傭兵ギルド:死線踏破が異世界にログインしました   作:全智一皆

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第四話 初対面

■  ■

 侍Destr!は思う―――いきなり死の支配者(オーバーロード)が出てきたら、誰だってびっくりしちゃうじゃないか、と。

 そして―――それが圧倒的な強者であるならば、剣を抜かずにはいられないだろ? と。

 

「―――ふはっ! おいおい良いもんが来たなァ、おいッ! テメェが兵士たち差し向けた親玉か!? 魔王様と直接ご対面出来るたぁ、俺も運が良いねぇ!!!」

 

 さっきくたばった親の最期の願い―――殆どセツナからのお願いの様なものだが―――を聞き入れ、移動速度を大幅に上昇するスキル『(さきがけ)前走り(まえばしり)』を使用して、一瞬にして森まで駆け付けた。

 そこまでは良かったが、なんと言うか……タイミングが悪かった。

 小さい女の子を守る様に抱える女の子。それを囲う様に展開された防護結界。周囲には兵士の死体。そして―――その背後には、黄金の杖を持った骸骨(スケルトン)魔法詠唱者(マジックキャスター)と、漆黒のハルバードと鎧を纏った女性であろう存在。

 侍Destr!は一瞬で思考して、すぐ結論を出した―――あれ敵だ!!!! めっちゃ強ぇ敵だ!!!!!!

「えぇっ!? ちょ、ちょっと待て!!! 私は敵では」

「いいや待たねェ! なんかたっち・みー(たっちゃん)が言ってたギルド長と特徴が一致するけど他人の空似だろ!? そうだよな!? そうだと言えよ、なァ!!!!」

(無茶苦茶が過ぎるだろこの人ォォォォォ!?!?!?!?)

 

 言い分など聞く耳持たず。目にした瞬間、即座の二刀を抜刀して魔王の首目掛けて疾走を始めた。

 獲物、獲物獲物獲物。斬り甲斐のある敵だ、殺し甲斐のある敵だ、戦い甲斐のある敵だ! 自分を殺す事が出来るであろう敵が、今目の前に二人も居るなど何という幸運か!

 殺意と愉悦に塗れた凶悪な瞳が二人を貫き、感じる筈のない緊張を迸らせた。

 

「下等生物風情がッッッ!!!! 貴様如きがモモンガ様に剣を向けるなど、死を以てしても償い切れない不敬と知れッ!!!」

「ま、待て、アルベド!」

 

 モモンガを守る様に前に踏み出し、ハルバード―――の姿をしたWI『真なる無(ギンヌンガガプ)』―――を構え、迎え撃つ様に振りかぶった。

 『真なる無(ギンヌンガガプ)』は対物体最強のWIだ。その詳細が明かされている訳ではないが、広範囲の破壊攻撃が可能である事と、破壊不可能である事が判明している。

 とはいえ、侍Destr!はそれを知らない。ましてそれが形態を変化しているのであれば、尚更それが『真なる無(ギンヌンガガプ)』であるとは気付けないだろう。

 しかし―――疑問は抱いた。

 

(―――随分と自信ありげだな。つか、防御じゃなくて迎撃すんのか。それも隙のある大振りの構えで。となると、余程自分の防御力に自信があるか、もしくは俺の攻撃をどうにかする手段があるかのどっちかだな)

 

 侍Destr!は確かに戦闘狂であるが、誤解しないで頂きたいのは、彼は決して愚直という訳ではない。

 勿論、普段ならば馬鹿げた発言と行動からバカだバカだと、ギルドメンバー達から罵られる彼ではあるが、こと戦闘となれば話は別だ。

 PVPは勿論、通常のボスやレイドだってお手の物。いざ戦闘となれば普段の馬鹿さ加減はなりを潜め、相手の行動に対して冷静な分析と判断を下す。 

 

(防御は無しだな、攻撃は回避かカウンターにするか。とは言え初手は攻撃が通るかどうかの確認したいし……フェイント掛けて後ろ取るか。ついでに向こうが俺を知ってるかの情報を抜き取る)

「そんな武器で俺の二天一振(テンワカツヒトフリ)が防げるかよォ!」

「ふっ…!」

 

