登場する主人公「森羅 万(しんら よろず)」はオリジナルキャラクターであり、原作には登場しません。
※ぴくしぶにも同じ名前で投稿していますが、本人の手で投稿していますのでご安心ください。
以下の注意点をご確認いただけますと安心して読めます。
・hrak世界を知らずの転生です。
・個性の都合上、テ/イ/ル/ズ作品の魔法が多々登場します。
・俺つえー系の話にはしない予定ですが、そう感じる場合があります。
・沢山の地雷を無自覚に仕掛けている場合があります。その場合は即ブラウザバックを推奨します。
以上のことをお気をつけください。
10話:入院と退院、そして雄英体育祭へ
敵による襲撃事件から1週間が経った今日。私は充てがわれた病室でベッドに横になって外を見つめている。
澄み渡るような青空が見える。
あの日の襲撃事件で重症を負った私は1人、入院を余儀なくされた。脳無に殴り飛ばされた事により肋骨が折れ、それが肺に刺さってしまったからだ。
今も深く呼吸するだけで痛みが走る。寝返りも満足にできない。
病院の先生たちに治療をしてもらったのに完全に治らなかったのは、単純に一気に治すための体力が今の私に無いことが理由。
私の個性には回復魔法があるからそれを使ったら早いとは思うけど…まだ個性使用の許可を得てないのと、病院の先生たちから余計に体に負担をかけることになるから絶対にするなと言われているからやっていない。
リハビリをするにも体がまだ治りきってない中でするのはかなりリスクが高いのは前世で学んだ。だからできない。
この状況で唯一できるのは座学だけ。
雄英は勉強もレベルが高いから、前世で勉強してたと言っても油断すると置いてかれる。それは避けたい私としては丁度良かったかもしれない。
視線を手元の教科書とノートに移す。
ミッドナイト先生が持ってきてくれた宿題のおかげで暇を持て余さなくて済んで良かった。ただ、ミッドナイト先生の言葉が頭の中から離れない。
「森羅さん。貴方は確かに守ったわ。
…けどね、自分も無事じゃないと意味ないのよ?」
そんな事、重々承知だ。それに私は元々自己犠牲の勝利は好きじゃない。少しの未練が影を差すことも知っているから。だから、言われなくても分かってる。分かってるけど、今回の私の咄嗟の立ち回りの根幹にあったのは、自己犠牲だ。
あんな戦い方、私だってしたくなかった。
自己犠牲が前提の行動なんて、いつか巡り巡って自分の首を更に絞める。そんな事、私は望んでやらない。死にたくないから。
…死ぬのは、痛いし、寒い。あんな思いもうしたくない。
ただそれよりも…私はその時自覚はなかったけど、躊躇なく他者に攻撃魔法を使った。そちらの事実の方が堪えた。…下手したら、敵を殺してたかもしれない。
自分の身を守るため……なんて言い訳しても事実は変わらない。自分の個性が、行動が、ただただ恐ろしいと…心から思った。
そんな私の思考を遮るように、コンコンと扉がノックされた。私の病室は個室だ。だから…私に用があるのはすぐにわかった。
「森羅さん。治出です。入ってもいいかな?」
「先生。……はい、どうぞ」
そうして入ってきたのは、私の担当医師である治出先生だ。ここに運ばれてから手術・問診そういった事全般を担当してくれている若い女性の先生。若くとも腕がいい…と先生自ら言ってた。いや、疑ってないですけど…。
先生はベッドの横にある椅子に腰掛け、私に微笑みかけた。
「調子はどうかな?」
「呼吸時の痛みと寝返りの時の痛みがまだあります」
「一朝一夕で治るものじゃないからね…ゆっくり治していこう。それでも森羅さんは他の人より回復力が高いから、来週には痛みも消えてる筈だよ。ただ違和感や小さな痛みはまだ残る。こればかりは時間が一番の特効薬だね」
「……はい、分かりました」
「うん。いい返事だね。
因みにね、他にも用事があって来たんだ。聞いてもらえるかな?」
「はい」
先生は手に持っていたクリアファイルを私に差し出した。
