【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜   作:広路なゆる

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60.怪鳥

「う、嘘……でしょ……」

 

リーゼは震える声で呟く。

 

目の前に現れた怪鳥は、いともたやすく堅牢な巨人を真っ二つにした。

 

地に落ちた巨人の身体は砂のように消えていく。

 

それと反比例するように怪鳥の姿が鮮明になっていく。

 

その体躯は、先ほどの巨人ほどではないにせよ大きかった。

放つ威圧感と禍々しさは、ヨハンとリーゼがこれまで対峙したどのガイストとも比較にならなかった。

漆黒の羽は艶がなく、まるで病に侵されたように所々が抜け落ちている。

そして何より異様なのは、その頭部。

鳥の頭蓋骨を思わせる白い仮面のような顔に、長く湾曲した嘴が突き出ている。

それはまるで病気を思わせるマスクのようで不気味である。

虚ろな眼窩(がんか)の奥で、赤黒い光が病の熱のように揺らめいている。

その体からは、死と腐敗の臭いが混じったような瘴気が立ち上り、周囲の空気を淀ませていた。

 

「グリム・アスシュナーベル……」

 

その姿を視認したヨハンの額から汗が滲み出る。

 

「ヨハン……あいつが出てきたってことは……」

 

「あぁ……」

 

「……っ……」

 

封魔術には問題点がある。

それは術者が亡くなると、その術が解かれること。

 

グリム・アスシュナーベルの封が解けたということ。

それは即ち、術者であるヨハン、リーゼの祖父、ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインが遠く離れた地ドイツで亡くなったことを示していた。

 

「おじいちゃん……」

 

リーゼは悲しげな声を漏らす。

 

だが、

 

「リーゼ……、はっきりと言う。今はじいさんのことは忘れろ」

 

「……! う、うん」

 

ヨハンの言葉にリーゼは前を向く。

 

……が、向いた先にあるのは、その視線をすぐに逸らしたくなる程の絶望である。

 

「キィィィィィィ……」

 

グリム・アスシュナーベルが甲高い音を発する。

それはまるで、断末魔の叫びを集めて凝縮したかのような不快な音色だった。

 

「来る……。リーゼ、とにかく距離を取って……!」

 

ヨハンは残された僅かな魔力をかき集め、霊晶砲(エーテル・グランヴィル)を放つ。

しかし、青白い弾丸は怪鳥に届く前に、その身から立ち上る瘴気に触れて霧散してしまった。

 

「なっ……!?」

 

「ラァアアア!」

 

リーゼは即座にローレライの歌声を響かせる。

清浄な魔力の波紋が瘴気を打ち払おうとするが、グリム・アスシュナーベルは意にも介さない。

それどころか、瘴気はより一層濃くなり、リーゼの歌声そのものを侵食していく。

 

「きゃっ……あぁあああ……!」

 

リーゼの喉が焼けるように痛み、歌声が途切れる。

 

次の瞬間、グリム・アスシュナーベルの姿がブレた。

凄まじい速度で飛翔し、二人の頭上を取る。

 

「上だ!」

 

見上げた二人に対し、怪鳥は巨大な翼を一度だけ羽ばたかせた。

すると、抜け落ちた漆黒の羽根が、無数の矢となって降り注ぐ。

 

「くっ……!」

 

ヨハンはリーゼを突き飛ばし、自らは地面を転がって回避する。

羽根が突き刺さった地面は、瞬く間に黒く変色し、腐敗していった。

 

「キィィ……キィィキッキ」

 

グリム・アスシュナーベルは、まるで楽しんでいるかのような奇妙な音を発っしながら、ゆっくりと降下してくる。その嘴が開き、中から黒い霧のようなものが吐き出された。

 

「リーゼ、まずい……!」

 

ヨハンは直感的に危険を察知し、リーゼの手を引いて後方へ跳ぶ。

霧が通り過ぎた場所の木々や岩が、まるで数百年もの時が経過したかのように、一瞬で朽ちて崩れ落ちた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

絶望的な状況に、リーゼは膝が震える。

ヨハンもまた、魔力切れと疲労、そして瘴気による消耗で、立っているのがやっとだった。

 

グリム・アスシュナーベルは、そんな二人を嘲笑うかのように、ゆっくりと歩み寄ってくる。

その眼窩の奥の赤い光が、まるで死の宣告のように、二人を捉えていた。

 

その時であった。

 

一本の(いかづち)がグリム・アスシュナーベルの身体に触れた。

 

「ギィ……?」

 

グリム・アスシュナーベルは不思議そうにそちらに視線を向ける。

 

 

 ヨハンとリーゼも同じ方向を見る。

 

 そしてヨハンがその人物の名を呼ぶ。

 

「白神のじいじさん……!」

 

 そこにいたのは、界のじいじであった。

 

「せぇあっ!」

 

