【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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06.妖術と魄術と妹

 界は鏡美から心技体のうちの体について説明してもらった。

 次に〝技〟について教えてもらうことになった。

 

「まずは()です。()とは、すなわち(わざ)です。いや、そのままなのですが、技なのだから仕方がありません。破魔師の技は、一般的に〝妖術(ようじゅつ)〟と呼ばれております」

 

「妖術?」

 

「はい、妖術は特定の型に則り、魔力を形にいたします」

 

「おぉー」

 

(なんかすごそうだ……)

 

「魔力を風、炎、土、雷、水の五大属性のいずれかに形を変えて、放つことができます」

 

「見てみたいです……」

 

 界はキラキラとした瞳で、鏡美を見る。

 

「っ……、わ、わかりました。それでは僭越ながら私が……」

 

 鏡美はそう言うと、腕を前に出し、手の平を上に向ける。

 そして、小さな声で呟く。

 

「炎術〝蛍火(ほたるび)〟」

 

 鏡美の手の平に小さな炎が灯る。

 

「……このような感じでございます」

 

「おぉー……」

 

 初めて実際に目にする魔術に、界は少なからぬ感動を覚える。

 

「す、すごいです」

 

「えっ……!? えーと……はい……あ、ありがとうございます」

 

 鏡美は驚いたような照れくさそうな微妙な表情をしていた。

 

「あの、それで先生……それってどうやってやるんですか?」

 

「あ、えーと……妖術については、それぞれの技について〝術ノ書〟という教科書のようなものがあります」

 

「なるほどです……その術ノ書を読めばいいんですね」

 

「いえ、術ノ書に触れればいいのです」

 

「え……? 触れるだけでいいんですか?」

 

「そうです。ただし、術ノ書に触れてからが本番です。術ノ書に触れると体に術式が流れ込みます。そこからは、その技を実行するイメージトレーニングを繰り返します。その方にその術の適正がない場合、どれだけトレーニングしてもできない場合もございます。とはいえ、一度、技に成功すると、不思議なもので次からは容易に発動できるようになります。ただ……」

 

「ただ……?」

 

「術ノ書注入の副反応が結構辛いです」

 

 鏡美は引きつったような顔で言う。

 

「な、なるほどです」

 

(こりゃ、相当、辛そうだ……)

 

「それじゃあ、鏡美先生、術ノ書を貸してください」

 

「えーと、はい?」

 

 界の言葉を聞いた鏡美は豆鉄砲をくらったような顔をする。

 

「界様、話聞いてましたか? 術ノ書注入には辛い副反応がございまして……」

 

「あい……やってみたいです」

 

(父と母が前世で亡くなった六歳まではそう時間がない。可能な限り最短で強くならないといけない……)

 

「っ……」

 

 鏡美は言葉に詰まる。が……、

 

「なりません……、せめて保護者様に許可を得てからでないと」

 

 鏡美にとって、依代の子からの要請を断るのは命がけであった。

 それでも鏡美は指導者としてのプロフェッショナルを貫いた。

 すなわち、児童の安全を第一とすることである。

 

「そ、そうですよね。今日帰ったら、父ちゃんに聞いてみます」

 

「はい……」

 

【ふむ……小僧……どうしてもやりたいのなら、この儂様が術式を注入してやらんこともないが……】

 

(おっ、今日は妙に静かだと思ったら……)

 

「えっ? ドウマ、そんなことできるの?」

 

「はい……?」

 

(あ、やべ……)

 

 界はうっかりドウマとの会話を口に出してしまい、鏡美は不思議そうな顔をしていた。

 

「あ、えーと、なんでもないです」

 

 界は適当に誤魔化す。

 

(「それでえーと、ドウマ、そんなことできるの?」)

 

【ま、まぁな……】

 

(ん……? 若干、いつもよりしおらしいような……)

 

「ありがとう、でも今はいいや」

 

 界は保護者に許可を得てからという鏡美の意志を尊重したかった。

 

【そうかい……】

 

 そうして、その日は、体術の訓練……という名の筋肉トレーニングを行った。

 幼児向けのスペシャルメニューだ。

 しかし、それはそれで、結構、きつかった。

 

 

 

 翌日――。

 