 互いに上段。だが、リーチは刀である侍Destr!よりもアルベドのハルバードが上。振り下ろされるハルバードは、二天一振の一太刀を砕くと同時に、侍Destr!の体を両断するだろう。

 所詮は下等生物。なんと単調な動きだろうか。その程度でモモンガ様に刃を向けるなど、愚か過ぎて失笑が零れる―――

 

「とか思ってんだろ? 対人戦で相手下に見るとか初心者にも程があるぜ」

「なっ!?」

 

 するり、と。

 通常の柄握りで振るった一太刀は滑る様に逆手へと持ち替えられ、まるで姿を消す様に刃はハルバードの間合いから消え失せる。

 完全に距離が潰された。もはやハルバードは振るえない。なんせ侍Destr!とアルベドの距離は詰まり切り、懐に入り込まれてしまっているのだから。

 こうなれば本来取れる手段は二つに一つ。下がるか、足蹴りを繰り出すかのどちらか。だが―――今、モモンガという主人を守っている現状において、下がるという行為など出来る訳がない。

 そうなれば必然的に繰り出されるのは―――攻め!

 

「避けろ、アルベド!」

「っ、はっ!」

魔法最強化(マキシマイズ・マジック)・《現断(リアリティ・スラッシュ)》!」

 

 地面を蹴り、横に吹き飛ぶ様に避けた直後に斬撃が空を翔ける。

 魔法の威力を最大限にまで引き上げる《魔法最強化(マキシマイズ・マジック)》によって、その威力を最大限引き出された第10位階の魔法《現断(リアリティ・スラッシュ)》。魔法耐性も物理耐性も無視して攻撃を与える事が可能な、強力な無属性魔法は、空間の歪みより(いず)る不可視の斬撃。

 この至近距離で、明確に視認する事も儘ならない魔法を回避するのは不可能に近い―――だが、侍Destr!は大きく笑った。

 

「よっしゃ来た! わざわざ庇うって事は、俺を知ってるって事だよなァ! ? たかが人間の攻撃なんざ苦でも無ぇだろうのに庇うんだ、警戒してなきゃ理が合わねぇよなァ!?」

(情報を抜かれた…!? そんな殺意に塗れた特攻して来たのに、なんで冷静に吹っ掛けなんて出来るんだよこの人!?)

 

 情報戦を含んだ攻撃に、モモンガは驚嘆した。

 アルベド(鎧女)の発言からして自分を知らないのは確実。だが、モモンガ(骸骨)の方は此方が特攻を仕掛けた瞬間に大きく焦った。それだけでなく、自分は敵ではないとも。

 つまり、その時点で骸骨は何となく自分を知っている事は理解に容易い。だが、単純に驚いただけという線が無い事もない。だから念には念をで、吹っ掛けた。

 結果は重畳。あの反応から察するに、骸骨は自分がユグドラシルのプレイヤーである事、或いは『ワールドチャンピオン』である事を知っているという確信が持てた。

 メンバー以外で異形種の知り合いは数える程しか居ない。魔法詠唱者(マジックキャスター)はゼロだ。だが、かつてのPVP仲間にはアンデッドの魔法詠唱者(マジックキャスター)が居る事を聞いた事はある。

 なら導き出される可能性は―――この骸骨こそ、プレイヤーネーム『モモンガ』。DQNギルド《アインズ・ウール・ゴウン》のギルド長を務める、死の支配者(オーバーロード)に他ならない。

 

「たっちゃんか武人建御雷(健ちん)弐式炎雷(にしきん)から聞いてんだろ? だったら都合が良い―――彼奴らから話は聞いてたからなぁ、1回()ってみたかったんだよッッッ!!!」

「結局そこに繋がるのか…!」

「『(さきがけ)後手廻り(ごてまわり)』」

 

 空間を歪ませる斬撃は、しかし侍Destr!の肉体を断ち切る事も叶わず、空振り去った。

 目の前から姿が消えた。右か? 左か? 後ろか? 或いは隠密系のスキルか?

