所持金6000億円の断罪聖女。〜転移先の近未来都市で魔道具を売ったら国家予算を超えたので、財力と聖女の力で美食革命を起こします!〜   作:エリス

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幕間1 それぞれの思惑

 ――都市庁舎最上階。

 

「忌々しい話だ」

 

 自らの支配するネオ・トーキョーの街を見下ろしながら、市長の相沢は吐き捨てるように言った。

 

 背後から、コンコンと控えめなノックの音に「入れ」と短く答える。扉が開いて、スーツ姿の男が市長室へと入ってきた。

 

「市長、警部が被疑者に対して暴行を加えたとして、逮捕されました」

「……バカな男だ。せっかく目を掛けてやったというのに」

 

 拷問によって被疑者に自白させる。そうやって事件を解決したことで昇進してきた警部だが、これ以上は使い物にならないだろう。ネオ・トーキョーに巣食うテロリストを排除するために便宜を図ってきた相沢としては裏切られた気分だった。

 

 彼の素行を知りながら黙認してきたのは、相沢の依頼で事件をもみ消すために犯人をでっち上げさせることを見越してのことだった。しかし、事実が明るみになってしまっては、過去の事件も全て洗い直すことになるだろう。

 

「ワシの依頼したものは問題ないだろうが……」

 

 相沢が邪魔者を表舞台から消し去るために有罪にした事件については抜かりはなかった。いくらマザーコンピュータでも、証拠が無ければ判決が覆ることはない。

 

「このままヤツを放置して、下手なことを喋られるとマズいな。よし、技術主任を呼んでくれ」

「かしこまりました」

 

 程なくして、市長室に技術主任の男が入ってきた。

 

「マザーコンピュータのパラメータを変更し、警部を即時死刑とする判決を下すようにしたいのだが」

「そ、それは……」

「何か問題があるのかね?」

「あまり強引な変更は上に見つかると問題あるのではないかと……」

 

 技術者が額から汗を流しながら諫めようとする。しかし、相沢は技術者の意見を一笑に付した。

 

「はっはっは、バカなことを。これまでも疑われたことなど無いのだ。今さら疑われる訳が無かろう」

「し、しかし……」

「それとも、お前の家族も有罪にして牢屋に放り込んでやろうか?」

「す、すみません。では、このように変更すれば――」

 

 技術者はパラメータの変更内容を伝え、その内容に従って市長が端末を操作して想定結果を確認する。

 

「ふはは、どんな証拠や証言が出ようとも、これで5日後には死刑だ!」

「くっ……」

 

 技術者は罪の意識から、固く目を閉じて顔を背ける。相沢は彼に歩み寄って、耳元で囁いた。

 

「くれぐれも他言はせぬようにな。もし言ってしまったら、お前だけでなく家族もこいつと同じ運命を辿ることになるぞ?」

「承知、いたしました……」

「わかったら、さっさと下がりたまえ!」

「失礼、いたします!」

 

 逃げるようにして技術者は市長室から飛び出していった。

 

 バタンと閉まる扉。

 

「くくく、この街はワシのモノだ。なにしろ、全自動でワシの望みを実現してくれるのだからな!」

 

 相沢がワインを飲みたいと心の片隅で考えた瞬間、彼の願いを受け取ったマザーコンピュータが、最高級のワインを注いだグラスを机の上に現出させる。

 

「さて、その女は……ワシの愛妾にでもしてやるとしようか。ワハハハ!」

 

 ワイングラスを手に取ると、相沢は市長室の窓から街を見下ろす。自分に媚びへつらうエリスの姿を思い描きながら満足そうに笑った。

 

 ◇

 

 ――テロ組織『断罪の瞳』本部。

 

「どういうことだよ! デパートの爆破テロまで失敗したって……」

 

 副リーダーの鬼塚はリーダーの神崎に詰め寄っていた。

 

「言葉の通りだ、爆弾は確かに爆発した。だが地面が大きく抉れただけだ」

「勘弁してくれよ。このところ失敗続きじゃねえか!」

「仕方ないだろ。尽く邪魔が入ってるんだからよ!」

 

 鬼塚の追及に神崎が大きくため息を吐いた。これまでも失敗が無かったわけではない。しかし、何者かの妨害によって連続して失敗するような事態は初めてだった。

 

「車に爆弾を積んで、市長の家に突っ込ませるのは、何で失敗したんだ?」

「途中で何者かに衝突して爆発したらしい。カメラの画像を確認した限りだと、みすぼらしい格好をした小柄の女だそうだ」

「いやいや、人にぶつかったくらいで爆発するわけねぇだろ!」

 

 鬼塚のツッコミに神崎は肩を落として首を振った。

 