「鏡美先生、父ちゃんから術ノ書の許可をもらいました」

 

「はい、お父様からご連絡いただいております」

 

 界は昨日、訓練終了後に妖術の訓練について父に相談した。

 父は少し悩んでいたが、母にも確認しつつ、OKの許可をくれたのであった。

 

「それではこちらを……」

 

 鏡美はアタッシュケースから書物をごそごそと取り出し、そして道場の床に置く。

 

「これが……」

 

「はい、術ノ書でございます」

 

 界は息を呑む。

 

「ただ、まずは初歩です。昨日、私がお見せした〝蛍火〟の書でございます」

 

「わかりました」

 

「それでは、準備ができましたら、術ノ書に触れてください」

 

「あい」

 

 界は意を決して、術ノ書に触れる。

 

(っ……!)

 

 術ノ書に触れた瞬間、界は熱い何かが身体中を駆け巡る感覚がした。

 そして頭の中に技のイメージが流れ込んでくる。

 

「界様、大丈夫そうですか?」

 

「はい、今のところ……」

 

「よかったです。それでは、ここからが本番です。技を放出するよう魔力を練って、放出するイメージです」

 

「わかりました」

 

 界は鏡美がそうしていたように、腕を前に出し、手の平を上に向ける。

 

「やります……妖術〝蛍火〟」

 

(…………)

 

 結論、なんも出なかった。

 

【あはははは! お前、なんか雰囲気、一発で成功させちゃいますよ……みたいな感じ、醸し出してたのに何も出ないじゃねえか】

 

(……おい、やめろ。なんか恥ずかしいだろ)

 

 ドウマの冷やかしが界には結構クリティカルヒットする。

 

「っっ……」

 

 鏡美も絶句している。

 

(うわ……鏡美先生、絶句する程、驚いてるよ……)

 

「なぜ、できな……まさか……っっ……あ、も、申し訳ございません!」

 

(できないことに驚いた上に、まさかの(あわれ)みの謝罪……やっぱりこの妖術ってめちゃくちゃ簡単なんだろうな……)

 

 界は少しへこむ。

 

「え、えーと……界様……やはりまずはしっかりと体術の訓練をいたしましょう。体術は少々、地味ではありますが、決して無駄になることはございません」

 

「……あい」

 

 結局、その日は体術の訓練という名の筋肉トレーニングを行った。

 やはり、それはそれで、結構、きつかった。

 

 

 

 翌日――。

 

「鏡美先生」

 

「あ、はい……どうなさいましたか? 界様」

 

 界は鏡美に会うなり、ニマニマとしながら、声を掛ける。

 

「見ててくださいね」

 

「……? はい」

 

「妖術〝蛍火〟」

 

 界の手の平から、ほんのりと青い炎が発生する。

 

「っ……!!」

 

 その様子を見た鏡美は明らかに動揺する。

 

「界様……これは……?」

 

「えーと、実は昨日、悔しくて訓練の後、自主練してみました」

 

 界は鏡美との訓練の後、こっそりと蛍火の練習をしたのだ。

 何度も何度も失敗を繰り返したが、ついに小さな炎を出すことに成功したのだ。

 

「これを……界様()()()で……?」

 

「……ん? そうですけど……」

 

「っっ……」

 

 鏡美はやはり絶句する程、驚いていた。

 

 そんな様子を見て、界は思う。

 

(鏡美先生、昨日はできないことに驚いてたけど、今日はできたことにこんなに驚いて……鏡美先生ってひょっとしてリアクション芸が得意なのかな?)

 

 そんなことはない。

 鏡美がこれほどまでに驚いていたのには理由がある。

 

 依代の子が簡単な妖術すら使えないこと。

 普通の子の四歳児が妖術を使えること。

 

 どちらも別の意味で前例がなかったのだ。

 

「はぁ……鏡美先生、でもこれでちょっとすっきりしました」

 

「え……?」

 

「自分、全く才能がないのかなぁと思っていたので……」

 

「そ、そんな……界様、滅相もございません」

 

「はは……」

 

(励ましてくれてるな……なんかリアクション激しいけど、なんだかんだ、鏡美先生は優しいな……)

 

「あのそれで、先生……できれば〝(しん)〟についても概要を教えていただけないでしょうか?」

 

