カードゲームだけして生きていけば良い最高の世界にTS転生した   作:ティーカー

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8 脱法脳破壊TS女子

「ドロア……お姉さんは……どうして、そんなに……楽しそう……なの?」

「んー?」

 

 その日、私はアズライトショップでバイトをしていた。

 なんとなく気が向いたので、今日はショップ大会のジャッジ以外も担当している。

 そして鼻歌交じりに掃除をしていると、不意に一人の少女に声をかけられたのだ。

 白髪の、感情が希薄そうな感じのぼんやりとした子。

 名前は――

 

「急にどうしたの、レイちゃん」

「ん……ドロアお姉さん……が、楽しそうだな……って」

 

 レイちゃん。

 まだ開店してすぐの人の居ない時間帯、アズライトさんも席を外しているタイミングでやってきた女の子。

 以前、私が見つけた子だ。

 最近はフレアくんやアイスちゃんと一緒にいることが多いんだけど、二人はまだ学校である。

 今はショップのフリースペースで、ぼんやりと座り込んでいた。

 店には、私とレイちゃん以外に誰もいない。

 

「そりゃ、私は楽しいことしかしないから」

「そう……なんだ」

 

 自分から振ってきておいて、レイちゃんは私の答えに心ここにあらずって感じだ。

 そもそも、レイちゃんは人間じゃないっぽいから、こうしているのが普通なのかもしれないけど。

 どうして解ったのかって?

 そりゃ、この時間に学校通ってないし、たまに半透明になってるし。

 普通の子じゃないんだろうな、ってのはすぐに分かる。

 アイスちゃんも、アズライトさんも、それは感じているみたいだ。

 フレアくんとフラットちゃんは気づいてない。

 前者は熱血主人公だし、後者は芸人だから仕方ないと思うけども。

 

「そうだねぇ、レイちゃんは、楽しいってことがよくわからない?」

「ん……楽しいも……楽しくないも……あんまり」

「そっかそっか」

 

 言いながら、私は箒とチリトリを片付ける。

 掃除がちょうどよく終わった、というのもあるけれど。

 他にやるべきことが見つかったからだ。

 

「じゃあ、楽しいことをしよう!」

「たのしい……こと?」

「そうそう」

 

 言いながら、私はエプロンをさっと横にずらして、腰にあるデッキホルダーに手をかけた。

 ちょっと前かがみになって、ホルダーからデッキを取り出すのだ。

 

「あう」

「ん? ほら――カードバトルしようよ。きっと楽しいよ?」

「……ドロアお姉さん……仕事中」

 

 なんだか気まずそうに視線を逸らすレイちゃん。

 そんなレイちゃんのところまで歩み寄って、テーブルに寄りかかって視線を合わせる。

 こう、腰をおろして腕をテーブルに乗せて、その腕に体重を預ける感じ。

 

「あはは、そうだね……ホントはいけないことなんだけど、たまにはイケないことをするっていうのも……スリルがあって楽しいよ?」

「そう……?」

「そう、だから――」

 

 私は申し訳なさを、舌をぺろっと出して誤魔化すようにして笑う。

 そしてレイちゃんに提案した。

 

 

「お姉さんと一緒に、内緒でイケないこと、しよっか」

 

 

 その言葉に、レイちゃんはなぜだか顔をうつむかせて、恥ずかしそうに「ん」と頷いた。

 

 

 □

 

 

開花(ブルーム)

「か、開花」

 

 テーブルを使ってのカードバトルは、プレイボードやフィールドを使ってのバトルとは少し趣が異なる。

 モンスターが立体投影されるとはいえ、さほどそれは大きくないし、迫力という面ではいまいちだ。

 でもだからこそ、前世で一番慣れ親しんだプレイ体験に近いものを得られるのが、私は好きだった。

 世間的にはあまり人気ではないし、私としても大事なバトルはボードやフィールドを使いたい。

 そのうえで、テーブルにはテーブルの良さがある、と声を大にはしないけど主張したいわけだ。

 んで、そんなテーブルの上に、私はモンスターを呼び出す。

 

「私は『フラワーマーメイド・アネモネ』を場に出すよ」

「あう……また知らない……デッキ」

「あはは、実は一応これが、札山ドロアのメインデッキだったりするの」

「そう、なの?」

 

 『フラワーマーメイド』。

 これは私がこの世界に生まれて初めて組んだデッキだ。

 花の妖精なんていう、「リブルーム」においては明らかに特別感のあるカード。

 だからこそ、初めて『フラワーマーメイド』のカードを手にした時私は「これだ!」と思ったわけだし。

 今でも、札山ドロアとして大事なカードバトルに挑む時は、このデッキを使うようにしている。

 今日は単純に、持っているデッキがこれと新作デッキしかなかったから、というのもあるけど。

 後者は使い慣れてないから、こういう対話のためのバトルで使うにはちょっと自信がなかったんだよね。

 (TS)お姉さんとして、不甲斐ないバトルはできないからさ。

 なんて思っていると、レイちゃんは少し顔を輝かせてから、あることを問いかけてきた。

 

