マスコミ襲撃事件から1日経ったPM0:50。
ヒーロー基礎学が始まる前に相澤先生がオールマイト先生、そしてもう1人の先生の3人体制で見ることになったこと…そして今日の内容が"人命救助訓練(レスキュー)"だということを告げた。先生の口ぶりからして、3人で見ることになったのは特例なのかもしれない。
ちなみに今回はコスチュームは各自の判断でいいとのこと。活動を限定するコスチュームもあるだろうからという配慮らしい。私は特に活動を制限するようなものはないのでコスチュームを着ることにした。体操服が破れたりしたら嫌だし。
コスチュームに着替え、白と共に皆の後ろを歩いていく。
今回は少し離れた場所に訓練場があるとのことでバスに乗って行くらしい。校内でバスに乗るとか…雄英広すぎない…?
「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に2列で並ぼう!」
飯田君が皆を誘導している姿を見ながら私は相澤先生に近寄った。
バスで行くのはいいけど、私には白がいる。
「相澤先生、このバスって白も乗っていいんですか?」
「…ダメだな」
「じゃあ私は白に乗っていきますね」
「………わかった。ちゃんとついてくるように」
「ありがとうございます。了解です」
先生は激渋りしたものの、許可を出してくれた。
まぁ白が乗れないなら仕方ないよね。私はホッと一安心して白の背中に乗った。
…因みに私はバスは結構苦手だ。何故かバスだけ激酔いする。この原因は未だに分かっていないんだよね。本当に謎。
それもあって白に乗って行けるならそうしたいのが本音だった。今回はラッキーだったけど、次からはなんとか対策…立てられるかな。酔い止めでも防ぐことできないもんなぁ。
「じゃあ俺たちは先行する。ちゃんとついて来いよ」
「はい」
「了解した」
そうしてバスは発車し、白は走り出した。
因みに白は身長175cmの私を乗せて尚、もう1人乗せることができるぐらい大きい。
大きいが、その動きはとてもしなやかで、走っている時の足音はほぼ無いぐらい軽やかだ。そして最大速度は新幹線についていける程速い…というのは白の自己申告だ。その速度で走っている姿はまだ見たことがないから、私は実感がない。
いつか最高速度で駆ける白の背中に乗りたいな。…その前に落とされるかな?
なんて思いながら白の背中に乗っているとバスが徐々に速度を落としていった。そして見えてきたのはどでかいドーム。あれが今日の訓練場なのか。
バスから降りた皆が次々とドームの中に入って行く。私たちも遅れないようにしなきゃ。
白から降りて揃ってドームの中に入った。
入った先に広がっていたのはテーマパークを彷彿とさせる程広く、テーマが決まってそうなエリアがいくつもあった。
ドーム内で待っていた『スペースヒーロー 13号』先生曰く、ウソの災害や事故ルーム。略すと…完全に某テーマパークだ。権利的に大丈夫なのかな…?
というかオールマイト先生は?見るんじゃなかったのかな?それともヒーロー活動が長引いて来ることができなくなったとか?
…オールマイト先生も気になるけど、生徒の私は授業の方が大切だ。
思考を切り替えて皆の前に立っている13号先生を見る。13号先生は訓練を始める前に話をしてくれた。
先生の個性は『ブラックホール』どんなものでも吸い込んでチリにする。人を助けられる反面、簡単に人を殺せる力だということ。
超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立ってるように見えるが、一歩間違えれば容易に人を殺せる"いきすぎた個性"を個々が持っていることを忘れないでということ。
前回相澤先生の体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイト先生の対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験した。
この授業では心機一転し、人命のために個性をどう活用するか学んでいこう、と。
私達の力は人を傷つけるためにあるのではない、救けるためにあるのだと心得て帰ってください、と話してくれた。
…素晴らしい話だと思う。私の個性もそうなれば…いや、扱い方次第か。力に善悪はなく、扱い方で意味合いが変わる。だからこそ正しい使い方を学ぼう。そして人を傷つけないよう、学んでいこう。
私を含めた何人かの生徒が先生に拍手している中、なんとなく噴水の方を見た。
すると小さな黒いモヤがあることに気付いた。それが途方もなく恐ろしいものに見え、咄嗟に盾を顕現させた。白も気付いたのか、唸り声をあげている。
「おい、まだ授業は始まってないぞ」
「先生、噴水の方を見てください。…黒い何かがあります」
「黒い何か…?