それを受け取って表紙を見た。
タイトル≪森羅 万の個性について≫。
「これは森羅さんに聞き取りしながら私の方でまとめたものだよ。あと今回、私の方で森羅さんの個性を研究をした結果でもある。
一緒に確認しながら見ていこう。さぁ資料を出して」
先生に促されるまま資料をクリアファイルから取り出した。
そして先生の説明を聞きながら1枚1枚見ていった。
資料を要約するとこうだ。
私が魔力と呼称している力の正体は"生命力"。
詠唱は"魔力を起こす"行為にあたる。そのため詠唱破棄は、生命力を無理やり0から100まで一気に引き上げることになる――いわゆる"命の前借"だ。
そして魔力の枯渇は寿命を縮める。
私の個性は、自分の命に直結している。
その事実を突きつけられて、私は心の底から怖くなった。そして無意識に自分の命を縮めていた事実に…やっぱり私の個性は"恐ろしい"ものだと再認識した。
「私が前に個性使用は体に負担かけるって言ったの、覚えてる?あれは森羅さんの生命力を削ると分かったからだよ。
今の森羅さんは生命力が著しく下がっている。その中での個性使用は…危険なんだ。だから許可は出せなかった」
「そう、だったんですね」
「……森羅さんは、自分の個性が怖い?」
そう問いかけられ、私はゆっくり首を縦に振った。
私は個性が発現したあの日から、ずっと自分の個性を恐れていた。なぜなら扱い方を誤れば自分だけではなく、他の人を容易に傷つけるから。
何より、森羅家の個性の系譜から大きく外れたこの個性は…異端だ。
資料を持つ手が微かに震えている。
それに気付いたのか、先生はそっと柔らかな声で話してくれた。
「今は怖いかもしれない。でもね、森羅さん。あの時担任の先生を治したのは君の力だ」
「…先生の傷の全ては治せませんでした」
「それでも死にかけていたところから動けるまで治したのは、森羅さんだよ。
恐れることは大事だけど、必要以上に恐れる必要はないんじゃないかなって私は思うよ」
その言葉に大婆様の言葉を思い出した。雄英の推薦入試の件で言い合いした時の、言葉。
――アンタの力は確かに正しく恐れる必要はある。それは認める。…だがね、必要以上に恐れるのは"愚か者"のすることだ。
まさか治出先生も大婆様と似たようなことを言うなんて…思ってもみなかった。
「森羅さんの力は危険性も大きい。でもそれ以上に沢山の人を守り、癒す力がある。私はそう確信してるよ。
だから、入院している間に一緒に正しい力の使い方を身につけよう」
人を傷つけないように、何より正しい力の使い方を覚えるために…私は先生のその言葉に頷いた。
そしてその日を境に先生とのリハビリという名の個性の修行が始まった。
魔力は生命力であるから、今の必要になったら都度練るパターンは適さない。できれば常に満たすのがベスト。そうしたら魔力を起こすための詠唱も短縮できる可能性がある上、魔力の枯渇の危険性も減らせる。
それを実践するために魔力をため込むイメージをしたが、ある一定までたまると…マーライオンのように吐いた。それもう…見事なマーライオンだった。修行に付き合ってくれた先生には申し訳なかったが、幸いなことに近くにバケツがあった為床にぶちまける事はなかった。
でも、なんで吐くのだろうか。
仮説として治出先生があげたのは、魔力をためる容量が決まっているという説。そこから溢れると今回のように吐く。
もしそうだとしたら…今の容量は少ない。なんとかして拡張しないと。
毎日ちょっとずつでも一週間も続けると人は変わるもので…私はこれまでの人生の中で一番体が軽くなっていた。
それが意味するのは、魔力が常に満ちているということ。生命力が全身にみなぎっているということ。因みに副作用として回復力が更に高まり、今ではほんの少し息がし辛いだけで痛みは殆どなくなった。
朝、雄英の体操服に着替えてからリハビリ室に行くと、そこには既に治出先生がそこにいた。最近は朝早くから治出先生と個性の修行をしてるから居ても不思議ではないが、いつもより早く来ていることにちょっと違和感を覚えた。