「ぶつかった車の方が吹き飛ばされたらしい」

「ありえねえだろ! ちっ、仕方ねえ。その次は、例の拠点からマザーコンピュータをクラッキングするはずだったが、何で失敗したんだ?」

「家の持ち主だと言って、なぜか料理を始めたイカレた女が現れたらしい」

「無視すりゃいいじゃねえか!」

 

 神崎は悔しそうに眼を瞑って首を振った。

 

「その女は美味しい匂いで戦う気力を奪っただけでなく、サツをぶつけてきたらしい」

「サツなんざ、返り討ちにすりゃいいじゃねえか!」

「それが……何をしても一瞬で傷が治ってしまったらしいんだ」

「はぁ? 冗談だろ!」

 

 顔をしかめて鬼塚は神崎の顔をうかがった。しかし、彼の表情は自身の言葉が真実であることを訴えかける。

 

「ちっ、それで逃げ帰ってきたわけか……」

「状況が状況だ。彼らを責めるのはよせ」

「わかってるよ! はあ……」

 

 あまりに荒唐無稽な話ではある。しかし、実際に帰ってきた時の彼らの服がボロボロだったにも関わらず、体には傷一つ無かった。それを目の当たりにしては神崎も鬼塚も報告を疑うわけにはいかなかった。

 

「クラッキングは完璧じゃないけど、仕込みが終わってるものもある。博物館の方は問題ないだろう」

「それなら問題ないか……ちなみにデパートの件は何で失敗したんだ?」

「それは……報告ではイカレた女が爆弾を抱えて体を張って防いだらしい」

「いやいや、ありえねえだろ! 女が抱えたくらいで爆発が防げるワケねえだろうが!」

 

 あまりにもふざけた話に鬼塚は頭を抱えて叫んだ。しかし、神崎は鬼塚をまっすぐに見つめながら首を振った。

 

「確かに信じられない話だ。だが間違いない。何しろ、あの警部が絡んでいたからな」

「あの市長の犬が?」

「ああ、あの爆発を体を張って防いだにも関わらず、なぜか女を俺たちの仲間だと決めつけて逮捕したらしい」

「どういうことだ、体を張って防いだんだろ?!」

「だが無傷だ」

 

 言いにくそうに言葉にした神崎だが、それ以上に鬼塚は目を丸くして呆然とする。

 

「何だよそれ! 普通なら死ぬだろ! もしかして爆弾が不発だったんじゃねえか?」

「それもない、爆発のあった場所には巨大なクレーターができていたからな。それくらいの爆発はあったということだ」

「意味わかんねえよ! どんな女だよ!」

 

 鬼塚は叫んで頭を掻きむしるが、すぐに落ち着いて「女、女……」とつぶやいた。

 

「もしかして、その女……同じヤツじゃねえだろうな?」

「まさか! そんな偶然ある訳がないよ」

「それもそうか……考え過ぎだったな」

 

 場が落ち着きを取り戻したところで、神崎が話を切り出した。

 

「それで、次の博物館は予定通り明後日の昼間に実行する。昼間は警備ロボットしかいないからな」

「わかったよ。狙いはアレだろ?」

「ああ。アレを使って、俺たちはヤツらの支配を覆す」

 

 神崎は博物館の目玉である人型巨大兵器の描かれた古いチラシを机の上に広げた。

 

「流石に……ここは街の中心から離れている。女が邪魔に入ることもないだろうな」

 

 少し考え込んで、脳裏を過る不安を抑え込むように切り出した。

 

「リーダー! 大変です!」

 

 次の作戦が決まったところで、部下がリーダーの部屋へ駆けこんできた。

 

「何だ?」

「警部の野郎に捕まっていた仲間が戻って来やした!」

「何だって?!」

 

 マザーの有罪判決を受けていないため、警察の留置所に捕らえられ、警部から尋問という名の拷問を受けていたはずの仲間が生きて帰ってきたことに神崎だけでなく鬼塚まで素っ頓狂な声を上げる。

 

「いったい、何が起きたんだ?!」

「何でも昨日、警部に捕まった女が留置所にやってきたんですが……深夜に突然、留置所の鍵が一斉に開いたらしいんです」

「深夜に……まさか!」

 

 神崎が捕まった仲間を救出するため、用意していた改造端末が脳裏を過る。

 

「そんな偶然が……しかも、警部に捕まった女?」

「そいつって、もしかして……」

 

 デパートで爆破テロを防いだ女が警部に捕まったという話だった。自分たちの邪魔をした女が、今度は自分たちの仲間を解放したということになる。

 

「ああもう、ワケわかんねぇよ!」

「一体何がしたかったんだ……?」

 

 頭を抱えたくなる状況だったが、二人は解放された仲間を迎え入れるため、強引に笑顔を作った。

 

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