所持金6000億円の断罪聖女。〜転移先の近未来都市で魔道具を売ったら国家予算を超えたので、財力と聖女の力で美食革命を起こします!〜   作:エリス

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第6話 支部長の威厳が底を打ちました!

 翌日、家具を全く買っていないことに気付いたエリスが買いに行こうかと悩んでいると端末に成瀬から着信があった。掛けたことはあっても掛かってきたのは初めてで、慌てて取り出そうとして、落としそうになった。

 

「あわわ、あっ、はい……」

『もしもし、エリスちゃん? こっちの準備ができたから、迎えに行こうと思うんだけど大丈夫?』

「あっ、大丈夫です」

『それじゃあ、迎えに行くから。建物の外で待っててね』

 

 成瀬との通話を終え、エリスは部屋を出て建物の外へと向かう。彼女の到着を待ちながら、朝の冷たい澄んだ空気を大きく吸い込んで深呼吸をした。

 

 遠くの方から赤い派手な自動車が走ってくるのが見えた。減速しながらエリスの目の前で停止すると、窓を開けて成瀬が顔を出す。

 

「お待たせ。それじゃ、こっちに乗ってくれるかな?」

 

 成瀬は助手席の扉を開け、乗るように促した。ドアを閉めると、自動車はゆっくりと警察署に向かって走り出した。

 

「随分と派手な自動車ですね。久我さんの自動車は地味は白黒でしたけど……」

「あはは、あれはパトカーと言って仕事で使う車だからよ。こっちは私個人の車よ」

「なるほど、久我さんはいつも仕事だったのか!」

「昨日、目の前でテロリストと戦ってましたよね?!」

 

 エリスは料理に気を取られて、昨日のことをすっかり忘れていた。確かに自分の部屋で激しい銃撃戦が繰り広げられていたことを。

 

「そんなこともあったなぁ」

「なんで他人事なんですか?!」

「うーん、あの程度じゃ脅威にならないし……」

 

 エリスが事も無げに答えると、成瀬は言葉を失った。少しだけ気まずい雰囲気が漂う中、車は警察署に到着した。

 

「着いたわ。ここが警察署よ」

「意外にキレイな建物なんですね」

「一昨年、建て替えたばかりだからね」

 

 小汚い騎士団の詰所をイメージしてたせいか、思っていたよりもキレイな建物を目にしてエリスは感想を漏らす。成瀬は建て替えたばかりだからだと言うが、騎士団の詰所は建てて一年も経たずに中も外もボロボロだ。

 

「武器とか装備品とか酒瓶が転がっていたりしないんですね」

「どこの話よ?!」

 

 何よりエリスが驚いたのは、掃除が行き届いていることだった。軽くツッコミを入れながら成瀬に付いていくと、同じ刑事と思しき人と何度もすれ違う。女性だけでなく男性も久我とは違って線の細いタイプが多かった。

 

「思ったよりも落ち着いた雰囲気ですね。もっと罵声とか飛び交っているのかと……」

「どこの知識よ! そんなわけないじゃない。そういう時代もあったらしいけど、遥か昔よ? と、着いたわ」

 

 扉が並んでいる所にたどり着くと、成瀬がボタンを押す。しばらく待っていると目の前の扉の一つが開く。しかし、中には狭苦しい部屋が一つあるだけだった。

 

「さ、早く入って」

「この部屋に?」

 

 怪しさ全開の部屋だったが、追い立てられるようにエリスが中に入る。続く成瀬も素早く入って、たくさん並んだボタンを操作しだした。

 

「あ、扉が……」

「危ないからダメよ」

 

 思わず伸びたエリスの手を、成瀬がガシッと掴んで止めた。そのまま扉が閉まり、密室の中に成瀬と閉じ込められる形となった。

 

「少しは慣れた?」

「自動ドアには慣れ――うわっ!」

 

 振動と共に体が押し付けられるような感覚に驚いて声を上げた。落ち着いたと思ったら、今度は浮くような感覚に襲われる。やっと収まったと思ったら、チンという音に続いて扉が自動的に開いた。扉の外は入った場所とは全く違う景色が広がっていた。

 

「えっ、ここはどこ?!」

「エレベータで5階に来ただけだけど……」

「こんな一瞬で5階に?! 凄い……私の部屋――建物にもあればいいのに……」

 

 エリスは神の世界の技術に度肝を抜かれた。エレベータがあれば、エリスの部屋も5階まで階段で駆け上がる必要はない。

 

「……あるじゃないの、エレベータ」

「あるの?!」

「エレベータが無かったら、あんな大荷物を持って5階まで来れないじゃないの!」

「道理で……」

 

 1分ほどでテーブルと椅子を持って戻って来れたわけである。

 

(よく考えたら、誰かと建物の入口から部屋までいったことないな……)

 

 考え込みながらもエリスは成瀬の後について廊下を進んでいく。そして、突き当りの部屋の前で足を止めた。

 

「それはさておき、着いたわよ」

 

 目的の部屋は執務室兼応接間のような雰囲気だった。奥行きのある空間の窓際には角ばった大きな机と、豪華な革張りの椅子が置かれている。

 

 手前には透明な天板のテーブルがあり、その左右には王宮のベッドにも負けないようなふかふかのソファが設置されていた。

 

 その応接スペースの向こう側に久我と彼の上司と思われる年配の男性が立っていて、エリスを笑顔で迎える。

 

「こちらが宇宙警察ネオ・トーキョー支部長よ」

「支部長をやっている佐久間だ。大まかな内容は既に久我君から聞いている」

 

 白髪交じりながらも威厳のある声に、エリスは思わず頭を下げそうになっていた。

 

(国王よりも貫禄はあるかもしれない……?)

