【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜 作:広路なゆる
「俺は確かに衰えた……。だが、弱くなったとは言っていない。見せてやるよ……。お前の知らない20年って奴をよ……」
ドッペルゲンガーを前にして、じいじはゆっくりと重心を下げる。
すると、じいじの手中に長物の武器が現れる。
槍だ。
その槍は黒緑に光る細長い穂先を持っていた。
黒い柄に布が巻かれ、藍色の紐飾りが揺れていた。
「らっ!!」
じいじはドッペルゲンガーに向かって突進し、深くテイクバックした槍を突き出す。
ガキンという金属音が鳴り響く。
ドッペルゲンガーの
突きを防がれたじいじは一度、後退する。
と、
「くっくっくっ……」
ドッペルゲンガーは薄ら笑いを浮かべる。
じいじの突きは鎧騎士の脇腹を掠めた。
しかし、鎧騎士は先ほどと同じように、瞬く間に損傷を修復していく。
「『お前の知らない20年』なんてたいそうなこと言うからよぉ、ついつい身構えたが、ふたを開ければ、ただの魄術じゃねえか」
「っ……」
「おいおい、元よぉ……、20年の間にボケちまったのか? お前はもう20年前には、すでにその『槍』の魄術を使ってたじゃねえか……。なんなら身体能力の衰えがもろに影響してるじゃねえの」
「……そ、そうだったかのう?」
「……はぁ、悲しいぜ、元……。ここまで衰えたか……。そろそろこちらからも攻めさせてもらう」
ドッペルゲンガーがそう告げた瞬間、鎧騎士が猛然とじいじに突進し、一気に距離を詰める。
「きやがったか……」
じいじは顔をしかめる。
その間にも鎧の騎士は右の拳を叩きつける。
「っ……、あっぶね……」
じいじは雷術の肉体強化でなんとかそれを避けた。
しかし、先ほどまでじいじがいたその地面は激しく損傷していた。
もしもじいじがその場所にまだいたのなら、この戦いに決着がついていたと想像できる程に。
「『鉄拳の騎士』よ……そこの老いぼれを粉々に破壊しろ」
ドッペルゲンガーの命令に従い、騎士はすくっと立ち上がり、不気味に佇みながらじいじを見据える。
◇
「ギァアアアアア!!」
巨大なウサギの姿をしたガイストが奇声をあげる。
それは断末魔……というわけではなく、奇声をあげながらヨハンに襲い掛かっていたのだ。
「くっ……」
モフモフした丸っこいフォルムに対し、凶暴な牙を持つウサギは連続的にヨハンにかじりつこうとする。
それを何とか回避しながらヨハンは嘆くように呟く。
「っ……、ハーゼルめ……。キラーラビットの異名を持つだけはあるな……」
ハーゼル、それは8体のうちの5体目のガイストであった。
「
ヨハンの持つ拳銃から青白く煌めく弾丸がハーゼルに向かって射出される。
だが、その弾丸がハーゼルの身体に届くことはなかった。
ハーゼルは前足から伸びる巨大な爪で、弾丸を叩き落としたのだ。
「ヨハン……」
傍らで見つめるリーゼは心配そうに兄の名を呼ぶ。
「くっ……、そろそろ
ヨハンは徐々に強力となっていくガイストと戦い続けるべく、可能な限り魔力を温存していた。
日本式における妖術に当たる
それは、ひとえにヨハンの才能と努力の賜物であった。
だが、ヨハンの実力はむしろここからである。
ヨハンの切札。それは、
「いくよ……」
ヨハンが静かにそう呟くと、魔力の発現量を増やす。
すると、ヨハンの魔力は瞬く間に騎士のような姿に変質していく。
現れた騎士は目の前の巨大ウサギであるハーゼルを見据えると……、
「私は燃ゆる流れ星。愛を叫び、地に堕ちる。その衝撃は大地に花畑を咲かせるだろう……」
ポエムを呟く。
「ギャ……?」
突如現れたポエマーにハーゼルは理解できるはずもなく、呆然としていた。
その時であった。
「グギャァアアアアア!!」
ハーゼルは圧し潰されてた。
頭上から突如、流星のごとく、騎士が降り注いだのだ。
「んん~~、起句としては悪くないねぇ……」
騎士はご満悦である。
「出た……。ヨハンの喋る