「え……?」

 

 これまで心技体のうち、体が体術、技が妖術までは教わったが、心については何も聞いていなかった。

 

「そ、そうですね……心については、しばらくはお預けになるかと思いますが、ご希望であれば概要についてはお話いたします」

 

「お願いします」

 

(しん)……それはすなわち(たましい)を映し出す術です。その特殊な術は魄術(はくじゅつ)と呼ばれています」

 

魄術(はくじゅつ)……? 妖術とは何が違うのですか?」

 

「妖術は言ってしまえば、適正さえあれば誰にでも使うことができます。一方で魄術は、術者の心を形にした術です。すなわち、()()()()の術というわけです」

 

「な、なんだかすごそうですね」

 

「えぇ……そもそも魄術(はくじゅつ)は使える者自体がそう多くはありません」

 

「そうなんですね……それで鏡美先生、どうやって使うんですか?」

 

「全く……界様はせっかちですね…………あっ! 私としたことが……た、大変申し訳……」

 

「鏡美先生、いちいち謝らなくていいですよ」

 

「えっ…………は、はい……」

 

 鏡美は虚を突かれたような顔をしている。

 

「あ、それでえーと、魄術の使い方なのですが……これに関しては本当に特に教えられることはございません。その才がある者は魔力の形を変えることができるのです」

 

「な、なるほどです……」

 

(魔力の形を変える……か……)

 

 界はふとどんな感じかなと魔力に意識を向ける。

 

「あぁあああ! 界様、ストップです!」

 

「え……!?」

 

「お、恐れ入ります。い、今、魔力の形を変えようとしませんでしたか?」

 

「あい……ちょっとやっちゃいそうになりました……」

 

「それ自体は悪いことではないのですが……実は魄術は一度、魔力のイメージが固定化されると二度とその形を変えることができません」

 

「……!」

 

「魄術能力者の中には、どうも術にしっくりこないと悩まれる方もいらっしゃいます。な、なので……しっかりと自分の(たましい)と向き合った上で、挑戦された方が……」

 

「あい……鏡美先生、教えてくださりありがとうございます」

 

(一度、魔力のイメージが固定化されると二度とその形を変えることができないか。危ない危ない……。要するにうっかりお試しで、〝○んこ〟とか作っちゃったら、それが固有能力になってしまうということか……?)

 

 そんなアホなことを考えていた界はふと気づく。

 

(あれ……? 前にも一度、魔力を変形させようとしたことが……)

 

 それは界が二歳の時だった。

 母にスマホをロックされてしまった界は独学で魔力を変形させようとしたのである。

 

(憎まれ口を叩きながら、それを止めてくれたのは……)

 

【…………】

 

「……ありがとな、ドウマ。お前って実は結構、いい兄貴分だよな……」

 

【っ……!? はぁ!? 急にどうした!? 何がだよ!】

 

 界の突然の謝意に、ドウマは少し動揺していた。

 

【というか、小僧……! 貴様は一つ大いなる誤解をしている!】

 

(へ……? ……!)

 

 ふと、気づくと鏡美が界をじっと見ていた。

 

(あ……やば……またドウマとの会話を口に……)

 

 界はちょっと焦ったのち、妙に冷静になる。

 

(まぁ、いいか……このくらいの年齢ってのは、内なる自分と会話しちゃう感じでしょ……)

 

 それは中学二年生くらいの話であり、四歳児には少し早い。

 

 ◇

 

「界! 5歳のお誕生日おめでとうー!」

 

 バースデーケーキを囲んで父と母が優しく微笑んでいる。

 

 界は5歳となった。

 鏡美との訓練を初めてから早いもので一年ほどが経過していた。

 おかげで幼児ながら結構、身体がちょいバキになっていた。

 

 この件について、界は身長が伸びなくなってしまうのではないかと少し不安になり、鏡美に尋ねた。

 

 すると、鏡美は、幼少期に筋トレをすると身長が伸びにくくなるという噂には科学的に根拠がないと教えてくれた。

 それはそれとして、破魔師は小柄でも不利になることはなく、むしろ的が小さく、俊敏である点は有利に働くということも教えてくれた。

 その話を鏡美から聞いた界は、確かにメッ○やリヴァ○は小柄だけどめちゃ強だよな……と納得するのであった。

 

