傭兵ギルド:死線踏破が異世界にログインしました   作:全智一皆

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第七話 地雷は何処にあるのか分からない

 

■  ■

 侍Destr!とモモンガが陽光聖典と戦闘を開始して暫く―――《死線踏破:前衛本拠基地》内部、《死線の間》にて。

 

「いいなー! いいなーいいなーいいなー!!!!! 私も戦いたいなー!!!!!」

「ちょ、痛い痛いっ!? ボクに八つ当たりしないでよヨカネたん!」

 

 まるで子供の様に駄々をこねながら、シスター・ヨカネはぽこぽこ―――の様に見えるドスドス―――と、侍Destr!達を観続けている☆ミラクル☆の背中を叩き始めた。

 だが、それも仕方ないと言うか。

 サキュバスの尻尾が巻き付いた太腿を大胆に晒すスリットが入ったR-15禁サキュバスシスターとは言えど、彼女も立派な《死線踏破》の一員であり、何なら初期メンである。

 いや、この場合は初期メンである事よりも『副ギルド長』という役職に注視すべきか。

 この《死線踏破》において、侍Destr!と長年のゲーム友達である☆ミラクル☆を差し置いて、彼の思考に対して理解が深いのが、このヨカネだ。それ故に、☆ミラクル☆でも卍最強天魔ぺったんぷりん卍でもなく彼女が副ギルド長に選ばれたのだ。

 そんな彼女だからこそ、戦闘があると分かれば突っ走りたくなるのは至極当然と言えるだろう。

 そもそもが暇過ぎるのだ。彼女だけに限らず、卍最強天魔ぺったんぷりん卍もヲズワルドも屍山血河も、誰もが実際に異世界を目にして歩きたいと思っていた矢先に、

 

「じゃあ俺が先行調査してくっからお前ら留守番よろしくなー」

 

 とか言い出して、侍Destr!は一人抜け駆けしやがったのだ。しかもちゃっかりセツナ()まで連れて。

 羨ましいったらありゃしない(一部メンバーのみ)。当然、ヨカネとぺったんぷりんは反対した。

 

「なんで!? なんでサムくんだけ行くの!? 私達も行きたい! 綺麗な世界みたーい!!!」

「そーだそーだ!!! だいたいギルド長が未知の世界飛び込むってどーなん!? ここはやっぱ先遣隊としてウチら派遣するべきじゃん!!」

 

 なんで自分だけ行くんだ! 私達も行かせろー! と果敢に反論した。だが―――

 

「だってお前ら人前に出れねぇじゃん。サキュバスクイーンだから『魅了』が常時発動(パッシブ)だし、半天半魔(ハイ・ネフィリム)だから翼隠せねぇし。お前ら壊滅寸前の村にオーバーキル叩き込む気なん? 人の心ないんか?」

 

 一刀両断されてしまい、結局留守番になった訳である。

 

「アレで納得したんじゃないの!?」

「したよ! したけど、でもズルいじゃん!!! なんで一人だけ戦ってるの!? しかもアレって、《アインズ・ウール・ゴウン》のモモンガさんでしょ!?」

「なんで知ってんの……あ、ペロロンチーノさんからか」

「ペロロンチーノさん、よく話してたからね。すっごい自慢気に話してたから、1回会ってみたいなぁって思ってたんだけど……でも、でもさぁ! サムくん会うだけじゃなくて戦ったんだよ!? やっぱズルいー!!!!」

「痛っ、だから痛いって!! ちょ、ヲっさん! ヲっさんヘルプ!!!」

「えぇ……俺、この状態のヨカネさん止められる気しませんよ…」

「わーたーしーもー!!!! わたしもたーたーかーいーたーいー!!!!!」

「子供かよって痛い! だからボクに当たるな痛いって!!!!」

 

 ぐわんぐわんと、☆ミラクル☆の肩を引っ掴んで押して引いてを繰り返している様は、やはり駄々捏ねる子供らしい。見た目は子供とは言い難く魅惑的だが。

 流石にいつまでもこうされては堪ったものではない。☆ミラクル☆は《伝言(メッセージ)》を用いて、望み薄だがサムへとヘルプを乞う事にした。

 

『おいサム、サムおい! お前ちょっと何とかしろ!!』

『いきなり連絡してきたかと思えばなんだよ。主語言え、主語』

『ヨカネたんが暴走してるんだよ! 私も戦いたいとか言って聞かないんだ、お前早く帰ってきて何とかしろ!!!』

『草』

 

 返ってきたのは、そんな淡白な言葉だけだった。

 笑うとか呆れるとか馬鹿にするとかでもなく、単に草と。それだけしか返されなかったのである。

 こっちは聖女の格好してる癖に八割くらいが戦士職で構成されてるサキュバスシスターから手痛い八つ当たりを受けているのに、そんな淡白な返しがあるか???

