【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜 作:広路なゆる
「封印されたガイストは10体。最も強力なのがグリム・アスシュナーベルです。実はその他に、もう一体……強力なガイストがいます」
ヨハンの説明にじいじは静かに耳を傾けている。
「そいつの名はドッペルゲンガー……」
「奴か……」
「はい……、奴はうちの爺さんが封印したので……」
「わかった。説明は不要だ。なるほど……。では、どうするか」
「繰り返しになりますが、今、自分達がやるべきことは、封印が同時に解かれることを避けるべく、我々だけで対処できる最小限のガイストの封印を解きながら、処置していくこと。なので、一体ずつ封印を解きながら……」
「であれば、ヨハンくん、俺がドッペルゲンガーとやる」
「え……!? いや、ドッペルゲンガーは自分が……」
「恐らく、今ここにいる誰であってもそう簡単に倒せる相手ではないだろう?」
「…………はい」
「少しでも並列で処置した方がいいだろう。残念なことに俺はドイツ式の封魔術を解くことができない。であれば、俺が可能な限り厄介な相手と対峙し、その間に、君達が比較的くみしやすい相手を処置していく方が効率がいいのではないか?」
「……ですが……いいのでしょうか? ドッペルゲンガーは……」
「ヨハンくん、
じいじは少々、すごむように尋ねる。
「っ……! わ、わかりました……」
ヨハンはたじたじとした様子で頷く。
と、
「グリム・アスシュナーベルは……?」
「「!?」」
黙っていたリーゼが二人に尋ねる。
「「…………」」
二人は一瞬、沈黙してしまう。
先に口を開いたのはじいじであった。
「奴は…………後回しにせざるを得ない。現状では、あいつに粘ってもらい、その間に応援が来るのを待つ他ない……」
「リーゼ、グリム・アスシュナーベルは爺さんを含む多くの優秀な
「っ……」
その言葉にリーゼの表情も強張る。
「まずは自分達にできることをしよう」
「……わかった」
「それじゃあ、ヨハンくん、早速だが、頼む……」
「はい」
ヨハンは革のアタッシュケースから瓶を取り出す。
中にはパープルのオーラが揺らめいていた。
「それじゃあ、いきますよ……」
ヨハンは一呼吸し、そして、右手で空に文字を描く。
「Ziehe den Keil des Willens – gewähre dir Selbstbestimmung.(意志の楔を抜き、汝が自律を許す)
Zerschlage das Urteil – zerbrich das Band der Gerechtigkeit.(裁きを打ち砕き、正義の鎖を断て)
Öffne das Band des Leids – gib dem Schweigen nach.(苦しみの縛りを解き、静寂に委ねよ)」
空中に〝ᛗ〟〝ᛏ〟〝ᚾ〟の文字が描かれ、そして、瓶が割れる。
「ヨハンくん、ありがとう。そして、すぐに離れるのじゃ!」
「はい……、白神のじいじさん、すみませんがよろしくお願いします!」
そう言って、ヨハンはアタッシュケースを持ち、急いで距離を取る。
その間に、割れた瓶は強い光を放つ。
やがて光は収まり、そこには人影だけが残る。
そして、
「よぉ……、久しいな……
人影がじいじに語り掛ける。
「…………なんだ、元気そうじゃねえか……。ヴィリー……」
じいじは眉間にしわを寄せ、応える。
瓶から現れたのは50代くらいの男。
ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインの20年ほど前の姿であった。
「で……、ヴィリー……の姿をしたドッペルゲンガーさんよぉ……、姿はそのままでいいのか?」
じいじは目の前の敵に尋ねる。
「ん……? ドッペルゲンガー……なんのことだ? 元よ……」
「とぼけやがって……」
「……よくはわからぬが、特に今のままでいいようだが?」
「っ……」
ドッペルゲンガー。
それは形のない彷徨える亡霊。
だが、出会った者に姿を変えることができるという。
そのドッペルゲンガーが姿を変える対象は、出会った者の中で最強の者であるという。
「見誤ったな……ドッペルゲンガーよ……! 雷術〝
じいじは手の平を前に突き出し、速い初動で、輝く雷をドッペルゲンガーに放つ。
が……、
「……見誤ってなどいないでしょう?」
ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインの姿をしたドッペルゲンガーはにやりと口角を上げる。
ドッペルゲンガーの目の前には、鎧の騎士が現れ、雷から守る盾となっていた。
「…………守護霊体……か……」
じいじは眉間にしわを寄せる。
「ホムンクルスな……」
ホムンクルス。
それは日本の
「いい加減、横文字もちゃんと覚えろよ……。元……」
「っ……」
かつての友がいかにも言いそうなことを指摘され、じいじは唇を噛みしめる。
◇
「
それは拳銃の形をしたものであった。
ヨハンは古風なリボルバー式の拳銃の引き金を引く。
銃口から青白く煌めく弾丸が発射される。
「ゲギャァアアアアア!」
その弾丸が直立したイノシシのような怪物に直撃し、イノシシはさらさらと霧散していく。
「……よし」
ヨハンは小さく握りこぶしを作る。
「ヨハン、やったね……」
後方で見ていたリーゼもヨハンに軽く声を掛ける。
「あぁ……、だけど、今の奴は8体の中で、最弱のガイスト。僕はこれより強いガイストをあと7体、倒さなければいけない……」
「……うん」
「さぁ、ゆっくりしている時間はない。急いで、次のガイストの封印を解かないと……」
そう言って、ヨハンはアタッシュケースから綺麗な石を取り出す。
◇
「雷術合術〝
雷を纏ったじいじがドッペルゲンガーを強襲する。
しかし、振るった右腕は空を切る。
ドッペルゲンガーはサイドステップで、ひらりと攻撃をかわした。
空を切った右腕の勢いをそのままに、再度、右腕でドッペルゲンガーを襲う。
今度は、鎧の騎士の左腕がそれを止める。
「どりゃぁあああ!!」
「グギ……」
バチバチと激しい音を立てながら、鎧の騎士の左腕はひしゃげていく。
だが、
「ボ……」
「っ……」
鎧の騎士は、空いている右腕をカウンターでじいじに向かって繰り出す。
「くっ……」
じいじは身体を反ることで、間一髪、パンチを避ける。
雷を足に込め、鎧の騎士の胴を両足で蹴りながら、後方へ退避する。
両者は一定の距離を取り、睨み合うが、その間、
「ボォ……」
ひしゃげた鎧の騎士の左腕が形を整えていく。
「…………まぁ、元は魔力だからな……」
その結果に、じいじも驚きはしない。
「うーむ、流石は元……といったところか……。しかし……衰えたな……」
「っ……」
「人間の加齢とは残酷なものだ……。元……こんなにも弱くなって……」
「あぁ、確かにな……。老いて……衰えた……それは否定できん」
じいじは険しい表情で、肯定する。
「潔く認めるのだな……。ならば、力の差は明らかであろう……。さっさと負けを認め……」
「話は最後まで聞け、このクソせっかちが」
「なっ……!」
「俺は確かに衰えた……。だが、弱くなったとは言っていない」
「っ……!」
「見せてやるよ……。お前の知らない20年って奴をよ……」
じいじはゆっくりと重心を下げる。