魔法は祈りに変わり、星は希望を示す   作:春夏秋冬夏蜜柑

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※まだ本編には入りません。


1話:命の灯火を守るということ

 

 

 

初めて個性が発現してから6年の歳月が経ち、私は10歳になった。兄の瞬は雄英高校に進学し、主席で卒業してプロヒーローとなった。でも誰のサイドキックにもならず、そしてどこにも所属しないことを選んだ。それでも兄は各地で引っ張りだこで、卒業してすぐの今はとても忙しそう。

 

本来サイドキックにならず、どこにも所属しない場合、仕事は自分で取りに行くスタイルになる。そのため引っ張りだこ…なんてのは夢のまた夢。

 

…なんだけど、お兄ちゃんの個性である『水瞬』は水のある場所への瞬間移動を可能とする。対象はお兄ちゃんが認識できる範囲の人・物。つまりお兄ちゃんは水のある場所なら対象をほぼなんでも瞬間移動させることが可能。

この個性は救助活動なんかで抜群の効果を発揮する。

…あとこれは推察でしかないんだけど、多分屋内で取引されている禁止物なんかの回収だってできるんじゃないかな。だって"認識"さえすればいいんだから。

 

そういうこともあり、お兄ちゃんは今引っ張りだこのヒーローとなっている。とても忙しそうで家にいる事は少なくなった。でもその中でも合間を縫っては家に帰ってきて家族の私達との時間を大事にしてくれる。とても尊敬する兄だ。

 

にしてもヒーローになるってことを聞いた時に動機を聞いてみたら「万のためになる」って言われてビックリした。詳しく聞くと、私が個性で迷ったりした時に兄として導くために経験がほしかったからと言っていた。

 

森羅家は水系統の個性が発言する血筋。でも私はその流れに沿ってないがために、これから困惑することが多くなるだろうと予想したらしい。

 

……妹が動機って、私のこと結構可愛がってくれてるね。ヒーローとしての動機はどうかとちょっと思ったけれど、身近な人を守るのもヒーローらしいなとも思った。そう言う想いでヒーローになった人もいるんだな。…なんだか、いいな。

 

 

今日はそんな兄が帰ってきていた。2週間ぶりだ。そして私と兄は今、2人揃って家の広大な敷地内にある裏山に来ている。目的は星空観察。月見ならぬ星見。なので今の時間は一番星が見え始めた頃。

本来なら家族の誰かがいないと駄目なんだろうけど、敷地内であることとプロヒーローの兄がいることで家族から許可が出た。今の季節は新緑の葉が美しい5月。頬を撫でる風が気持ちいい。

 

 

「お兄ちゃん、今日は一緒に来てくれてありがとう」

 

 

2人並んで星空がよく見える開けた山頂で座っている。どっちも三角座りだ。なんか、こういう仕草が同じ時に兄妹だなぁと実感する。前世での年齢である30歳を足すと私の方が余裕で年上なんだけど…やっぱり兄という存在は特別だ。同じ血を持った兄。前世でも兄がいたから、嬉しかったなぁ。

 

…前世の兄さん、元気にしてるかな。

 

ふと思い出すと寂しくなる。…寂しくなるのは、私がまだこの世界を受け入れられてないからなのかな…。

ふっと心に影が差したとき、ぱふっと頭に軽い衝撃を受けた。下がっていた目線を上げると、兄が私の頭の上に手を置いたらしい。

そのまま撫でられる私。…ちょっと恥ずかしい、けど心地いい。

 

 

「万のためなら、いつでも行く。だから遠慮はいらない」

 

 

そう言って撫でてくれる兄に甘えて撫でられ続けた。それもすぐ終わり、兄は目線を空に移した。その目には沢山の星々が映っていて、とても綺麗だった。

私も兄に倣って視線を夜空に移した。

 

満点の星空。そして三日月。

言葉に言い表せない程美しい。

 

…この世界は、個性が発現したせいで人が宇宙に行く技術は衰退してしまった。それよりも人々が使う個性のために技術は磨かれていった。

 

実は私は昔から宇宙が好きだ。だからいつか行きたいと思っていた。

そのことをお母さんに言った際、先程の理由を教えてくれた。そして最後に優しく無理と言われた。……その、凄く…ショックでした…。夢が1つなくなった。なんてことだ…。

 

だからせめて、星空を眺めることにした。そうすることで少しだけ宇宙を近くで感じれるから。

 

 

「あ、流れ星」

 

