【爆アド】生まれた直後から最強悪霊と脳内バトルしてたら魔力量が測定可能域を超えてました〜悪憑の子の謙虚な覇道〜 作:広路なゆる
じいじは自身の持つ槍の切っ先に視線を向ける。
「毒なんだな、これが」
「ギアァアアアアアアアア」
鉄拳の騎士はなおも、うめき声をあげている。
「鉄拳の騎士よ……! 再生せよ!」
ドッペルゲンガーは叫ぶ。
しかし、
「グギィイ……」
再生はおろか、消滅させることもできなくなっていた。
想定外の状況に、ドッペルゲンガーは焦りの表情を浮かべる。
「くっ……、毒だと……? そ、そんな能力……20年前には……」
「だーから言ったじゃろ。これが『お前の知らない20年』って奴だよ」
「……なっ……?」
「お前の言うように、じじいになって身体の衰えがあった。それまでのように物理的な攻撃で圧倒するやり方に限界を感じた。だから、俺も進化する必要があった」
「……っ、進化って……、しかし、毒などという複雑な構造を魔力で形成するなど……、そんな容易いことじゃ……」
「だから、容易くなかった。いっぱい頑張ったの。年甲斐もなく……。んー、しかし、
「っっ……」
「おっ、効いてきたかな?」
「っっ……、ま、まさか……」
「そうじゃ。毒といっても普通の毒じゃないんだよ。魔力で形成された特殊な毒じゃ。対象の魔力に直接注入することで、その魔力源にも作用する。まぁ、効いてくるまでに時間がかかるのがちと難点だがの」
じいじの〝封毒の黒槍〟は遅効性の能力であった。
毒が回るまでに時間がかかるが、魔力源にまで作用する。
一方で、効果時間が有限である制約もある。
しかし、効果が発動している間は、
「なぁ、身体も硬直するし、魔力も使えないだろう?」
「っっっ」
ドッペルゲンガーは歯ぎしりする。
その間に、じいじはドッペルゲンガーへとゆらりと接近する。
拳には今にも炸裂しそうな稲妻が帯電している。
「この技はな、威力は高いがいかんせん予備動作がでかくてな……」
「く、くそっ……、見誤ったか……、まさか老いぼれの貴様の方が強いとは……。こいつが……こいつが弱いせいで……」
「あほか」
「な!?」
「
「っっ……!?」
「それじゃあな……。偽物とはいえ、多少、懐かしくはあった。雷術……〝
雷の
◆
「ヴィリーは……逝ったか……」
グリム・アスシュナーベルを前に、じいじは呟く。
「それにしてもヨハンくん、リーゼちゃん、よくこの状況を持ちこたえてくれたな……」
「……はい」
ヨハンが応える。
「しかし、俺が来たことで状況がいくらかマシになったかもしれぬが、耐える時間が続くことに変化はない」
ヨハンにはじいじのその言葉の意味が理解できた。
じいじは日本の可能な限り優秀な破魔師に応援要請を出したと言っていた。
「じいじさん……、じいじさんの見積もりでは、あとどれくらいで救援が?」
「……早くて30分」
「……30分」
ヨハンは息を呑む。
30分という時間はとてつもなく長く感じられたのだ。
「君達はひどく消耗しているようだね、なるべく俺がグリム・アスシュナーベルの注意を引き付ける。君達もどうにかして生き残れ……!」
じいじはそう言うと、グリム・アスシュナーベルに向かって駆け出す。
「……すみません……、お願いします、じいじさん……」
それからじいじはグリム・アスシュナーベルの猛攻を避け続けた。
危険な瞬間もあったが、それでも大きなダメージなく避け続けたのだ。
無駄口を叩くこともなく、いや、叩く余裕すらなく回避行動を続けていたじいじが久しぶりにぽつりとつぶやく。
「……そろそろかな」
「っ……!」
その言葉に、ヨハンは反射的に時間を確認する。
ついに30分が経過したのかと思ったのだ。
「えっっっ」
だが、何度確認しても先ほどから10分しか経っていなかったのだ。
「う、嘘だろ……。10分しか経っていない……?」
ヨハンは自身の目を疑う。
グリム・アスシュナーベルの猛攻を耐え凌ぐということは、ヨハンらにとってあまりにも長く感じられていた。
「ん……?」
しかし、ヨハンは思う。
であれば、じいじの言った「そろそろ」とは何を指しているのか。
そう思考した時のことであった。
「ギィィィィィィイ……」
突如、グリム・アスシュナーベルが悶え苦しみ始めたのである。
「……ふう、効いているようでよかった」
その様子を見てか、じいじが一息つく。
じいじはここへ来た時に、グリム・アスシュナーベルに
「こ、これは……?」
じいじの能力など知りもしないヨハンは当然、不思議に思う。
「……時間も限られているから、簡潔に言うが、〝毒〟じゃ」
「っ……! は、はい……」
ヨハンには、人間が毒を魔力で再現するなどという方法が全く思い浮かばず、戸惑う。
しかし、一旦、呑み込む。
「この力は、いかに強力な霊魔といえど、知能が高くなく……そしてなにより孤独な相手にはよく効く。それじゃあ、奴が動けないうちに
じいじは動くことができないグリム・アスシュナーベルの元へ一歩踏み出した。
その時であった。
「うぅ……」
じいじの斜め後方から苦しそうな声が聞こえた。
じいじとヨハンはその方向に振り返る。
「「っ……!?」」
そこには、リーゼがうずくまる様に倒れていた。
「リーゼちゃん!?」「リーゼ!」
近くにいたヨハンがリーゼを仰向けにする。
「っ……」
リーゼの顔は紫色に変色し、リーゼは苦しそうに胸を押さえていた。
「よ、ヨハンくん……こ、これは?」
