特殊能力”超分析”で客寄せパンダの女子投手を救ってみた   作:うぱるぱん

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第一話 エースになれる

 

 

 二点ビハインドの三回表、ツーアウト満塁。

 

 勢いを増した鳴り物応援が、耳にこびりつく。

 照りつける日差しが辛い。額の辺りに滲むじっとりとした汗をぬぐって、私はバッターボックスの方へと視線を向けた。

 

 右打席に立つのは四番の氷川さん。

 

 これ以上、点を取られるわけにはいかない。

 そう思えば思うほど、バットを構える氷川さんの身体の大きさがやけに大きく見えた。

 黒を基調としたクローレイブンズのユニフォーム。その袖から覗く腕の逞しさが、”ホームラン”という最悪なイメージをいやでも連想させた。

 

 ネガティブな思考ばかりが頭を支配し、指先がわずかに震える。

 どうしても投げ出す勇気が持てない――そんなときだった。

 

「絶対抑えろよ!! お前のせいでもう何試合落としてると思ってんだ!!」

 

 スタンドから男の人の怒鳴り声が響く。

 やたらと通る声だったせいで、その内容まではっきりと聞き取れてしまった。胸が締めつけられ、全身から血の気が引いていく。

 

 これまでの試合で何度も痛打を浴びた光景が、次々と脳裏によみがえる。

 

 ――そうだ、全部私のせいだ。

 私に実力がないせいで、勝てたはずの試合を落としている。私が“いる”せいで、本来マウンドに立てたはずの誰かの出番を奪っている。

 正直、投げたくないとさえ思う。打たれるのも、誰かに迷惑をかけるのも、落胆されるのも、罵られるのも――もう限界だ。

 

 それでも、投げなきゃいけない。

 気持ちの整理もつかないまま、何かに突き動かされるように私はワインドアップの動作に入っていた。

 

 サインはツーシーム。コースは真ん中低め。

 

 頼むから、打ち損じて。

 情けない祈りを頭の中で何度も繰り返しながら、私は左手の指先に力を込めてボールを放った。

 

 ボールはミットの構える低めへと一直線に伸びていく。思い描いた通りの軌道に、胸の奥にわずかな安堵が生まれる。

 このコースなら少なくとも長打になることはない。ほんの一瞬、心が緩んだ――その瞬間だった。

 

 氷川さんのバットが、ボールを捉えた。 

 ボールゾーンに沈み込むように落ちていくツーシーム。

 それを氷川さんは、膝をつきながらも巧みにすくい上げていた。

 

 乾いた快音に、私は反射的に振り返る。

 高い放物線を描いた打球は、センター方向へと伸びていく。

 

 センターの高木さんが一直線に駆け出していた。ユニフォームの背番号が、段々と小さくなっていく。

 止まれ、止まれ、と私は心の中で何度も念じた。

 

 ついにフェンス際まで迫った時、高木さんの足がようやく止まる。しかし、こちら側を振り向く気配はない。

 その直後、高木さんの頭上を白球が越えた。

 

 バックスクリーンに飛び込む、満塁ホームラン(グランドスラム)

 

 どよめきと歓声が観客席から降り注ぐ。

 右手を高々と突き上げてダイヤモンドを一周する氷川さんの姿を、私は呆然と見つめていた。

 

 腕の力が抜け、グラブを握る手が自然と緩む。マウンド上で立ち尽くす自分の身体が、信じられないほど軽い。

 

「......瀬、おい、綾瀬」

 

 私の意識を、低くしわがれた声が現実に引き戻す。

 振り返ると、マウンドまで上がってきた高藤監督が静かにこちらを見つめていた。その眼差しに怒りはなく、私が打たれることを最初から理解していたかのような、淡々とした冷たさだけが映し出されていた。

 

「交代だ」

「はい......すみません」

 

 震える手でなんとか監督にボールを手渡し、私は俯いたままベンチへと戻った。

 

 先輩やコーチたちが、どんな表情で私を見ているのか。それを想像するだけで、身の毛がよだつような思いがした。

 

