カードゲームだけして生きていけば良い最高の世界にTS転生した 作:ティーカー
この世界にはヒーローと呼ばれる存在がいる。
彼らは日夜、様々な形で悪のプレイヤーと戦っていた。
悪のプレイヤーとは、そもそも「違法バトル」と呼ばれるバトルを行う者たちの総称だ。
違法バトルは主に負けた相手をカードにしてしまう闇のバトルや、強制的にお互いのレアカードをかけて行う強制アンティなどが存在する。
それらを、相手の同意を得ずに無理やりしかけてくるのが、悪のプレイヤーと考えて問題ないだろう。
ここに、表向きカードショップの店長をしながら、裏でヒーローとして活躍する女性がいた。
名を月上アズライト、ヒーローとしては「魔法少女ジュエル」として活動している。
こういった正体を隠してヒーローを行うものは数多く、そしてその正体を周囲に知られることはほとんどない。
かの伝説のヒーロー「ドロー・ザ・キャット」もそうであるように。
そんなアズライトは現在、店長業をこなしつつパソコンの前に張り付いていた。
理由はとても単純で――そろそろ更新されるとある情報サイト「山の上カード新聞」を閲覧するため。
もっと言えば、その最新記事をいち早く読むためだ。
それはもう、さっきからすごい勢いでF5連打を繰り返している、迷惑行為である。
「アズライトさん、なんだかすっごく必死にパソコンとにらめっこしてるけど、どうしたのかしら……」
「婚活サイトでも見てるんじゃないですの? あんなふうになっちゃいけませんわ、アイスちゃん。フレアくんとはどうなったんですの?」
「ば、ちょ、フ、フレアとはそんなんじゃないわよ……」
そんな様子を、バイト店員の荒見フラットと客の篠木アイスが眺めている。
ええいじゃかぁしい、と叫ぼうかとしたアズライトだったが、直ぐにやめた。
サイトが更新されたからだ。
「きたぁー! まぁってたわよ!」
早速と言わんばかりに、アズライトはその記事を閲覧する。
待っていた内容は――
「山の上カード新聞」は、とある個人ライターの情報サイトだ。
そのライターが気になった時事問題を、独自の視点で考察するというもの。
内容はかなり真面目でかしこまった感じで、お世辞にもこれがトレンドの最先端かといえばおそらくライター自身も否というだろう。
そもそもSNSと動画サイト全盛の時代で、そのどちらもメインとせず――SNSの方は宣伝などでそこそこ積極的に利用するものの――完全な個人サイトという時点で結構な骨董品サイトである。
とはいえ、それでも安定した広告収入が入るくらいに、カードに関する時事というのは記事として需要が高いのであった。
何よりこのサイトは、一定以上の需要を抱えている。
月上アズライトが、そうであるように。
「……ふんふん、ふんふん」
思っていたとおりだ。
山の上カード新聞のライター――ハンドルネーム”山ノ上”は、ダイアークの存在を危険視している。
ダイアーク。
現在、月上アズライトの近辺で起きている事件を巻き起こす、いたずら好きの悪ガキによって構成された悪の組織。
内容自体は可愛いものではあるものの、実際に戦った子供達からの嫌われ具合は凄まじく。
もし仮にこれでダイアークに所属しているとバレたら、その子に対するイジメが発生してしまいそうなほど。
アズライトがダイアークに感じていた危機感に、
この危機感に同意してくれたのは、山ノ上だけだったのだ。
というのも、世間ではダイアークを「ネタ組織」扱いしている。
実際、悪の組織の中に悪いことはしていないけど、悪を名乗っているという組織は結構いる。
そういった組織をネットでは「ネタ組織」扱いして、ネットの玩具にしたりしているわけだ。
違法バトルを行わないダイアークは、一般的にはネタ組織である。
しかし、山の上カード新聞の記事にもある通り、中には危機感を覚えるものもいた。
子供達に嫌われすぎているのだ。
いくらなんでも嫌われすぎだろ、と思うわけだが――アズライトにはその理由が解っていなかった。
その答えを、アズライトは山の上カード新聞に求めていたのである。
そしてライターはしれっとこう語っていた。
「……ダイアークは、ロックデッキを使う……?」
ロックデッキって、要するに相手を封殺して動けなくするデッキってこと?
そんなデッキを、子供達が?