リーゼは幾分、眉をひそめながら呟くように言う。
「んん~、リーゼちゃん、相変わらず世界一可愛いねぇ」
「…………」
リーゼの存在に気付いた
一方のリーゼは
そして、ぼそっと呟く。
「……なんでこの
通常、
通常と述べたのは例外があるからだ。
それがリーゼのローレライのように代々継承されるケースだ。
そうでない術者オリジナルの
にもかかわらず、ヨハンの
「本来、
「その通りさ~、愛しのリーゼ、僕の意思は……」
と、
「さぁ、リーゼ、次のガイストの封印を解くよ」
「あ……うん……。と言っても、私は何も……」
リーゼは視線を泳がせる。
「…………さぁ、いくよ」
ヨハンはリーゼの様子に触れることなく、革のアタッシュケースから淡々と瓶を取り出す。
そして解呪を始める。
解呪は順調に進み、瓶が光を放ちながら割れた。
光の中から、細長い姿をしたガイストが現れた。
それは8体中、6体目のガイスト〝タッツェルヴルム〟であった。
「シャァアア!!」
タッツェルヴルムがヨハンを威嚇するように牙をむき出しにする。
その頭部は猫のようであった。
つまり蛇のような細長い身体に、猫の上半身がくっついているような奇妙な姿をしている。
その不気味な姿を見ながら、リーゼは顔を強張らせ呟く。
「タッツェルヴルム……、今までの5体とは比べ物にならない……」
「そうだね……、ここからが本番かもしれないね……」
ヨハンは一層の覚悟をもって、タッツェルヴルムの姿を見据える。
「シャァアア!!」
タッツェルヴルムの猫のような頭部から、蛇のように長い舌がチロリと覗く。
次の瞬間、その姿がブレた。
「速い……!」
タッツェルヴルムはヨハンの懐を狙う。
細長い身体をしならせ、死角から紫色の毒々しい爪を突き立ててくる。
「させないよ」
しかし、タッツェルヴルムは体勢を崩すことなく、即座に身を翻して距離を取った。
「シャアア!」
再びタッツェルヴルムが突進する。
今度は直線的な動きではなく、地面を蛇行しながら幻惑的な動きで
「まるで、気まぐれな淑女の心模様のようだねぇ……」
だが、タッツェルヴルムの猛攻は止まらない。
爪による連撃、毒液の吐き出し、そして長い尾による薙ぎ払い。
「くっ……!」
紫色の毒が瘴気のように鎧の隙間から立ち上る。
「ヨハン、援護を!」
「分かっている!
ヨハンがすかさず霊素の弾丸を撃ち込む。
しかし、タッツェルヴルムはその俊敏さでひらりと回避する。
「ああ……、この胸の痛み……。届かぬ想いを抱えたまま、毒に蝕まれていくようだ……」
膝をつきそうになるのを堪え、
「なんと悲しき恋物語……。愛する人を守るためのこの剣が、今はこんなにも重いとは……」
その呟きは、いつしかポエミーに変化していく。
「ああ、似ている。汝が牙は、我が心を蝕む失恋の痛みに。触れることさえ叶わぬ、愛しき人の幻影に、私はまた恋をする……」
よくわからない詩の内容とは裏腹に、
騎士のオーラは、情熱の赤と絶望の黒が入り混じったような禍々しい輝きを放ち始めた。
「ギャウ!?」
その尋常ならざる気配に、タッツェルヴルムは初めて警戒の色を見せる。
「悲劇とは……常に甘美なものである……」
ぬらりと立ち上がった
次の瞬間、
彼はタッツェルヴルムの頭上に現れていた。その長剣には、燃え盛るような赤黒いオーラが渦を巻いている。
「
振り下ろされた一閃は、冗談のような速度で、タッツェルヴルムは断末魔の叫びをあげる間もなく、情熱的な光の中に飲み込まれ、霧散していった。
静寂が戻った中で、
「この戦いが終わったら……故郷の妹に……」
そう言い残し霧散する。
が、再び……ヨハンは魔力を練り、
「やぁ、ヨハン。久しぶりだね」
「冗談はよせ。
ヨハンは
「ん……君の望んだことだろう?」
「……」
「さて……次……7体目だ……」
だが、すぐに気持ちを切り替える。
「ヨハン、本当に大丈夫なの?」
そんな兄にリーゼは心配そうに声をかける。
「大丈夫かどうかじゃない……やるしかないんだよ」
ヨハンは革のアタッシュケースに手を伸ばす。