カードゲームだけして生きていけば良い最高の世界にTS転生した 作:ティーカー
オタクはよくない生き物だ。
特に人と会話する時、それは強く発現する。
私の前世は、今とは比べ物にならないくらい会話が下手くそだったけど、原因は自分の好きなことになると止まらなくなる舌だ。
それはもう語りたくて語りたくて仕方がなくなってしまう。
そんな悲しき早口オタクが私の前世の生き様だった。
が、それも遠い昔。
今の私は、普通に人付き合いができるようになっている。
容姿が優れているから話を聞いてくれるというのもあるだろうけど、それだけじゃない。
その理由は――とても単純なものだった。
□
その日はカード博物館のスタッフとしてのバイトを受けていた。
カード博物館には、古いカードの歴史が色々と展示されている。
中でも目玉は、レジェンドモンスターの模型だ。
「はーい、こちらは『ブルーサファイア・バーストドラゴン』の模型になってます」
こいつらは、なんかよくわからないけど古くから伝説のカードとして知られるカードである。
イマイチピンと来ないかもしれないが、遊戯王のZEXALやSEVENSで謎にブラマジや青眼がレジェンドカード扱いされていたのと理屈は同じだ。
多分、「リブルーム」を扱った販促アニメが別世界で放映されていて、そのアニメの主人公やライバルが使うカードなんだろう。
見てみたいなぁ、ブルサファが大暴れする世界。
きっとシールドを破壊したらそのまま墓地に送ったりするんだろうな。
「へーすっごい。こんな大きい模型初めてみた」
その日は、観光客らしき見知らぬお客さんが、展示を見に来ていた。
基本的にカード博物館を利用するのは一部のマニアか、特定の目的を持って博物館へ情報収集にやってくるものばかりだ。
特定の目的っていうのは、簡単に言うと事件解決の糸口を求めているのである。
というのも、カード博物館には古今東西様々なカードが集められているのだ。
中には、今現在自分が戦っている悪のプレイヤーが使うデッキのカードも収録されている、なんてことも。
だからカード博物館で情報を集めて、対策を立てるためという謎の需要が発生するわけだ。
フレアくんとアイスちゃんなんかは、よくこの博物館を訪れる。
特にフレアくんは勉強が大の苦手なんだけど、カード博物館での情報収集だけは熱心だからな。
その度にアイスちゃんは呆れてるけど、付き合いはいいので二人で色々と調べ物をしている。
早く結婚しろよー。
それはさておき。
「あ、あの女の子の模型って、なんなんですか?」
「ああ、あれは『蒼玉の巫女姫』ですね。最近発見された『ブルーサファイア』のサポートカードなんです。このカードを使うと大型モンスターの『ブルーサファイア』を簡単に場に出せるので、すっごく便利なんです。『ブルーサファイア』ってどうしても効果がないから使いにくいんですけど、やっぱり場に出せれば強いですからね。これをデッキに採用しているかしていないかで、『ブルーサファイア』は全然デッキの展開力が違うんですよ。でもってこのカード、実はこの博物館が発見したんです。それを記念してこうして模型にしているわけですね」
――――はっ。
思わず早口になってしまった。
いや、展示の説明としては必要なんだけど、いくらなんでもまくし立てすぎだったところがある。
どう考えてもただの観光客にやっちゃいけないタイプの説明だ。
が、しかし。
「へぇー、じゃあ最近噂になってる『ブルーサファイア』デッキを使う女の子がこの辺りにいるって話も、これが原因の一つなんですね。以前テレビでやってた『ブルーサファイア』が悪のプレイヤーの親玉を倒したって話を見たんですけど、その時の映像にも映ってましたもんね。うわぁすごいなぁ。こうやって昔のレジェンドカードが実際に活躍するところを間近で見られるってすごくうらやましいです。まずレアカードだからなかなか手に入らないですしね。私もレジェンドカードは一枚持ってるんですけど、デッキを組むにはやっぱりハードルが高くて……」
観光客さんも、私と同じ熱量でそれに返してくれた。
そう、そうなのだ。
この世界で私が普通に人付き合いをできるようになった理由。
それは、あまりにも単純――
――この世界には、ちょっとディープな話をしても簡単についてこれるカードバカしかいないからだ……!
