所持金6000億円の断罪聖女。〜転移先の近未来都市で魔道具を売ったら国家予算を超えたので、財力と聖女の力で美食革命を起こします!〜   作:エリス

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第10話 捕まったけど快適です――食事以外は

「えっ? なにこれ?!」

「テロリストと繋がっている疑いで現行犯逮捕する!」

 

 はめられた手錠の先にいる警部が強い口調で告げてきた。

 

「そんな! 目玉商品を手に入れたかっただけなのに!」

「横暴です! そもそも、爆破は未然に防がれたじゃないですか!」

 

 あまりにも雑な冤罪にエリスと成瀬が声を上げる。しかし、警部は二人の声を無視してエリスを連れて行こうと手を引いた。エリスも抵抗しようとしたが、機敏に動くことはできても力では大の男には敵わず、ズルズルと引きずられていく。

 

「ひとまず、そいつに付いていった方がいい」

「そんな、私は関係ないです!」

「久我さん! 見損ないました!」

「まあ待て、連れていかれても罪が確定するわけじゃない。取り調べをするだけだ。そうだろ?」

 

 詰め寄ってくるエリスと成瀬をたしなめて、警部の方を見る。警部は眼鏡をクイッと上げて肩を竦めた。

 

 年齢は30代半ば。その怜悧な目つきから悪意が滲み出ていて、何をするか分からない恐ろしさがあった。

 

「もちろん、取り調べをするだけです。ですが、これまでの行動を鑑みれば関与は明らかです。すぐに証拠も揃うでしょう」

「それはどうかな? むしろアンタの経歴に傷が付かないように心配した方がいいんじゃないか?」

 

 自信満々な警部に対し、久我は不敵に笑いながら煽る。余裕綽綽といった態度に警部は感情を爆発させそうになるが、堪えてエリスを引っ張る。

 

「ふん、勝手に言ってればいいんです。さぁ、来なさい!」

「久我さん……あの男は――」

「大丈夫だ。ヤツの手はエリスには通用しない。だが、長くは持たんだろう。急がないとな」

「一体何をするつもりですか?」

「おいおい、エリスを助けないとだろ? 俺たちの仲間なんだからな!」

 

 久我が不敵に微笑むと、緊張で強張らせていた成瀬の顔がふっと緩んだ。

 

 

「おい、さっさと吐いたらどうなんだ?」

 

 警察署の取調室に連れていかれたエリスは強引にパイプ椅子に座らされる。手錠を掛けられた時は焦りもあったが、時間を置いたせいで平常心を取り戻していた。

 

 向かいに座った警部が、落ち着いて座るエリスに眉を吊り上げて凄んでくる。

 

「何もないですけど?」

 

 エリスの答えにバァンと警部が机を叩いた音が響き渡る。

 

「机を叩くのが趣味なんですか?」

「違うわ! お前がテロリストの関係者であると言わねえのが悪いんだよ!」

「嘘を吐く方が悪いと思うんですけど?」

「お前はテロリストの関係者に間違いねえ。俺の勘が告げているんだよ!」

 

 警部の言葉にエリスは納得する。伊達に魔女だという冤罪をでっち上げられて処刑されたわけじゃない。

 

「なるほど。証拠はないけど、何となく犯人だと思いたかったってことね」

「違うわ! 俺の勘は、そこらの証拠などとは比較にならねぇ!」

 

 結局、証拠は何もないことが分かっただけだった。エリスは腕を組んでウンウンと何度もうなずく。

 

「わかってる。引くに引けなくなっているってことだよね。まあ、人間誰しもミスはするものだから――」

「うるせぇ、黙ってサッサと吐けばいいんだよ!」

 

 エリスとしてはやっちゃった警部を慰めようとしているつもりだった。なぜか激昂した彼がエリスに拳を振るう。当然ながら聖女の加護によって弾き返された。

 

「まあまあ、落ち着いて。と言っても、話せることは何もないけどね」

「何でケロっとしてやるんだよ。クソッ!」

 

 苛立ち交じりに二度三度、警部は殴りかかってきた。その程度の攻撃がエリスに効くはずなどないのだが。

 

 涼しい顔で椅子に座ったまま、警部をなだめようとするエリス。警部の堪忍袋の緒が切れ、拳銃を取り出したところで部下が三人がかりで押さえ込む。結局、この日の尋問は終わりとなった。

 

「すまんね、嬢ちゃん。今日はこの中で過ごしてもらうよ」

 

 彼の部下の一人がエリスを留置所に入れた。殺風景な場所ではあるが、スラムで生活していたこともあるエリスにとっては、大した問題ではない。

 

「うげっ……これは……」

「嬢ちゃんにはお詫びに多くしておいてあげたよ」

 

 それ以上の問題が留置所の食事だった。出された皿の上には教会の残飯よりもマズい完全栄養食が置かれていた。部下は善意で多くしてくれたのだろうが、エリスには嫌がらせとしか思えなかった。

 

「マズい……喫茶店で食べたものよりも、さらにマズい……」

 

 そのマズさは、この世の絶望を集めて固めたような味と匂い。一口だけ齧って悶絶したエリスは、それ以降、食事に手を付けることはなかった。

 

「暇だ……あの警部とやらも飽きてきたし……」

 

 その後もエリスは数回にわたって警部の尋問に付き合わされた。毎回、全く取り乱す様子のないエリスに対して警部が一方的に激昂して終わる。決まりきった流れに、当の警部以外は辟易していた。

 

 幸いにも有罪が確定していないため、端末の利用自体は認められている。エリスも暇つぶしとして寝転がりながら端末をいじっていた。

 

