支配のデンジ   作:実験者

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二話:仲間

 

 デンジに連れられて、マキマはデビルハンター東京本部庁舎へとやってきた。

 

 そこは巨大な建物で、全体の形が星型を成し、高さが高いのに細長いのが特徴的だった。

 

 外壁は灰色のコンクリートが無機質に輝き、周囲の街並みから異質な存在感を放っていた。

 

 デンジは得意げに胸を張りながら、マキマに言った。

 

「東京にはデビルハンターがすげぇいるけど、福利厚生が一番良いぜ。マキマちゃんはラッキーだな」

 

 二人はエレベーターに乗り、静かな上昇音が響く中、マキマは心の中で密かに思いを巡らせた。

 

(デンジさんが私のことを好きってことは、仕事をしているうちに、そういう関係になれるんじゃ……成りたい、恋人に)

 

 彼女の頰はわずかに赤らみ、期待と緊張が混じった感情が胸をざわつかせた。エレベーターが止まり、制服が渡された。

 

 マキマは着替えを終えて部屋に戻ると、そこに背の高い青年が立っていた。彼の背中には、鞘に入れられた杭が固定され、厳しい雰囲気を纏っていた。デンジが青年を指さして紹介した。

 

「この人は早川アキ。早パイだ」

 

 早川アキはため息をつき、わずかに眉を寄せて不満を表した。

 

「デンジさん、その呼び方やめてくださいよ」

 

 デンジは早川アキの抵抗を気にも留めず、続けた。

 

「マキマちゃんより三年先輩だから、今日はこいつについていく感じで」

 

 マキマは驚いて目を丸くした。予想が裏切られたのだ。

 

「え。私、デンジさんと仕事するんじゃないんですか」

 

 早川アキは冷ややかに返す。マキマへの当たりは強い。初対面だが既に嫌われているような雰囲気だ。

 

「そんなわけないだろ。アンタとデンジさんじゃ格が違う。釣り合わない」

 

 アキは強引にマキマの手を掴み、部屋の出口へと連れて行こうとした。

 マキマは抵抗し、足を踏ん張った。アキの声が苛立つ様子を見せ始める。

 

「おい、抵抗するな」

 

 マキマは強く言い返した。

 

「嫌。私はデンジさんと仕事する」

 

 アキの表情が険しくなった。かなり腹を立てている様子だ。

 

「あ?」

 

 その様子を見たデンジは、にやりと大きく笑い、マキマに近づいてきた。そして、デンジはマキマのおでこに自分の額を優しく合わせ、穏やかに言った。

 

「仕事続ければ一緒にできるからよ。だからまずは早パイと見回りだ。それが最初の一歩だぜぇ〜」

 

 そう言いながら、デンジはマキマの緩んだネクタイを丁寧に整えた。

 マキマは彼の動作に心が温かくなり、緊張が解けていくのを感じた。デンジはさらに励ますように続けた。

 

「だから頑張れ。応援してっからよ」

 

 デンジの紅い瞳に、マキマは吸い込まれそうになった。その輝きは優しさと力強さを湛え、彼女の心を強く揺さぶった。

 

 一方、早川アキはその様子を不満げに見つめ、唇を噛みしめる。町中でのパトロール中、マキマは早川アキの横を歩きながら、好奇心から問いかけた。

 

 街の喧騒が二人の周りを包み、歩行者たちが忙しなく行き交っていた。

 

「デンジさんは、彼女とかいるのかな?」

 

 アキは一瞬沈黙し、視線を逸らした。

 

「……ちょっと来い」

 

 二人は裏路地に入った。薄暗い路地はゴミが散らかり、湿った空気が漂っていた。突然、アキはマキマを殴り、蹴り、コンクリートの地面に叩きつけた。

 

 マキマは痛みに耐え、倒れたままアキを見上げた。アキは冷徹に言った。

 

「お前、デビルハンターやめろ」

 

 マキマは息を切らしながら尋ねた。

 

「なんで?」

 

 アキは倒れたマキマを見下ろしながら、優雅にタバコを取り出し、火をつけて吸い始めた。煙がゆっくりと路地に広がり、消えていく。

 

 彼の表情は厳しかった。

 暗く湿った路地裏で、街灯の淡い光が地面に影を落としていた。空気は重く、遠くから聞こえるサイレンの音が、この街の危険を静かに語っていた。

 

 男は煙草をくわえながら、目の前のマキマに視線を向けていた。

 厳しい表情は、経験の積み重ねた疲労と、苛立ちを隠しきれていなかった。彼の表情は厳しかった。

 

「俺の優しさが伝わらないかな。金目当てにデビルハンターなったやつはみんな死んだ。生き残ってるのは信念あるやつだけだ」

 

 信念あるものでさえ、悪魔に殺される世界でもある。しかし物事を甘く想定する人間が死ぬのは当然のことだった。

 