 

 そのことに気付いて慌てて視線を戻す。佐久間も初めてのことではないのだろう。エリスの様子を微笑ましそうに見つめていた。

 

「立っていても仕方ないだろう。ささ、座りたまえ」

 

 佐久間の鶴の一声で全員がソファに腰を下ろす。頃合いを見て、佐久間は紙切れを一枚テーブルの上に置いた。

 

「こちらが、久我君と成瀬君が上げてくれた報告書だ。だが、抜けている部分があるので、君の視点から順を追って教えて欲しい」

 

 同時に佐久間の雰囲気が剣呑としたものに変わった。その気配を感じてエリスの身体も無意識に固くなっていく。

 

「まず、ヤツらのアジトをどうやって見つけたか教えて欲しい」

「……えっと、不動産屋の紹介です」

「……は?」

 

 エリスの回答に佐久間が素っ頓狂な声を上げる。初っ端から色々と台無しだった。

 

「お金も住むところも無かったので、質屋でお金を作って、不動産屋に物件を紹介してもらいました」

「あそこはテロリストのアジトだったとはいえ、高級マンションのはずだが?」

「少し高く売れましたので、何とか買えました!」

 

 買った部屋はかなり高額だったらしいので、あえてエリスは余裕がなかった感じを出しながら答える。

 

「うーん……テロリストのアジトになっていたくらいだから、値崩れしていたというところか」

「たぶん、そうだと思いますよ。意外と安かったですからね」

「次に、テロリストと一足先に相対していたようだが、どうやってヤツらを凌いだのかね?」

「料理、だと思います」

「……は?」

 

 佐久間はエリスの回答に面食らう。もはやエリスの中では佐久間の威厳がストップ安だった。

 

「料理を作り出したら、彼らの動きが止まりました」

「バカな、たかが料理で……そんな凄い物を作ったというのか?」

「いえ、何の変哲もない家庭料理ですけど」

「だろうな。さしづめヤツらも空腹に耐えかねてというところだろう」

「そんなわけ――もがっ」

 

 腕を組んでドヤ顔で頷く佐久間に、成瀬が何か言おうとするも、久我に口を塞がれて黙らされていた。成瀬の失言はいつも通りなのか、佐久間も特に気にせず話を進める。

 

「最後に、君は二人が戦っている間、どこにいたのかね?」

「えっ? キッチンで料理してましたけど……」

「……は? テロリストと戦闘していたと書いてあるんだが!」

 

(二人が戦っていることと、料理に何の関係が?)

 

 佐久間のツッコミの意図が分からず、エリスは首を傾げた。

 

「銃弾が飛び交っている状況だったのだぞ! のんきに料理など出来るわけがないだろうが!」

「そんなこと言われても、私は戦いが得意ではありませんので……」

「違う! 平然と料理する君の神経を疑っているだけだ!」

 

 エリスは乾いた笑いを浮かべることしかできない。起こったことをありのまま話しているに過ぎないからだ。

 

「ははは、そう言われても困るんですけど」

「はあ……わかった。これで報告書は問題なしとしておこう」

 

 ため息を吐きながらエリスの発言を報告書に追記して、佐久間は封筒にしまう。

 

「その物件を君たちの拠点にする件だが……物件が値崩れしていたようだし問題ない。物件の購入費用の立替だけでなく、必要な資材の購入なども警察で支援すると約束しよう」

「支部長、いいんですか?」

「もちろんだ。テロ対策は上層部の要請もあるから、予算も下りやすくなっている」

「やった!」

「やれやれだぜ」

 

 エリスとしては自由が無くなりそうで不安ではある。しかし、喜びを隠せない成瀬に加え、悪い気はしないという態度の久我。この場で発言して二人の気を悪くするのもどうかと思い、後で話し合うことにした。

 

「さっそくだが、物件の費用を教えてくれないかね」

「たったの2億円です」

 

 ペンを書類に走らせていた佐久間の手が止まる。

 

「……は? たった、じゃないだろう!」

「うーん……実は6000億円くらい持っているんですよね」

 

 ――バキッ!

 

 あまりに強く握り締めたせいで、佐久間の持っていたペンが真っ二つに折れた。それでも足りないのか、折れてもなお佐久間の手はプルプルと震えている。

 

「ありえないありえないありえないありえない……はっはっは!」

 

 俯きながら抑揚のない声でぼそぼそとつぶやいていたと思ったら、急に大声で笑い出す。その狂ったような笑いに、エリスの中での佐久間の威厳が底を打った瞬間だった。

 

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