傭兵ギルド:死線踏破が異世界にログインしました   作:全智一皆

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第三話 出陣、邂逅の予兆

■  ■

 それは、偉業を成した後に覚えた感覚だった。

 ―――世界を制した者(ワールド・チャンピオン)。ユグドラシルというゲームにおいて、公式チートと呼ばれる戦士系最強の職業にして、れっきとした強者としての証。

 人間としてその称号と地位を獲得した瞬間―――侍Destr!という人間の心には、その感動とは全く異なる感情が滲んでいた。

 

 基本的に人間種、亜人種、異形種の三つに分類されているユグドラシルでは、人間種の数が圧倒的に多かった。

 亜人種や異形種には『種族レベル』という概念があり、その上昇によって能力値への強化という恩恵があったが、しかしより強いキャラクターを作るというだけの話なら、『種族レベル』よりも『職業レベル』を上げた方が効率が良いというのが現実だった。

 それに加え、異形種は基本的にアンデッドや悪魔といったものが多い為、人間種のそれよりも弱点を多く抱えてしまうというデメリットもあった。

 だからこそ、人間の世界とされるミズガルズは多くのプレイヤー達が集まった。なんせ人間の世界、異形種が入り込めばリンチにされても文句は言われない様な世界だ。

 侍Destr!は、そんなミズガルズのワールドチャンピオンになった。人間種のみが参加する事が可能な大会に出場し、見事その勝利を勝ち取り、ギルド武器に匹敵する装備と賞賛を手にしたのだ。

 

 だが―――それからだった。

 絶対的強者としての証明を果たしたその直後、プレイヤーとしての彼の心に、あっさりと虚しさが浮かび上がった。

 賞賛など無に等しく、力もまた同様。其処に至るまで、ただそれだけを目標としていた筈の自分が、しかしいざ頂に立ってみればそれに虚しさを覚える? 侍Destr!は、そのあまりにも矛盾した感情を理解出来ずにいた。

 何が虚しいというのだ? 何が足りないというのだ? 一人のプレイヤーとして完成に一歩近付いた己は、何故その完成への一歩に一切の歓喜を示さない?

 ユグドラシルでも、リアルでも、その疑問が晴れる事はなかった―――《死線踏破》を創るその時までは。

 ムスペルヘイム。異形種に有利なその世界での戦闘、探索、ダンジョン。それらを経験し、『アスク・エンブラ』を攻略し終えた時に、ようやく彼は己に何が足りず、そして己が何を求めているのかを知った。

 

 ―――死線(たたかい)だ。飽くなき戦い、飽くなき連戦。己が命を、武器を、全てを無くすかもしれない様な危機との巡り会い。それこそが、侍Destr!というプレイヤーが最も欲するものだったのだ。

 だから、☆ミラクル☆のギルド設立に賛成した。

 望むは戦闘ただ一つ。名誉も賞賛も二の次だ。悪戦苦闘など望外歓喜。

 PVP、ボス攻略、レイド、ギルド戦争、ワールドエネミー。ただひたすらに危険に満ち溢れた死線(せかい)にこそ居場所を求める、気狂い共の集団。

 それこそ《死線踏破》であり、それを纏め上げる彼こそが―――その組織の最たる気狂いだ。

 

「おーおー、やってんなぁ。村人相手に躊躇もなく、剣を突き立てやがらぁ」

 

 《転移門(ゲート)》の先は、村の建物の屋上だった。村人を襲っている騎士達は、無辜の民を殺すのに必死になっているのか、彼の事など気付いてすらいない。

 悲鳴、悲鳴、悲鳴。どこもかしも悲鳴ばかりだ。舞い散る鮮血に対して、騎士達の何人かはまるでそれが愉悦であるとばかりに、恍惚とした笑みを浮かべていた。

 不快は無い。全く気にも留めていない。つい最近までの自分なら、その惨憺たる現状に義憤を覚えたかもしれないが、今となってはそんな事など欠片も浮かばない。

 あるのは恐怖でも緊張でも無く―――期待だ。

 