いや、中にはそういうデッキしか使えない子もいるだろうし、そういうデッキが好きな子もいるだろう。
だけどいたずら組織でしかないダイアークの構成員が使うには、確かに違和感がある。
思わずハッとして、アズライトは店にやってきていた篠木アイスに声を掛ける。
「あ、アイスちゃん! 最近、このあたりで話題になってるダイアークって組織……知ってる?」
「え、知ってるけど……というか私もフレアも戦ったわ。あいつら、全員ロックデッキを使うのよ。戦い辛いったらないわね」
「……ッ!」
――し、知らなかったッ!
アズライトは愕然とする。
知らなかったのだ、ダイアークがロックデッキを使うと、ガチで。
もしこれを知っていたら、アズライトだって素人じゃない。
ライター山ノ上が指摘する以前に、ダイアークの危険性に気づいていただろう。
山の上カード新聞の真価は、ここだ。
この世界でおきる事件――時事問題には様々な”裏”があることが多い。
黒幕がいたり、異世界からのSOSであったり、そしてそれは一見すると気付きにくいものだ。
なにせ大抵の人間は、そういった時事を消費するだけで終わってしまうのだから。
しかし山の上カード新聞だけは違う。
消費することや、雑に扱うことは決してせず、独自の視点で深掘りする。
中には事件の関係者が気づかなかったようなことを、気づいてしまう不思議なセンスもあった。
山の上カード新聞の利用者層は主に二つ。
一つは知る人ぞ知る情報を求めてやってくるマニア。
ネット上で「山の上カード新聞で扱われた情報」といえば、通ぶれるくらい山の上カード新聞がマニアの間で噂になっているからだ。
そしてもう一つは――ガチのヒーロー。
実際にこのサイトを読んで、事件を解決したヒーローの存在は数しれず。
あまりにも多くのヒーローがこのサイトにF5アタックを仕掛けるものだから、それだけでライターの広告収入が結構な額になるくらいだ。
しかし、こうも思うだろう。
個人が思いつけることを思いつけないヒーローって、ヒーロー失格じゃない?
否、そうではないのだ。
アズライトだって、記事を読んでしまえば「何だこんなことか」と直ぐに怪しさを理解できていた。
普通に捜査して、時間をかけて情報を集めればヒーローだってこのくらいの裏にある意図、見抜けてしまうのである。
しかしそれができないのは、何故か。
答えはとても単純だ。
この世界は、あまりにも事件が多すぎた。
無数のヒーローがいても、それでもなお事件がさばききれないくらいに。
結果として、悪の組織を小学生プレイヤーが撃破するなんていう、ホビアニみたいなことが実際に起きてしまう。
ヒーロー達は思っているのだ。
自分たちは不甲斐ない、もっとしっかりしていれば子供達にこんなコトさせなくて済むのに、と。
世界がそれを許さないだけで、ヒーローはちゃんとマトモであった。
アズライトもまた、そう思っている大人の一人。
まぁ、かつてはアズライト自身がそう思われている子ども側の存在だったことは「魔法少女ジュエル」というヒーロー名からも解るのだが。
それはともかく、アズライトは直ぐに動くことを決意した。
まずは時間が惜しいので、直接本人に電話して、ある人物にあることを頼む。
その人物は――
「――あ、もしもしドロアちゃん? ちょっと頼まれてくれない?」
『え? ああ、今手が空いたところなので、内容次第では構いませんけど』
「あ、じゃあ今日の大会のジャッジをお願いしたいの。私、急用ができちゃってさぁ」
『あ、あー。わかりました。今から準備するので、それでもいいですか?』
「もっちろん。お賃金はずんじゃうわね。愛してるわ! じゃ!」
そうしてアズライトは電話を切る。
これで、普段の業務もフラットとドロアに任せれば問題ないだろう。
自分は今からヒーローになる。
これ以上、子供達に負担をかけないために。
ありがとう山の上カード新聞。
それにしても、一体ライターの正体は何者なのだろう。
時事問題に詳しいだけでなく、カードに関する知識も豊富。
とてもカタギの人間とは思えない。
何より、これだけ多くのことに”気付ける”のは、それだけ時間に余裕がある証拠だ。
余裕があると言えば――
「……まさかね」
あの自由極まりない
何にしても、アズライトはダイアークの事件を解決するため動き出し――
――そして、すでに遊田フレアによって組織の黒幕がボコボコにされ、巻き込まれていた子供も解放されていたことをしって、崩れ落ちた。
主人公がカード新聞のライターであるという情報は、あまり隠しているつもりはないですが、普段の生活態度と正反対なのでバレることはありません。
ちゃんと隠してる肩書きもあります。