!!!一塊になって動くな!!!13号!生徒を守れ!!」
黒いモヤは広がり、中から沢山の人が出てきた。中には手を沢山纏っている人物も居て、その姿の異様さに心の奥がざわついた。
その中の1人の女性と目が合った。闇のようなその目、光の存在を許さない程の漆黒の目。その目の中に悪意を見つけ、前世の死に際が脳裏を過ぎった。最期に見た伊瀬谷と同じ、目だ。
呼吸が徐々に浅くなる。ただそれもすぐ解消した。…ここで動揺していたら、死ぬ。そう思って自分の中のスイッチを切り替えたから。
「なんだアリャ!?また入試ン時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな!あれは…"敵(ヴィラン)"だ!!!」
――私はその日思い知った。プロヒーローが何と戦っているのかを。何と向き合っているのかを。
それは…途方もない悪意だった。
「敵?!バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
油断せずに盾を顕現させたまま敵たちを見据える。
後ろから八百万さんと13号先生の話が聞こえた。侵入者センサーはあるものの、センサーが反応しなかったのか。
轟君が言った言葉に内心同意をした。
センサーが反応しないということはそういうことができる個性を持つ人がいる。何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲。
相澤先生が13号先生に私たち生徒の避難を指示した。上鳴君に個性で連絡できないかも指示を飛ばしている。
…今ここで私たち生徒にできるのは先生の邪魔にならないように避難することだけだ。
「先生は!?1人で戦うんですか?!あの数じゃいくら個性を消すって言っても!
イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ!正面戦闘は……」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号!任せたぞ」
そう言って先生は飛び降りると敵たちとの戦闘に入った。
次々と敵を行動不能にしていく先生。私たち生徒を不安にさせないために突っこんでいったんだろうと思う。だからこそ避難しないと。
先生の分析をしている緑谷君に声をかけた。
「分析してる場合じゃないよ!早く避難を…「させませんよ」!!!」
相澤先生のまばたきの隙に来たのか。
相澤先生は目で見た相手の個性を抹消する特性上、一瞬でも瞬きをすると解除されるか…今回みたいにその隙をついて個性を使用される。
「初めまして。我々は敵連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。
……本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが何か変更あったのでしょうか?まぁ…それとは関係なく…私の役目はこれ」
そう言って黒いモヤが広がる。
その時、13号と黒いモヤ人間に切島君と爆豪君が攻撃をし、先生との間に立ってしまった。駄目だ、それは悪手だ!
先生の目の前に立っては先生は個性を発揮できない!13号先生はどんなものでもチリにするが故に、生徒が間にいては使えない…!
「ダメだどきなさい二人とも!」
13号先生がそう言っている間に黒いモヤが私達を覆い、モヤ人間の言葉が聞こえた。私は割と近い所にいたからかすぐに視界が黒く染まった。
「散らして、嬲り、殺す」
黒いモヤで何をされるか分からない。ただ何があってもいいよう、辛うじて見えた白から離れないように抱きついた。そしてせめてもの対抗策として魔力を練った。何かあった際にすぐに個性を使えるように。
黒いモヤが晴れた先にいたのは黒髪ボブの女性、そして多数の見たことのある敵達もいる。…指名手配犯だ。ボブの女性は見たことないけれど、従えるように立っているその姿を見ただけで只者ではない事は分かる。
ちらりと周りを見渡すと、相澤先生が戦ってる場所から近い場所だと分かった。因みに私以外に生徒はいない。…対象を飛ばす個性か。ワープ…とでも言えば適切かな?