(しかし、五歳か……)

 

 五歳ということは、前世で両親が亡くなる六歳まで、残すところ一年である。

 正確には、界の誕生日は4月3日、そして両親の命日は4月14日頃であった。

 

(実際に運命の収束なんてものがあるのかはわからない。だけど、あと一年と少ししかない……訓練も緊張感をもって取り組まねば……)

 

 界はひっそりと決意する。

 

 と、

 

「界、欲しがっていた誕生日プレゼントだぞーー!」

 

 そんな決意のことなど知らない父が嬉しそうに袋を取り出す。

 

「うわぁああ、ありがとうぅ」

 

 界は極力、子供っぽい反応で喜ぶ。

 

「しかし、父は安心したぞ。界がWi○ Uなんていう子供らしいものを欲しがって」

 

「へへ……」

 

 界は外面で照れ笑いし、内心苦笑いする。

 

(これでようやく…………自由にブラウジングができる)

 

 そう。Wi○ UにはインターネットでWEBサイトを閲覧できるブラウジング機能がついているのだ。

 界の狙いはそれであった。これで魔術関連の情報を自分で探せる。

 正直言うと、ノートPCかタブレットの方がよかったのだが、5歳児の誕生日プレゼントとしては少々、無理がある。ゲーム機も厳しいかと思ったが、普段、一切、そういうものを欲しがらなかったのが功を奏したようだ。

 

(しかし、2015年ってまだswitc○発売してないのな……)

 

 そんなどうでもいいことを思っていると、

 

【おい、なんだ!? このかっこよいカラクリは!? おい、小僧! 儂様にもやらせろ!】

 

(…………なんか妙にきゃっきゃしている奴がいるが放っておこう……)

 

 と……、

 

「ふ、ふにゃああ! ふにゃぁあ!」

 

 母の腕の中で眠っていたもう一人の人物が突然、目を覚ます。

 

「あら、(めぐり)、あなたもお兄ちゃんの誕生日のお祝いをしたいのかしら?」

 

 母がそう言って、微笑む。

 

 そう、彼女は(めぐり)。もうすぐ一歳になる界の妹である。

 

 そんな巡の姿を見て、

 

(妹よ…………()()可愛いではないか……)

 

 界は目を細める。

 

 ()()という言葉がついたのには理由がある。

 前世において、二人はそんなに仲良くなかったのだ。

 

 巡は母に似て、とても美人に成長することを界は知っている。

 

 しかし、〝雑魚兄貴クソ〟。

 それが前世における界の呼び名であった。

 

(せめてクソ雑魚兄貴がよかった……)

 

 クソ雑魚兄貴はまだギリギリ兄であるが、雑魚兄貴クソはクソの方がメインである。

 

 そんな悲しい前世を思い起こす界は、

 

「巡……よしよし……」

 

 泣いている巡のほっぺを優しく撫でる。

 

「ふにゃ……」

 

 巡は不思議そうな顔をして泣き止む。

 

「界……! 優しいのね……!」

「界、お前は将来、女の子にモテモテだ!」

 

 母と父はそんな界を大袈裟に褒める。

 そんな両親を見て、界はふと思う。

 

(……父ちゃんと母さんを亡くしてさ、お互い未熟で、前世ではけっこう辛く当たっちゃったよな)

 

 界は前世でほぼ絶縁状態であった妹との関係を少し悔やんでいた。

 だから……、

 

(今世では、極限まで優しくしてやろう……)

 

 そんな決意をするのであった。

 

 ただ……どちらかと言えば、兄妹は喧嘩するのが普通である。

 

「そうだ! 界と巡が結婚すればいいんじゃないか! がはは!」

 

(…………何言ってんのこの(ひと)……)

 

 界は父を白い目で見る。

 

「あらあら、パパは少し気が早いでちゅね」

 

 母はそんなことを言いながら穏やかに微笑んでいる。

 

 しかし、界が、この父と母の発言が必ずしも冗談ではなかったことを知るのは少し先である。

 この世界に霊魔が普通に存在すること……以外にも変わっていることが少しあった。

 

「ふにゃぁあ」

 

 そんなことを知ってか知らずか、巡は呑気にあくびをする。

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