所持金6000億円の断罪聖女。〜転移先の近未来都市で魔道具を売ったら国家予算を超えたので、財力と聖女の力で美食革命を起こします!〜   作:エリス

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第7話 デパートには動く階段の罠が仕掛けられているようです?!

 佐久間はひとしきり笑ったあと、真顔になってエリスを睨みつけてきた。

 

「冗談はやめてくれたまえ」

「いえ、冗談じゃないんですけど」

「まだ、そんなことを言って――」

 

 頑として信じない佐久間に、売買契約書を差し出した。あらかじめ成瀬から用意しておくように言われたものだ。震える手で、それを手に取った彼は大きく目を見開いたまま再び硬直する。

 

「ば、バカな! 2億円……しかも現金一括だと?! ホントのことだったのか!」

 

 確たる証拠を提示されて、佐久間が床に崩れ落ちた。非難めいた目で瞳を潤ませながら、下から見上げるようにエリスを見つめる。

 

 これが美少女なら可哀想に思うだろう。しかし彼はそこそこイケメンではあるがオッサンだった。それで同情を引くのは無理がある。

 

「今さら立て替えられない、なんて言いませんよね?」

「ううっ……」

 

 動揺して取り乱す佐久間に成瀬が追い打ちをかける。言葉を詰まらせ冷や汗を流すも、何とか気を取り直して立ち上がった。

 

「言う訳ないだろう! これは上が言い出したことだ! 絶対に首を縦に振らせて見せる!」

「さすがです、支部長!」

 

 自棄になりつつある佐久間を、成瀬がここぞとばかりに煽りだす。その一言で、佐久間の機嫌もだいぶ良くなったようで、少しばかり眉間の皺が薄くなっていた。

 

「話はそれだけですか? 終わったなら、買い物に行きたいんですけど……」

「何を買いに行くのかね?」

 

 佐久間が警戒心を滲ませながら訊ねてくる。部屋の金額で痛い目を見たせいで「また何かやらかすつもりではないか?」という疑いの意図がありありと感じられた。

 

「別に大したことじゃないですよ。部屋を買ったばかりなので、家具がほとんどないので――」

「そうです! 家具だって備品ですから。当然、お金も出してくれますよね?」

 

 エリスの言葉に被せるように成瀬が佐久間に詰め寄った。

 

 何か恨みでもあるんじゃないかと思ってしまいそうな勢いに、下手なことはしないようにとエリスは心に誓う。

 

「もう今さらだよ……好きにしたまえ!」

 

 流石に備品程度の金額では、先ほどの衝撃を超えることはできなかったようで、佐久間は諦めたように手を振りながら、成瀬の主張を受け入れた。

 

「よし、話は決まった! エリスちゃん。さっそく買い出しに行こうか!」

「えっ、付いてくるつもりですか?」

「もちろんでしょ。私たちの部屋でもあるからね!」

「当然だが、俺も付いていくぞ!」

 

 こうして買い出しは三人で向かうことになった。

 

 警察署を出たエリスたちは成瀬の車に乗ってデパートへと向かう。

 

「エリスちゃんの部屋、家具とか何もなかったよね?」

「まだ引っ越したばかりですので……」

「それじゃあ、色々買わなきゃだね」

「お前なぁ……いくら費用を上が持ってくれるって言っても限度があるぞ」

「わかってます。その辺はちゃーんと弁えてますからね!」

 

 始終、浮かれ気味の成瀬にエリスは圧倒されていた。久我が苦言を呈しても、どこ吹く風と気にする様子がまるでない。本当に何か恨みでもあるんじゃないかと思えてしまいそうな振る舞いだった。

 

 15分ほどで車はデパートに到着し、エリスと久我は先に入口の前で降ろされた。

 

「それじゃあ、駐車場に停めてくるから、先に家具売り場に行ってて」

「あいよ」

 

 成瀬はそのまま駐車場へと向かった。エリスと久我はエレベータで10階にある家具売り場へと向かう。

 

「足元がふらつく……」

「大丈夫か?」

「まだエレベータに慣れてないだけだから……」

 

 さすがにエレベータで驚くことは無かったが、始めと終わりに感じる異様な感覚に、エリスはまだ慣れ切っていなかった。

 

「確かにデパートのエレベータは速度があるからな」

「道理で先ほどよりもキツイわけだ……」

「慣れてないならエスカレーターの方が良かったか」

「エ……スカレーター?」

 

 初めて聞く言葉にエリスは首を傾げる。エレベータの親戚のような名前に不安を感じ、背筋に冷たいものが流れる感触があった。

 