それでも先生を待たせている事実に申し訳無さを抱いた。
「遅くなってすみません」
「ううん、全然待ってないよ。いやぁ…にしてもまさかここまで成長するなんて。流石に私も予想外だったよ」
「え?先生分かってて指導してくれたんじゃ…?」
「…良い意味での予想外だね!!」
「先生?!」
先生はにこやかに笑いながら、まぁまぁ落ち着いてとジェスチャーしてきた。
ちょっと納得はいかなかったが…まぁこれ以上言っても暖簾に腕押し状態になるだけ。だから口を閉ざした。
先生は私の様子を見て穏やかに微笑み、口を開いた。
「…うん、これだけ元気があるなら今日で退院できるね。
それだけじゃなく、今日の雄英体育祭にも出ることできるよ」
先生のその言葉にぐっと息が止まった。
雄英の体育祭はかつてのオリンピックのような存在で、日本のビックイベントの1つとして位置している。何よりヒーロー科にとってはプロのヒーローがスカウト目的で見るため、将来を拓くために重要なイベント。
ただ今年に限っては批判的な声も上がっている。無理もない。敵に侵入された後だもの。それでも今年開催するのは、雄英の危機管理体制が盤石だと示す意味合いもある…と、宿題を持ってきてくれたミッドナイト先生が言っていた。
私は正直出たくない。
雄英の体育祭は露骨に"他を蹴落として"上を競う場。人気商売の面が大きい現代ヒーローにとって"他人より上に"という貪欲さが必要なのは分かる。だけど私はそもそもヒーローになりたくない。何より"ヒーローが他を蹴落とす"なんてあり得ない。だってヒーローは"他をすくい上げる"人が本来だ、と私は思う。
だからこそ現代ヒーローは受け入れられないし、なりたくないものの象徴として私の中にある。
…正直、入院は雄英体育祭後がいいなと思っていたけど、そうはいかないか。
ヒーロー科にいるということは、普通ならヒーローになるためにいるもんね。先生はそう思って間に合わせてくれたんだろう。
「さぁ!荷造りしておいで!…けど、出場するには条件がある」
「…条件?」
「そう。森羅さんの個性は安定したし、傷も粗方治った。けど…」
「けど?」
先生は少し言いづらそうに淀んだ。
視線も少し下げたが、すぐに私の目をまっすぐ見た。
「森羅さんはまだ万全の状態ではない。あくまで今回は"間に合った"だけ。無理をすれば傷は開くし、個性は森羅さんの身を蝕む。だから条件を設ける。
まず一つ。上級以上の魔法の詠唱破棄は行わないこと。
二つ。体術を使っての戦いは避けること。…これが条件だよ」
「…体に負荷がかかるからですね?」
「そう。だから守ってね。それを守らなかったら…また入院だからね。次は一か月は入院してもらうよ」
「一か月は…流石に学業に影響が…」
「それならちゃんと条件を守ってね?」
「…はい。分かりました」
「よし!じゃあ荷造りしておいで!今日は雄英からお迎えも来てるからね!手続きとかはもう済んでるから気にしなくていいよ!」
そう言ってリハビリ室から出されたので、荷造りをして病院の受付ホールまで出た。そこには治出先生やお世話になった看護師さんたちいて、見送ってくれた。
頑張ってね!その言葉にお辞儀をして病院から出た。
すると正面には車が1台停まっていた。
…その車がお迎え?
そう思って見ていると車のドアが開き、中から誰かが出てきた。出てきたその人は――校長先生だ。
ヒュッと息を呑んだ。なんで校長先生自ら?!
そう焦ったが、とにかく先生のもとに行かなければ。
校長先生に駆け寄り、視線を合わせるように膝をついた。
「校長先生…?!」
「YES!ネズミなのか犬なのか、かくしてその正体は…校長さ!お迎えに来たよ!森羅さん!」
「な、なぜ校長先生自ら…?!」
あまりの恐れ多さに体と声が震える。
校長先生が迎えに行く生徒なんていないよ?!
というかお迎えなくても私1人で帰れますが…!