 なので当然、☆ミラクル☆は激怒した。必ずやあの邪智暴虐なギルド長をぶち殺してやらねばと決意した。

 

『単芝とか舐めてんのかテメェ!?』

『こっちも加減すんのに手焼いてんだけどー? 戦ってない奴が口出しするんじゃあねぇぜ。まぁ良いや、帰ったらPVPしてやるから落ち着けとでも言っとけ。俺も暴れ足りんし、ヨカネたん相手なら実験出来る事が沢山だ』

『最初からそれ言えよ……つーか、手加減に手を焼くってなんだよ?』

『文字通り。お前見てるから分かるだろ? コイツらみーんな弱っちいからさー。もう呆れとか落胆がすごくてすごくて……ん? おぉっ?』

『なに? 何かあったのか?』

『うっし……うっしうっしうっし!!!!!!! 漸く楽しめそうになってきやがったぜッッ!!! 悪いキラキラ、また後で掛けてくれ! 満を持して骨のある戦いが出来そうだ、じゃあな!』

『は!? ちょ、おいまっ』

 

 

 

 

「最高位天使を召喚する! 生きたければ時間を稼げ!」

 

 まるで己を鼓舞するかの様に、高らかに宣言しながら取り出したその淡く輝く水晶に、侍Destr!は口元が裂けんばかりの笑みを零した。

 

『あれは、「魔封じの水晶」…?』

『それそれ! やっと楽しい戦いが出来そうだ!』

 

 『魔封じの水晶』―――それは、魔法と言うよりは一種のスキルに近く、他の魔法を大きく凌駕する特殊な魔法である超位魔法を除いた全ての魔法、モンスターを封じ込める事が出来るという効果を持った、ユグドラシルのマジックアイテムである。

 魔法だけでなく、マジックアイテムまであるのかという疑問は勿論あるが、今はそれよりも目の前の問題について注視すべきだろう。

 

「まさか、熾天使(セラフ)…? 魔封じの水晶に封じ込めるのなら、恒星天の熾天使か、至高天の熾天使か……どっちにしろ厄介だな」

「はっ―――良いねェ、ようやくノってきたってかァ!? 上等だ、待ってやるよ! さぁ出せよ、オタクらの切り札をよォ!!!」

 

 魔封じの水晶に封じられた最高位の天使―――そうなれば、二つに一つしかない筈だ。

 熾天使(セラフ)―――その中でも、恒星天と至高天は強い警戒が必要だ。恒星天の熾天使はアインズをして警戒させ、至高天の熾天使はアインズとアルベドが全力で戦闘する必要がある程だ。

 とは言えワールド・チャンピオンである侍Destr!が居る以上、その点についても深く心配する必要は無い様にも思えるが……念には念を入れておいても、それに越した事はないだろう。

 

「アルベド、スキルを使用して私を守れ。流石に至高天の熾天使(セラフ・エンピリアン)となれば、全力を出す必要がある」

「はっ!」

「セッちゃん、『一芸万能(いちげいばんのう)剣心一如(けんしんいちにょ)』の準備お願い。召喚された瞬間に畳み掛ける」

「委細承知致しました、主様」

 

至高天の熾天使(セラフ・エンピリアン)相手に特攻ですか!? バフ無しでそれは流石に無茶じゃ…』

『いやいや、至高天の熾天使(セラフ・エンピリアン)だからこそ特攻すんだよ! アレくらい強いなら、試したい事が一気に試せるんだから! なぁに、バフに関しては心配要らん! 《ケンセイ》極めると使える三つのスキルの内の一つがクソ強のバフスキルだから!』

 

 《ケンセイ》を極めれば、三つの強力なスキルを取得する事が出来る。

 まず一つは、侍Destr!がアインズに襲い掛かった際に使用した『抜刀反撃(ブレードパリィ)魔断(マジックキル)』。

 次に二つは、つい先程、侍Destr!がセツナへと声掛けした『一芸万能(いちげいばんのう)剣心一如(けんしんいちにょ)』。

 これは戦士職ではかなり珍しい強力なバフスキルであり、侍Destr!はこのスキルと、《アヴェンジャー(復讐者)》という特殊職業のスキルを併せて『次元断切(ワールド・ブレイク)』を使用する事で、アスク・エンブラのボスを倒し切ったのだ。