 モモンガは魔法やアイテム、自分や仲間の職業(クラス)スキルやPVPといった知識においてはギルド長として、一人のプレイヤーとして多く蓄えてはいるが、流石に仲間以外のプレイヤーのスキルまでも熟知している訳ではない。

 

(《ケンセイ》のスキルか…!? クソッ、もっと戦士系のスキルについて勉強すべきだった! でも、『(さきがけ)』は知ってる! 建御雷さんが使ってたのを憶えてる、確か…使用する事で相手との距離を詰める事が出来るスキルだった筈! 後手廻りって言葉がそのままなら……ディレイ? でも姿が無い。なら……後ろ!)

魔法最強化(マキシマイズ・マジック)爆撃地雷(エクスプロード・マイン)!」

 

「『抜刀反撃(ブレイドパリー)』・魔断(マジックキル)

 

 きぃん、と。まるで何かが弾かれる様な反射音が響いてからだった。

 ―――残ったのは、たったそれだけの虚しい音。爆発による熱風も、劈く様な轟音も、土煙も、身を煩わせる様なものなど、それ以上に何一つとして起こらなかった。

 『抜刀反撃(ブレイドパリー)魔断(マジックキル)』―――《ケンセイ》を極めた際に取得する事が出来るスキルの一つであり、戦士系のスキルにおいて数少ない、魔法無効化のスキル。

 タイミングさえ合えば武器の耐久値を一切損なう事なく、超位魔法を除いたほぼ全ての攻撃魔法の無効化が可能という破格の性能を有する。

 しかし、他のパリー系のスキルよりも遥かにパリー判定時間が短く、尚且つ再使用可能時間(リキャストタイム)が長いという理由から、使うプレイヤーは数少なかった。

 だが、戦闘狂筆頭にして戦闘ガチ勢である侍Destr!にとって、このスキルはあまりにも魅力的だった。

 

「『楓翔一閃(ふうしょういっせん)』」

「ぐっ!」

「ちぃっ!」

 

 水平を割く斬撃が骸骨の身体を刻み、鎧を殴りつける。

 手応えはある。だが、骸骨(モモンガ)の方は兎も角として、鎧女(アルベド)に対するダメージはほぼゼロだろう。

 なんせ、アインズ・ウール・ゴウンにおける防御力最強のNPC。超位魔法にすら3回も耐え切る事が可能な防御力を有しているのだから。

 

「おいおいおい、かっっってぇなァ!!!! どうなってんだよその鎧!? これでも火力高ぇスキルの筈なんだけどなァ!?」

「貴様ァァァァ!!!!!! よくもっ、よくもォォォォ!!!!!! 私の愛するモモンガ様に傷をォォォォォ!!!!!!」

「いちいちヒスんなよ、うるっせぇなァ!!! PVPなんだから、傷負うくらい当たり前だろうがよ! つーかマジすげぇなその鎧―――『次元断切(ワールド・ブレイク)』にも耐えられんのか、ちょっと気になるなァ!?」

(ウソだろ!? 今この場に人間の子供が居るのに、『次元断切(ワールド・ブレイク)』を使うつもりなのか!? アンデッドの俺や悪魔のアルベドとは違って、同じ人間じゃないのか!?)

 

 ―――(いか)れている。

 度を越した驚嘆の所為か、まるでそれが抑え込まれる様に冷静が戻る。だが、抑え込まれても溢れる様に感情が昂り、冷静に戻される……それが繰り返される。

 この世界に転移してから、アンデッドの常時発動(パッシブ)スキルが原因なのかは分からないが、モモンガは感情が昂ると、その感情まるで抑え込まれたかの様に冷静になる様になった。

 こうも連続で発生するのは初めてだ。アンデッドになってからというもの、大抵の物事には驚かなくなりつつある彼が、それ程までに驚嘆する程の仕出かしを、侍Destr!は言っているのだ。

 

 だが―――

 

()()()()()()()()()()()()()()

「は?」

 

 ふっ、と。まるで最初から何事も無かったかの様に、ソレが消えた。

 好戦的で殺意に満ち溢れた眼光も、お前の首を確実に斬り落とすという刃物の様な空気も、それら全てが呆気なく霧散した。

 

