カードゲームだけして生きていけば良い最高の世界にTS転生した   作:ティーカー

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4 こういうバイトもしています

 この世界ではあらゆるものにカードがつきものだ。

 ただその活用法は様々で、がっつりカードに触れるものから、ちょっとしたフレーバー程度のものまである。

 たとえば前世でも大人気だった異世界転生系の作品で考えるとわかりやすいだろう。

 大抵の場合、異世界転生モノでカードが主題になることはない。

 前世と同じく、モンスターを討伐して成り上がったり、内政で国を魔改造することが殆ど。

 だけど、キャラの設定欄にはしれっと「使用デッキ」の項目がある。

 このキャラはツンデレだからこういうデッキを使います、このキャラは無口クールだからこういうデッキを使います、みたいに。

 簡単にキャラの性格を表現したり、読者にカードの話題で盛り上がってもらうためだ。

 こういう場合、「この世界でもカードは存在するけど、現実と違ってあくまで趣味としてカードが嗜まれる世界」みたいな設定になる。

 物語に絡んでくることは、殆どない。

 だから私は、創作に関しては割と前世と同じ味のものを楽しめている。

 そこにさらにカードバトルモノが超一大ジャンルで追加されるって感じかな。

 うーん、なんてお得なんだ。

 そういうところも大好きだぞ、カードゲーム世界。

 

 

 □

 

 

 その日は、とある場所にバイトでやってきていた。

 私の日雇いのバイトはいくつか種類があるが、これはその中でも比較的レアなバイトだ。

 なかなか楽しいバイトなので、受けられる時は受けることにしている。

 どんなバイトかといえば――

 

「フラットせんせー、きたよー」

「ああああ、待ってましたわああああ! ドロア様マジゴッデス! 女神様ですわああああ!」

 

 そこは、なんてことはないマンションの一室だ。

 迎え入れてくれたのは、どてら姿に冷えピタを張っている少女。

 年の頃は十代半ばで、桃色の髪とツインテールが特徴だ。

 普段はかなり人懐っこい陽のものなんだけど、今日だけは死にそうな顔で目に隈を作っている。

 名前を荒見フラット、アズライトショップのバイト店員でもあり、私にとっては普段から仲のいい友人だ。

 

「さささ、中に入ってくださいまし」

「はいはい」

「相変わらず、修羅場って感じの空気だね、フラット先生の作業現場は」

 

 私の今日の自作Tシャツ「グォレンダァ!」になんですのそれ、みたいな反応をされつつ中に入る。

 フラット先生、と私が呼んでいる通り――そしてどてらと冷えピタからも分かる通り――フラットちゃんは漫画家である。

 若き天才美少女漫画家、なんて呼ばれてチヤホヤされちゃったりしているのだ。

 まぁ、今は締切に死ぬほど悩まされてるけど。

 

「ふ、ふふふ。締切は明日ですの、明日までにあと十ページ仕上げないといけませんの……いつも通り細かい作業はおまかせしますわ、ドロア様!」

「了解」

 

 どうして……どうしてそうなっちゃったんですか……とか色々言いたいことはあるけれど、作家ってのは締切に遅れるものだからね。

 かれこれ数年の付き合いになるけど、もうそういうものだと思って私は納得することにした。

 いやまぁ、別に私が責任を取る立場ではないのだし、いいかなって……

 

 何にしても、私のやることは決まっている。

 キャラと背景以外全部だ。

 私には絵心がないので、それ以外をまるっとやるのである。

 大変な作業だが、給料は良いのと隣で死にそうになってるフラット先生を眺めるのは楽しいので、結構気に入っているバイトだ。

 

「ああああ、まずいですわ! ここ描かないとキメのシーンに入れないのに、ぜんっぜん手が進みませんわぁあああ!」

「先にキメのシーンから描いたら?」

「それやったらなおのことモチベが死にますわ。このあと最高にいいシーンが待ってるというモチベだけで戦わないとわたくし死んじゃいますわあああああ!」

 

 描いてる時間よりのったんばったんしている時間のほうが長いフラット先生の横で、指定された作業を進めていく。

 内容自体はかなり面白く、まだまだ新人漫画家であるものの、フラット先生がいずれ大物になることを感じさせるものだ。

 とにかく描きたいもの以外に対するモチベが低く、逃避行動を取りがちな点以外は最高の作家といえるだろう。

 かなり面倒な作家ってことだな。

 

「ああもう限界ですわ! こうなったら配信ですわ! 監視の目を付けることで逃げられなくしますわあああ!」

「落ち着いてフラットちゃん、今日は私がいるからね」

 