いや、しない人もいるけど、出来る人のほうが圧倒的多数。
言うまでもなくフレアくんだってついてこれるし、アズライトさんだってカードショップの店長を務められるくらいなんだから知識は豊富だ。
アイスちゃんは、そういうオタクトークには「やれやれ」みたいな雰囲気を出すけど、『ブルサファ』系の話にはしれっと入ってくる。
ちなみにさっきから話題に出てる『ブルサファ』使いはアイスちゃんのことである。
なんかこう、『蒼玉の巫女姫』がそもそもアイスちゃんに似てるんだよね。
私はこの巫女姫さんがアイスちゃんのお母さんなんじゃないかと睨んでる。
アイスちゃんのお母さんと顔合わせたことないし。
それはさておき、その後私と観光客さんはそれはもうぺらぺーらぺらぺーらとカードトークで盛り上がった。
途中で話題を何度も移動させつつ、レジェンドカードの話から、最近この辺りで起きた悪のプレイヤー事件の話まで、様々。
嬉しいことにこの観光客さん『山の上カード新聞』の読者らしく、話題に出してくれたりもした。
それ私なんですよ……とは流石に言い出せないけど、読み込んでくれているみたいでかなり嬉しかったね。
んで、こうして話をしていると、時間っていうのはあっという間に過ぎていくものなんだ。
しかし加熱してしまったオタトークは、もはや限界を一つ超えてしまう。
迫りくる私の退勤時間、日雇いは残業するのがひじょーに面倒だし残業はしたくないという私の信念もある。
かといって、このままトークを適当に切り上げてしまうのは明らかにお客さんに大して不誠実。
というかあまりに観光でやってきたお客さんの時間を奪いすぎるのもまずい。
私の退勤時間に合わせて退館していただくのが、お互いにとってもウィンウィンだ。
そしてこういう時ばかり、色々と知恵が回るのが私という生き物。
いい感じに話題を誘導しつつ、お客さんを博物館の出入り口へと向かわせる。
気づかないようにそれとなーく、それとなーく。
成長したコミュ力は、主にこういう時に発揮されていた。
んで、出入り口までやってくると、一周回った気分になったお客さんは時計に目を向けるわけだ。
「あっと、もうこんな時間。この後はバトル料理店で料理バトルをして、夜は地下カードアイドルのライブがあるんです。急がなきゃ」
「それは盛りだくさんですね……楽しんでください。それじゃあ!」
……こ、濃いな。
バトル料理店は、料理とカードバトルがセットになった店。
地下カードアイドルは、地下アイドルがカードバトルを行う闘技場。
どっちも、かなりヘビーな内容だ。
この人、なんか素朴な女性だと思ったけど、相当なカードオタクだったらしい。
濃いなぁ……
それはともかく、時刻はちょうど私の退勤十分前。
ここから色々後片付けをして、退勤すれば十分間に合うだろう。
カード博物館でのバイトは、こうやって展示品の解説と称してオタトークができるのが一番の楽しみだ。
この世界の人が、だいたい全員ディープなカードオタクだというのも私としては高ポイント。
今日もいい仕事したなぁ、と思いながらバックヤードに戻ろうとして。
「だからぁ、『エインヘリヤ陥落』で『ワルキューレの聖女』が倒れてるのは、『ロキ』に不意打ちされたからだと俺は思うんだよ」
「……普通に考えれば、『フェンリル』にやられた傷のせいでしょ」
「いやそうなんだけど、こう考えたほうがさぁ」
不意に、どうやら博物館に見学に来ていたらしいフレアくんとアイスちゃんが何やらカード談義をしていた。
内容は――いわゆるカードのイラストでストーリーを展開する烙印的なカード群のストーリー解釈だ。
え、なにそれすごく混ざりたい。
めっっっっちゃ混ざりたい。
混ざっちゃダメ? 退勤時間だからダメ?
そ、そんなああああああ!
私は慌てて退勤して、二人のもとへ向かったものの。
その時にはすでに二人は別の場所に移動しており、私は崩れ落ちるのだった。
やりたかったストーリー解釈談義……!
熱血主人公系の小学生(勉強できない)ですらストーリー解釈談義ができる世界……ちょっと怖いけど羨ましいですね。