「いやー、()()()()()() やったの一瞬だけどさ。たっちゃんが言うだけあるなぁ、よくあそこで《爆撃地雷(エクスプロード・マイン)》選べたな! 『抜刀反撃(ブレイドパリー)魔断(マジックキル)』無かったら普通に喰らってたわ!」

「え、いや…あの……は?」

「…………モモンガ様、大変申し訳ございません。私には、この下等生物はいったい何を喋っているのか、さっぱり理解が追い付きません」

(大丈夫、俺もさっぱり分かってない。なんだこの人……マジで怖っ! えっ、さっきあんな殺しに掛かってたよな!? なんでいきなり止めてきたんだ!? あのアルベドすら呆気に取られてるぞ!?)

 

 もはや豹変とすら言っても良い程の変わりように、人間を下等生物と見下すアルベドすらもが、主人を傷付けられた怒りよりも呆気さが勝ってしまっていた。

 対して、侍Destr!はあははと軽く笑い、

 

「ははっ、その下等生物のフェイントに引っ掛かった挙句に主人も守れなかった奴がなんか言ってらぁ」

 

 さらりと煽った。

 

「この下等生物がぶち殺すぞあ゛ぁ!?」

「おー、こわこわ。でも良いのか? そのご主人様は最初に対話求めてきたけど」

「貴様が最初に仕掛けてきておいて何を今更っ!!!」

「いやー、だって兵士達があんまりにも弱いもんでさぁ? 流石に暴れ足りなかったんだよ。しかも危険とは程遠いお願いされるはで、もう散々……そんな所にめっちゃ強い奴来たら、暴れたくもなるだろ? それにほら、もう攻撃止めたし」

「………………」

 

 本当に何を言っているのかしらこの下等生物?????

 言っている事があまりにも無茶苦茶で、理屈なんて概念が欠片も存在していない。《プレアデス》のナーベラル・ガンマが言うように、ここまで行ったらもはや言葉も返さない虫ではないの???

 アルベドはそう思わずにはいられなかった。

 

「うわっ、めっちゃすごい顔してる。どうしたよ? 気分悪い?」

「モモンガ様、どうか、どうかお願いします…! 今この場で、《真なる無(ギンヌンガガプ)》の広範囲攻撃の使用許可を…!!!」

「ま、待て! 落ち着くのだ、アルベドよ!」

「俺は全然構わねぇよ? 《次元断層》あるし」

『お願いですから少し黙っていてくれませんか!?』

「お、仮面が取れた。んー、話すにしても此処じゃあな……そうだ、お詫びとしてポーションやるからさ、それ飲んだら村まで来てくれよ。俺の作製NPCがもう兵士達殆ど斬ってるだろうからさ。じゃあなー」

 

 二刀を鞘へと納め、ふりふりと手を振りながら、侍Destr!は大して気にもせず背を向けて歩き出した。

 油断も隙も無い背中だが、しかし先程までの気迫は欠片も感じられない。心底からの自然体のままだ。

 

「あ、アンタらがあの人が言ってた子供か。なんだ、もう助かってるじゃん」

「っ、お、お父さんですか!? お父さんは!?」

「悪いけど死んだ。ポーション飲ませる間もなくな。そのお父さんにアンタら助ける様に言われたんだけど……まぁ、助かってるなら良いや。もう兵士達だいたい死んでるだろうから、嬢ちゃん達も落ち着いたら村来いよー」

 

(たっちさん……俺、あの人と仲良くなれる気がこれっぽっちもしませんよ……)

「アルベドよ。これは他ならぬナザリックの今後において、最も重要な事だ。()()寛大な心で以て受け入れろ」

「…! はい、モモ……いえ、アインズ様! ()()()()()()()()()()()?」

「ん? あぁ」

 

 

 

 

「ほんっっっとに申し訳ございませんでした! このバカがほんっっとに!」

 

 ドンッ! と、木で出来た机に向かって土下座の如き勢いで頭を下げた☆ミラクル☆に、()()()()はそ、そこまでしなくても! と慌てだした。

 

