魔法は祈りに変わり、星は希望を示す   作:春夏秋冬夏蜜柑

9 / 17
8話:闇と、白

 

長柄武器を手に敵たちと戦う。まさか初戦闘が侵入した敵とだなんて思っても見なかった。雄英のセキュリティはどうなっている?

…まさか、内通者が?

だって此処まで用意周到にするためにはある程度の根拠がないとできない。でも此処はヒーローが沢山いる高校だぞ。そんな命知らず、あり得る?

…いや、今は考えないでおこう。生き残るために目の前の敵に集中するのが大事だ。

 

武器を操り敵を沈める。…1人、2人、3人!

 

順調に沈めていくものの、どうしても高みの見物をしている女性と指名手配犯が気になる。どのタイミングでくる…?

ちらりと女性たちの方を見る。

女性はどんな個性か分からないが、指名手配犯の方は分かる。名前は"土塊 流(どかい りゅう)"。土の流れを操る個性"土流"。土と言いつつ、本人が土だと認識さえすればコンクリートだって操れるってニュースで言ってたな。ふざけた個性だ。あとニュースでなんて言ってたかな、確か…個性を使うときは地面に触る、だったかな。

 

土塊について思い出したその時、地面に触れる仕草が目に入った。

マズイ!!

 

 

咄嗟に足に魔力を集中させその場から離れた。瞬間、私がさっきまでいた場所は勢い良くせりあがった。先端は鋭くなっていることを見る限り、あの場所にいたら死んでた。

恐怖で息が止まった。

 

その隙を見逃さなかった敵は攻勢に出てきた。そりゃ見逃さないか。

ふぅと息を吐いて恐怖心に蓋をし、手を斧状に変化させた敵の攻撃を掻い潜りアッパーを決めた。敵は倒れた。暫く起きないだろう。

…これで、残りは指名手配犯と女性だけだ。

 

油断せず武器を構える。少し息が切れ始めた。

 

 

「ふーん、結構やるわね。金の卵ってところかしら?」

「モルガン様。あとは俺に任せてください」

「ちゃんといたぶるのよ?」

「仰せのままに」

 

 

そう言って土塊は地面に手を触れようとした。

――そこだ!!

 

魔法陣を展開させる。微量な風と光があふれ出てくる。

長柄武器の先端を土塊に向ける。

 

 

「白き御手よ、無慈悲な抱擁を今――アブソリュート!」

 

 

ヒーロー基礎学でも使った魔法を発動させて土塊を凍らせた。勿論息はできるように頭は凍らせていない。今回は体感温度も低めに感じるように設定した。

 

…実は、この魔法は私の中で上級に位置する魔法。

私の個性『魔法』には段階を設けていえ、初級から上級…そして秘奥義に上がる程魔力の消費は多くなる。

因みに上級以上の魔法を万全の状態で使うには10分かかってしまう。

この時間は魔力が体内に満ちる時間で、体内に魔力が満ちていない状態で使用すると体に負荷がかかり、吐血する。最悪気を失う事もある。

 

けれど今は10分は時間が経っていた。そのため魔力は体内に満ちていたから使えた。…ただ、連発はできない。連発するには白がいないとできない。1人でやるには…また10分かかる。

 

そんなリスクを受け入れて土塊に放ったのは賭けだ。女性より土塊の方がまだ強いという、賭け。これが外れれば…死が一気に近寄るだろう。

武器を下ろし、女性を見る。さぁ…どう出てくる。

 

 

「さ、寒い…!助けてくださいモルガンさ、「そのまま凍えて死になさい。使えないわね」モ、モルガン様…!」

 

 

女性はそう吐き捨てると私と目を合わせた。…悪意に満ちた暗い目だ。嫌な目。

勿論私には土塊を殺すつもりは全くない。だからいずれは解放するつもり…けれど今解放したら私に不利になる。

 

睨みあうこと数秒、先に動いたのはモルガンと呼ばれた女性だった。

女性が手を上げると背後から闇が生まれた。絶望を形にしたような、漆黒の闇。それを振り下ろした。

 

闇は私へ迫る。大きな波のように、全てを飲み込もうと押し寄せてくる。

私だけなら逃げることは可能だろう。でも、私の背後には相澤先生だけでなく、13号先生とクラスメイトたちがいる。故に…逃げることはできない。なのに今の私には、この大きな闇の波を防ぐ術はない。

 

――どうする…!どうすれば…!

