所持金6000億円の断罪聖女。〜転移先の近未来都市で魔道具を売ったら国家予算を超えたので、財力と聖女の力で美食革命を起こします!〜   作:エリス

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第3話 買った部屋は殺人現場でした?!

 店員が指輪を鑑定機に入れ、機械を操作する。

 

 ――ピロピロピロ。

 

 しばらく待っていると、鑑定機のモニタに結果が表示された。

 

「金額は――」

「ろ、ろ、6000億円?! そんなバカな! もしかして……壊れた?」

 

 モニターにはズラリとゼロが並んでいた。

 

 見慣れない桁数の金額に店員が悲鳴のような叫び声を上げる。そして、慌ててポケットの中から端末を取り出すと耳に当てて話し始めた。

 

「すみません! 鑑定機が壊れました! はい……はい……えっと、金額のところが6000億って……えっ、問題ない? そんなはずは……金額は正常……? ろ、6000億ですよ! ええっ! わかりました……責任は取りませんからね!」

 

 話を終えて店員がエリスに向き直り、営業スマイルを浮かべた。

 

「えっと、こちらの指輪ですが……金額は6000億円になります」

 

 先ほどまでの慌てようが嘘のように、店員は落ち着き払っていた。しかし、その眼光は一層鋭くエリスを品定めしているように感じられた。エリスは思わず魔王のようなドス黒いオーラが彼から放たれていると錯覚してしまうほど。

 

「現金か口座振込になりますが、口座振込がおすすめ――」

「現金でお願いします!」

 

 口座言われても分からない上に手持ちがないエリスとしては、当座のお金が必要だった。食い気味に現金でお願いすると、店員の顔があからさまに引きつった。

 

「正気ですか?!」

「もちろんです!」

「わかりました……少々お待ちください」

 

 鑑定機から出てきた紙の束を店員がエリスの前に積み上げていく。一方、エリスは現金でとお願いしたのに紙切れが出てきたことに焦りを感じていた。

 

「ちょっと! こんな紙の束じゃなくて、お金でください!」

「これがお金ですよ!」

「これがお金? 本当に?」

「本当です!」

 

 エリスの抗議に店員が怪訝そうな表情になる。面倒な客だと思ったのか、少しだけぶっきらぼうに答えた。戸惑う彼女を放置して、店員は次々と紙の束をテーブルの上に積み上げていく。

 

「ちょっと! どれだけあるのよ!」

「これが100万円です」

 

 店員が紙の束を一つ取り出し、エリスに見せつける。

 

「これが60000束――出てきます」

 

 ざっと数えただけでも、まだ200束ほど。それでもテーブルを埋め尽くしている現実に、エリスは意識が遠のいていく気がした。

 

「そんなに持ち運べないですって、何とかならないんですか?!」

「はあ……だから口座振込がおすすめって言ったじゃないですか……」

 

 エリスの主張も店員からしたら言いがかりに近い。大きくため息をついて肩を落とす。一方、口座振込と言われても、何のことかさっぱり分からないエリスは眉を寄せて唸り声を上げた。

 

「うむむ……口座振込って言われても分からないんだけど!」

「いやいや、お持ちの銀行口座にお金を入れるだけですよ」

「お持ちのって……持ってないし!」

「わかりました、こちらで作りましょう。系列のダイコク銀行なら融通利きますが……そちらで問題ないですよね?」

 

 銀行の良し悪しなど分からないエリスは、店員の言葉に頷くしかない。店の中いっぱいになるような紙の束など、そもそも持って帰ることなどできないのだから。

 

「へへへ、こんな大口客をゲットしたらボーナスもたんまり……おっと失礼。それじゃあ、これは一度片付けますね」

 

 店員は積みあがったお金をいったん片付け、奥から紙を一枚持ってくるとエリスに差し出した。

 

「こちらが口座開設依頼書になります。必要事項を記入してください」

 

 依頼書にはいくつか入力欄があった。しかし、エリスに書ける場所がほとんどなかった。

 

「書けるところだけでいいですか?」

「どこかご不明な点でも?」

「えっと、姓名と住所と電話番号です」

「……とりあえず、分かる範囲で書いてください」

 

 投げやり気味ではあるが、エリスは店員に従って、分かる範囲の内容を埋めた。内容を確認して店員に見せると、あからさまに顔をしかめる。

 

「えっと、苗字は? 住所は? 電話番号は?」

「ありませんよ。平民ですし、住むところもありません。それに電話番号と言われても何のことか……」

「それじゃあ、職業の聖女っていうのは?!」

「ええ、聖女です」

 