 最後の一つは、『次元断切(ワールド・ブレイク)』には及ばないものの、《ワールド・チャンピオン》を除いた全ての戦士系職業の中では断トツの火力を有する攻撃スキル『大両断(だいりょうだん)』―――だが、これは発動条件があまりにも面倒極まりないスキルな為、度外視である。

 

 ともかく、バフという面においては何ら心配は要らないのだ。だが、侍Destr!は別にそんな所を気にしているという訳では断じてない。

 これはあくまでも、セツナに不必要な傷を負わせない為の指示だからだ。

 

『つか何よりも―――俺が()りたいんだよ!!!』

 

 結局のところ、これである。

 もう何処までも突き抜けた戦闘狂に対して、対策とか何とかは無茶なお話。弱い奴としか戦えてなかった侍Destr!の精神状態は、最高位の天使と戦えるというだけでマックスまで盛り上がっていた。

 

『絶対それが本音ですよね!? 結局特攻したいだけなんですねっ!? あぁ、もうっ! 援護はさせてもらいますからね! 同盟相手(未定)ですから!』

『それは素直にあざっすモっさん!』

 

 そんな二人の会話を他所に、威光はさらなる輝きを以て世界を包む。

 遥か古の昔、六大神の半分が朽ちて果て、その最後の神が欲に塗れた八人の王によって殺されてから、彼等の眷属は遂に暴走を始めた。

 これより現れるは、その眷属を屠りし最高位の天使。『魔神』と呼ばれたその存在を撃滅した、紛うことなき神の御使いそのものと表現すべき天使の誕生に、彼等は立ち会うのだ―――

 

「出でよ―――『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』!!!!!」

 

「は?」

 

 眩い光に包まれながら、それは顕現する。

 まさしく『神聖』という言葉を体現したかの様な純白の巨体。羽撃いた風圧があれば、人間など容易に吹き飛ぶであろう翼。その手に握られたメイスは、悪というそれを叩き潰す究極の一振りであると言わんばかりだ。

 これこそが、彼等の切り札であった―――『熾天使』ではなく、寧ろそれとは全く以て程遠い『主天使』こそが、侍Destr!とモモンガというプレイヤーに対抗する手段であったのだ。

 

「―――これが、切り札……だと?」

「……………………ざけ……よ」

「ふはは、あまりの神々しさに声も出ないか!!! そうだ、そうであろうさ!!! これこそ切り札だ! 最高位天使、魔神を打ち倒した天使だ!! だが誇れ、貴様達はこれを使うべきだと判断される実力者で」

 

「ふざけんなよテメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ずぬ、と。聞き取れない音がした直後、最高位天使とやらの身体が斜めにズレた。

 憤懣と共に解き放たれたのは、《ワールド・チャンピオン》の攻撃スキルの一つである物理防御力、物理耐性を無視する斬撃を放つ『断切(ブレイク)』だった。

 防御最強のアルベドにすら完全に攻撃を通し、そのHPを大きく削ぎ落とす事を可能とする世界最強の斬撃によって、この世に顕現した威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の身体は文字通り豆腐の如くに両断され、消失した。

 

「こちとら熾天使期待してたんだぞッ!? それをおまっ、主天使って、はぁ!?!?!? 《魔法封じの水晶》を主天使に使うとか勿体無い事この上ないっつーか、まじっ、はぁー有り得んッッッ!!!!!!!! まじクソ!!! ほんっっっとにクソだわお前ら!!!!!!! 期待外れも良いところだっつーの!!! あーあ! あーあーあーあーあーあーあー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

『あまりの落胆に語彙力を失ったか……これは流石に草だな』

『サムくんが精神崩壊してるの珍しいね』

『え、サム精神崩壊してるマ!? ちょ、うちにも見せて!』

『サムさん精神崩壊してるんですかっ!? 何があったらそうなるんです!?』

『どうせ敵が弱かったとかそんなオチだろう、彼奴なら』

『敵への落胆で精神崩壊とか有り得ます??? いや有り得るな、だってサムさんだし』

 

 ギルド長が阿鼻叫喚してる中、ギルドホームで待機してるメンバーは好き勝手言ってる最中だった。これが本当にギルド長に対する態度だろうか? 