 そのじいじは槍でもって、グリム・アスシュナーベルに一撃を加え、ヒットアンドアウェイで、すぐに後退する。

 

「キイィ……」

 

 だが、グリム・アスシュナーベルにダメージはないようで、首を軽く(かし)げるのみであった。

 とはいえ、不意を突かれたことで、いくらか警戒している様子もあった。

 

 その間、

 

「よかった……、じいじさん……」

 

 リーゼも束の間の安堵を見せる。

 

「じいじさん、ドッペルゲンガーを……、っ……!」

 

 この時、ヨハンはふと一つの可能性を思いつく。

 

 まさか……今ここにいるのが……ドッペルゲンガーなのではないか? ということだ。

 

 その可能性に気が付いたヨハンは顔を強張らせる。

 

「……ヨハンくん、君は本当に優秀だな」

 

 常に最悪の可能性を考慮するのは、破魔師として優秀な証拠であった。

 

「だがまぁ、俺はドッペルゲンガーではない。俺は俺だ……」

 

「っ……」

 

 この状況では証明のしようがなかった。

 

 だが、

 

「信じますよ……。貴方がうちの爺さんの偽物なんかに負けるはずがない」

 

「その通りじゃ」

 

 じいじは、にかっと笑う。

 

 ◆

 

 少し前のこと。

 

 界のじいじである(げん)が対峙していたのは、ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインの20年ほど前の姿をしたドッペルゲンガーであった。

 

 ドッペルゲンガーは、ヴィルヘルムの守護霊体(ホムンクルス)『鉄拳の騎士』によりじいじに迫っていた。

 

 肉体的に衰えていたじいじは魄術で具現化した槍により、鉄拳の騎士に一撃を入れるも、鉄拳の騎士はすぐに再生してしまった。

 

「おいおい、元よぉ……、20年の間にボケちまったのか? お前はもう20年前には、すでにその『槍』の魄術を使ってたじゃねえか……。なんなら身体能力の衰えがもろに影響してるじゃねえの」

 

「……そ、そうだったかのう?」

 

「完全にボケてるな……。もういい……。『鉄拳の騎士』よ……そこの老いぼれを粉々に破壊しろ」

 

 ドッペルゲンガーがそう呟くと、鉄拳の騎士は猛烈な速度で、じいじに接近する。

 

 そして、その鉄の拳を振り下ろす。

 

「っ……」

 

 じいじは雷術の肉体強化を駆使しながら、かろうじてその攻撃を回避する。

 

「追い打ちをかけろ……鉄拳の騎士よ……」

 

 ドッペルゲンガーの指示に従い、鉄拳の騎士はじいじに対し、乱打を仕掛ける。

 

「……っ」

 

 じいじは一方的に、責め立てられる苦しい展開となり、唇を噛みしめる。

 

「どうした? 元よ……、逃げているだけでは勝つことは難しいぞ」

 

「……ちっ……、おしゃべりが好きなところは本物そっくりだ。だから今、なんとか打開する方法を考えているのじゃ」

 

「そうかいそうかい、ぜひ、とびっきりの方法を考えて楽しませてくれよ……!」

 

 会話の間にも、鉄拳の騎士の猛攻は収まることはなかった。

 

 そんな状況がしばらく続いた。

 

 

 

「お、おい……元……、いつまでそうしているつもりだ?」

 

 ドッペルゲンガーは僅かにではあるが、焦っていた。

 

 特に、状況が不利になっているとかそういうことではない。

 むしろ、全く状況が変わっていなかった。

 

 あれからじいじはひたすら鉄拳の騎士の攻撃を避け続けるのみ。

 速度では鉄拳の騎士に利があるのだが、経験によるものなのか、スレスレではあるものの、大きなダメージを受けることもなく、のらりくらりと避け続けていた。

 

 少々、奇妙であったのは、逆に、なにか状況を打開するようなこともしていなかったのだ。

 

「おい、なにか打開する手段を考えているんじゃなかったのか?」

 

 ドッペルゲンガーはしびれを切らし、思わず、そんなことを尋ねる。

 

「…………はて?」

 

 じいじはそんなこと言いましたか? とでも言うように聞き返す。

 

「この老いぼれ……本当に完全にボケてやがるのか?」

 

 ドッペルゲンガーは怒りの表情を浮かべる。

 

「いや、すまんすまん……。なんとか打開する方法を考えている……確かにそう言ったかもしれない」

 

「……?」

 

「嘘なんだな、これが」

 

「っっ……!?」

 

「実は、なーんも考えておらん」

 

「ど、どういう……?」

 

 ドッペルゲンガーが疑問に思ったその時、

 

「ギアァアアアアアアアア」

 

 突如として、鉄拳の騎士がうめき声をあげ始める。

 

「なっ……!? どういう…………、ま、まさか……」

 

「そう……」

 

 じいじは自身の持つ槍の切っ先に視線を向ける。

 

「毒なんだな、これが」

 

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