「お、間に合ったか!」

「成瀬さん?! 早くないですか?」

「そんなことは無いよ。家具売り場が10階にあるのは知ってたし、同じ階の駐車場に停めれば目の前だからね」

「えっ……?」

 

 エリスは気づいてしまった。成瀬がエレベータも……エスカレーターすらも使わずに10階にたどり着いていたことに。

 

「それだったら駐車場まで3人で来れば良かったじゃないですか!」

「エリスちゃんがデパート初めてだと思ってたから、中を見ながらの方がいいかなと思ったんだよね。ほら、エスカレーターで上がれば下から順にフロアの様子が見れるでしょ?」

「えっと……私たち、エレベータで上がってきたんですが」

 

 エリスの言葉を聞いた成瀬が大きなため息を吐いた。

 

「はあ……久我さんに任せたのが間違いだったわ。帰りはエスカレーターでゆっくりと見ながら降りていきましょう。それじゃあ、家具を見て回るわよ」

「はい!」

 

 3人揃って売り場を見て回る。

 

「シングルサイズのベッドにソファ……ところで、テーブルの天板が金属製のものなんですけど、移動が大変じゃないですか?」

「何言ってるの。これはいざという時に身を護るためのものよ」

「そうだな。いつ敵襲があるか分からないからな」

「平穏な生活はどこへ……」

 

 平然と敵襲があるという前提の話をする二人をエリスは呆然と見つめる。部屋は元テロリストのアジトだった場所。彼らの言うことはもっともだった。しかし、エリスにも譲れないものはある。

 

「見た目が良くないんですけど……やっぱり、こっちのガラステーブルにしましょう」

「銃弾が防げないのが……」

「大丈夫ですって! テロリストだか何だか知りませんが、そんな頻繁には来ませんよ!」

「エリスちゃんが言うなら仕方ないか」

 

 お互いの主張がぶつかり合うかとエリスは身構えていたが、意外にも成瀬があっさり折れて、ガラステーブルを購入することになった。

 

 一通り家具を購入したエリスは、なぜか金庫売り場へとやってきた。

 

「あの……このごつい箱はいったい?」

「金庫よ。お金とか大事なものを入れておくの」

「お金なら銀行口座に――」

「ダメよ。少しは現金も持っておかないと……何が起こるか分からないからね」

 

 成瀬が少しだけ含みのある言い方で金庫を勧める。仕方ないので、エリスは一番大きい金庫を購入することにした。

 

「随分と大きいのを買ったわね」

「お金を入れるのであれば、これくらいは必要かなと」

 

 何しろ質屋であっという間に札束が積みあがるほど。しかし、成瀬と久我は頬を掻いて苦笑いを浮かべていた。

 

「言っとくけど、一部でいいんだからね?」

「はい、もちろんです!」

 

 全部入れようとすると全然足りないのだが、センシティブな話題なのか、二人ともツッコんでくることは無かった。

 

「それじゃ、エスカレーターで下りながら店を回りつつ、1階の食料品売り場に行くわよ!」

「いよいよ、エスカレーターとやらが……」

 

 エリスが生唾を飲み込む。緊張しながら成瀬を先頭にして辿り着いた先には動く階段があった。

 

「何これ……まさかトラップ?!」

「これがエスカレーターよ」

 

 階段が次々と手前の溝に吸い込まれている様子にエリスは緊張のあまり手に汗を握る。

 

「これよりも早く降りろってことか」

 

 聖女の加護を持つエリスなら問題ないが、かなり危険な気配を放っていた。

 

「行くしかないか……」

「ちょっと待って! こっちは反対よ」

 

 勢いよく飛び出そうとした瞬間、成瀬に止められた。反対側に回ると、今度は階段が溝から出て、下に向かって動いていた。

 

「これに乗ると勝手に下まで連れて行ってくれるわ」

「おおお、凄い! それじゃあ、行きます!」

 

 階段の手前で踏み切って、エリスは宙を舞う。しかし、動く階段に着地を合わせるのは難しく、足を滑らせて体勢を崩してしまった。

 

「はわわ……止めてぇぇぇ!」

 

 聖女の加護のお陰で怪我はないものの、動き続ける階段の上で一度崩れた体勢を戻すのは至難の業。奇妙な姿勢のまま、エリスの体は一つ下の階へと向かっていく。

 

「ひぃぃ、吸い込まれるぅぅぅ!」

 

 下の階の手前では、階段が次々と吸い込まれていた。滅多なことでは動揺しないエリスだが、激しく取り乱しながら這うように階段を昇っていく。

 

「エリスちゃん、逆よ!」

「逆って言っても!」

 

 エリスが昇るよりも階段の動きの方が早く、奮闘空しく這いつくばった状態のまま、下のフロアに打ち上げられた。

 

 

 

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