功績だろうな……」
「はい」
「つまりそいつを何とかすれば何とかなりそうということか?」
「そう……と言いたいところなのですが……実はもう一体……強力なガイストがいます」
「……!」