お酒の力を借りようと思いますわ! 作:名無し
そのあまりの豹変っぷりにレオノーラは呆気に取られるが、そんなレオノーラの様子を見てロイドはクスクス笑う。
「ふふふ、どうしたんだい?そんなびっくりした顔をして…」
「え、え?だ、だって、さっき……」
「ん?さっきがどうしたんだい?」
「い、いつもと口調が変わっていた気が……」
「口調?いつも通りだと思うけど……ふふふ、もしかしてまだ寝ぼけているのかい?」
「えっ、え?で、でも…」
「ああ、それよりもそろそろ部屋に戻った方が良いかもしれないね。じきに君の侍女が起こしにくるだろうから」
「あ、その……」
「部屋まで送って行くよ。さあ、立てるかい?」
「え?え、ええ……」
そう言ってレオノーラに手を差し伸べるロイド。そのあまりにもいつも通りのロイドの姿にレオノーラはそれ以上何も言えずに結局大人しくロイドの手を取り、部屋まで戻ることにしたのだった。
(さっきのは夢…だったのかしら?)
と、そう思いながら。
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「っぶなかったあああああ――ッ!!」
部屋に響く男の声。男の名前はロイド・フォン・グランツ。グランツ爵家の次男にして次期当主候補であり社交界では快活で明るい性格で誰に対しても物腰が柔らかく優しいと貴族令嬢達に人気の貴公子だ。そんな彼が何故、貴公子らしからぬ声をあげていたかといえば……危うく自分の本性が婚約者であるレオノーラにバレるところだったからだ。
そう、社交界一の貴公子と呼ばれているロイドだが、その本当の姿は貴公子など程遠い、粗暴で傲慢で不遜で自分勝手で平気で身分が下の者を見下すような性根が腐った性格で、それこそ数年前は両親ですら手が付けられないほど素行に問題のある令息で一時期は修道院に入れようかと話に上がってさえいた男なのである。しかし、ある時をきっかけに両親が心配して医者を呼ぶほど完璧で理想的な貴公子となった。そしてそのきっかけというのが……とある舞踏会で出会った名も知らぬ可愛らしい茶髪の令嬢。かつて壁の華となっていた彼女に声を掛けて『こ、こわい…』と言われて初めて女の子に拒絶されたのがショックすぎるあまり、それまでいくら両親が言っても直そうとしなかった素行を改め、そして社交界ではそれまでの彼を知っている者の度肝を抜くくらい完璧で理想的な貴公子として振る舞い、女の子……女性に二度と『怖い』と言われないように本来の性格を極限まで抑えて誰からも好かれる好青年に見えるように努力した。その甲斐あって現在のロイドに対する周囲の評判は上々でそれこそ流行り病で亡くなった嫡男であった兄の後継者として不足はないと両親に認められ、王国の中でも名門の伯爵令嬢を婚約者に据えられるほど期待されるようになったのだ。
じゃあ、なんでそんな風に必死に本来の性格が出てこないように完璧に振舞っていたロイドが先ほどレオノーラの前で『本来の自分』を見せていたかというと……それは数時間前、深夜1時まで遡る。