 侍Destr!が戦闘狂本能を暴走させてモモンガとアルベドに襲い掛かり、彼の狂気を思う存分に見せ散らかして無駄に警戒させてしまってから約数分の事だ。

 モモンガは『嫉妬の仮面』―――通称、嫉妬マスク―――を被って襲撃にあった村……もとい、カルネ村に降り立ち、侍Destr!と共に村長の家へとお邪魔した。

 そこに、《熾天使》によって得られるスキルの一つである『代行の神眼(メタトロン・サーチ)』によって一部始終を見ていた☆ミラクル☆が、即座に自室から飛び出して《転移門(ゲート)》でカルネ村へと姿を隠しながら降り立ち、誠心誠意を込めた謝罪の意を見せている。

 熾天使がアンデッドに謝罪して、人間はバカと言われた事に憤るという、今はそんなあまりにもカオス極まる状況にあった。

 

「おい待て誰がバカだ、あ゛ぁん!?」

「マジ黙ってろバカッ! 本当に申し訳ございませんモモンガさん…あ、今はアインズさんの方が良いんでしたっけ?」

「……()()()()()()()()。アルベドには扉のすぐ側に待機してもらってますし、会話が漏れない様に魔法を張りましたから」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 魔王アインズ・ウール・ゴウンではなく、ユグドラシルのプレイヤー「モモンガ」……()()()()()()とでも言うべきか。

 魔王という役を羽織っていない彼は、何処か気が軽くなっている様な気がした。

 

「そうですか…いや、もう本当にすみません……もうどれだけ頭を下げても足りないですよ……」

「そ、そろそろ頭上げてください! 幾らアンデッドになったとは言え、流石に女性に頭を下げさせ続けるのは心にくるものが……」

「あ、言っとくけどコイツ男だからな。ネカマしてた所為で女になってるけど」

「えっ」

「ごふっ…」

 

  おとこ? え、この人おとこなの? こんなめちゃくちゃ清楚な見た目してるのに? 清楚ボイスなのに男なの???

 

「え―――えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?」

 

 モモンガは叫んだ。それはもう思いっきり叫んで、驚いた。精神が安定化しても尚も驚いた。

 今日は殆ど驚いてばっかりだったと、ナザリックに帰ってから思う事だろう。それだけの事が重なっているのだから。

 

「お、おまえェェェ……!!! なんで言った!? 別に言わなくても良かっただろっ!?」

「いやー、勘違いされちゃ困るなと思ってな? よそよそしくされるよりは良いだろ?」

「ころしたい…ほんきでこいつをころしたい……!!!!」

「殺せないのが残念だなー? 俺を殺せるのが居るとすれば、此処に居るモっさんか「モっさん……?」メアリー、テュフォンくらいのもんだろ。あとなんだっけ? お宅の『あれら』? アレも中々怖そうだよな。まぁ、()()がある限りはそうはならんだろうけど」

 

 そう言って、侍Destr!は首にぶら下げた―――奇妙な形のアクセサリーを見せつける様に取り出した。

 

「ちょ、ばっ!?」

「なんですか、それ?」

「《イシスの結び目(チェト・アンク)》―――《死線踏破(ウチ)》が持ってる5つのWIの一つで、『二十』のやつ」

「に、『二十』!?」

 

 ユグドラシルにおいて、ゲームバランスを完全に崩壊する程の能力を持ったワールドアイテムの中でも、特に凶悪で、使用すると消えてしまう二十個のワールドアイテム。

 ヲズワルドが《終末(ラグナロク)》という魔法の作製の為に使ったとされる《五行相克》も、その『二十』の一つだ。

 そして、今、侍Destr!が首にぶら下げているそのアクセサリーもまた―――『二十』の一つであると言う。

 

「ぶぁぁぁかぁぁぁぁぁ!!!!!! 何なの!? お前マジなんなの!? バカなの!? 死ぬの!?」

「そんな怒んなって。別に考え無しじゃねぇよ」

「いや考えあったとしてもバカだろっ!? お前《死線踏破》でもソレは初期メンかガチで信頼してる奴にしか伝えてなかった代物だぞ!? それをおまっ、はぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