 ――そうだ。アイシングのサポーター取りに行かないと。

 

 自分でもわかる。それがただの口実だってことくらい。

 本当は、誰の視線にも触れたくなくて、早くこの場から消えてしまいたかった。

 

 そのままの足でベンチ裏に向かおうとした瞬間、冷たいものが頬をつたった。

 

 あれ……私、なんで泣いてるんだろう。

 早く止めなきゃ――そう思っても、涙は勝手にあふれて止まらない。

 袖で何度拭っても、冷たさが頬を滑り落ちる。

 

 涙に呼応するように、胸の奥で押し込めていた感情が一気に溢れ出した。悔しさ、恐怖、罪悪感――いくつもの負の感情が渦を巻き、理性を押し流していく。

 

 息が浅い。吸っても吸っても、胸の奥が苦しい。

 肩が震え、喉の奥から声にならない嗚咽が押し出された。

 

「うっ……はぁっ……ああっ……」

 

 周囲がざわめく。ベンチ中の視線が一斉に私へ向けられる。

 見られてる――そう思った途端、息がさらに乱れた。

 

 吸っても吸っても足りない。必死に空気を取り込もうとするほど、肺の奥が締めつけられるように苦しい。

 

 ――窒息するかもしれないという恐怖が胸を押し潰す。

 涙はさらに激しく溢れ、顔全体を伝い、口の中にまで流れ込む。

 

 目の前の世界が揺れ、頭の中がぐちゃぐちゃに混ざり合う。止めたい、落ち着きたいのに、身体はまったく言うことを聞かない。

 頭が真っ白になり、視界がぐらぐらと揺れる。足元の力が抜け、気づけば私はうずくまっていた。

 

「綾瀬!? おい、大丈夫か!!」

「う……はあっ、はあっ……ご、ごめんなさゲホッ、カハッ……ごめんなさい、ごめんなさいッ!!」

 

 

*** 

 

 

 ラクーンドッグスの選手寮——自室のベッドに横たわり、私はただ天井を眺めていた。

 

 試合後に高藤監督から二軍降格を告げられた時、胸に広がったのは悔しさではなく、安堵だった。

 

 私は“客寄せパンダ”だ。

 “プロ野球初の女子選手”――その肩書きだけで、分不相応な先発ローテーションの席に座らせてもらっているにすぎない。

 

 自分が本来いるべき場所に戻れるのだと安心してしまった。悔しいとすら思えない自分が、情けなくてたまらない。

 マウンドに上がることさえ怖がり、二軍落ちの通告を聞いてほっとしてしまうような投手に、プロとして野球を続ける資格があるのか。

 そんな思いが胸の奥でぐるぐると渦を巻き、呼吸さえ重く感じられたその時——。

 

 枕元に置いたスマホから、RINEの通知が鳴った。画面を覗くと、届いていたのはお母さんからのメッセージだった。

 

『おつかれさま!

 今日は残念だったね

 でも、玲奈なら次は絶対大丈夫だよ!

 無理しすぎないように頑張ってね

 応援してるよ』

 

 お母さんは、試合のたびに欠かさずメッセージを送ってくれる。

 ただ、いつもなら心の支えになっていたその温かい言葉も、今日ばかりは胸の奥にそっと沈んでいく重りのように感じられた。

 

 しばらく画面を見つめていた私は、ふと指を動かした。

 

『お母さん、私もう野球やめたい』

 

 メッセージ欄にそう打ち込み、送信ボタンへ親指を近づける。

 だが、あとほんの少しで画面に触れるというところで、私は指を止めた。

 

 これを送ってしまえば、もう後戻りはできない気がした。

 お母さんは優しい。きっと私の言葉を否定せずに受け入れてくれる。

 だからこそ、一度送ってしまえば、そう遠くない内に私は本当に野球をやめてしまうような気がした。

 

 思い返せば、私がプロになれたのはお母さんの支えがあったからだ。

 お父さんが出ていって生活は苦しかったはずなのに、それでも高校まで不自由なく野球を続けさせてくれた。

 「プロになれるわけでもないというのに、バイトもせずに野球ばかりするなんて親不孝だ」と親戚に責められたときも、お母さんは声を荒げてまで私を庇ってくれた。

 

 あのときの背中を思い出すと、胸が痛む。

 辛いからといってやめるなんて、それこそ親不孝だ。

 

 私は打ち込んだ文字をすべて消し、代わりに新しいメッセージを入力した。

 

『ありがとう!

