所持金6000億円の断罪聖女。〜転移先の近未来都市で魔道具を売ったら国家予算を超えたので、財力と聖女の力で美食革命を起こします!〜   作:エリス

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第14話 邪魔をするつもりと言われても、心当たりがありません!

 ボスである神崎から組織の妨害を企むエリスという女の尾行を命じられた並平《なみひら》は彼女を追って喫茶店へと入っていった。

 

「グランドパフェと紅茶で!」

 

 耳聡くエリスの注文を聞き取った並平も同じものを注文しようとして目を剥いた。

 

「えっ、グランドパフェって1万円もするの? しかも、この大きさは何?!」

 

 尾行の際、ターゲットと同じ注文をすること。それが長年にわたって尾行を続けてきた彼の定石だった。そうすることによって、料理が届く時間から食べ終わる時間までターゲットと合わせることができ、怪しまれないというもの。

 

「すみません。グランドパフェと紅茶を……」

「はい! グランドパフェ1つと紅茶ですね!」

 

 エリスの常識はずれな注文は、並平の心に初めて躊躇いを与えた。尾行を完遂するためには、1秒の躊躇いすらも命取り。迷いを捨てて、波平はエリスと同じメニューを注文した。

 

「マジかよ……」

 

 並平は思わず言葉を詰まらせる。目の前に置かれたグランドパフェの大きさに、逆に吞み込まれそうだ。

 

「大丈夫。あんな華奢な女が食べるくらいだ。俺にできないはずは無い!」

 

 気合を入れてグランドパフェを口の中に放り込む。普段、完全栄養食に慣らされてしまった舌ではあるが、一瞬にして天国に送られそうな幸福感が舌を中心に広がっていくのを並平は実感していた。

 

「う、美味い……はっ、いかんいかん」

 

 チラリとエリスの方を見ると、怒涛の勢いでグランドパフェが消えていた。

 

「マズい、出遅れた!」

 

 慌ててグランドパフェを口の中に放り込む。天にも昇りそうな味も、冷たさによる頭痛も無視して、ひたすら食べ続けた。

 

「ふぅ……満足満足!」

「食べ終わったなら行くか?」

「そうだね。でも、少しゆっくりしようかな」

 

 店を出ようとしていたエリスに焦っていた並平だが、彼女が猶予を与えてくれたことに感謝をしながら、必死にパフェを食べ続けた。

 

「そろそろ行きます?」

 

 エリスたちは席を立って会計に向かう。ちょうどパフェを完食した並平も後を追って会計を済ませ、車に乗り込んだ。

 

「今日はここまでか」

 

 並平は車を物陰に止めて仮眠を取ることにした。

 

 

 翌朝、並平は建物から久我と成瀬が出ていくのを確認した。彼の目的から考えればエリスが出てこない方がいい。もし、彼女が外に出てしまったら、彼らの邪魔をしないように見張らなければならないからだ。

 

「どこかに出かけるようだな」

 

 エリスの乗ったタクシーを追って、並平は車を走らせる。たどり着いた先はデパートだった。急いで駐車場に車を止めると、彼女を追ってデパートの中へ。そして向かった先はランジェリーショップだった。

 

「なっ、何と破廉恥な!」

 

 エリスにとっては自分の下着を買いに来ただけなのだが、女性経験のない並平にとって、あまりに刺激が強すぎた。

 

 物陰からエリスが出てくるのを待ち構えるため、ランジェリーショップをチラチラと覗いている姿は明らかに不審者だった。それでも中に入って商品を物色しながらターゲットを見張るよりもマシなことは流石に並平にも理解できる。

 

 紙袋を持って出てきたエリスを、並平は慎重に尾行する。次に彼女が向かったのは食品売り場だった。

 

「なん……だと?!」

 

 エリスは完全栄養食売り場など目もくれず、高級食材の並ぶエリアへと真っ直ぐ向かった。並平は目の前にある格差に打ちひしがれながら、血の涙を流して尾行を続けた。

 

 ――だが、それは始まりに過ぎなかった。

 

「今日もかよ! どうなってるんだよ!」

 

 並平が尾行を始めて一週間が経った。エリスは久我や成瀬のように仕事に行く様子もなく、昼過ぎにふらっと出かけては高級食材を買い漁って帰る、という生活を続けていた。

 

「一週間、毎日だぞ! ありえねえだろ! 今日の食材なんて――」

 

 エリスは一切れ1万円以上もする超高級な普通のステーキ用牛肉を容赦なくカゴに入れていた。そんな彼女を横目に見ながら、並平は3割引きになった完全栄養食をカゴに入れ、レジへと向かう。

 

 この日も無事に尾行を終えた並平は、エリスの購入したステーキを妄想しながら完全栄養食を食べる。噛み締めるとじゅわっと脂と肉汁が溢れ出し、口の中で混然一体になる――。

 

「マズい……」

 