 んで、フラットちゃんは更に配信者でもある。

 見ての通り面白い性格をしているから、配信に載せたら面白いと思って私が提案したのだ。

 他にもフラットちゃん本人には言ってないけど、配信していればそれだけ人の目がフラットちゃんを見ているということでもある。

 具体的に言うと、編集さんが監視するのにちょうどいいと思ったので提案しました。

 

「そういうときのためのVアバターですわ。ドロア様、Vの者になる準備はよろしくて!?」

「そんなことしたらフラットちゃんがマトモに作業できなくなるから!」

 

 フラットちゃんは人気配信者で、私もそれなりに名のしれているVの者でもある。

 ただ、非常に配信頻度が低く、配信したらそれだけで一部の人のトレンドに登ったりしてしまう。

 他人の作業配信で生存報告するとか、それもうネタにしてくれと言わんばかりだ。

 そしてフラットちゃんは人がいっぱい集まると面白いことをしなくちゃいけないと考えて、奇行に走るタイプ。

 その奇行が面白いから配信者としては適性二重丸だけど、作業中に出てきて良い癖ではない。

 

「うわああああ、なんとか残り五ページですわああああ! 決めのシーンはページ数に換算しない計算をすればあと四ページですわあああ!」

「キメのシーンの次のページに対するモチベの低下を考えると、実質六ページくらいだね」

「あああああああ!」

 

 頭を抱えながら、フラットちゃんは次のページを私に任せてくれる。

 ここまで、なんだかんだ数時間でフラットちゃんはページを仕上げていた。

 口では死にそうになっている割に、なんだかんだギアは入ってきたのだろう。

 ここからのフラットちゃんは、強い。

 

 なんて思いながら、私は作業を続ける。

 フラットちゃんの漫画は、現代カードバトルモノだ。

 カードバトルモノと言っても色々あるけど、プロを目指す主人公が多くの困難を乗り越える話だから、スポーツものに近い。

 非常に王道で、私としても読んでいてワクワクしてしまう。

 特に「バトル中にプレイボードが爆発して死にかけた主人公が、もう一度雷に打たれることで蘇生してパワーアップする」展開は非常に熱かった。

 プレイボードってのは、要するにこの世界のデュエルディスクね。

 今はそこから更に話が進んで、いよいよ主人公とライバルの直接対決のシーン。

 ここまで長かった因縁に、一つのケリがつくのだ。

 この主人公ほぼフレアくんだよなー、こっちのライバルはアイスちゃんだなぁ、とか思いながら作業をしていると、私はあることに気づいた。

 

 ――気づいてしまった。

 

 渡されたページを読み返し、そしてそれが意図したものではないことに気づいてしまう。

 要するに、アレだ。

 端的に言うと――バトル展開にミスがある。

 

「…………」

 

 どうするか。

 ミス、として後から直すことはできるだろう。

 今から直すのは……厳しいだろう。

 取れる選択肢は少ない。

 どうする。

 どうする。

 どうする――

 

 ふと、私は思いついた。

 この状況をなんとかする、取って置きの方法を。

 

「――フラット先生、ちょっと手を止めてもらって良い?」

「ああああああああああああああぁぁぁ……え、なんですの? ちょっとまってくださいまし? 凄まじく嫌な予感がしてきましたわ?」

 

 私は、顔を真っ青にするフラットちゃんにこんこんと説明した。

 この後の展開で、ここのミスが原因でカードが一枚足りなくなる。

 ――と。

 

「お、おしまいですわ……こんなのもうどうにもなりませんわ……」

「いや、一つだけ方法があるんだ」

 

 私は真面目な顔で、提案する。

 

「辻褄を合わせればいいんだよ」

「つ、辻褄……?」

「カードバトルは、リアルのカードを使って行うものだ。この状況をなんとか出来るカードを使って辻褄を合わせよう」

「そ、そんな都合のいいカードがあるんですの!?」

 

 カードバトルモノのカードは、前世における架空デュエルみたいに実在するカードを組み合わせて作る。

 だったら、こういう状況で辻褄を合わせられるカードが現実にアレば、何も問題はないのだ。

 そして、それを現実にする方法は一つしかない。

 

 

「ないから、二人で作るんだよ」

 

 

 私は、フラットちゃんの手を取って、そう宣言した。

 その提案に――

 

「破廉恥ですわー!」

 

 フラットちゃんは赤面して叫んだ。




ないなら作ればいいじゃないって叡智な人が言ってました。
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