 次は活躍してるとこ見せられるように頑張るね!』

 

 メッセージが画面に反映されたのを確認し、スマホを布団の上に投げ出した。これが本心から出た言葉ではないという事実が、心に重くのしかかってくる。

 

 ――私、どうしたらいいんだろう。

 

「すみません」

 

 そのとき、ノックの音とともに低い声がドア越しに響いた。突然の出来事に私は思わずベッドから跳ね起きる。

 

 ……最悪のタイミングだ。とてもじゃないけど人に会えるような状態じゃない。

 申し訳ないけど、今日は居留守を使わせてもらおう。

 一瞬、そんな考えが頭をよぎったものの、もし大事な用件で来ていたらと思うと、結局それもできなかった。

 

 顔の涙を袖で拭い、手櫛で軽く髪を整え、ひとつ深呼吸をしてからドアへ向かって声を出す。

 

「はーい」

 

 声が震えなかったことにほっとしながら、私はそっとドアを開けた。

 

 目に飛び込んできたのは、もさもさと広がった黒髪の天然パーマ。

 鋭い目つきの男の人が、私を上からじっと見下ろしていた。

 

 ……こんな人、チームにいたっけ?

 そんな疑問が頭をよぎった瞬間、それを察したかのようにその人は口を開いた。

 

「札幌アルバトロスからトレードで来ました、駒形です。今日から隣の307号室に住むことになったのでとりあえず挨拶を、と思いまして」

 

 その声は柔らかく落ち着いていた。

 少し怖そうな見た目とは対照的に、人当たりの良さを感じさせる話し方だ。

 

「そうなんですね。ご丁寧にありがとうございます、308号室の綾瀬です。なにか分からないことがあったら気軽に聞いてください」

「ありがとうございます」

 

 そう言って駒形さんは軽く頭を下げる。

 

 なんというか、すごく丁寧な人だな。

 そんなことを思っていると――

 

「色々と話したいことがあったんですけど......やっぱり今日はやめときます」

 

 と、軽く頭の後ろをさすりながら駒形さんが言った。

 

 その含みのある言い方に、思わず戸惑う。

 “話したいこと”って、一体何だったんだろう。特に接点もなかったはずだし......。

 それに、「やっぱり今日はやめときます」って言い方も気になる。最初は話すつもりだったのをやめたってことは……もしかして、泣いてたのが顔に出ちゃってたのかな。

 

 私の頭の中でぐるぐると思考が巡る。

 それを遮るように、駒形さんは突然紙袋を差し出してきた。

 

「それとこれ、つまらないものですが」

「あ、え、ありがとうございます!」

 

 いきなりのことに少しあたふたしながらも、私は自然とお礼を口にしていた。

 寮で隣に引っ越してきたからと言って、わざわざ手土産まで用意してくれるなんて……。細やかで誠実な人なんだな、と改めて思う。

 

 差し出された紙袋を受け取ると、思っていたよりもずっと軽く、中身が揺れて側面を軽くたたく感触がした。

 予想とは違う手触りに思わず中を覗き込むと、三冊のノートがそこには入っていた。

 

「......これ、なんですか?」

「『珠玉のおやじギャグ集』です」

 

 ”つまらないもの”ってそういう意味?

 というか、これってどういう反応すればいいの?

 なんか冗談っぽい雰囲気でもないし......。

 

「まあ、もしよかったら気が向いた時にでも読んでください。それでは」

 

 返答が思いつかずフリーズしていた私に、駒形さんはそれだけ言い残すと、軽く頭を下げて自分の部屋へ戻っていった。

 

 ――え、どういうこと?