「罪悪感の一つでも湧いたら良かったんだが……こりゃダメだな。完全に悪人だわ。セッちゃんに嫌われたくねぇなー……でもなんか―――すっげぇ気楽なんだよな」

 

 無意識に上がる口角。少しずつ加速していく心臓の鼓動。

 間違いない―――やはり、これは期待だ。未知の戦闘、異なる世界……いや、()()()()()での死線。

 

「ふはっ、見た感じ全く強そうには見えねぇけど……取り敢えず村人から話は聞かないとだからな。依頼受けた訳でもないが―――こんな酷い場面(好都合)にあっちまったら()るしかねぇよなァ」

 

 腰を上げ、二刀の鞘を走らせる。

 敵の数は大きく見積もった十数人程度。村一つを潰すつもりなら、妥当な数だろう。相手になるというのなら、些か桁が足りない所ではあるが。

 一先ずは―――軽く殺してから考えよう。

 

「よっと」

「なっ!? 貴様、ど」

 

 こから現れた―――と、言葉が最後まで紡がれる事はなく、

 

 ごとり、と。

 

 肉体がその場に立ち伏せたままに、兵士の首が落ちた。

 

「―――もっっっろ!!!! おいおい、幾らなんでも脆すぎだろ……豆腐かコイツら? スキルも使ってねぇってのに…」

 

 あからさまに落胆してみせるが、しかしそれは至極当然の結果である。

 侍Destr!のレベルは100。人間種である為、種族レベルではなく職業レベルのみの合計100レベルであり、侍Destr!はその職業全てが戦士系で統一されている。

 ワールドチャンピオンとケンセイを筆頭に、ただひたすらに攻めという一点のみに特化したビルド構成。攻撃力、攻撃速度、クリティカル率、カウンターのスキルに溢れた彼の攻撃を喰らえば、普通の人間なら即死も無理はない。

 寧ろ彼が期待し過ぎなのだ。()()()()()()において、魔法詠唱者(マジックキャスター)にして死の支配者(オーバーロード)である()ですら、あの無双具合だったのだから。

 

「はぁ。期待して損したわ。でもそうか、そりゃそうだよなぁ。ゲームじゃねぇし、コイツら人間だもんな。そら首斬られたら死ぬか。……アレか、カルマ値の所為で思考もおかしくなってんのか?」

「く、クソっ! よくも仲間を!」

「ありきたりな台詞ご苦労さん」

 

 逆手に持ち替え、深く踏み込めば瞬く間に敵との距離が殺される。

 あまりにもとろく、殺す気が欠片も感じられない動作にうんざりとしながら、侍Destr!は二振りの刃を交差した。

 肩から胴を斜めに四分割する様に斬り捨てれば、汚らわしい血と共に五体は宙でバラされ、そのまま自重に従って地面へと突き落とされた。

 

「とは言え、色々と実験はしたいし、スキル使ってみるか。何するか……『魁』はキラキラに使って効果分かってるからな。取り敢えず『一拍無尽』にするか?」

 

 使用すると数分の間、クリティカル率と攻撃速度をアップさせる事が出来る、《ケンセイ》の職業(クラス)スキル『一拍無尽(いっぱくむじん)』。

 ユグドラシルではその様な効果だったが―――この世界では、如何な効果になるか。

 

「ふい」

「え?」

 

 ただ軽く横薙ぐだけの単純な動作―――もはや攻撃とすらも言えないそれは、兵士の目に映る事すらもなかった。

 零れた短い言葉こそ、その証明だ。首を斬り落とされたというのにも関わらず、言葉が紡がれた。脳が自らの死を認識出来ずに機能したまま、首が落ちていた。

 

「あれ、胴のつもりで振るったんだけどな…もしかしてクリティカル率の上昇って、自動的の急所狙う事になんのか? だとしたらちょっと扱い難いな。攻撃速度上昇は全然文句ねぇんだけど……もっと実験しねぇと」