 マキマはその言葉に肩を震わせ、目を伏せた。早川アキの声は低く響き、優しさの裏に潜む警告が、彼女の胸を締めつけた。

 

 早川アキは煙草を地面に捨て、足で踏み消すと、ゆっくりと背を向けた。歩き去る背中には、孤独と決意がにじんでいた。

 この世界で生き抜くためには、信念だけが頼りだった。

 

 

「お前、デンジさん目当てたろ」

 

 マキマは素直に認めた。

 

「うん」

 

 アキはさらに続けた。

 

「なら殴って正解だったな。デンジさんは見た目も言動もチンピラみたいな人だが、良い人だ。お前みたいな女にはもったいない」

 

 その言葉から、アキがデンジを深く信頼し、感謝している様子が強く見て取れた。

 彼の目は遠くを眺め、過去の記憶を思い浮かべているようだった。過去にバディや同僚達だ。

 アキは背中を向け、タバコをくゆらせながら言った。

 

「デンジさんには、俺から言っておいてやる。悪魔にビビって逃げた腰抜けでした、ってな」

 

 そのままアキはマキマに一瞥もくれず、歩き去ろうとした。その瞬間、マキマは高い身体能力を発揮し、アキの股間を鋭く蹴り上げた。

 

 アキは思わず呻き、膝をついた。マキマはさらにアキを地面に叩きつけ、上から股間を踏み潰した。アキの顔が苦痛に歪んだ。

 

「お前っ……!」

 

 マキマは倒れた早川アキを見下ろしながら、ゆっくりと立ち上がった。彼女の声は穏やかで、しかし確かな決意を帯びていた。

 

「私は今日、うどん食べたよ。フランクフルトも。始めて人並みの扱いをされた。私にとっては夢みたいな生活なの。私は軽い気持ちでデビルハンターになったけど、この生活をする為なら、命をかけられるよ」

 

 その言葉を言い終えると、マキマは美しく笑った。彼女の唇が優雅に弧を描き、目元に柔らかな光が宿る。

 

 それは、長い間抑え込まれていた喜びが、ようやく表面に溢れ出たような笑みだった。

 

 底辺の暮らしの中で、マキマは常に影のように扱われていた。食べ物は粗末な残飯か、満足感のない代用品ばかり。誰からも視線を向けられることなく、存在を無視される日々。

 

 人として認められることなど、夢物語に過ぎなかった。だが今日、デンジが彼女を連れて街を歩き、普通の人間のように食事を与え、言葉を交わした瞬間――それは、彼女の心に深く刻み込まれた。

 

 うどんの温かな湯気、フランクフルトのジューシーな味わい。

 それらは単なる食事ではなく、初めて与えられた「人間らしさ」の証だった。デンジの視線は彼女を「もの」ではなく、「人」として捉えていた。

 

 その優しさが、マキマの胸に温かな波を広げ、過去の寒々とした孤独を溶かしていくのを感じた。

 

 人間として認められるという感覚は、彼女にとって黄金のような輝きを放ち、失うことのできない宝物となった。

 

 自らの価値を見出したデンジへの気持ちは強く、そして底辺の暮らしから今の生活へ上昇したのなら、それを守るために命を賭けるのはマキマにとって当然だった。

 

 彼女の目は決意に満ち、路地の薄暗さの中でさえ、星のように輝いていた。

 

 

 彼女の目は決意に満ち、路地の薄暗さの中で輝いていた。

 デビルハンター東京本部庁舎に戻ると、ボロボロになった二人がデンジの前に立っていた。

 

 デンジは状況を見て大笑いし、楽しげに言った。

 

「早パイ、後輩にかっこわりいところ見せちまったな。マキマちゃんに良いところ見せようとして失敗した?」

 

 マキマは平然と答えた。面の皮が厚い。

 

「男性の弱点を狙う悪魔に敗北してました」

 

 アキは慌てて否定した。

 

「嘘です、こいつの嘘です。こいつクズですよ」

 

 デンジはさらに笑いながら言った。

 

「仲良くできそうで良かったじゃねぇか。早パイのチームに配属するから、よろしく。早パイ!」

 

 デンジからさらっと告げられた言葉に、アキは信じられない様子で抗議した。

 

「嘘でしょ、うちはただでさえ面倒なのが多いのに」

 

 デンジは意気揚々と説明した。

 

「早パイのチームはすげぇやべぇ奴らを集めた最強のチームするって言ったろ? マキマちゃんは悪魔に変身できるヒーローだからな。最強チームでメインを張れるぜ」

 

 アキは絶句し、言葉を失った。一方、マキマは興味なさそうな様子で視線を逸らしていた。デンジはさらに続けた。

 

「つーことで、最強のマキマちゃんは公安やめたり、違反行動したら存在違反だ」

 

 マキマは首を傾げて尋ねた。

 

「どういう意味ですか?」

 

デンジは明るく締めくくった。

 

「俺たちみんなずっと一緒に仕事するってこと!」

 

 

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