「今回森羅さんをお迎えに来たのは警備のためもあるから、気にせず車に乗りなよ!」
「は、はい…」
先生に促されるまま車に乗り込む。
この入院生活中はミッドナイト先生以外と学校の人と関りがなかった為、なんだか緊張する。
因みにミッドナイト先生以外お見舞いに来なかったのは、病院から面談禁止が出ていたからだ。
ミッドナイト先生は宿題のみを持ってくるという約束のもとで特例を出されていた。どうやら他の人と接触すると私が焦ると思ったらしい。これは余談だけど、手紙でクラスメイトからお見舞いの言葉は貰っていたので、私の事を忘れていたから来なかったわけではない。…そう、だよね?
なんかちょっと不安になった。
車内の後部座席に座ると、信じられないぐらいふかふかだった。…なんだコレ!?
もしかして…高級車…?
さっと顔から血の気が引くのを感じた。怖い。
「森羅さんは思ったより表情豊かだね!もっとクールな子かと思ってたよ。私の目もまだまだだね」
「え、あ、いや…そんな事はないかと…」
「気にしなくていいのさ!まぁそんなことより…君に言いたいことがあるんだ。
その前にランチラッシュ特製のお弁当をお食べ!朝ごはん、まだだろ?」
「はい。…ではいただきます」
「耳だけ私に向けてくれればいいよ」
そのお言葉に甘えてお弁当を受け取り、蓋を開け、いただきますと小さく呟いて食べ始めた。
…うん、久しぶりのランチクラッシュ先生のご飯はやっぱりおいしい!
もぐもぐ食べながら耳を校長先生に集中させる。
「――2週間前、君は命を賭して敵に立ち向かった。そして生徒達を守った。怖かった筈なのに…本当に、ありがとう。
そのお礼を言いたくて今日は私自ら来たのさ。君が勇気を振り絞ったおかげで相澤くんも後遺症はあれど生きてる。…本当に、ありがとう」
そう言って先生が頭を下げる。
…やばいこの場面を誰かに見られたらあることない事言われそうな気がする。
わたわた慌てながら、口の中のものをしっかり飲み込み、言葉を発した。
「…私は、私にできることをしただけです」
その言葉を聞いて、校長先生は柔らかく微笑んだ。
車内での話はタメになるものばかりで、すごく有難かった。でもちょっと思ったことある。…もしかして先生って話長いタイプですか?
「じゃあ頑張ってね!くれぐれも無理は駄目だよ!」
「はい。ありがとうございます」
校長先生と雄英の敷地内で分かれ、私は会場入りをした。
開始時間付近なので人が多い。なるべく人の目に触れないように生徒や関係者専用の出入り口から中に入ったが、外はマスコミや会場の警備にあたっているヒーロー、そして観客の人たちでごった返していた。
この中でやるということは…多数の衆目がある中でベストな戦いをできるかも見られてそうだね。
まぁ…私には関係ないか。
会場内の通路を歩く。すれ違う人はいない。皆控え室にいるんだろう。
私も本来なら控え室にいかないといけないんだけど…。もう体操服に着替えているのと、今から行っても僅かな時間しか入れないという事で校長先生に先に入場口に向かうように言われた。
入場口に向かって歩いていると、後ろから足音が聞こえた。耳をすまさないと聞こえないこの足音は…。バッと後ろを振り向くと、そこには白の姿があった。
「……白」
「……間に合ったか。万」
白がゆっくり歩み寄ってくる。私も同じようにゆっくり歩み寄る。正直、何を言われるか分からない。それでも…白の言葉は正面から受け止める。
「……万」
「うん、どうしたの。白」
「言いたいことは、山程あるが…」
そこまで区切って白は私の首に頭を置いた。
「無事で良かった。ただ…今日は無理をするなよ。したら止めに入るからな」
「分かってるよ。お医者様にも言われたからね。それに、これ以上白に心配はかけたくないし」
そう告げると白は擦り寄ってきた。この仕草は撫でろと暗に言っている。それに応えるようにゆっくり撫でた。
優しい私の相棒。ごめんね、心配ばかりかけて。
生きてることを確認するように私は白を抱き締めた。