「ぁ……」

「ん?」

 

 踏み出そうとした足が、微かな力に阻まれる。ふと目線を下に向けると、死に絶えの男が袴の裾を掴んでいた。

 目に生気はない。腹を剣で貫かれ、内臓も零れつつある。出血も多量だ、どうやっても助かりようはない。

 

「んだよ、助けてとか無理言うなよ? もうそれじゃ助からねぇから」

「こ…、が……も、に……」

「こ……子供か? もぉ、に……森ってか? あの森の方にお前の息子さんか娘さんが逃げてるって? で、それを俺に助けろってのか?」

「お……ね…………が………………」

 

 言葉は紡がれず、消える様に力が抜けて手が落ちる。

 死は訪れた。最初から決まっていた事だ。それは理解していた。

 その上で―――何一つ、感じない。

 

「……おい? もしもーし?……マジかよ、死にやがった。えー、そんな平和過ぎるお願い聞けっての? ぶっちゃけ聞く義理無いんだけど……依頼ならまだしも、依頼人死んだら金も取れねぇし」

 

「―――申し訳ございません、()()。セツナ、ただいまを以て現着致しました」

 

 《転移門(ゲート)》の奥から響いた凛とした声に、侍Destr!は分かりやすく興奮した。

 白を基調に、ほんのりと淡い水色のグラデーションが掛かった、和洋折衷の和装防具に、打刀と脇差の神器級(ゴッズ)武器二振りを装備した、完全武装形態―――剣士セツナの登場だ。

 

「やば、俺の嫁カッコよすぎ…!? やっぱ『リッカシラユキ』のビジュアル神過ぎねぇか!? セッちゃんの雰囲気に合い過ぎだろマジ!」

 

 神器級(ゴッズ)の武器や防具は、その全てが入手難易度も作製難易度も非常に高く、ギルドを結成しているプレイヤーでも持っていないのが珍しくはない。

 そんな神器級(ゴッズ)を厳選に厳選を重ね、武器も防具も両方をNPCに揃えて装備させている、というのは非常に珍しい光景だ。

 上位ギルドでも、自らの作製NPCにそこまで入れ込んだのは《死線踏破》以外なら《アインズ・ウール・ゴウン》くらいのものだろう。

 それが作製NPCに似合うものに限定しているなら、尚のこと。それを実際に、この新たな現実世界で拝めるというのだから、創造主としては興奮するのも致し方ない。

 

「あ、主様、お褒めを頂けるのは大変嬉しいのですが、流石にこの場では…その……大勢に見られてしまいます」

「おっとそれはいかん。俺のセッちゃんをタダで見ようとかマジ万死…!って、違う違う。なぁセッちゃん、ちょっと聞きたい事があんだけどさ」

「何なりと」

 

 薄々気付いてはいたが、先の自分の言葉と感情で理解出来た。此処に居るのは、■■■■という人間ではなく、侍Destr!という『人間(本体)』であって、もはや■■■■は半ば存在しない。

 カルマ値によって思考すらも左右されるのであれば、今後自分は人間としてマトモな感性を働かせる事は出来ないだろう。カルマ値-500の極悪だ、善性などこれっぽっちも期待出来ない。

 思考の根元にあるのは《死線踏破》として死線(たたかい)への欲望だが、それ以外の事に関しては殆どが損得勘定。仲間達の信頼、セツナへの愛を除けば、大体が悪人のそれになってしまっていた。

 

「このおっさんの娘さんが、何やら森の方に逃げたらしいのね? で、死に絶えながら俺にそれを助けて欲しいってお願いしてきた訳なんだけど……セッちゃん的にはどうしたい?」

 