 丁寧で穏やかそうな人という印象を一瞬で覆すような奇行に、感情が迷子になる。

 

 なにをどうしたら、おやじギャグ集を手土産に渡そうなんて発想になるの?

 そもそも、これって本当におやじギャグ集なの?

 というか、たとえおやじギャグ集じゃなかったとしてもノートなんて普通は人に渡さなくない?

 

 疑問は尽きなかったけれど、駒形さんのイメージが、私の中で少しずつ“変な人”に塗り替えられていっているのは確かだった。 

 

 『珠玉のおやじギャグ集』か……なんか逆に気になるな。

 駒形さんが渡してきた謎のノートに対して、怖いもの見たさにも似た興味が芽生える。

 

 ……少しだけ覗いてみよう。

 そう決めた私は、紙袋を机まで運び、すぐそばの椅子に腰を下ろした。

 

 私は紙袋の中に手を入れ、適当に一冊を取り出した。

 表紙に何も書かれていない、どこにでもある普通のノートだ。ページの端にわずかな折れやかすかに押された跡が残っていて、中にはちゃんと何かが書いてあるらしいことが分かった。

 

 何が書いてあるんだろう。恐る恐る、適当なページを開いてみる。

 

 え、これって……。

 予想もしていなかったその内容に、私は思わず目を見開く。

 

 

 ――そこに書かれていたのは、私のピッチングに関する細かな分析だった。

 

 

 まず目に飛び込んできたのは、ページ中央に大きく描かれた私のピッチングフォームのイラストだった。

 

 リリースの瞬間を描いたそのイラストは、髪も顔も描かれていないマネキンのような無機質な人型であるにもかかわらず──フォームの癖が正確に描写されていて、見た瞬間すぐに私のことだと分かった。

 

 体の各部位ごとに補助線が引かれ、そのそれぞれに細かい分析が添えられている。

 例えば、利き手の左腕の部分には――

 

『アームアングル(※)が年々下がってきている。スライダーやツーシームなどの横変化を活かすための工夫か』

 

 と、走り書きの字で書かれていた。

(※アームアングル:ボールをリリースする際の脇の角度のこと。オーバースローに近づくほど高くなり、反対に、アンダースローに近づくほど低くなる)

 

 鋭い分析だ。実際、プロに入ってからの私は、スライダーやツーシームをより効果的に投げるために腕の高さを昔よりも下げている。

 とはいえ、誰にでも分かるような下げ方じゃない。同じ角度、同じタイミングの写真をじっくりと見比べて、それでようやく気付くかどうかというささいな変化だ。普通なら見落とすような違いで、相当な観察眼がなければまず気づけないだろう。

 

 感心しながら上から下まで読み進めていくと、ふと股のあたりに、やたらと集中的に線が引かれているのが目に入った。

 ......仕方ないのかもしれないけれど、なんか卑猥だな。

 釈然としない気持ちを抱えながら、矢印の根元に書かれているメモへと視線を移した。

 

『股関節の柔軟性に大きな課題を抱えている』

『上半身と比較してもやっぱり異様に硬い』

『球速やステップ幅を低下させる大きな原因となっている。諸悪の根源』

 

 なんか私の股関節めっちゃ酷評されてるんだけど。あと、『諸悪の根源』は余計じゃない?

 他の分析が当たってる分、なんか普通にショックだな。柔軟とかも相当やってるつもりだったんだけど……。

 

 とまぁ、それはともかく。

 他のページをめくっていくと、ピッチングフォームの分析だけにとどまらず、各試合の投球内容を簡潔にまとめた記録や、対右打者・対左打者といったシチュエーション別の対戦データまで整理されていた。

 

 中でも特に驚いたのが、ルーキーイヤーに出場していた三軍戦やウィンターリーグの試合内容までしっかりと網羅されていたことだ。

 私がプロ入りしてからの四年間、全てのピッチングを追い続けていなければ書けないはずの内容――その異様なまでの執念に、感心を通り越して背筋がひやりとする。正直、ちょっと気持ち悪い。  

 