じいじは明らかに焦燥した表情でヨハンに尋ねる。
「……っ」
ヨハンはすぐに答えが出せず、思考する。
だが、一点、思い当たる事象を想起する。
それは、じいじが来る前のこと。
ヨハンとリーゼの二人で、グリム・アスシュナーベルの攻撃をなんとか耐え凌いでいた時のことだ。
グリム・アスシュナーベルが放つ瘴気をリーゼが吸い込んでしまったのだ。
リーゼはそれが原因で歌うことができなくなっていた。
だが、それだけだと思っていた。
「まさか…………毒……」
「どういうことじゃ?」
「じいじさん、すみません……。じいじさんが来る前に、リーゼは奴の瘴気を吸ってしまい……、もしかすると……それが……」
「っ……」
ヨハンの言葉に、じいじは唇を噛みしめる。
幸い、じいじには、リーゼを救える可能性が高かった。
解毒の
今すぐにでもリーゼに駆け寄り、解毒を開始したかった。
だが、今、リーゼを救うと、リーゼを救えなくなるという矛盾を抱えていた。
いや、リーゼはおろか、ここにいる3人全員が殉職し、さらに被害が拡大する可能性すらあった。
じいじの毒の拘束有効時間は有限である。
グリム・アスシュナーベルを拘束し続けることができる時間は多くはないだろう。
今、リーゼの治療をするということは、今後訪れるか分からないグリム・アスシュナーベルを倒す機会を失うことと等しかった。
つまり、
〝今、リーゼを救い、結局、三人が死ぬ〟か
〝今、リーゼを見捨て、二人は生き残る〟か
の二択である。
熟練の破魔師である
それはヨハンにも……、リーゼにすら分かっていることであった。
「じいじさん……、奴を……倒して……、おじいちゃんを許して……」
リーゼは息も絶え絶えにそう呟く。
じいじはその言葉を聞き、一度、強く目をつむる。
そして……、
「……ヨハンくん…………すまない……」
「はい……」
頷いたヨハンは、じいじの意図を理解しているつもりだった。
しかし、事実は全くの逆であった。
「えっ……!?」
じいじはリーゼの元へ、駆け寄っていた。
「じいじさん! 何を……!?」
熟練の破魔師である白神元がとった合理的とは言えない行動に、ヨハンは驚きを隠せなかった。
じいじはリーゼの治療を選択したのだ。
「っ……」
じいじ自身、自分でも分からなかった。
理由を説明できなかった。
だが、決断した。
〝今、リーゼを救い、結局、三人が死ぬ〟という愚かな選択を。
そんな状況においても、じいじの治療術の手際は良かった。これ以上ないくらいに。
リーゼの顔色は明らかに改善し、少なくとも毒による死を回避できるまでに至っていた。
だが、同時に、
「キィィ……」
引換えは成立していた。
グリム・アスシュナーベルは低空でホバリングしながら、三人を見据えていた。
「……じいじさん、この言葉があっているのか分かりませんが……、ありがとうございます……」
「……ヨハンくん、その言葉は後でいいだろ?」
じいじの返答は「諦めたわけではない、ここから生き残る」という決意の意図であった。
だが、
「ギィィイイイイイイイイイイ!!」
「「っ……!」」
グリム・アスシュナーベルが突如、けたたましい咆哮をあげる。
その瞬間、グリム・アスシュナーベルから凄まじい負のオーラが噴出する。
「おいおい、まだまだ本気じゃなかったってことか?」
それは、じいじの生き残るという決意を僅かに揺るがせる程であった。
ヨハンは無意識に時計に目をやる。
経過時間は13分程。
「……救援が来るまで……あと17分もこんな奴と……。いや、そもそも救援が来ても……」
ヨハンは、間違いなく絶望していた。
その時であった。
ブロロロロ……。
「え……?」
一台のファミリー用とおぼしき軽自動車がゆっくりとした速度で現れ、そして停車する。
ヨハンは思考停止する。
救援が来るまではあと20分前後必要なはず。
なぜこんなところに明らかな一般車両が……?
三人と、そしてグリム・アスシュナーベルの視線が軽自動車へ向かう。
「まずい…………!」
ヨハンが叫んだ時には遅かった。
グリム・アスシュナーベルが放った漆黒の羽根が無数の矢となって軽自動車に襲い掛かり、そして着弾する。
「くっ……」
ヨハンは唇を噛みしめる。
それはつまり一般人に被害が及んでしまったから。
しかし、そのような痛恨の念すら抱いている余裕はなかった。
グリム・アスシュナーベルはそのまま向きを変え、自分達の方に漆黒の矢を向けてきたからだ。
「……ダメだ……。数が多すぎる……」
これまでの比ではない程の無数の矢が三人に襲い掛かった。
しかし、いかに数が多くともその前に強固な障害物があれば、それは問題にはならないだろう。
「っっ……。え……?」
グリム・アスシュナーベルの放った無数の矢は全て三人の目の前で、何かに遮られ、地に落ちる。
「ど、どういう……」
ヨハンは状況を呑み込めずにいたが、ふと先ほどの軽自動車が視野をかすめる。
「えっ……?」
結論として、軽自動車は無傷であった。
そして、軽自動車の後部座席のスライド式ドアがゆっくりと開く。
「ベルト外せますか?」
「多分、なんとか……。鏡美先生、苦手な運転してくれてありがとうございました……」
チャイルドシートのベルトにカチャカチャと苦戦しながらもようやく外し、一人の少年が軽自動車から降りてくる。
「えーと……
軽自動車からしれっと現れた少年は、鬼神ドウマの依代の子〝白神界〟であった。