視線の先でキラリと星が流れていった。どの世界の流れ星も綺麗だな。

1つ流れたのを皮切りに2つ3つと沢山流れていった。

 

 

「沢山あるな。流星群か」

「そう言えば今日あるってニュースで言ってたよ」

「そうか。…折角だし、なんか願い事するか?」

「そうだね、こういう機会そうそうないし」

 

 

流星群が流れる星空の下、胸の前で手を組んで目を閉じる。

 

何を願おうか。しかし残念ながら何も思い浮かばない。

でも折角の機会だしなぁ……。何かお願い事したい。

 

うーん……と考えていると、遠くの方でカサッと言う音が聞こえてきた。続けて何か引きずる音。

すぐに目を開け、隣の兄の方を叩く。

 

 

「お兄ちゃん!!」

「どうした?」

「あっちの方から音が聞こえた。何か、引きずる音」

「!!……万は、一緒に来てくれ。万が一の事を考えたら一緒にいた方が安全だ。いいな?」

「分かった」

 

 

そして音が聞こえた方に向かう。

月明かりが照らしていた所から木々の密集した空間に足を踏み入れると、今朝の雨の影響か…少し湿り気を帯びていて葉の匂いが濃かった。そして薄暗い。兄と繋いだ手を少し強めに握る。そしたらちょっと強い力で握り返された。あたたかい。安心する。

 

 

「万、音は結構遠かったか?」

「うん、結構遠かったよ。暫く歩くかも」

「分かった。…絶対離れるなよ」

「勿論」

 

 

2人で歩くこと暫く、風に乗って血の匂いがした。

 

 

「行くしか、ないか。絶対守るから、離れるなよ」

「…うん」

 

 

危険な気配を兄は察したんだろう。私の手を強く握った。正直怖い。何があるか分からなくて。

……でもなんでだろう。私は、早くそこへ向かわないと行けない気がしてる。――行かないと。

 

逸る気持ちをぐっと抑えて兄の後ろを歩く。

そして開けた所に出た。湖のある場所。私も好きでよく穏やかで神聖な雰囲気漂うこの場所は、今、血で染まっていた。

 

 

「…っ!!」

 

 

咄嗟に口を覆う。前世の死に際が脳裏を過ぎり吐きそうになった。

でも、夥しいほどの血で染まっているということは傷ついた人がいる。ここは、森羅家の敷地内。人が入れないようになっているはずなのに、なんで、どうして。

 

咄嗟に目線であたりを見渡した。

そして見つけた。湖に体が半分入った状態で血に濡れてぐったりしている狼を。元の毛色が分からないほどに赤く染まっている。

見ただけで分かる、あのままでは…あの狼は死ぬ。

何があの狼にあったのかはわからない。でも、死ぬのは…あんまりじゃないか?

 

そう思った瞬間には兄から手を離して狼に走り寄った。

転びそうになったけど、なんとか踏ん張って狼に向かう。

 

 

「万!!待て!!」

 

 

兄が私の名を呼びながら此方に来ているのが分かる。

待てと言われて待てるなら、私は走り出していない。

 

狼のそばに腰を下ろして体に手を添えた。…段々冷えていくのが分かる。命の灯火が消えそうになっている。

今から止血しても間に合わない。でも、なんとか守りたい。

この気持ちが偽善だとしても、目の前の命を守りたくて、頭をフル回転させる。

そして1つだけ、助けられるかもしれない手段に思い当たった。

…本当はダメなんだけど、でも、躊躇している時間はない。

 

 

「万!離れるなと言った、だろ……」

 

 

ごめんね、お兄ちゃん。後で怒られるから。ただその代わりに今は、許して。

 

狼の体に両手で触り、魔法陣を展開させる。

 

私が発現した"個性"は【魔法】。私の体の中に流れる魔力を使ってイメージしたものを現実のものとする。

その際に足元に光を帯びた魔法陣が展開される。

ただそのままでは個性の行使はできない。

口を開く。

私の個性は"詠唱"が必要だ。

 

 

「――再生を願うは我が真なる祈りなり。

光よ形を宿し、具現せよ!