 駒形さんがこのノートを書いた理由も、そして、それを私に読ませてきた理由もまるで想像がつかない。というよりも、ちょっと嫌な方向での想像が働いてしまっている。

 

 こうなったら、本人に直接聞いてみよう。

 そう思い立った私は、ノートを片手に307号室へと向かった。

 

 ドアを前にして、私は表情を緩めるように心がける。

 まだ、駒形さんがストーカー気質(そういう人)だと決まったわけじゃない。もしかしたら、もっと他に理由があってノートを渡してきたのかもしれない。いや、そうに決まってる。

 自分にそう言い聞かせながら、私はドアをノックした。

 

「はーい」

 

 間延びした返事が聞こえてからまもなく、ドアが開いた。

 中から現れたパーカー姿の駒形さんの視線が、私の手元に向けられる。

 

「ああ、綾瀬さん……ってあれ? もしかして、もう”それ”読み終わったんですか?」

「はい、この一冊だけですけど」

 

 聞きたいことは沢山ある。

 まず何から聞こうか。そんなことを考えていた矢先——

 

「もしかして、それ読んで『ストーカーみたいで正直ちょっと気持ち悪い』って思いました?」

「え!? なんで分かっ、じゃなくて。すすすストーカーだなんて、そんなことは……」

「思ってましたね」

「すまみせん」

 

 なんでバレたの?? ちゃんと表情に出さないよう気をつけてたはずなのに……。

 気まずさから頭を下げた私に対して、駒形さんは頭の後ろをさすりながら申し訳なさそうな笑みを浮かべる。

 

「いや、謝らなきゃいけないのは俺の方です。よく知りもしないやつから、いきなりそんなの渡されたら気持ち悪いって思いますよね。

 一応弁明をさせてもらうと、俺のポジション、キャッチャーなんですよね。だから、これからバッテリーを組むラクーンドッグス(このチーム)のピッチャー陣に少しでも早く信頼してもらうために、”これだけ準備してきましたよ”っていうアピールの意味を込めて渡してます」

 

 なるほど、それなら理由として納得できる。

 ひとまず、渡されたノートに変な意味がなかったことが分かり、私はほっと胸をなでおろす――ただそれと同時に、頭の中には新たな疑問がふと浮かんだ。

 

「そうだったんですね......え、だとするとこのノートって、ピッチャー全員に配ってるんですか!?」

「まあ、そうですね。まだ渡せてない人もいますけど、支配下登録されてる選手には一応全員分用意してます」

 

 開いた口が塞がらない。

 こんなの、一人分を用意するだけでも相当な労力と時間がかかっているはずだ。それを何十人分用意しているだなんて正気の沙汰じゃない。

 

 私が感心を通り越してドン引きしてしまっているのを察してか、駒形さんはフォローするように言葉を付け足す。

 

「ああでも、三冊も書いたのは綾瀬さんだけですよ。他の選手には大体一冊しか書いてないです」

「いや、それでも十分おかしいですよ……でも、どうして私だけ三冊なんですか?」

「このチームの中で一番、可能性を感じてるからですね」

「……っ!?」

 

 私の疑問に対して、駒形さんはさらりとした口調でそう答えた。

 その言葉に嬉しさがこみ上げると同時に「そんなはずがない」と心のどこかでそれを否定する。気づけば、自分で自分を卑下する言葉が口から勝手にこぼれ落ちていた。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど……でも、私なんて、二軍でもろくに通用しないようなダメピッチャーですよ? 今日だって散々でしたし、可能性だなんてそんな……」

 

 言いながら、胸の奥にじわりと情けなさがにじんだ。褒められて、嬉しいはずなのに素直に受け取れない――そんな自分がいちばん嫌だった。

 

「それは、綾瀬さんが本来持ってるポテンシャルを活かしきれてないだけです」

 

 私の言葉を、駒形さんが遮る。さっきまでの柔らかい口調とはまるで別人のように、その声には揺るぎない確信と強さが滲んでいた。

 

「断言します。俺と組めば、綾瀬さんはラクーンドッグス(このチーム)のエースになれる」

 

 

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