 あまりにもフリーダムが過ぎる。あと言われ放題過ぎる。

 

「あ、主様、お気を確かに!」

「セッちゃーん……だって、だってさぁ…主天使よ? 熾天使じゃなくて主天使よ? 期待してたものに対する反比例の差がもう……モっさんもそうでしょ?」

「ま、まぁ……確かに肩透かしというか、警戒したこっちがバカバカしいという感じはしますね」

「だよなぁ……ハァァァァァァ……………………………………もうヤダ。モっさんもう好きにしていいよ。俺帰る」

 

 がっくりと大きく肩を落としながら、もうどうにでもなれと言わんばかりの仕草をしながら侍Destr!は帰路への足取りを刻め始めた。

 熾天使という強敵と戦う気に満ちていたというのに、いざ尋常にと出てきたのは格下のカスだった時の戦闘狂の心情を考えれば、まぁ妥当と言えるか。

 要するに萎えてしまったのだ。それはもうしなしなに、萎えて果ててしまったのだ。

 もう戦う気なんて欠片も湧いてこない程には、侍Destr!はやる気というものを無くしてしまった。

 

「えぇっ!? い、いやいや、流石に帰るのはマズイですって! 折角の迎撃なんですから、最後までやりましょうよ!」

「いーや無理! マジ帰るッッ!!! だってあんな奴らにやる気出せとか出来る訳ねぇじゃん!? あんなん虫以下だよ虫以下! 踏んずけてもたまに生きてる奴が居る虫よりも価値が低い! 戦う価値無いイコール存在定義無し! つまりアイツらは存在しない! はいQED! 俺は帰る! 帰るんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」

「そんな破綻した理論あっちゃたまったもんじゃありませんよ!? セツナさんなんとかしてください! なんとかサムさんを持たせて!」

「そ、そうは言われましても……では、主様! 帰ったら、セツナが夕餉を用意致します! それで如何ですか!」

「なんだって??????」

 

 セツナからの思わぬ提案に返した踵を戻す侍Destr!。

 

『あ、戻った』

『流石嫁パワーだね。というかセッちゃんのご飯は普通に羨ましい! 私もたべたーい!』

「はぁん? セッちゃんの手料理を食べていいのは俺だけに決まってんだろ舐めてんの??? ぶち殺して市中引き回し石抱獄門打首にするぞ?」

『うわぁすっごい刑のオンパレード♪ シスターサキュバスに日本の古き刑千本ノックの如く打ってくるじゃん☆』

「セッちゃんの手作りなんて……なんてご褒美なんだ…! 俺が頑張れば、セッちゃんの手料理が食べれるんだな!?」

「はい。誠心誠意、想いを込めて……主様の好物でお作り」

 

「あ――――――ありえるかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

『え』

 

 ―――絶叫は、誤りであった。

 これが☆ミラクル☆やヨカネ、ぺっぷんやヲズワルド、屍山血河であったのならば良かった。別に遮られようと、侍Destr!がそれを気にする事なんてありはしなかった。

 だが、これはダメだ。

 彼女の言葉を遮るというそれだけは、絶対にダメだった。

 例えこれから死ぬとしても、その命が尽きてしまうとしても、セツナの言葉だけは遮ってはいけなかった。だが―――彼は、遮ってしまった。

 

「最高位の天使を一撃で殺すなど有り得てなるものかッ!? 何なのだ貴様は、本当の本当に何なんだお前はぁっ!?」

 

「――――――おまえ」

 

「…!?」

 

 種火は既に燃え始め、それは(いか)れた。

 瞳孔が開いた黒い眼は、静かに、されど激情に駆られながらにニグンの()を捉えていた。顔ではなく、体でもなく、その命だけを正確に見ていた。

 

「おまえオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエオマエ――――――――――――――――――」

 

 譫言の様に呟きながら、二刀を構えてゆらりと姿勢を落とす。

 力が入っているのかいないのか曖昧な、まるで流れる水の様に緩やかに落ちる姿勢は、あまりにも意思というものを感じられず、いっそ恐怖を掻き立てた。

 爆発する殺意は荒波の如く。その身全てに牙を突き立てられる死のイメージが、陽光聖典の全員に刻み込まれて間もなく、

 

「死ね」

 