レイジソウル!」

 

 

前世で好きでプレイしていたファンタジー作品の詠唱を口にした。

 

私の個性はイメージがキーだ。だからこそ、前世でよく使っていた回復魔法を選んだ。少しでもイメージがしやすいように。

…必ず治す。必ず助ける。

その気持ちと、治るようにと祈りを捧げて。回復魔法に全魔力を注ぎ込む。

 

私は魔力をその都度練って使うことしか知らない。

でも魔法は明確なイメージをすればする程、魔力がたくさん消費されていく。私にとって魔力とは酸素と同じくらい重要なもので、減れば減るほど体に悪影響を及ぼす。

例えば今みたいに吐きそうになったり、意識が魔法に飲み込まれそうになったり。耳鳴りも聞こえたり。

……視界が黒に染まりそうだ。

 

でも、それでいい。

枯渇し始めたら魔法を行使しながら魔力を練ればいいだけ。ただもちろんその分私の体には確実に負荷は掛かっている。そもそも詠唱しながら魔力練るなんて芸当、初めてしている。

でもいい、それでいい。

私はただ、目の前の命を守りたい!!

 

 

その瞬間、聞こえていた風のさざめきが消え、目の前に夜空が広がった。

満天の星空。沢山の星が流れては消える。不可思議な空間。

 

その中で今にも消えそうな星を見つけた。

直感的に分かった。これは、狼の命の光だ。

 

手を伸ばしてその星を捕まえて、優しく抱き締める。

――大丈夫、信じて。

あなたの命の光を。命の灯火を。

 

その光は徐々に強く光りはじめた。優しく、力強い光に包まれて私は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――瞬視点

 

万が柔らかな、神聖な光に包まれている。

その光はやがて上空で1つの星となり、あふれ出た光が狼に降り注いだ。

 

光が触れたところから血は浄化され、赤から狼の元の毛並みであろう純白に戻っていく。

傷もたちまち癒えていく。

不可思議な光景に目が離せない。今まで見たことのない光景に目が奪われる。

 

ほぼ全ての傷が癒えた後、星は狼の中に入っていった。

その瞬間、狼は柔らかな…でも力強い光に包まれた。

やがてその光が消え、そこにいたのは傷1つない美しい狼だった。辺りを見渡すと狼の血で染まっていた地面も元の色に戻っていた。いつも通り…いや、違う。花が多く咲いている。地面が見えないほどの花々。さっきまでは花は地面を覆うほど咲いてはいなかった。…これは、万の個性の作用か?何が、どうなって…。

 

考えを張り巡らせようとしたその時、万はゆっくりと横に倒れた。

 

 

「っ!万!!」

 

 

急いで抱き起し、脈と呼吸を確認する。…大丈夫、どちらもある。

心からホッとした。恐らく一時的に気を失っている。…無理もない。ここまでの個性は使用したことはないんだから。

それにしても…。

 

穏やかな、美しい妹の顔にかかっていた髪を優しく払う。

確実に死に向かっていた狼をここまで回復させるなんて。…いや、回復なんて言葉で済まない。これは最早"再生"の域に達する。まさか、万の個性がここまで強力だとは正直思っていなかった。このままでは、この子は…誰かに利用されるかもしれない。それは、阻止しなければ。でもどうしたらいい。オレは常に一緒にいてやれない。でも、守らなければ。大事な妹を、星のように輝くこの子を――。

 

 

「グル、ル」

 

 

唸り声でハッと我に戻った。考え込むと自分の世界から中々帰ってこないのは悪い癖だと、消太先輩に言われていたのに…失態だ。

万を抱き締めたまま狼に視線をやる。万が助けたとはいえ、どうして此処に来られたのか…なんで傷だらけだったのか何も分からない相手だ。最悪襲い掛かってくる可能性だってある。慎重に見極めなければ。

 

オレは狼から少し距離を取るように静かに後ろに下がった。

狼はゆっくり立ち上がると湖から出てきた。…その大きさに驚きを隠せない。万は身長145cmあるが、この狼の肩高は同じぐらいに見える。なんて大きな狼だ。油断したらばくりといかれそうだ。

 

警戒をしながら狼を見る。いつでも万を連れてこの場を離脱できるように。

狼はオレの腕の中にいる万に目をやった。

 

 

「…その子が、私を助けたのか?」

「!!話せるのか…?!」

 

 

驚いた。狼はどうやら人語を操るらしい。…もしかしたら根津校長と同じ、動物でありながら"個性"を持っているのか。

 

 

「話せる。私はお前たち人間がいう"個性"というものを持っているからな」

「そうだったのか…」

「そうだ。して、先ほどの問いへの答えを求めよう。その子が、私を助けたのか?」

「…そうだ。この子が自分の個性を使って君を治した」

「そうか……」

 

 