「うん? 何だこれは」

 

 空腹のあまり眠れないエリスは密かに端末をいじって気を紛らわせていた。日付が変わるくらいの時間に見たことのないアプリが追加されていることに気付いた。

 

「ジェイルブレイク……何かのゲームかな?」

 

 暇つぶしになればと起動してみると、閉じ込められた部屋から脱出するゲームだった。なかなか扉の鍵が開かずに試行錯誤を繰り返す。

 

 ――ガチャリ。

 

「お、やっと開いた!」

 

 妙にリアリティのある開錠の音と共に、エリスはゲームの中で無事に脱出を果たした。

 

「キリも良いし、そろそろ寝るかな。あー、美味しいものが食べたい……」

 

 空腹で寝付けなかったとはいえ度重なる尋問で疲労が蓄積していたエリスは、あっさりと眠りの世界へ旅立つ。ゲームの中で扉の鍵が開くのと同時に、留置所の全ての扉の鍵が開いたことに気付かないまま。

 

 

「お前! 何をやったんだ!」

 

 翌朝、エリスは怒り狂った警部に叩き起こされた。

 

「何もしてませんけど……」

「じゃあ、なんで留置所の鍵が全部開いていて、誰もいないんだよ!」

「知りませんよ。そっちの管理が杜撰だっただけでしょ? 私は、もう少し寝てます」

 

 しっしっ、と追い払うように手を振って、エリスは再び横になった。怒り狂った警部は罵声を浴びせながら蹴りを入れてくるが、毎度の如く効いていない。

 

「いい加減、学習してくださいよ」

 

 気怠そうなエリスの言葉に警部は銃を取り出してエリスに狙いを定める。

 

「バカにするんじゃねえええ!」

 

 部下たちが止めに入る間もなく、警部は引き金を引いた――引いてしまった。留置所に銃声が響き渡る。エリスに真っ直ぐ飛んでいた銃弾は、やはり当然のように聖女の加護によって弾き返されてしまった。

 

「おいおい、何の音だよ」

「久我……どうしてここに?」

「どうしてって、エリスの無実を証明しに来たんだが……どうやら、その必要は無かったようだな」

「どういう意味だ?!」

「ああ? そういう意味だよ」

 

 久我は警部の拳銃に目配せする。その意味を理解した警部は顔色がみるみる真っ青になっていく。何しろ撃った相手が、有罪確定していない未成年。警告も無しに撃ったという事実は、エリスを解放するのに十分な理由となるだけでなく、逆に警部を罪に問うことができる。

 

「あっ、来てくれたんだ!」

「ああ、もう大丈夫だ。一緒に帰ろう」

「そうそう、エリスちゃんがいないと美味しいご飯が食べられないし!」

 

 成瀬のあんまりな理由にエリスは言葉を失う。だが、それも励ますためと考えて、エリスは納得することにした。

 

「さて、ようやく尻尾を掴んだぜ」

「な、何のことだ!」

「お前が尋問の際に暴行を加えているという噂があったんだよ」

 

 久我が警部の手にしている拳銃に目を向けた。そのことに気付き、慌てて放り投げるも全て手遅れ。久我に睨まれた部下たちが、今度は警部を確保するために動く。

 

「ふざけるな! 俺は悪くねえ! そもそも、こいつはテロリストの一味だぞ!」

「証拠は何もねえけどな」

「それは俺の勘――状況から推理して導き出した結論だ!」

「もし、それが事実なら、お前もテロリストの一味ってことになるが?」

 

 久我の突きつけた言葉に、警部は虚を突かれて呆然とする。

 

「そ……そんなワケあるか! 何を証拠に……」

「状況から推理して導き出した結論だ。ここに収容されていたテロリストだと疑われている連中がいなくなっているだろ?」

「それは、こいつが逃がしたんだ! そのために、あえて捕まり――」

「そうだ、だが碌な証拠もなく捕まえたのは、紛れもないお前自身だろうが」

「違う!」

 

 久我の推理に肩をいからせて否定する。しかし、正面切って反論できない時点で説得力は皆無だった。久我も、あえて追及はせずに肩を竦めるだけ。

 

「ま、そんなことはどうでもいい。そもそも、エリスがテロリストの一味だなんて思っちゃいねえからな」

「ほ、ほらみろ! そもそも、こいつは殴っても蹴っても――銃で撃ってもケロリとしているような化け物だ! そいつが悪いヤツだってことは変わらねえんだよ!」

「やれやれ、んなわきゃねえだろ。殴ったり蹴ったり……ましてや銃で撃つヤツが悪いに決まってるじゃねえか」

「お前は、あの化け物を庇うつもりなのか?! ぎゃっ!」

 

 喚きたてる警部の顔面に久我の拳がめり込んだ。たった一発で意識を刈り取られた警部は、引きずられるようにして部下たちに連行されていった。それと入れ違いに佐久間支部長が入ってくる。

 

「何人もの無実の人間を拷問にかけて有罪にしてきた。お前の方が化け物だろうがよ……」

「終わったか?」

「すみません。わがまま言っちまって……」

「構わんよ。もう証拠は揃っていたからな。最後に一発痛い目にあった方が薬になるだろう?」

 

 ニヤリと笑った佐久間を見て、久我は大きくため息を吐く。大きく頭を下げると、エリスの方へ向き直った。

 

「それじゃあ、帰るとするか。途中で喫茶店でも寄っていくか?」

「賛成! でも、もう完全栄養食は食べないからね!」

 

 エリスを先頭を切って警察署の外へと向かう。それを久我と成瀬が呆れながら後を追った。

 

 

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