 ならば―――それらは素直に別の存在に委ねれば良い。自分が信頼出来る存在からの意見を聞き入れた上で、全てを判断すればいい。

 もう現実世界の頃の様な判断は出来そうにもない。そもそもユグドラシル時代から、基本的に組織運営は☆ミラクル☆やシスター・ヨカネに任せっきりだったのだ、大した変わりもないだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それは……私は主様の命の従います。主様が見捨てると仰るのであれば、私は―――」

()()()()()()()()()()()()()()()。どうしたい?」

「……出来る事ならば、救ってあげたい…と、思います。勿論、優先すべきは主様の意見ですが…」

「―――オッケー! セッちゃんがそう言うなら仕方ない、助けてやるか!」

 

 先程までに浮かべていた落胆や面倒嫌いは何処へやら。侍Destr!はニカッと笑いながら、セツナの意見を尊重し、承諾した。

 

「じゃあセッちゃん、残ってる兵士たちの掃討よろしくね。あ、何人かは残しといてな?」

「承りましたが……よろしいのですか?」

「最初はそのつもりだったんだけどなぁ。でも《死線踏破》広めるなら、何人か残しといた方が好都合かなってね」

「《死線踏破》を広める…? この世界でも《死線踏破》を活動させる、と?」

「そういう事。まぁ、さっき決めたからアイツらには言ってないんだけど」

 

 この世界がユグドラシルではないと確定した今、《死線踏破》を知る人間は自分達以外には存在しない。勿論、前提としてこの世界にユグドラシルのプレイヤーが居なければ、だが。

 《死線踏破》は傭兵ギルド。その活動範囲は広く、依頼によっては世界を跨ぐ事だってあった。未だこの世界について分からない事は多いが、少なくとも向こう(現実)なんかよりは楽しめる場所であると、侍Destr!は確信していた。

 ならば―――尚のこと動き出すべきだろう。こんなあからさまなファンタジーなのだ、国の一つや二つはあるだろうし、傭兵組織として名を上げれば、国家の戦争にだって巻き込まれる可能性は十分ある。

 ゲームと違った、現実の戦争が楽しめるのなら―――それこそ、《死線踏破》の名を轟かす手はない。

 

「それに、他にもユグドラシルプレイヤー居るかもしれないし。結構有名だからなー、俺ら。名前広がったらすぐ気付くだろうしさ」

 

 あわよくば、そのまま喧嘩売りに来てほしい所なんだけど……まぁ、そこら辺は追々か。セツナに聞こえない様にそう零しながら、森の方へと目をやる。

 まだ生きている確証はないが……まぁ、行くだけ行くか。

 

 それにしたって―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……取り敢えず何人かは残す事、良いね?」

「承知致しました。このセツナ、主様の期待に添えられる様、尽力致します……私の意見を受け入れてくださり、誠にありがとうございます、主様」

「何言ってんのさ。セッちゃんの頼みとあらば、何でもするってもんよ! その調子で意見はどんどん言ってくれ。今の俺、多分ユグドラシルの時よりもマトモな判断出来ねぇから」

『やっぱバカに成り下がってたか……いや元からか』

「おい誰だ今くっそ余計な《伝言(メッセージ)》送ってきた奴??? キラキラか? 今の声的にキラキラだよなァ!? お前帰ったら覚悟しとけよ!?」

『やべミスった! ヲッさんヘルプ!』

『緊張感無さ過ぎですよ、お二人共……』

 

 

 

 

「とんでもない奴を見付けてしまった…」

 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガは、その顔を手で覆いながら俯いた。

 アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの一人にしてワールドチャンピオンの一人である「たっち・みー」の作製NPCである竜人の執事セバス・チャンは、顔を蒼白に染め上げて主人へと駆け寄った。

 

「如何なさいました、モモンガ様っ!?」

「い、いや、なんでもない。あぁ、なんでもないとも。ただ、想像していたよりも厄介な相手を見付けてしまってな……」

 

 モモンガは思い出す。まだアインズ・ウール・ゴウンの活動が盛んであり、ギルドメンバーの誰一人もが欠けていなかった黄金の時代を。

 そして―――そこでの、友との会話を。

 