狼はそう言うとその場で座り、少しだけ顔を万に寄せた。…本来なら遠ざけたほうがいいのかもしれない。でも、オレは見守ることに決めた。

オレの個性であれば何かあってもすぐに離脱できるから。

 

じっと狼を見つめる。

 

 

「……私は、人間に追われてこの山に入ってきた。どうやら、人間の中では私のような動物が"個性"を持つのは珍しいらしいな?」

「…そうだな。オレが知る中でも一例しか知らない」

「やはりな。だから人間は私を求めたのか。…殺してでも、捕まえたかったのか」

 

 

…聞く限り、この狼は人間に追われて此処まで来たのか。それも、かなり強い執着をもって追われた。そして殺されかけた。

なんて外道な人間がいたのだろう。もしかしたら根津校長も同じような目にあったのか?…だとしたら、許せないな。

 

 

「なぜ貴様が怒る」

「…人間の身勝手さを許せなかっただけだ」

「そうか」

 

 

なんてことないように狼は返事をした。自分のことなのにそこまで興味関心を持てないのは、なんでだ。

もしかしたら心の傷が酷すぎるのか?そうだとしたら、このまま置いていたらいけない。…どうしたものか。

 

そう思っていると、腕の中の万が動いた。

起きたのか…!

オレと狼は揃って万の顔を覗き込んだ。

 

 

「う、ん。私、は……」

 

 

目を開けた万は少し固まった。オレも固まった。万の左目が、変わっていたからだ。

オレと同じ淡い青色の目は夜空を閉じ込めたような目になっていた。そして中央に星が輝いている。…なんて、美しい目なんだ。

 

 

「起きたか」

「え…あ、うん。狼…さん、も起きたん…だね?」

 

 

オレが固まっている間に万と狼が話していた。

話せると知らなかった万は動揺しながらも狼に言葉を返していた。出来た妹だ。

オレも軽く首を振って気を取り直した。目のことは後で言おう。

 

 

「万のおかげで傷も治っているよ」

「…ああ、君のおかげで傷が全て治った。…ありがとう。心からの、感謝を」

 

 

狼はそう言って頭を下げた。

万はぎょっとした表情を浮かべてから慌てて胸の前で両手を振った。

 

 

「あ、いや、私が勝手にしたことだし…その、感謝なんて…」

「君は感謝も受け取ってくれないのか?」

「いや!ちが…その、違います…」

「なら受け取ってくれ。何もできない身ではあるが、感謝している」

「…うん。目が覚めて、良かったよ」

「……ありがとう」

 

 

おずおずと万は手を伸ばして狼の頭を撫でた。

狼はそれを甘んじて受け止め、されるがままに撫でられている。

月明りと星が照らす中でその光景は尊いものに見えた。

 

…だが、1つだけここで言わないといけないことがある。万の左目についてだ。ここでいわないと、万は何も知らずに家に戻って指摘されることになる。それは、嫌だろうから。

 

 

「万」

「何?お兄ちゃん」

「…あのな、万が目を覚めて1つだけ言わないといけないと思ったことがある」

「…勝手に個性使ったこと?」

「……それは、今はいい。…万の、左目のことだ。因みに体に違和感はないか?」

「左目?違和感?…特にない、けど」

 

「…お前の左目、夜空を閉じ込めたような目になっている」

 

「……は?」

 

 

意味が分からないという表情をした万に、たまたま持っていた鏡を渡した。

それを使って左目を確認した万は次第に顔色が悪くなっていった。

 

 

「何、この目…」

「何か心当たりはないか?例えば、個性使用時に何か視たとか…」

「そういえ、ば…星空を視たよ」

 

 

もしかしたらその視た夜空が何かしらで万に影響を及ぼしたのか?

個性社会において、あり得ないなんてことは存在しない。何が起こっても可笑しくない世界だ。可能性としては高い。

 

でも判断するには情報が少ない。

 

 

「恐らくだが」

 

 

先程まで静かにしていた狼が口を開いた。

 

 

「この子は私の考えが間違いでなければ"魔力"を持っているな?」

「…なんでそれを」

「朦朧とした意識の中で、この子の暖かい力が流れ込んできた。…私の個性は追いかけてきた人間ども曰く"知性"。それで理解した。暖かい力は魔力であることを。

そして、その力は星と強く結びついた。恐らくこの子の個性は…否、存在は元々星と強く結びついてる。だから今回、限界を超えた個性行使でそれが表に出てきた可能性がある」

 

 

……それが本当なら…万は、森羅家の流れから更に外れ、ている?いや違う。外れているんじゃない。更に先に進んでいる…?