それにしても…平和の象徴であるオールマイト先生に息絶えてほしいなんて目的、よくも堂々と言えたね。いや、算段があるから言ったのか。そして私たちという生徒を殺し、ヒーロー社会を混乱に陥れるつもり?全く…嫌になる。
白に抱きついていた腕を離し、長柄武器を顕現させて敵たちと対峙する。ざっと見ただけでも30人は超えてる。多い。
「んふふふ、お嬢ちゃんと大きな狼ちゃん。貴方達には今ここで死んでもらうわ。悪く思わないでね?」
そう言って攻撃態勢を取った敵たちに私たちも迎撃態勢を取る。人を傷つけたくはない。でも、やらなければ女性の言葉通りに私は殺される。それは…嫌だ。死にたくない。
死にたくない気持ちと攻撃に個性を使うことを天秤にかけ、私は決めた。
手に持つ長柄武器を構えた。すぅ…とひと呼吸。
「白。――《共鳴(リンク)》」
「ああ。――《星間連結》」
私と白、それぞれに光の輪ができて1本の光で繋がった。
生きるために戦う。中学の時の敵と対峙した時以来の経験。でも今回は1人じゃない、白がいる。それだけで恐怖心に勝ち、相手に立ち向かうことができる。
「あら!やる気満々ね!じゃあ……苦しんで死んでちょうだい?」
その言葉を合図に敵たちが攻撃を仕掛けてくる。
大多数の敵は近接タイプなのか、こちらに向かってくる。そして少し残った遠距離タイプの敵は個性を使って攻撃をしてきた。
その中で女性は高みの見物と洒落こむらしく、黒い物体を出してその上に座った。戦う相手が1人減るだけでも今の私には有り難い。
遠距離攻撃を避けて一瞬の隙を見て口を開く。一瞬だけ魔法陣が浮かんだ。
「神秘なる力を、我らに――シャープネスオール!」
前世の好きだったゲームで使っていた強化魔法を私と白にかける。原作となるゲームでは詠唱が2回必要なんだけど、今の私には白によるバックアップがある。それによって詠唱1回で発動する荒業を成し遂げられている。
…ちょっとしたチートだな、と思わなくもない。
でも効果時間の30秒を超える事はできなかった。それでも今は事足りているからいいか。
長柄武器を用いて攻撃しつつ、相手の攻撃をいなす。
私は中学の時、敵と対峙したことをキッカケにお兄ちゃんから本格的な護身の術…いや、戦って勝つ術を学んだ。
直接的な攻撃手段が少ないお兄ちゃんはそれを補うために近接格闘と分類される格闘術を殆どマスターした。その中には長柄武器を使って戦う格闘術も含まれている。
私は自分で顕現させる武器は鋭い武器はなるべく避ける傾向にあるため、お兄ちゃんの指導はとても参考になった。おかげで今、自分の身を守ることができている。
1人、また1人。敵を戦闘不能にさせていく。
対等にやり合えているからか、敵たちはニヤついた表情から苛ついた表情に変わっていった。
「…んの、クソガキがぁ!!!」
苛ついた感情そのままに鉱物と化した拳が繰り出された。その敵は横から白が体当たりすることで吹き飛ばされた。私1人に苛ついてくれるのはいい。その分、白からの攻撃がノーマークになる。
それに…ちらりと周囲を見ると、いつの間にか敵の半数を倒したことが分かった。このままあの女性が戦いに乗り出さない限り、様子見をしている指名手配犯が戦いに出ない限り…私たちは勝つ可能性が高い。まぁそんな可能性、限りなく低いんだけど。
白と背中を合わせ、敵と間合いを取りつつ視線をドームの出入り口に移した。魔力を耳に集中させ、聴力を強化して会話を盗み聞きした。どうやら飯田君の個性で学校に知らせに行くらしい。
…此処から学校までの道は分かりやすい。殆ど道路沿いに進めばいずれ着く。だけど、道中に敵が居ないという確証は私にはない。最悪の可能性を考えるなら道中にも侵入者がいる。それに分かれ道が何個かあった。飯田君なら迷うことはないとは思う。けれど、不安だ。1人で全てを背負って助けに行くのは想像以上にしんどい。
……ならすべき事は、1つ。
「白、聞こえたよね。さっきの」
「無論だ。……まさか私にあの小僧の道案内と護衛をさせるつもりか」
「……うん」
白の強さ、速さなら道中に敵が出てきても対処できる。そして道は今通ってきたから分かる。だからこそ適任だと判断した。
正直これは賭けに等しい。それも私の命をBETした賭けだ。今は白と一緒だから冷静に、対等に戦えている。それを分かった上で行ってもらう。下手したら私は死ぬだろう。それでも子どもたちが命を賭けて戦っているなら…私が命を賭けない理由は、ない。
――覚悟を決めた。
腰のポーチから透き通った青色の石を取り出し、敵を警戒しながら白の首輪にそっと取り付けた。
「白、これ持っていって。まだ不完全なものだけど、ちょっとは足しになる筈だから」
「…………万。この身は、万を守るためだけにある。それでもか」
「今行くことは回りまわって私の身を守ることになるよ。それに…見たところ飯田君を向かわすのに苦労してる。
だから白、助けてあげて。あの子たちを。そして私を」
「頑固者め。………………はぁ、分かった。だが死にかけてみろ、二度と離れんからな」
「ふふ…了解。じゃあ――頼んだ、白」
「承知した」
その言葉と共に白は足に力を込めて大跳躍をして敵たちを越えて13号先生たちのもとへ駆けていった。これで大丈夫。
これからは、私が1人でなんとかしなければならない。
頬を軽く叩いた。気合入れろ、私。
「あらぁ?相棒ちゃんはもういいのかしらぁ?まぁそれならそれで良いけれど!君たち、やっておしまい」
まだ動ける敵たちが襲い掛かってくる。
正直怖い以外の気持ちはない。でも自分で選んだ事。なんとか、やりきるよ。