「《死線踏破》……ですか?」

「そうです。モモンガさんは知らないんでしたっけ?」

 

 ギルドメンバーの一人であり、モモンガの恩人であるたっち・みーは疑問符のアイコンを浮かべる。モモンガは聞いた事ありませんね……と、知らないと不味い事なのかと思い、謝罪のアイコンで返した。

 

「いえ、そんな謝らくても大丈夫ですって! 活動自体は前からやってましたが、有名になり始めたのは最近ですから」

「へぇ……どんなギルドなんですか?」

「所謂『傭兵ギルド』ですよ。PVPやボス戦、レイドボスやギルド戦争、さらにはワールドエネミー討伐隊への参加といった、とにかく危険で戦闘が関わる依頼程安く、逆に平穏な依頼は高額という運営をしているギルドです」

「なんですか、その文字通りの意味で『私達は戦う気しかありません』を体現した様なギルド……」

 

 ユグドラシルには数多くのギルドが存在した。《傭兵魔法職ギルド》を筆頭に、傭兵ロールプレイを楽しむ様なギルドだって決して珍しくはなかった。

 だが、その運営方式はあまりにも異彩過ぎるだろ。モモンガはそう思わずにはいられなかった。

 

「まぁ実際、間違ってないですよ。彼処はユグドラシルでも屈指の戦闘狂達が集まってますから。なんせ、ギルド長は侍Destr!さんですし」

「侍Destr!って……確か、たっちさんと同じ、ワールドチャンピオンですよね!?」

 

 その名前くらいは知っている。

 侍Destr!―――たっち・みーと同じく、公式チートと呼ばれる戦士系最強の職業『ワールド・チャンピオン』を取得している有名プレイヤーだ。

 戦士系の職業だけでレベル100に到達し、圧倒的なプレイスキルと状況判断で、瞬く間にユグドラシルの全体プレイヤーランキングで4位へとランクインした実力派だ。

 

「はい。ミズガルズのワールドチャンピオンで、防具と武器が一体になった装備『二天一振(テンワカツヒトフリ)』を持っているプレイヤーです。同じワールドチャンピオンの(よしみ)で、何度か話してまして。なんというか……ウルベルトさんとは別ベクトルのアレです」

「た、たっちさんがそこまで言うんですか…?」

「お恥ずかしながらぶっちゃけてしまうと、あの人とのPVP……ちょっと怖いんですよね」

「怖いっ!?」

 

 PVP―――プレイヤー同士における直接対決が怖い? しかも、同じワールドチャンピオンのこの人が? モモンガは、恩人であり尊敬している人からのその言葉に驚嘆するばかりだった。

 DMMORPGというゲームジャンルのユグドラシルだ。VRの様なそれとは違い、実際に仮想世界が現実世界の様に思えるゲームシステムである以上、戦闘に対して緊張や恐怖が芽生えるのは否定出来ない。

 だが、それを加味してもゲームはゲームだ。スキルや魔法だってあるのだから、それらも楽しめる一部になっている筈。

 にも関わらず―――怖い、と。

 

「気迫というか、殺気と言うか……あの人だけ雰囲気が違うんですよ。倒すとかじゃなくて、お前を本気で殺してやる!って感じで……リアルでたまに居るから分かるんです、そういう空気を持つ人」

 

 たっち・みーのリアルでの職業は警察官だ。それもかなりのエリート。おまけに美人な幼馴染との間に娘が居るという、まさに超絶勝ち組なリアルチート社会人である。

 ディストピアな現実世界において、警察官はかなり多忙だ。もはや崩壊一歩手前の現実世界においては、暴徒なんて何ら珍しくはない。その中でも、たまに居たりするのだ。

 ただ暴れるだけではない―――明確な殺意というものを宿し、犯行を移す輩が。

 