「……ドロアお姉さん、いろんなデッキを……使う。珍しい」

「そうだねぇ。少なくともアズライトショップに通ってる人は、皆デッキを固定させてるし」

 

 この世界はホビアニ世界だから、プレイヤーはデッキを固定しがちだ。

 中には複数デッキを持ち歩く三沢くんみたいな人もいるけど、そういう人は如何にも頭が良さそうだったり変わり者っぽい雰囲気を醸し出している。

 明らかに私とはタイプが違う。

 だからこそ、皆から「意外」とか「珍しい」と言われるわけだ。

 否定されることはないけどね。

 

「一番の理由は”楽しいから”なんだけど、こうも思うんだよね」

「あう?」

「この世界には、無限の可能性が広がってると思うんだ」

 

 言いながら、私はデッキに手をかける。

 カードをドローするためだ。

 

「レイちゃんは、このドローにいくつの可能性があると思う?」

「えと……二十八?」

「それも一つの正解だね」

「えへへ」

 

 レイちゃんは、私の手札とこれまで使用したカードの枚数を数えて、デッキに残っている枚数を計算したようだ。

 褒めてほしそうだったので、頭をわしわしと撫でておく。

 バトル中に相手プレイヤーに触るのはマナー違反だけど、今回はただの遊びだし、向こうから求められてるからね。

 

「あうあう」

「でも、私の答えは他にもあるんだ。答えは――無限大」

「無限大……なんで?」

「だって、このカードをドローした時、この世界だとデッキに入れた覚えのないカードをドローすることって、あるでしょ?」

「あ……ある」

 

 なぜならここはカードゲームがすべての世界だから。

 現実では起こり得ない、ミラクルだって普通に起きる。

 

「そう考えたら、楽しくなってくるんだ。ワクワクしちゃうの。このドローにはどんな未来が待ってるんだろう、どんな楽しいことが待ってるんだろう……って」

 

 そう言って、私は自然と笑みを浮かべていた。

 

「そう思ったら――自然と色んな可能性を試したくなっちゃうんだよね」

 

 んで、そう纏めると――

 

「あ、う……」

 

 そんな私の笑みに、レイちゃんは完全に顔を真っ赤にして停止してしまっていた。

 あ、やばっ。

 またやってしまった。

 青少年に私の笑みが――特に自然と浮かべたものが――劇薬である、というのは散々周囲から指摘されていたのに。

 またやってしまったのだ。

 こうなってしまうと、下手するとカードバトルどころではなくなってしまう。

 ああー、どうしよう。

 こういう時、うまく対応できないのは私の明確な弱点なんだぁー!

 

 

 □

 

 

「――ドロアちゃん……恐ろしい子!」

「あの……店長、なにやってるんですか?」

「シッ! 今良いところだから!」

 

 そして、ドロアが一人の女の子の脳を破壊している様を出歯亀する女性がそこにいた。

 名を月山アズライト。

 隣でアイスが怪訝な顔をしている。

 フレアは教師に説教されているので不在だ。

 

 アズライトは戦慄していた。

 ドロアの脳破壊手腕に、である。

 開幕前かがみになって叡智なお尻とデカパイを強調するところから始まり。

 お姉さんと内緒でイケないことなんて、ああ! そんなの反則すぎる!

 

 そもそもドロアが『フラワーマーメイド』デッキを使うこと自体がズルなのだ。

 ドロア自身の容姿と、可憐な『フラワーマーメイド』のアンサンブルはさながら一枚の絵画。

 思わず多くの人を見惚れさせてしまうのである。

 

 そして最後は言うまでもなく、お姉さんっぽいいい話トーク。

 アレでやられなかった少年少女はいない。

 なんならアズライトも一回やられた。

 

「こ、これが……合法?」

「あの、店長……店に入りたいんですけど……」

「ウ、ウソでしょう……こ、こんなことが……こんなことが許されていいの!?」

 

 迷惑そうにしているアイスをよそに、「こんなの合法じゃなくて脱法よ!」と盛り上がるアズライト。

 そしてそれに気づかず、レイ――沈黙霊だった少女――は顔を真っ赤にしてうつむき、ドロアはそれにあたふたするのだった。




脳破壊はTS少女の義務なので。
ドロアの脳破壊攻撃の手段と所持しているデッキの数は108くらいあるぞ!
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