「な、なんでそんな大切なもの見せたんですかっ!? 幾らなんでもギルド長として不用心が過ぎますッ!」

 

 呆れを通り越して、もはや怒りすら湧いてくる。

 モモンガはギルド長として、ユグドラシルがサービス終了するその瞬間までアインズ・ウール・ゴウンを守る為に動いてきた。

 自分達が持っている11個のワールドアイテムを奪われない為に警備を強化し、ギルドの為の資金を集め、アイテムも集め続けた。それ程までに、ギルドと仲間の為だけに動いてきた。

 だが―――この男はなんだ? 考えてる事がまるで読めない。何も考えていないのか、或いはそういう振りなのかは分からないが、こうも躊躇なくギルドの利益を手放す様な行為をするなど、モモンガに理解出来る訳がなかった。

 

「さっきの詫びって意味でもあるし、けど同時に―――奪えますよって意味でもある」

「は、はぁ…?」

「もうヤダこのギルド長…」

「俺たち《死線踏破》を襲えば……というより、俺個人を狙えば、簡単に《二十》が手に入るって事さ。良い情報だろ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…!? な、何故それを」

 

 あくまでも考えの一つにしか留めていなかった筈のそれが、呆気なく見抜かれた。

 何処かでボロを出した? いや、ボロを出す様な会話なんてしていなかった筈だ。この家にお邪魔してから☆ミラクル☆が謝罪を切り出すまで、侍Destr!とモモンガには大した会話など無かった。

 それなのに、何故見抜かれた? 再び精神安定化が働き、冷静になって零したモモンガの言葉に、侍Destr!はこともなげに返した。

 

「そりゃ分かるさ。俺もアンタの立場なら同じ事をする。というか、俺たちもそう動くんだよ―――この世界でも、《死線踏破》を動かすつもりだから、尚のこと分かりやすい」

「はっ!? ちょ、ボク聞いてないぞ!?」

「当たり前だろ、今言ったんだから」

「ふーっ! ふっー! ふぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!!!」

「面白ぇ威嚇だなぁ。なに、それが天使風の威嚇ですかー? レッサーパンダの方がまだマシだぜ? っと、悪い悪い。話逸らしちまったな」

「いえ……仲が良いんですね、☆ミラクル☆さんと。なんか、たっちさんとウルベルトさんを思い出しました」

「まぁ、キラキラとはユグドラシル始める前からのゲーム仲間だからな。他のギルメンより、わりと距離近めなのはそうだわな」

「……」

 

 何か―――棘の様なものが、心に刺さった様な気がした。

 

「なんとなくだが、アンタの言いたい事は分かるんだよ。さっきも言った様に、俺も同じ様に動いただろうからな。俺に接触しようと思ったのも、協力関係を結びたいと思ったからだろ? たっちゃんに建ちんといったアタッカーがほぼ存在しない、自分とNPCしか居ないナザリックに他プレイヤーに攻められたら、これまで守ってきた全部が無駄になる。だから荒事は避けたくて、けど姿勢が低いままなのはナザリックの王としてNPC達から反感を買うかもしれない。だからお互い利益が出る様な良好な協力関係を築きたい……違うか?」

「…概ね、その通りです。すごいですね、そこまで読み切れるなんて」

「これでも某企業の不動産屋でバリバリ働いてた身なんでねぇ。あんなクソみたいな世界じゃ、地面師詐欺なんか珍しくもなかったからさ。見抜く力は嫌でも鍛えられるんだわ」

「某企業って……めちゃくちゃエリートじゃないですか! すごいなぁ……俺なんて普通のサラリーマンでしたよ」

「いやいや、あの世界じゃ普通のサラリーマンやれてるだけスゲェって。お互いブラックな身の上で、よく今日までやれたもんだな」

「あはは……そう、ですね。」

 

 あの世界の企業なんて、何処も腐り切っていた。腐敗していない企業なんて存在しないと断言したって良いくらいだ。

 ブラック企業なんて当たり前で、上に登れば登る程に嫌でも汚れていく―――そんな社会構築こそが当然となっていた。本当に、思い出すだけでも胃が痛くなる。

 