 

ぎりっと歯を噛み締め、魔力を練った。

何があっても、被害は出さない。出したくない。例え私の身に何が起ころうとも。

絶望に抗うため、魔法陣を展開させた。

 

 

「あっははは!!苦しみながら死になさい!!それしかあなたの価値はないんだから!!」

 

 

闇が、迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――刹那、私は星々が輝く夜空の空間にいた。

 

…この空間は知っている。白を助けるために無茶な個性行使をした時に見た空間だ。

けど今は無茶な個性行使はしていない。でもなんで、私はこの空間にいる?

 

 

『死ぬことを前提に戦っちゃダメだなぁ。白くんとの約束忘れたの?万ちゃん』

 

 

幼く、柔らかく、されど強制力を持つ声。…私はこの声を聞いたことがある。『森羅 万』として生まれる前に、聞いた声だ。なんで、このタイミングで…?

辺りを見渡しても声の正体は分からなかった。

 

…いや、それよりも戦わないと。このままでは子どもたちを巻き込んでしまう。

 

 

『うんうん、それは分かるよ。でも手段が無いのにどうするの?』

「それは…それ、は」

 

 

その言葉に何も言えなかった。確かに今の私の手札ではあれを防ぐことはできない。

それでも――。

 

 

「…手段は、あなたが言う通り無いよ。それでも、逃げない。逃げたくない。

ここで逃げて子どもたちに被害が及べば…私はどこまでも落ちてしまう。外道に、落ちてしまう。

だから私のためにも、子どもたちのためにも…手段は無くとも止める」

『死んでも?』

「私は欲張りなんでね、死なないようにするよ。白と約束したからね」

『でもさ、今ここで戦うことを選ぶと、ヒーローになることを選んだことも同然なのに?』

 

 

その言葉を聞いて、ふっと笑った。

私はどこまでも自分勝手で、自己満足な人間だ。今も"私が嫌だから"という理由だけで…"白と約束した"からという理由だけで戦う。それに加えて欲張りだから、自分も守って他人も助けようとする。それなのに戦うことがヒーローに繋がるなんて、不思議な話だ。

私にとってはただ"普通に"選んだだけなのに。

 

 

「私はヒーローにならないし、なれない。

それに、人は人である限り…いや、自分の意思がある限り、戦うことも・立ち向かうことも・守ることもできる。

それが自分の意思がある"存在"としての当たり前。

そして私はただ、私の意思で戦うことを選んだだけ。そこにヒーローなんて関係ない。

 

だってこの選択は――私の"当たり前"だから」

 

 

前世も今世も変わらない。私の"当たり前"。ここにヒーローなんて関係ない。利己的なまでの選択。

故に私はヒーロー科に所属してなくてもこの選択をした。

それに肉体的にはクラスメイトたちと同い年とはいえ、前世から数えると私の方が年上だ。…年上が年下を守ることに、理由は必要?

 

 

『……ふふ、やっぱり万ちゃんを選んでよかった!そういうことをさらっと言えるの、最高に好きだなわたしは!』

「それはありがとう。それで、元いたところに私を戻してくれる?」

『勿論。でもその前に…万ちゃんにこれをあげる』

 

 

ふわりと白い光が私の目の前に現れた。優しくて暖かい光だ。その光をそっと両手で受け止めると、徐々に形を成していった。

 

濁り1つない白亜の4枚花弁。形はシロヤマブキに似ていて、花弁の中心には星が瞬いている。

不思議なことにこの花を持っていると、希望が湧いてくるのが分かる。

 

 

『それの名前は"アイギス"』

「…ギリシャ神話に謳われる、主神ゼウスやアテナが持っている…あらゆる邪悪や災厄を払うとされる盾」

『そう、まさしくその名前を冠したものだよ。

これは"絶対防御の盾"。どんな邪悪も災厄も防ぐ盾。一見すると綺麗な花だけどね。

ただ"アイギス"は持ち手の技量や精神に左右される代物だから、今の万ちゃんでは全ての力は引き出せない。それでもこの場では十分すぎる代物だよ』

「そっか。…ありがとう。ありがたく貰うね」

 