 言われた通り、分かる範囲で書いたはずなのに、なぜか店員は不機嫌そうに唸り声を上げる。

 

「むむむ……わかりました。本当はダメなんですけど……系列の銀行なんで何とか融通利かせます。あなたを逃したら、上から何を言われるかわかったもんじゃないですからね。特別ですよ!」

「特別って言われると、ちょっと嬉しいかも……」

「少しは反省してください! ああ、苗字は……もう『ナナシノ』でいいや。住所は不動産屋で買いましょう! それから電話番号は……こういう端末を持ってますよね?」

 

 店員が先ほど話しかけていた端末を取り出した。

 

「持ってないですね」

「……分かりました。質流れになった品を100万円でお売りしますので、その番号を登録しておきますね」

「お金持ってないんですけど……?」

「悪い冗談ですか?! さっきの品、6000億円ですよ! 何台買えると思ってるんですか……」

 

 不機嫌な態度とは裏腹に親切な店員のお陰で銀行口座を作り、端末を手に入れた。さっそく店員はエリスの口座にお金を振り込み、端末を機械に当てた。

 

「こちらの端末は銀行口座に紐づけてありますので、タッチ決済できます。こんな感じでセンサーに当ててください。端末代は決済しましたので、こちらはあなたのモものです!」

「なるほど、これで支払っていたのか……」

 

 ようやく女性が飲み物のお金を支払っていた仕掛けを理解して、エリスは少しだけ胸のつかえが取れた気がした。

 

「あとは住む場所ですが、私もついていきます」

「えっ、いいんですか?」

「あなた一人を行かせるほうが不安ですからね。それに私のキックバックも――失礼、心配はいりません。お任せください!」

「ありがとうございます!」

 

 エリスは店員に連れられて、隣の不動産屋へとやってきた。揃ってソファへと案内される。

 

「部屋のご希望はございますか?」

「広めの部屋で。台所が充実している方がいいかな」

「ご予算はおいくらほど?」

「ろくせ――もがっ!」

「えっと、予算は考えないで、条件に合いそうな物件を紹介してください」

 

 エリスが予算を伝えようとすると、急に店員が口を塞いできた。

 

「予算があるのでしたら、賃貸でなく購入ではいかがでしょうか?」

「もちろん購入します!」

「うーん、それでしたら、こちらの物件はいかがでしょうか? 外れの方になりますが、閑静ですし広くて設備も整ってますよ」

「じゃあ、それで!」

 

 提案された物件を即決で決めたエリスに、不動産屋が目を大きく開いた。

 

「えっと、いいんですか? 価格が――」

「大丈夫です、問題ありません!」

「……」

 

 あまりにも躊躇いのないエリスの反応に言葉を失う。

 

(明らかにさっきよりゼロの数が少ないんだけど、何で慎重になるのかな?)

 

 助けを求めるように不動産屋が彼女の横に座っている店員に目くばせする。しかし、彼はため息をついて首を横に振るだけだった。

 

「この子の言う通りに……」

「わかりました……」

 

 エリスの住む場所は驚くほどあっさりと決まった。諸々の手続きは店員と不動産屋が協力してくれたおかげでスムーズに終わり、部屋へ行くだけとなる。

 

「少し遠いので、送っていきますよ」

「えっ、いいんですか?」

「……今回だけですけどね」

 

 エリスは店員に別れを告げ、不動産屋の自動車で部屋へと向かった。

 

「こちらの建物です」

「高い……教会よりも高いかも」

 

 エリスは目の前に聳え立つ高い建物に目を奪われた。

 

「部屋は、この建物の5階、501号室になります」

 

 不動産屋はカードキーをエリスに手渡す。

 

「鍵は端末にも設定してあります。建物と部屋の入口の両方で使いますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。問題ありません!」

「何かあれば、こちらまで連絡くださいね」

 

 不動産屋の自動車が見えなくなってから、エリスは建物に入る。エレベータで5階に上がり、501と書かれた部屋にたどり着いた。

 

「この部屋かな?」

 

 エリスが鍵を持って触れると『ピー、カチャリ』という音と共に、ロックが解除された。

 

 中に入ると鉄のような匂いが鼻につく。

 

「なんだろう……?」

 

 薄暗い部屋の中央に、倒れている人の姿が見えた。慌てて駆け寄って手を触れると、ぬるりとした感触が手のひらに付く。

 

「血……?!」

 

 慌てて抱き起すと、差し込んだ光が顔を照らす。

 

「久我さん?!」

 

 先ほど別れたはずの久我が、血まみれになって倒れていた。

 

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