「ちなみに何卒? 俺は中卒」

「小卒です。なんとか生きてこれたって感じで……」

「小卒かー。となると、ウチのバカ殿と同じか。そう考えると、ウチって裕福な奴多いな? ☆ミラクル☆とぺっぷんなんか機関学校の卒業生だぜ?」

「うぇっ!? 機関学校の卒業生なんですか、☆ミラクル☆さん!?」

「まぁ、一応ね……って、おいバカ。また話逸らしてるぞ。社会人同士で盛り上がるのは良いけど、まず本題終わらせてからにしろっての」

「あー、それもそうか。んじゃー、モっさん「モっさん……」。改めて、アンタの方から教えてくれ。俺たちに何を求め、そして、俺たちと何をしたいのか」

 

 そう訪ねられて、モモンガは考える。

 自分がこの村に来たのは、最初こそたっち・みーの恩を思い出し、色々な実験も兼ねてのものであったが、侍Destr!を見てからはそこに新たな理由が付け加えられた。

 他プレイヤーの存在が確立した以上、彼等《死線踏破》以外のギルド、或いはプレイヤーも転移しているだろう。そうなれば、他プレイヤーとの争いはなるべく避けるべきだと、モモンガは判断した。

 その為にも、最初に発見したプレイヤーである彼等との協力は必須の筈。だが、下手に出る事がNPC達に知られれば、反感を受けるかもしれない。

 何より―――彼等との距離感を誤ってしまい、ナザリック地下大墳墓の主というロールプレイを強制せざるを得ない現状において、同じプレイヤーという安らぎはぶっちゃけ欲しい。愚痴れる相手が欲しい。

 そういった私情も踏まえて―――しかしナザリックの安全と利益を第一に―――モモンガは語り出した。

 

「……俺が求めるのは、先程も侍Destr!さんが言った様に、良好な協力関係です。この未知の世界で、ナザリック以外のプレイヤーである《死線踏破》が居る以上、他にもプレイヤーが居るかもしれません。それこそ、《セラフィム》や《魔法職傭兵ギルド》の様な」

「有り得なくはない……というより、そっちの方が可能性は高いだろうね。ボク達が居るんだ、他が居ないなんて確証はもう無いから」

「えぇ。その上で、お互いに利益のある関係……つまりは、一種の共存です。アインズ・ウール・ゴウンと死線踏破、二つのギルドの目的は奇しくもほぼ一致しています。……そうですよね?」

「おう。お互い、この世界に名を広めたいって点じゃ完全一致だ」

 

 アインズ・ウール・ゴウンは自らの為、そしてナザリックの利益と守護の為に。

 死線踏破はただひたすらに己が死線の為に。

 理由の些細な違いこそあれど、しかしこの二つのギルドがこの世界に名を広げようとしているという点に関しては、確かに一致している。

 そこに至る過程において、お互いが協力し合えば、それも速く終えられるかもしれない。

 

「《アインズ・ウール・ゴウン》と《死線踏破》、この二つのギルドの間に同盟関係を結び、そしてそれがこの世界に知れ渡れば、他のプレイヤーは当然警戒するでしょう。なんせ上位ギルドが同盟を組んだんですから。……そして、俺の仲間達や、貴方達の他の仲間に届くかもしれません」

「…無くはないか。バカ殿がギリギリでログインしたかもしれない、なんて希望的観測も」

「お互いが協力し合えば、仮に他ギルドが襲撃して来ても対応が可能です。それに、万が一この世界で俺達の想像を超える様なモンスターや存在が居たとしても、同じ様に対処が出来ます」

 

 この世界は未知に溢れている。ユグドラシルではないという事、国家が存在する事、ユグドラシルの通貨は使えない事以外は、今のところ大した判明がない。

 もしかすれば、この世界にはユグドラシルのモンスターよりも強い存在が居るかもしれない。決して無いとは言えない線を捨てるのは、愚行も良い所だろう。

 だからこそ、この協力関係はお互いにとって利益になる筈だ―――モモンガは、そう踏んだ。

 