「えぇ……それ本当に大丈夫な人なんですか? 危ない人なんじゃ…」

「それが、普段はそういう人じゃないんですよねぇ……気さくな方で、異形種とかそういうの全く気にしてなくて。犯罪者のそれとは全く別です。話してる時は普通に良い人なんですけど、いざ戦いってなるとキャラが変わる……そんな程度ですよ」

「は、はぁ……」

「モモンガさんも、機会があったら会ってみてはどうですか? さっきも言いましたけど、本当に気さくで分け隔てない方ですよ」

「そうですね……たっちさんがそこまで言う人なら、機会があればお会いしてみたいですね」

 

(そんな風に会話してたっけなぁ……まさか、その機会がこんな所で訪れるとは思ってもなかったけど)

 

 はぁ……と、重たい溜息が零れてしまう。

 

(実際に見て分かった―――アレは、マジでヤバい人だ。絶対にヤバい人だ。だって完全に楽しんでたじゃんか人殺し! あの人が何時こっちに来たのか分かんないけど、流石にアレで仲良くなれるは無理がありますよたっちさん!!!!)

 

 モモンガから見ても、侍Destr!という人間の異質さは十分だった。

 裂ける様な口角、見開かれた目、そして愉悦に満ちた表情。何時この世界に来たのかは定かではないが、もしもアレが転移して間もないものであると言うのなら―――危険極まりない。

 カルマ値マイナスで、属性が極悪になっているとしても、流石にアレはない。完全に殺しを……いや、戦いを愉しんでいる。

 

(侍Destr!さんが居るって事は、《死線踏破》もこの世界に来てるって可能性が高いよな……そうなると、やっぱり戦うのは避けたいな。ギルドランキングはウチより上で、WIを5個も持ってるギルドとの戦いなんて、今のナザリックじゃ危険過ぎる)

 

 もしこれが、かつての仲間達が居たならば考え方は違っただろう。仮に敵対したとても、問題はないと判断しただろう。

 だが―――違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もし今、魔法詠唱者(マジックキャスター)である自分しか居ないナザリックに攻められれば、それこそナザリックはお終いだ。相手のリーダーがワールドチャンピオンなのは確定、その他のメンバーの情報だってろくに集まってはいない。そんな状態では、対策のしようすらもないではないか。

 

(今この村に行けば、確実に出会う…けど、その方がメリットはある筈だ。後から出会うよりも、今此処で顔を合わせて、あわよくば協力を取り付けてもらう事が出来れば、ナザリックにとっても《死線踏破》にとっても利益になる……よし、行くか! まずは話さないと何も始まらないしな!)

「セバス、私はこの村に向かう。アルベドに完全武装で―――《真なる無(ギンヌンガガプ)》を装備して来る様に伝えよ」

「はっ…」

「さて……一か八か、行ってみるか―――《転移門(ゲート)》」

 

 現地への扉が開かれる。

 死の支配者(オーバーロード)と狂れ侍の―――初対面だ。




・シスター・ヨカネ
《死線踏破》の初期メンバーの一人であり、侍Destr!の右腕にして副ギルド長。通称は『ヨカネたん』。異名は『異端審問シスター』。作製NPCは『メアリー・アン』。
《死線踏破》の戦闘ガチ勢の内の一人であり、数少ない女性プレイヤー。丁寧な口調とは掛け離れたゴリゴリの脳筋プレイから、一部では『シスターの皮を被った悪魔』と呼ばれていた。実際、種族は悪魔(サキュバス)なので間違いではない。
普段は穏やかで丁寧な口調で話すが、《死線踏破》の初期メンバーとは普段よりも砕けた口調で話したり、感情豊かになったり、所々で初期メンへの信頼が垣間見える事もあり、メンバー達から愛されている。
レベルは100で、それぞれ種族レベル20、職業レベル80。尚、職業レベルの大半は戦士系のものが占めて
いて神官系は半分以下。
太刀型のWI『無用の長物(ものほしざお)』を所有している。
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