個性は世代を重ねるごとに強くなっているとどこかの本で読んだ。…特異点と化しているとも。だとしたら、森羅家の特異点は…万?

 

 

「…私、は…普通じゃない?異端…?」

 

 

呆然と万が呟いた。その目は深い絶望を宿している。元々万は自身が森羅家の流れから逸脱していることに対して負い目みたいなものを感じていた。それが表に出て強調されたとしたら…自分を受け入れられなくなる。

この子が…一体何したって言うんだ。神様がいるなら、あまりにも酷い仕打ちだ。

 

オレは強く万を抱き締めた。涙があふれてくる。

 

 

「違う、違う…!万は異端じゃない…!お前は、お前の力は…!」

「祝福だ」

 

 

狼が断言した。

予想していなかった言葉に万と揃って狼を見る。

 

 

「その様子からして血筋と違う流れなのだろう。でも、異端ではない。その力は世界からの祝福だと、私は思う」

「な…んで?」

「瀕死の生物を蘇生させるなんて早々できない。でも君はできる。きっとそれは世界から望まれた力。世界から受けた祝福だからだ。

…そう思うと、ちょっと心が軽くならないか?」

 

 

それは…確かに。なんとなく、受け入れやすくなった気がする。

心にストンと入ったその言葉に涙が止まった。

 

万は?万はどうだ?

オレは腕の中の万を覗き込んだ。

 

 

「祝福…。私は、異端じゃない?私は…この世界に生きていていい、の?」

 

 

口から出たその言葉にオレは力強く答える。

 

 

「当たり前だろ…!万は、生きていていい…!万は、森羅家の…万だ…!」

「っ…お兄ちゃん…!」

 

 

万は堪えきれなかったのか、大粒の涙を流して泣いた。オレもつられるように一緒に泣いた。

狼は俺たち兄妹に寄り添ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く泣いてスッキリしたけど、なんか恥ずかしくなってきた。お兄ちゃんの腕の中で顔を隠す。

前世を合わせると40年生きてるのにこんな子どものように泣くなんて…。いや、今は10歳の少女だわ。

でもやっぱり羞恥心が勝つ。

 

…にしても、初めて私はこの世界で生きていいと言葉に出して言ってもらえた。生きていいなんて、ごく当たり前の感覚だからこそ人は滅多なことがないと言わない、言ってもらえない。でも今回口に出して言ってもらえたことで、私はやっとこの世界で息ができたような気がした。

 

そして祝福。

前世では能力なんて持たない私だったからこそ、森羅家の流れを汲まない個性だった私だったからこそ、私はずっと自分のことを異端で普通じゃないと思っていた。大婆様が初めて私の個性を見た時に「森羅家のものではない」と言ったことが悪い意味で心に残ってしまったからこそ、ずっと今世の私を受け入れられなかった。でも、そうか、祝福。…そう思えれば、ちょっと心が軽くなった気がする。

 

隠していた顔を上げて狼を見る。心なしか優しい目をしていた。

 

 

「…ありがとう」

「構わない」

 

 

 

その後私の個性使用を感じ取った大婆様を筆頭に家族全員がやってきて、私は怒られた。法で許可を得てない人の個性使用は禁止だったのにそれを破ったから。でもすぐに頭を撫でて「よくやった」と大婆様に言われた。「命を守る尊い力を、ちゃんと正しく使えたね」とも言ってくれた。…ああ、私はちゃんと正しく使えたのか。

 

そして私の左目が変わったことに気づいた家族は代わる代わる私の目を見て、綺麗だと言ってくれた。でも体に何かあってはいけないから検査に行こうという話にもなった。

 

 

因みに狼は行き場もなかったことから森羅家の一員になることになった。

名前は「白(ましろ)」。純白の毛並みから名づけられた。

 

それ以降は私は白と一緒にいることが多くなった。

何故か?それは病院で詳しく診てもらった時に私の個性の一部が白の中に流れ込んだこともあり、私の個性の補助・そして安定化ができると判明したからだ。それからは白とできるだけ沢山一緒にいることで私自身の個性の安定化に繋げた。

 

利用してるみたいで申し訳ない。

と言ったら白は「命を救われたんだ。それぐらい構わない」と言ってくれた。

ちょっと心が軽くなった。

 

…ありがとうね。

 

 

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