 

そう告げると"アイギス"と呼ばれた花…否、盾は私の胸の中に入っていった。

胸の奥から暖かな魔力が全身へと広がる。今までとは質の違う魔力。

目を閉じて魔力の流れを見る。魔力量としては万全の状態ではないけれど――充分だ。

 

目を開けて左手を見る。これなら…なんとかなる。

ぐっと左手を握り締めた。

…でも気になることがある。

 

 

「あなたはなんで私の前に現れるの?それになんでこれをくれたの。…あなたは、何者?」

『ふふっ!それはまだひーみつ!…いつか、時が来れば分かるよ。

 

――それじゃあいってらっしゃい!わたしはいつでもここで万ちゃんを見守ってるよ』

 

 

優しい声が遠ざかっていく。

星々が1つ、また1つと消えていく。恐らく私は今からあの場所に戻るんだろう。声の主について何も分からなかったけど、今はいい。この瞬間の私にとって重要なのは大きな波のような闇を防ぐこと。

さっきまでの私にはできなかった。

でも、今ならきっと――いや、絶対防ぎ切れる。

 

そんな確信を持って左手を前に出し、暗闇の中で私は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「白き輝きを纏いて顕現し、仇なすものから我らを守り給え――アイギス、展開!!」

 

 

顕現した白亜の花が闇を押し止める。

アイギス越しに女性が目を見開いたのが分かった。

 

不思議なことに、今ならなんでもできる気がしてきた。

持っていた長柄武器を剣に変え、アイギスを展開させたまま剣を上段に構える。

魔法を展開させながら他の魔法を展開させるなんて芸当、したことはない。それでも今ならできる気がする。

 

剣に今の私に残っている魔力の7割ほどを回す。

魔力は剣に宿り、黄金の光となり剣を輝かせた。

この魔法は…一撃は、個性が発現してから間もなくして使えるようになった人生で初めての秘奥義。

秘奥義という最上級の必殺技としてずっと私の中に留めていた。あまりに破壊力が高かったから。それでもこの闇を払うにはこの一撃しかない。

アイギスはあくまでも防ぐもの。払うことはできない。だから、この一撃で闇を払う。

 

頭の中にイメージするのは青い騎士の姿。前世で好きだった、騎士王の姿。

――どうか、力を貸してください。

 

 

「我が魔力の奔流、此処に。

今こそ剣の光となりて闇を払え。

いくぞ!――カリバーン!」

 

 

剣を振り下ろし、纏った魔力を放出する。金色の魔力が白亜の魔力を後押しし、それは混ざり合って漆黒を押し流す。

――光は敵を飲み込んだ。

 

地面に剣を突き立て、少しふらついた体を支える。

先程の一撃で一気に減ったせいで体が重くなってきた。私の一部である筈の盾が重たく感じる。

 

 

肩で息をしつつ、斬撃の余波で舞い上がった砂埃が引いていくのを見つめる。

どうなった…?

目を凝らした先で見えたのは倒れる女性の姿。殺してしまう程の威力は出さないようにセーブした。だから死んではないはず。

そうは思っても初めて放った秘奥義の威力に不安を覚える。じっと目を凝らし相手を観察する。

 

 

「「うふ、うふふふふふふふふふふふふふ!あは、あはははははははははははははは!!」」

「?!」

 

 

突如響いた笑い声に、思わず剣と盾を再度構える。

しかも1人の声が重複したような笑い声で、気味が悪い。さっきの女性の声だと思うけど、一体なにが起こっている…!

 

女性がゆっくり起き上がる。けれどその起き上がり方はまるで糸で繋がった人形が立ち上がる時のようで、不気味だった。

 

倒れていて見えなかった女性の表情がハッキリと見えた。

 

 

「…っ」

 

 

あまりの表情に思わず息を呑んだ。

 

恍惚(こうこつ)とした表情、不気味なまでに釣り上げられた口。

極めつけは爛々と光る目。先程までの深い闇のような目とは真逆で、それが一層不気味さを演出していた。

 

 

「嗚呼、嗚呼…!待ち望んでいたの。貴方のような人を!」

「いえ、いえ!きっと貴方を待ち望んでいたの!」

「「私の運命の人!」」

 

 

歌うように紡がれた声が、まるで二重に重なって聞こえた。

ひとりのはずなのに――その不自然さに背筋が冷たくなる。

どうして?何が起こってる…?