「うん、得られる利益は分かった。だが、タダって考えてる訳じゃないよな?」

「…勿論です。この同盟を結ぶにおいて、絶対に守って欲しい事があります」

「……それは?」

「《死線踏破》は今後、ナザリックに対して敵対行動、或いはそれに準ずる様な行為をしない事―――それが、貴方達へ要求です」

「……へぇ、なるほど。なら逆に、俺たちはそれと同じくらいの要求は出来る訳だな?」

「はい。流石にWIを渡してくれ、なんて事は聞けませんが……それ以外の事であれば、大抵の要望は叶えられます」

「ふーん―――そっか。じゃあ、そうだな……まず、モっさんは俺たちがどういうギルドなのか、知ってる?」

 

 突拍子もない質問に、モモンガは首を傾げながらも答える。

 

「傭兵ギルド…ですよね? 危険な依頼程安く、安全な依頼程高い。死線への赴きをこそ第一に考える」

「そう。俺たち《死線踏破》は、文字通り()()()()()()()()()()()()()()()()()の集まりだ。それを理解してくれてるのは正直嬉しい」

 

 嬉しいんだがなァ―――だからこそ、ちょっと()()が残念だよな。

 

「え?」

「―――アンタら(アインズ・ウール・ゴウン)に対して、敵対行動を()()()()()()だァ? は―――はっ、ハハハッッッ!!!!!! ()()()()()()()()()()()()!!!!!!!!!!!!!」

 

 ―――再び、(いか)れが顕現する。

 

「いやいや、同盟を組むのは良いんだぜッ!? そこは良いさ! こっちとしても願ってもねぇよ! だがよォ……俺たちがどんなギルドなのか知ってて、()()()()()()()()()()()()()!?」

「――――――」

「俺らマジでどうしようもない戦闘狂ぞ!? よく見ろよ、ちゃんと目を凝らして見てくれよ、知ってくれよッッッ!!!!!!

 

―――俺らは死線なら何処にだって行くさ。例えそれが、同盟を結んだ相手であろうと、アンタらと手を組んで相手する奴らよりも、アンタらの方が俺たちの死線(たたかい)に相応しいのならば―――俺たちは、愉しみに身と心を狂わせながら……アンタらの死線(ちにく)を貪り尽くす為に奔る」

 

 だからさ―――そのお願い、もうすこーし……優しくしてくれねェか?

 

(―――舐めていた、と言えばそれまでだろう)

 

「そうだなぁ……じゃあ、俺たちからは絶対に手を出さねぇよ。それは約束しよう。ただ、俺たちに対してアンタらへの依頼が来た場合は、その仕事させてくれ。そっちが望むなら、NPCを殺すのも無しにしよう。あ、でも半殺しまでは許してくれね? やっぱそれくらいはしないと戦った気になれないからさー」

 

(《死線踏破》……こんなにも―――恐ろしいギルドだったのか)

 

 この世界に転移して、初めて。

 モモンガ(鈴木悟)は―――心から、恐怖というものを抱いた様な気がした。

 そんな、僅かな時間に抱けた人間らしさすらも消す、精神への安定化が……この瞬間だけは、本当にありがたいと思えた。




・屍山血河
通称『ちいかわ』。異名は『外道武士』。作製NPCは『テュフォン』。
新人ながら、数ヶ月足らずで戦闘狂揃いの《死線踏破》で特攻隊長の座に着いたPVPガチ勢。侍Destr!からもお墨付きを貰っている、根っからの戦闘狂。
常日頃から頭の中で侍Destr!に勝つ方法を考えている程に侍Destr!との戦いに執着しており、基本的に仕事が無ければ侍Destr!にPVPを挑み続けては敗北してを繰り返している。だが、それはそれとして1人のプレイヤーとして尊敬しており、敬意を払っている。
アインズ・ウール・ゴウンに負けず劣らずの悪ロールプレイが特徴であり、その事から『外道武士』の異名が付けられた。
種族は半人半魔(ネフィリム)で、種族レベル20、職業レベル80のレベル100。
敵の最大HPの割合ダメージを叩き出す特性を持った太刀型の神器級武器『呻血纏厄(ちにうめきやくまとう)』をメインウェポンとしている。
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