 訳が無かった。どんなに妄想を膨らませても、完全栄養食がマズいことは変わらない。突きつけられた現実に、並平の目から涙がこぼれた。

 

 翌日、またしてもエリスはデパートの食品売り場へとやってきた。それを追ってきた並平は昨日よりもさらにやつれている。目の前で美味しそうな食材を見せつけられたことで、完全栄養食が完全に喉を通らなくなっていたからだ。

 

「くそっ、今日も金持ち共の売り場に行きやがって……」

 

 格差を見せつけるエリスの姿が、かつて並平を退職へと追いやった上司の姿と重なる。その上司は部下を馬車馬のように働かせ、成果は自分のものにして、失敗は部下に擦り付ける最悪の上司だった。

 

「くそっ、あの女も特に変な動きはしねえし、俺が惨めになるだけじゃねえか!」

 

 愚痴をこぼしながらも彼の視線はエリスを追い続けていた。しかし、並平は目を背けたくなるような光景を目にすることになる。

 

「よし、今日はちょっと奮発しよう!」

「バカな……大トロだと?!」

 

 エリスが手に取ったのは牛肉など足元にも及ばない超高級食材であるマグロの大トロだった。並平からすれば『ちょっと奮発する』どころではない、宝くじが当たったくらいの奇跡が起きて、ようやく口にできるようなものだった。

 

「あの女……俺に見せつけるように買いやがって……」

 

 もちろんエリスは並平に見せつけているつもりはない。勝手に彼がエリスのカゴの中身を細かくチェックしているだけに過ぎなかった。しかし、被害妄想に囚われた彼が、その事実に気付くことはない。

 

「もしかして、これは俺たちを邪魔するために買っている……?」

 

 並平の脳裏に稲妻のようなひらめきが舞い降りた。決して、エリスの購入する食材が羨ましいということではない。

 

「そうか……そうか! それなら、あの女を捕まえて動けないように縛って監禁すればいい。そのついでに! あくまでついでに、あの女の買った食材をいただく!」

 

 並平は早速動いた。先回りしてデパートの入り口脇の物陰に潜んで、エリスが出てくるのを待つ。

 

「大トロも手に入ったし、タクシー呼んで――」

 

並平は、端末を操作している無防備なエリスの背後から忍び寄り、羽交い絞めにして路地裏へと引きずり込んだ。

 

爆弾すら無効にする聖女の加護も、単純に押さえつけるのを防ぐことはできない。あっという間にエリスは縛り上げられてしまった。

 

「ちょっと、何してくれてんの?!」

「うるせえ! いだっ!」

 

 にらみつけて文句を言ってくるエリスに蹴りを入れる。しかし、蹴りには聖女の加護が効果を発揮して、逆に並平の方が足を挫いてしまった。

 

「くそっ! だが、お前は俺たちの邪魔をしたからな。これ以上、動けないようにしてやるぜ!」

 

 さらに頑丈に縛り上げ、並平の乗った車はエリスを乗せてアジトへと向かう。

 

「ちょっと、外しなさいよ!」

「うるせえ、大人しくしてろ!」

 

 喚くエリスに並平が怒鳴りつけて黙らせる――ことができるはずもなく、ギャーギャーと喚く彼女を俵抱きにしてアジトにある監禁部屋へと連れて行った。

 

「よっこらせ、と」

「よっこらせ、じゃないっての! 早く解放しろ! 飯よこせ!」

「ったく、うっせーな。これでも食ってろよ!」

 

 エリスの目の前に置かれたのは、忌まわしき完全栄養食だった。もはや定番と化した待遇に、流石のエリスも涙を禁じ得ない。

 

「何というヒドイ扱い! 改善を要求します!」

「うっせー! 大人しくしてろっつてんだろ!」

「私の買った大トロを返せ!」

「お前は、アレを使って俺たちの邪魔をするつもりだろうからな。没収させてもらう!」

 

 喚き散らすエリスを部屋に閉じ込めて、並平は大トロの待つ食堂へと向かう。食堂が近づくにつれ、聞こえてくる怒声が大きくなっていることに不安を覚え、自然と歩みが速くなっていく。

 

「おい、何やってんだ!」

 

 食堂は戦場になっていた。並平が手に入れた大トロを巡って、仲間だった連中が当事者である彼を差し置いて奪い合う。

 

「その大トロは俺のモノだ! 俺が手に入れてきたんだからな!」

「うるせえ、手に入れた者勝ちだろ!」

「平等に分け合うのが俺たちのルールだろうが!」

「知るか! お前らに譲るつもりはねえよ!」

 

 ボスである神崎が騒ぎに気付くまで、大トロを巡って血で血を洗う戦いが繰り広げられることになった。

 

 しかし彼らは知らない。食べ物の恨みを抱いたエリスが、縛って部屋に閉じ込めたくらいで大人しくしているはずがないことを。

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