 嵐が吼えた。

 音無く疾走した肉体は視界に映る事もない。そしてそれは、斬撃ですら同じだった。

 すぱすぱと、まるで手馴れたかの様に敵の首が次々と斬り落とされて転がっていく。誰一人として、その瞬間を目にした者は居ない―――全員が、等しく死んで伏して、転がるばかりだった。

 

「へ?」

「死ね。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――――――」

 

 其処に居るのは鬼か怨霊のどちらだろうか。少なくとも、アレは人ではない。人間ではない。あんなものが人間であってあるものか―――ニグンは恐怖で身を竦ませながらも、ソレを認識した。

 死ねという単語を零し続けながら、正確に首目掛けて刃を振るうだけの存在。首を斬り跳ね、身体を両断するだけの化生に成り果てたと言っても良いだろう。

 

『やっべぇガチ切れだっ!? ちょ、全員飛び入り参加! 《転移門(ゲート)》開くから行けッ! 捕虜が居なくなるぞ!!!! コイツらから色々と聞かなきゃいかないのに何してんのコイツは!?!?!?』

 

 ☆ミラクル☆は計画的に事を進めていた。勿論それを侍Destr!には伝えずに、だ。

 ☆ミラクル☆と侍Destr!の関係性は長い。それこそ、この《死線踏破》においては最も長いと言っていいくらいには。

 長い付き合いと巻き込まれの果て、侍Destr!の性格、行動原理は全て把握している☆ミラクル☆は、基本的に侍Destr!であればこう動くであろう、という予測を前提として計画を立てる。

 何故なら計画を話したって本人がそれに従うか否かは話が別だから。戦闘不必要だとしても、敵が強ければメリットデメリットをガン無視して戦闘開始する様な戦闘狂に、計画事とか無理難題である。

 現にコレである。敵の何人かを捕虜にする筈だったのに、当のギルド長は敵全員を鏖殺する事を確定させて動いているではないか。

 

『ただでさえNPCのユグドラシル時代から大好きだったのに、今じゃ動く笑う照れるのセッちゃんだからねぇ。その話遮るのはアウトだよね。分かるよサムくん』

『つーか何一人だけ傍観決め込もうとしてんのさキラキラぁ! アンタも行くんだよォ!!!』

『ボクが居なくなったら誰が司令塔と留守番すんだよ!? そもそもサポーターのボクが彼奴に勝てる訳ねぇだろうがよォ!?』

『それは全員同じだろう。まさに悪鬼羅刹の如き形相と気魄……あの侍Destr!を相手にして勝てる未来は思い浮かばんぞ』

『《終末(ラグナロク)》使わせてくれないですよアレ。というか仮に使えても《次元断層》で防がれて終わりますねこれ』

『そんなん分かっとるわ! いいから早く行け! 手遅れなるぞ!!!』

 

「『次元(ワールド)―――」

『だァァァァァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?』

 

 蹂躙は、まだ続く。




・ヲズワルド=ディズス・クラスター
通称は『ヲっさん』。異名は『走る災悪』。作製NPCは『ユートディスト』。
魔法職最強の職業『ワールド・ディザスター』と戦士系の『聖騎士(パラディン)』を併せ持つ魔法戦士であり、《死線踏破》が試しに追加メンバーを募った際にいの一番に入り、謳い文句である『種族不問、職業不問、カルマ値不問。但し、力を持つ者に限る』を広げた異形種プレイヤー。
種族が悪魔で、尚且つ闇系の魔法を多く取得している状態でレベル90になる事で成れる悪魔系のレア種族『深淵の主(ロードオブダークネス)』の他、プレイヤー100人を発狂状態にする事で成れる特殊職業『旧支配者(グレート・オールド・ワン)』を取得しており、殲滅戦においては侍Destr!を凌ぐ強さを有している。
本来なら魔法職専門になるつもりだったが、《死線踏破》というギルドに入ってから戦闘の愉しさを知ってしまった為、魔法戦士になった。
《死線踏破》の中では常識人のポジションに立っているが、わざわざ課金アイテムを使用してまで秘密裏にユートディストを作製したり、メンバーに黙って作戦を立てて遂行するなど、かなりの暗躍好き。
また、《二十》の一つである『五行相克』を使って《大災厄》を《終末(ラグナロク)》という魔法に変更している。
ちなみにこの申請が通った理由は、その設定とネーミングセンスを運営の一人が気に入ったから。
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