周囲を探ろうと女性から目を離そうとした瞬間。

 

 

「嗚呼、私から目を離さないで!私の騎士!私のヒーロー!」

 

 

女性が目の前に居た。伸ばされた手が酷く恐ろしいものに見えて、避けようとした。けれど体は動かない。

視界の端に見えたのは、私の体を拘束している漆黒。やんわりと…けれど確実に拘束してきている。

これは…まずい。

 

女性の手が私の顔に触れようとした。

 

 

「森羅!!」

 

 

先生のその言葉と同時に視界が動く。

何かに絡めとられた私の体は宙を舞い、先生のところへ落ちていく。咄嗟に空中で体勢を整えて着地する。

…どうやら先生が助けてくれたらしい。

私の体を絡めとっていた先生の捕縛布がするりと離れていった。

 

女性を視界の端に入れながらも先生と背中合わせで多数の敵たちと対峙する。

助かった…けど、敵集団との連戦は流石にしんどい。それでも生きるためだ、気合入れろ…私。

 

 

「自分の身を守ることを最優先に戦え。…いいな?」

「はい。先生」

 

「吞気に喋ってる場合かぁ!?」

 

 

その言葉を皮切りに敵集団との戦闘に入った。

 

敵の大多数はプロヒーローである先生より生徒である私の方が先に殺せると思ったのか、かなり勢いよく突っ込んできた。

剣から長柄武器に切り替え、距離を取りながら沈めていく。

さっきもそうだったけど…人を殴った感覚が伝わってくるのは、正直キツイ。私は人を傷つけない術を学びにこの学校に来たのに、その正反対のことをしている事実に吐き気がする。それでも繰り返しになるが生きるため。割り切らないといけない。

 

練りあがった魔力を手足に集中させ、筋力を増幅させてから武器を横に薙いだ。その動作で何人かの敵が吹き飛ぶ。

私は不幸なことに魔力も体力も切れ始めている。つまり…純粋にしんどい。

 

 

「疲れが見え始めてるぞ嬢ちゃん!!」

 

 

煽る言葉と共に突っ込んでくる敵を長柄武器の先端でブッ叩き、地面に顔からめりこました。

まだ元気が残っている敵はそれを見て警戒するように私から距離を取った。

 

煽られたから、お返しににっこり笑って煽り返す。

 

 

「疲れが見えようが、貴方たちに負ける気はしないですね」

「んの…クソガキ!!!」

 

 

氷を纏い殴りかかってきた敵を蹴り飛ばす。

 

…戦っていて思ったことがある。闇を操った女性と土塊を除いた敵たちは、戦闘経験が私たち生徒と同じぐらい少ない。個性を持て余してる…って言ったらいいのかな。そんな印象を受ける。今だってそうだ。氷の礫を出せる敵はそれを牽制にしか使えていない。

氷を纏った敵もそうだ。氷を纏えるならもっと他にできることはあるはず。なのにできていない。戦い方も個性を絡めた攻撃もできていないがために次の攻撃もわかりやすい。

ただ数の暴力でこちらを殺そうとしているだけ。しかも数の暴力にしても連携がへたくそだから、たまに同士討ちしている。

 

…敵連合って言うからもっと精鋭が集まっていると思ったけど、実態は違うのか?

 

 

最後の1人を沈め、他に立っている人がいないことを確認した。

先生にこちらは終わったことを伝えるために先ほど居た場所を振り向いた。ちょっと離れちゃったなぁ。

 

なんてふと先生のいる方向へ視線を向けると――脳みそが露出した巨大な体の真っ黒な巨躯の敵に組み敷かれた先生の姿があった。

右腕は小枝のように折られていて、直視を避けてしまいそうな悲惨な光景。思わず言葉を失った。

辛うじて口から出たのはか細く震えた声。

 

 

「……せん、せい」

 

 

「対平和の象徴改人"脳無"」

 

 

男の声が耳から離れない。

 

プロのヒーロー。

その世界の実態を、私は何も見えていなかったのだと痛感した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。